Picnic

  
        黄緑、オレンヂ、水色。 ストライプの海に斜めに転がる。


Wはべたつく身体を猫のように伸ばした。 青く高い昼過ぎの空。 投げ出した腕を暢気な蟻が横切る。 幸福な一仕事を終えた後の満ち足りた倦怠。 まどろみうつ伏せるYの剥き出しの尻。 キュッと持ち上がるそこには笑窪がある。 ついさっきまで触れていた感触、温度、あざとい抵抗 ―― 

「・・・・なぁ、」

掠れた声がタバコをせがむ。 ―― ・・なぁ、 ―― スライドする空想と現実。 現実とはこの気だるい身体と、目の前のなだらかに傾斜する背中。 ごろりと反転したWは目当ての物を探すが、そこにあるのは脱ぎ散らかした残骸と丸めたクリネックス。 見回せば、蹴り飛ばされたシャツはストライプの外、青々茂る草の上で皺だらけになって丸まる。 歩き出したWの足元、チクチクするパン屑、レバーペーストのチューブ、スウィートピクルスの瓶。 雑に封を開けた袋から、毒々しいジェリイビーンズがこぼれた。 

寝そべるYの爪先が、横倒しになった濃緑のボトルを転がす。 2人が飲んだワインはきっかり四分の三。 コルクを開けてすぐにくちづけをして、触れ合いながら二分の一を空けて。 だが、そこから先をWは思い出す事が出来ない。 コルクを閉めたのは誰だ? 残りを慌てて煽ったのは誰だ? 熱に溺れるのはそれほどに呆気ない。 そして溺れてしまえばもう、互いの息遣いしか重要ではない。 

摘み上げ揺さぶったポケットは空っぽ。 目当ての小箱は柔らかなタンポポの葉の根元、半分潰れた有様で御主人の回収を待つ。 Wは潰れた箱を弾き、半ば折れ曲がった一本と細身のライターを取り出す。 フィルターを食み、青い火を翳す猫背になった背中を、Yはこっそりと横目で覗い愉しむ。 あそこに腕を回した。 背骨の配列を指先で辿り、幾たびか追い上げられ、そこに爪を立てた。 爪を立て、声を上げた。

WがYを呼ぶ。 上向き首を捻るYの、猫の様に細められた目。 フィルターはWの唇を離れ、湿ったフィルターが乾くよりも早く短いくちづけが二度、Yの乾いた唇を濡らす。
紫煙は唇から唇へ。 半ば引き上げられ、肘を着き、上体を持ち上げたYが長い溜息を吐く。 仲良く身を寄せる肩甲骨の素敵な輪郭に、Wはキスせずには居られない。 

「・・・・い・・よせ、・・・・・・」

だけどもう、
だけど二人は忙しなく重なり、指は肌を求め、唇は首筋に、舌は貪欲に味わうから。

乗り上げたWの吐息がYの耳朶を掠める。 そこに歯を立てられ、跳ねるYが白い肌を竦める。 Wはそれを至福だと思う。 汗ばむ二人の間で、擦れあう雄は十分に熟している。

息を詰め、声を殺すYの硬く閉じられた瞼。 けれど堪え切れず漏れる懇願に、Wは気が触れそうなくらい煽られる。 忙しく弄り合う腕が、どちらかの余裕のない腕が、忘れ去られたジャムの瓶を払った。 弛めた蓋を押し退け、ワイルドベリィがストライプに暗紫色の染みを着ける。 Yが指先でソレを掬いWの唇を染めた。 Wもそれに習い、Yのへこんだ腹に緩い渦巻を描いた。 舌は甘い唇を甘い肌を舐め取り、六月の風は訳知り顔で縺れる二人の熱を冷ます。 けれど無駄なこと。 蒸し暑い風よりも熱っぽく、ぬかるむ肌はもっと欲しがるから。

黄緑、オレンヂ、水色。 ストライプの海。

ストライプのリネンは14ドル75セント。 先週、ミセス・コティが売ったソレはYの家のカウチを三日間だけ包み、父親の解くまどろこしいクロスワードを眺め、今朝方Wに剥がされてからはラグになりテーブルになり、ついにはベッドになる働きぶりで二人分の体液を存分に吸い取る。

丸めたクリネックス。 ワイルドベリィの匂い。
湿ったリネンの皺の上の、吐息と引き攣りと白濁する歓喜と。

picnicはまだ、終わらない。