ボク達デキてるんですよ

  
        テレビの中、ツララもでっかい日光華厳の滝で、疑惑の総会屋が落っこちて死んだ。 


 斜めになった炬燵板、右の辺から左に強制レッカーされたカワノは 「クソッ、アタマで見えねぇんだよう」 と ヒラタを押し倒し、重要参考人(愛人 クラブ経営 38歳)がしょっ引かれてくのを凝視する。 見上げる首筋は白く誘うようで、ほんならチュウしようと、くちびる半開きでのセクシィ急接近を試みるヒラタだったのだが、キャラ的に作戦にマッチせず、ヒラタのチュウを奪ったのはむちゅっと愛想無いリモコンであった。

 『あぁんだよカワノ、チュウ禁止かよ、ンも〜イイからサッサと突っ込めって言うのかよ。 はぁ〜風情がねぇ、ムードもねぇ、こまけぇコトいつまでも根に持つんじゃねぇよ、オレらやっぱ終わったな・・・・・・』

 『・・・てか、お前さ、今さっきゲロったばっかじゃん。 その状態でベロ突っ込まれんのはこう・・・ごめん、思いやりじゃぁそりゃ越えらんねぇし、ていうかそんな苦労を買って出る義理もねぇよな・・・』


 したらまぁしょうがねぇよなぁと、ヒラタは反らしたカワノの頭を抱え込む。 パサパサ乾いて飛び跳ねる、床屋行ってない歴2ヶ月目のつむじの上、ヒラタの薄っすら無精髭がゴリゴリと擦り付けられた。 腹に乗り上げた形のカワノのこじんまりした頭蓋に、妙に気抜けたヒラタの声が、プールの中で聞く声援みたいにくぐもり響く。

 ― ・・・・・・・ さぁてカワノ君、ここらで、ちょぉっと言ってみようか? ― 

 東照宮の猫の前、ツアコンのカタヒラナギサが相方の新人カメラマンに無理矢理ういろうを試食させつつ、得意の決めポーズで一言。

 『疑問はそのままにしないのが基本でしょ?! まずは二人の関係を、ハッキリさせましょう!!』

 いや、全くだ。 いい事言うよ、ナギサ。
 だから、俺らもココゾでハッキリさせなくちゃなんねぇよ。 

 だからさ、だから、カワノ・・・。


                                     ***



 遡って6年前、テスト明け夏休み前のヌルイ放課後、Y大付属男子水泳部の二人はシゴキの一環として、居残りバサロをちんたら行なっていた。 

 勿論、飽きた。 飽きたから無茶な練習で半端に長くなったり、曲がったりした互いの肉体フリークス自慢、競泳パンツのワンポイントチンコ自慢だのに熱意は移行。  止まらぬテンションはもれなく下半身方面へと向かい  うわでっけぇ! ひゃっ、握んなよクソッ! などと、うっかりハイテンションでの水中シゴキっコに挑戦し捲くる二人。 

 そのあたり練習三昧で意外にスレてない体育馬鹿だから、人様に握られる息子の感激もひとしおで、命果てるまでコスレ!ニギレ!と そりゃ、頑張った。 頑張り過ぎた。 やがて、ねじり飴みたいな半ケツ二人、居残りプールにおける刺激的な水中発射。 出ぇ〜ちまったよ〜う!! と、慌てて水から脱出する二人は、後ろめたさから普段の倍量、塩素をぶち込み、翌日全校生徒の三分の一をウサギ眼にする。 

 して、後片付けもぞんざいに萎えたチンコも気まずく、無言で更衣室へ向かったものの、濡れた背中だの、臍下あたりだの、ああああの指でッ!あのグリップでッ! うをぉぉぉおおおお・・・・・ などなど変に意識して、しかも生着替え、しかもシャワー、しかもココは二人だけともなればもう、なにがなんだか。 うなぎ昇りの血液は脳味噌を沸かし逆ギレ、んもぉ〜とことんヤッてしまえ畜生ッ! と 更衣室のスノコの上、終いまでチャレンジファイトの若い二人にアナルはなかなかに厳しい。 

 先発、無理矢理突っ込んだヒラタのチンコは千切れそうだし、突っ込まれて不動7分経過のカワノは瀕死だし、やっぱ自棄ッて良くないよね☆と後悔先に立たずの二人。 ヒャ〜参ったもうこりごり! と、初体験の感想を心に秘める二人であるが、今回の敗因は突っ込んだという点であり、シゴキ迄は実に有効であったと美味い所は上手に搾取、性への探求は尽きず。 

 斯くも低いモラルハードルを飛んだ二人は着々と実践を重ね、意外に躊躇いなく器用なカワノはフェラ道を極め、エレクトまで数秒・発射時間は思いのままという 「対ヒラノ型実践的舌技」 を神業レベルまで磨く。 片や、ヒラノもまた見慣れた筈のカワノの腹だの腰骨だのチクビだのが、えらくソソルんだよなぁと萌えの認識も新たに 「指先発掘性感帯へのリーチ作戦」 を意欲的かつクレバ―に展開。 結果は概ね好評であった。

 そうして卒業間近な早春、いつものようにとりあえず出しとくか! と、目的を持ち集うヒラタの家、鼻穴膨らますヒラタの手に数冊の漫画本。 ポップな表紙はハードな濡場、さぁ、読め! と差し出すソレは妹アキコの秘密蔵書。

 『アイツよ、こんなン隠れて描いて、売ってやがったよ・・・・・・・ 見ろ、ドコもかしこもホモばかり・・・』

 『・・・ン? なァヒラタさ、これ足どうなってんの? え?  ・・む、無理だよ、ヤ、無理無理! 俺、立位体前屈マイナスだし、おわっ、うぅううこっちスゲェ、こんなッ! ・・・・・・・お前の妹、ヤルな・・・』


 暫しの読書タイムはコメントの嵐。 わぁだのおぉだの奇声を発しつつ、クリティカルに股間も直撃エキサイティングな数十分。 さておさらい、ポイントは三つ。 慣らしとけ、塗っとけ、謎のピンポイントを発見しとけ。 妹アキコ執筆のその本は、いかなる参考書よりも的確かつピンポイントで、今知りたい事を懇切丁寧、実例・挿絵付きでもってズバット二人に教えてくれた。 ならば鬼に金棒よと、練習大好き鍛錬大好きな体育会系な二人、エロ師匠アキコに感謝し、即日、無事、イケるホモセックスに開眼する。 

 見えてきた先、基本の次は応用とばかりに試行錯誤と模索の日々。 微妙にリバーシブルな二人であったのだが、

 『や〜なんてか俺、超兄貴なお前に突っ込むとかこう、メンタルなとこで無理みたい・・・』

カワノ、ホモの攻め棄権。 

ヒラタとて正直言って既に、かなり、カワノの按配にメロリ来てたりしたので、その申し出は願ったり叶ったり。 ポジションが固定されればもう、イケイケどんどん、斜陽景気に反比例な二人の暴走。 突き進む付属四年の大学生活、彼女にはやや恵まれなかった二人だが、シモの処理には事欠かないってか、そこそこ潤う四年であった。 

でも、二人は考えた事もなかったの。 僕ら、リアルホモかも・・・なんて事。


そんな関係に終止符を打つのが、モラトリアムの終了、22の春。 
サヨナラ青春、そして働けリーマン人生への旅立ち。 じゃぁなと別れた二人の先トハ? 

器用で細かくチャレンジャーなカワノは、マダム受けする人とナリがおおいに買われ、大手婦人下着メーカ―に滑り込み、販売企画部のプリンスとして新しいオレ人生を歩き出す。  一方ヒラタはバイトでのガッツ&ファイト、意外にコダワリ屋さんで求道家なのを認められ、西からの快進撃、居酒屋チェーン 『へべれけ丸』 幹部候補社員として本社ビルへ召喚。

それぞれの四月、世間の風にピュウと吹かれ、木の葉のようにクルクル回り、 けどさ世の中甘かねぇよ と泥のように眠る一人暮らしの侘しい夜。 そんな夜を重ね、こんな時ヤツが居ればなぁと思いだすアレやコレやは一層虚しく、二人の新しい生活はそれぞれの思いを抱えつつ、割にずぼらに勝手に進んだ。 そうして数ヵ月後の梅雨明け、金曜。 腹にモヤモヤを抱える二人は、最悪の通り魔的再会を果す。 最悪。 何も今じゃなくっても・・・という微妙なその瞬間、ソレは渋谷道玄坂奥、白亜のラブホ、ご休憩何ぼの看板前にて発生。

 『お、オォ?』

 『ねぇ〜ん、ヒラポォン、だぁれぇ?』

 『よ、ヨオ・・・』

 『・・・・やだ・・・カァノ君の知り合い?』


 気不味く御対面するカップル二組、四人のハテナ。

 『ひ、久し振り・・・・・・・ハハ・・』

 『や、あ、元気そうじゃん・・・・・    ま、うん、じゃな・・』


 再会終了。 おのおの消える愛の部屋。


 『ねぇねぇヒラポ〜ン、ねぇ、さっきの人知り合い? なんか〜ナルシー入ってるっポイけど、カッコイイ〜かも〜!  ・・・けどアレ、年上だよねぇ〜実は喰われちゃった系?  きゃははは!!  いかにもぉ〜!!』

 『お、おう・・や、カワノはナルシーじゃねぇし寧ろアレでこう・・・まぁイイ、どうでもいんだよクソッ・・・。  ・・・・・んだな、ありゃ年上だったよな、英語のMiss.レイコ・カメ〜イって感じの・・・』

 『誰、それぇ〜?』


 けらけら笑うスッポンポンのミッちょんは年の割にロリモードで、男受けするコンパクトグラマ〜&色白。 抱き心地満点のボディーも、ぽってり柔らかグロスのリップも決して悪くはないのであったが、今夜のヒラタ何処かが虚ろ。  不味い・・・イヤンでウヘェで色んな感じに不味い・・・・ 久々の生カワノは、イカンともし難い方向でちょっとアレだ。 

 幾分シャープになった頬も、日照時間の少なさ故か美白3割増の輪郭も。 グループ研修同期のヨシミで、すっかりこんな仲なミッちょんとのクンズホグレツ90分のさなか、思い出す在りし日のカワノはあぁもこうも臍下に鮮烈であった。 そう、今正にきっとこのラブホん中のどっかで、あのMiss.レイコ・カメ〜イにガッツリ喰われてるだろうカワノを思うと、矢も盾も息子も溜まらず。

 『んふふ〜、ヒラポン、今日はスッゴかったぁ〜〜!!』

あぁん、ソレが不味いんだって・・・・。 

思いがけないカワノ効果はミッちょんには好評だが、ヒラノの心はチヂに乱れる。 
あぁ、カワノ、ナゼ、カワノ・・・。



 『・・・・んんん? ぼけッとしちゃって、どおしちゃったのかなぁ〜?』

 シュカッとビールのプルトップを引くノノセ先輩がヒンヤリした唇をカワノの腹に落とした。 火照った身体にソレは刺激的で、思わず身を竦めるカワノ。 追い討ちを掛けるよう、更に冷えた舌が臍の際を擽って、眉根を寄せ息を詰めるカワノを意地悪く見下ろす。 不穏なムラムラが収まらないカワノはうつ伏せのまま眠い振りをするが、猫科の女はあらま! と器用に片眉を上げ、言わんでイイ事をほじくる。

 『やぁね、カァノってば、シ足りなかったの? んもう、あたしより色っぽい顔するのムカツクわよ。 ・・・でもいいわ。 今日は許してあげる。 うふふ、ねぇカァノ君どうしたの? 今日なぁんかすっごくヤル気あったし・・・・・・』


 そう、ヤル気あったカワノ。 通常ニ割増でやる気に満ち満ちていたカワノ。 だけどその理由を探ればもう、自縛の自虐の自己嫌悪。 だって想い出しちゃったんだもん、ヒラタとのアレやコレや。 してそのまんま、ノノセ先輩に実施のソレやナニや・・・。

 『 ・・・・入口で会ったあの子、知り合い? 友達? ふふふ、変なとこ見られちゃったわね、なんかスポーツやってんのかしら? 凄いマッチョよねぇ〜アッチも凄そう! ちっちゃい可愛い子連れてたけど、彼に壊されちゃうんじゃないの? アハハハ! 』

n『・・・水泳やってたんですよ・・・ま、俺もなんですけど、ヤツはムキムキ凄くって・・・・・・。 や、俺知りませんけど、えとアッチの方は知りませんけど・・・ あの子、可愛い彼女でしたね、まさか10代じゃぁないでしょうけど・・・。』

『まさかでしょう? あんなでも、21ってとこね、間違いない。』


 ノノセ先輩は大人でセクシ〜で所謂床上手で、入社一ヶ月目こってり絞られたその晩に、甘ぁ〜く喰われて本望なカワノであったのだが、だがしかし。 バカバカバカ、ヒラタの馬鹿、畜生、馬鹿の癖にスーツ似合いやがって、只のジグロの癖にワイルド風味に決めやがって! うっかり見とれたじゃねぇかバカヤロウ!

 ついでにわらわら思い出すヒラタのアレはクルってか、そもそもイキ処が違うってか、てかてか、ちょっと待て、アレはもう卒業だろ? 男ならガツンとイカせるのが、この春リニュした俺だろう? だけども、けども件のヒラタの傍ら、ちんまり手乗りサイズな彼女を思うと、脳天の毛穴も開きジリジリキリキリするカワノ。 ケッ俺だってッ! って・・・はぁ? 俺だって? ナンだよ、ナニ張り合ってんだよ、しかも張り合うトコ激しく間違ってますから! 一人突っ込みも空々しく、心の葛藤はスクリ〜ム。 

 馬鹿馬鹿馬鹿! 己になのかヒラタになのか、無理矢理飲み込むビールに咽て、咽たついでに涙ぐむシブヤのラブホの馬鹿一人。 そういやオレ、いつものタオル持って来てないとかだけで、いきなりタイム滅茶苦茶落ちるナーヴァスなタイプだったんだよなァと、いらないエピソードを穿り出し、二回戦目に望むも勃起しない自分を猛烈擁護するカワノ。  

 『よくある事よ・・・・・』

 いや、ねぇし。 慰めがいっそ苦しい、カワノの涙を誰が知る?

 そして、もう一人も泣いた。 心で泣いてはいたが、解せぬ思いを後半戦にぶつけ、ヤケッパチの性獣プレイに興じるヒラタは、水泳パンツを忘れても、初対面のそこらの他校生に無理矢理借りて自己新記録を出せるメンタル頑丈なタイプ。 であるからガンガンやって、ガンガン無駄なテンション使って、猛烈に後悔している屍同然のイッたあと。 ねぇ、やってもやっても虚しいのは何故?  ・・・アァ虚しい・・・イク瞬間に浮かぶのは、乳もくびれも柔らか味もない、チンコついてるだけの野郎の、コンなやアンナやそんなだなんて。


 大馬鹿小馬鹿の三時間。 延長? しねぇよ、もう、抜け殻だよ。 


 人生投げた宗教家と人生知らな過ぎる若者が、互いに無視してたむろす渋谷駅前。 六月下旬の湿った夜風に、バイバイ・・・と、彼女に手を振り一人今は遠い目になるカワノは、雑踏の向こう、昔と同じ猫背の背中でラークを咥える呆けた面の、ピンで佇むヒラタを認めた。 して向こうも、おう、と手を振り、オウ言っちゃったものの微妙に気不味い困惑表情。 

 お久しぶりねぇ、ほんのキッチリ三時間ぶり・・・と、どちらからともなく近づく二人。 しかしその先言葉は続かず。 同じ匂いのボディソープが、なんだか酷く生々しく、気まずかった。 けども夜の雑踏、ガタイの良い男二人、微妙にそわそわ向き合うのもコレ異様であり、けども何故だか 『またな』 が言えない二人。 サヨナラはアナタから言って!・・・・と二人のココロに乙女が居座り始めた5分経過。

 先に焦れたのは、神経戦最弱のカワノだった。

 『・・・・・・・・・のさ、お、俺んち、来る?』

 『お、おう・・・んだな、』


 向かうは言い出しっぺ、カワノのアパート。 

 急行二つ目まぁ、近かった。 近かったが、無言で行くにはきつかった。 ナゼ、俺らは歩くのだ? 俺らはドウスルつもりだろう? 答えは出ぬまま部屋に到着。 布団無し炬燵に広げるビールとツマミ。 脚突っかけんなよと促され、角挟んで向き合う二人はやっぱり無言で、チャ、と付けたテレビ、騒々しいトークの声が、今は非常に有り難い。 

 有り難かったが、他にするコト無いから二人は意地のように、挑戦のようにスーパードライをカパカパ空け、ピスタチオとスルメを親の仇のように噛み締める。 んじゃ、帰るしよと、何故言わないかな? オレ。  自分がわからないヒラタだった。 何故オレはこいつを呼んだのだ?  と、自分不信感なカワノだった。 

二人の再会パーティは、全く陰気で所在無い。 


 やがて一ダース半はあっちゅう間、保険で買ったロング缶に手を伸ばす二人は、最早、良い按配を通り越しかなりヤバイ不穏な気配。 二人宴会一時間目、ロング二本目を飲み干し、便所帰りの蛇行ヒラタが、ドンと腰を下ろし、目を合わせたカワノに発する。


 『んなー彼女、年上?  だろだろ? ハハ、お前、喰われちゃったンか?』

 勇気を振り絞るヒラタ、今は自分を褒めたい気持ち。 
 しかし勇気の切っ掛けは、カワノのやなツボにヒットした様子。

 『ま、色々、御指導頂いてるし、先輩、オトナだから。 ・・・つーか、お前こそ、ああ云うの好きなのな・・・・・・・ エロロリ系。』

 『ロリじゃねぇよ、ミッちょ・・いや、ミチカはアレでタメだぜ、同期』

 『ミッちょん!!  して、てめぇはヒラポン!』

 『るせぇよ、カァノ君に言われたかねぇよ、クソッ!』

 『あ、あ、アレは、先輩が勝手に言ってるだけで、』

 『 ケッ! お前ヤル時も先輩ッつうのか? はぁ〜?』

 『る、せぇよ! ミッちょんよりゃマシだろ? だよなおまえってばスゲェよ、男だね! ミッちょんで抜けるのなんざ、イヤァめでてぇなッ! なんたってヒラポンだしなぁ! あはははは!』

 『んだとッ?!』


 膝立ちするヒラタが、カワノの肩を掴みグラリ。 と、傾いだ身体を支え、僅かに持ち上がった炬燵板、裂いた袋のピスタチオがコロコロと向こう方に転がった。 転がったのは、角を挟み座ったカワノも一緒。 圧し掛かるヒラタの目は暗い。 


 『・・何すんだよ・・・』

 『聞くのか? 今更か? やり方忘れた訳じゃねぇだろ? 笑うよな、お前がお姉様とヤレルなんてさぁ、お前、こっちのが向いてるんだぜ、なぁ?!』

 『るせぇよッ! 一緒にすんなよ、お前とのは、遊びだろ?』

 殴りかかるカワノの腕を避け、束ね、動きを封じたその首筋に、ヒラタは迷わず唇を這わせた。 柔らかな耳朶の後ろ、日に当たらぬ青白いそこを、わざときつく吸い上げれば、ビクッと竦むカワノの表情に艶かしく血が昇リ、やっぱイイわコイツと感慨深くなるヒラノ。 押さえ込んでる己の下、掠れた声で繰り返す、 ヨセ!馬鹿!死ね! の 羅列はこの際サクッと無視である。 もがく身体を堪能しつつ、そのまま下に滑らすくちづけは、ボタンを外すのもまどろこしく、エイヤと肌蹴たシャツの隙間。 忙しく赤い印を押すのは単なるベッドマナーなのか、歯痒い独占欲なのかヒラタにはもうナニがなんだかわからない。 

 一方ヤラレ中のカワノにしても、ここで抵抗したい自分を押すべきか、美味しく食べてねッとノリノリに協力するのが正しいのか、とりあえずキスマークは微妙に嬉しいかも〜と思ってしまってる自分がサッパリわからない混乱の坩堝。 半端に肩を抜かれたワイシャツはこれまた微妙に半端な緩みを持ち、後ろ手にカワノの腕の自由を奪った。 脇腹を擦り上げ、ココゾと腸骨を辿り、ツツツと乳首を掠め這い回る指は嫌になるほどカワノのツボを知る。 ポツンと立ち上がった小さな乳首、捏ねくられ赤味増す男のソレを、ヒラタがコリッと甘噛みした。 ふッ・・ン・・と鼻に抜けるカワノの声は記憶の200倍は甘く、瞬間ギュッと瞑ったまなじりに、ひと刷毛の朱が走る。 この時点でヒラタの下半身は制御能力を失う。

 『・・・・畜生、そんなツラで、女抱くかよ?』

 『・・ッ・・クソッ・・ひあッっ・・』

 遊ばれるチクビに気をとられたカワノだが、オモムロにベルトを引き抜かれ、ズルり脱がされたズボンはヒラタ好みの半ケツ。 やんわり握られた股間の感触に、罵倒の言葉も忘れ、息を飲む。 

 『・・・・・な、ここ、イインだろ?』

 二度三度、大きくカブリを振るカワノの白い顔に、長めの前髪がファサと広がリ潤んだ瞳を隠す。 あぁ流されると思うカワノの頭の隅っこ、やけに嬉しそうなヒラタの顔と何かがオーバーラップ。 

 『・・・声・・・出せよ、』

 耳元で囁かれ、それ反則だと泣きそうなカワノだが、突き抜けそうな快感に最後の最後でのめり込めないストッパーがあった。 ラブホの前、ヒラタにぶら下がるようにしてたロリでエロくて手乗りな彼女。 零れそうな眼をして甘ったるい声でヒラノを変な仇名で呼んで。 あんなの抱いたンじゃん。 ヒラノのバカヤロ、あんなの抱いた後に俺の事こんなにしやがって、こんなにあんなにアンアン鳴かせようとかする癖に、ヤッタらきっと 「やっぱミッチョンの方が百倍最高」 とか惨い結論出しやがるんだろ、そうだろ? 畜生畜生畜生!! もうもう気持ち良いんだか情けないんだか腹立たしいんだか泣きたいんだか。 

 がしかし、ヒラノ的にはビバ☆カワノ!! エンジンかかりっぱなしの不満ナッシングでGO!GO!エクスタシィー。 薄く開いた唇、ちらちら覗くのは息苦しさに空気を求める尖った舌。 必死で快感を堪える様にゾクッとキタ瞬間 

 『ザケンじゃねぇよッ!!』 

 ぶわんと顔半分が痺れて、転がる。 ナニ? 何が起こったの? テロル?
 どうにか抜けた腕の中、加減無しに振り上げたのは、ヒラタ好みの涙目の、怒りに唇震わすカワノ。

 『カ・・・カワノ・・・?』

 『・・・ザケンじゃねぇよ・・・女抱いて、そのあと、イイ気に俺を抱くんじゃねぇよ、比べんなよ、俺と、彼女を比べんな、畜生ッ・・』

 『く、比べちゃいねぇ・・』

 二発目を予定した拳を力無く床に投げ出して、浅く息を吐き視線を外すカワノは、 比べんな、もうどけ、帰れ と、抑揚無しに呟いた。 ヒラタの頭が、すうっと冷えて、目玉の奥はチカチカとする。


 『比べちゃいねぇよ、そんなんじゃねぇよ、ねぇけどいや、そう云う意味でなく比べたのはホントだけど、イヤだからそれはダァァァもうワカンねェッ!! なぁ、んじゃお前どうよ? 俺ァさっき、ミッちょんのおっぱいより、お前の平たい胸だの硬いケツだのに息子大泣きよ、咥えるとき一瞬チロッと先っぽ舐める舌先だの、膝に座らせて奥のほうヤルとポロポロ泣いちゃうのとか、イク前余裕無くなると涙目になってギュッとシガミツクそんなんだの、』

 『もももも、もういい、わかった、イヤあんまワカンねぇけどもうヤメロ、やめてくれ、わかったから・・・』

 もうわかった、疑った俺が悪かったからだからもう勘弁してくれ。
惚気だかいじめだか新手のプレイだかなんだかわからないこのヒトトキを、カワノは回避したい気持ちでもう必死。

 だけど、テンパる男は止まらない。

 全然わかっちゃいねぇよッ!  おまえに俺の気持ちわかるかよッ! お前なんてただのカワノなのに、畜生、比べたんじゃねぇよ、もっと始末悪い・・・俺は、お前の事思い出して、忘れらんなくて、野獣のようにヤリ捲くったさ、ロリなのに、エロなのにミッチョン胸でかくてフェラも上手いのに、俺にゃ勿体ねぇ子なのにその子ヤリながらおまえの事ばかり考えてて、気が付きゃお前の好きな角度でイイ場所探しちまいそうになるし、うっかりケツの方弄りそうになるし、なぁんでミッちょんチンコ無いンかなぁとか、俺ァ頭おかしいよ、当たり前だろミッチョンにチンコねぇに決ってんだろッ?』

『・・・・あ・・・あの、えぇと、ヒラタ?』

そっと声を掛けるが、ヒラタには聞こえていない。 ヤバイ、ヤバイよ、悩まない男の葛藤とは、こうして暴走して解決していた事を、今更ながら思い出し蒼褪めるカワノ。 あぁこうなるとやばい、逆切れ自己破壊中のヒラタに向かうところ敵なし。 敵無しのヒラタはいつまで暴走し続けるのか?そして自分はいつまでこの、コッ恥ずかしい彼のココロの内を、傾聴し続けねばならないのか? 

 『・・・・・んだよ、馬鹿野郎だろ? 可笑しかったら笑えッ! 俺は可笑しいんだよッ、おまえの事ばっかで久々会っただけで魂すっぽ抜かれた感じでッ!  ・・・なぁ、ココまで思うって、コレ、愛じゃねぇの? 俺、もしやお前に無茶苦茶惚れちゃってるんじゃねぇの?』

泣きが入ったヒラタは、そろそろ終焉に向かった様子とカワノは判断する。
鼻の頭を赤くして訴えるヒラタは、頑張ったはずの大会で記録を出せず悔し涙を浮べたそのままで、

 『・・・・・・・ ごめんな、疑ってごめん、お前、馬鹿だな・・ヒラタ・・・図体でかいくせに、進歩ねぇよ・・。』

 近付くチュウは唇を避け、カワノはヒラタの鼻っ面、赤くなったその先を伸ばした舌でぺろりと舐めた。 
 そして呆気にとられるヒラタの肩に、すとんと着地したカワノの頭は、首筋に擽ッたく、暖かく、重なる鼓動はどちらも早く、 

 『なぁ、カワノ・・・・そ、ソレはあの、お前も俺のコト・・』

 『んん?』

 うっとりホッとした良い按配のカワノ、心地好い人肌の温もり + 実は好みど真ん中だったりする馬鹿な癖に男前なヒラタの声。 不意に襲ってくる睡魔に、気分良く攫われて、なぁ、とせっつくヒラタに、ちょっと戻って来てなんか誤解して、ホイヨと気合の入ったチュウをくれてやる。

 『・・いや、んんんん・・・・・かカワノ・・・・あぁ・・・イヤ・・・・こんな積極的に・・・つうか、タンマ、これがキミの答えなのかなァッて、ソレはその・・・・』

 したら、応戦・・・と、チョッピリ負けず嫌いなヒラタも意欲的なちゅうを一発。 柔らかく絡めた舌。 久々味わうカワノとのソレはやっぱ猛烈で、ウハァ〜ッとクルのは股間だけに留まらず、え? えええええっ!!? 

グググといきなりせり上がる悪寒にヒラタ、咄嗟にカワノを引っ剥がす。

そして、

ゲロゲロゲロゲロゲロ・・・・・・・・

盛大に飛び出す、ビールとマメのハーモニー。 

 『ひ、ヒラタこのやろッ!!』

 避けてるとは言うものの、己のすぐ横。 しかも自分ち、しかも最近買ったラグの上、ぶちまけられたソレと酸っぱい臭いにみるみるカワノは般若の相。 そして一挙に容積を減らした胃のすっきり感、低血糖のクラクラ感に、ヒラタ、視界が暗くなるのを感じ、すぽぉ〜ンと引っこ抜かれた意識の尻尾。 

 『・・・・愛してる・・・・カワノぉ・・・・・・』

 倒れこむなッ! クソッ、どけッ!! と怒鳴るカワノを、見たような聞いたような夢のような、失神直前のヒラタは 俺らすんごいハッピィだなぁ と、白目でニヘラ笑うのであった。




                                     ***




目覚めれば、土曜の昼時。 見慣れない天井の下、見慣れないサイズ間違ってる感じのパーカーとスウェットの下を穿き、どこぞの台所の板の間。 胃だの関節だのあちこち痛むヒラタは、んだよ、ここ何処だ? ここは何処? 半身起したその先、氷点下にオカンムリなカワノの姿を認め、走馬灯のように全てを思い出す。 母さん、それはまさしく人生で最も忘れたいエピソードだったよ・・・・・。  嘘だと言って欲しいけど、それは紛れもなく己の引き起こした事実であった。 ほんのりナーヴァスな、胃液臭。


 『お、オハヨウ・・・』

微笑んでみたけど、無視だった。 
気持ちはわかる。 ご愁傷様だ、すまなかった、だがしかし、アレは不可抗力。

 『なぁ、カワノ・・』

 ツメの甘さに後悔しきり。 しかしオイ、俺ら両思いだったんじゃねぇの? 両思いっていや気付く、もう一つの衝撃事実。 ゲロで中断した熱いチュウのそのちょっと前、オレは潔く告ったが、カワノはこう、有耶無耶ッと・・・クソッあいつ昔ッから肝心な事言わない御澄ましさんだから、コノコノッ! 駄目だ、このままでは俺一人、勝手にホモデビュウした、飛ばし屋さんに思われてしまう! 

 『な、一先ず水に流して、愛してるッて言えよ、カワノ!』

 『チュウして人ンちでゲロ吐く失礼なオトコに、愛も友情も未練もねぇよ。』


 つれないカワノは二人の問題より土曜ワイド(再放送)の方がずっと気になるらしい。 ヒラタはCMタイムを狙って強引かつ巧妙に迫り、途中、山ほどお袋が送ってきたし ・・・とカワノが茹でる大量のソーメンを、茹でたソーセージ2袋をオカズに貪り、うんまいねぇ〜と、愛想笑う数分後、喰い過ぎたソーセージにマンマとやられ、二度目のゲロに駆け込んだ今さっき。 

 『なァ、これ、まださっきの続き?』

 『ナギサ出てるけど、これはこれ二本目・・・この時間二本続けて流すんだよ・・・・』

 相手にされない訳じゃない、嫌われてる訳でもない、満更でもない、テレビ以下の存在っぽいけど。 でも、ヒラタは二度目のゲロでスッキリ変なスウィッチが入ったか、何故かひょうひようといい按配に吹っ切れて。 実はスキンシップ好きなカワノが んも〜しょうがねぇなぁ〜 とホダサレルのを弛まぬアプローチで誘発する作戦。 そしてツメとばかりにレッカーして己に引っ付けたカワノに、逆に押し倒され、スカスカの胃に愛の重みを感じつ、駄目押しを図るのだ。

 ホレ見ろ、テレビで、ナギサも言っている。


 『・・・・・・・ まずは二人の関係を、ハッキリさせましょう!!』


 全くだよナギサ。 だから、な、ハッキリさせようぜ、カワノ!


 『さささ、カワノちゃぁん、キミも彼氏のゲロくらいでクヨクヨすんなよ、ソレよか俺らの輝けるラブライフの為、ここらでズバッとキミもだね、』

 『クヨクヨするてか、ラブって・・・ お前は、ちょっとは気にしろよ・・・』

 『インだよ、オレは多分中身変わんねぇし、変りそうもないから、変わらない愛ってのを俺はおまえに捧げるから、だからな? おう、ドンとこの胸に飛び込んで来いよ意地っ張りさんめ! んで、チロッとケジメしとけ!』

 『も、いいだろ、んな一々言葉にしなくても・・・重い・・・どけ・・』

 『あぁぁもーぅ手のかかる、もう、照れるなよ、一緒に言ってやるからソレ、 ハイ! 〜 わたくしぃ〜カワノはぁ〜ココにおわすナイスガイ・ヒラタをぉ、実は深ぁ〜く、ホイッ、続けろッ!』

 『・・・・・』

 薄く開いた唇は言葉を発する前にへの字に閉じ、覗き込んだ目がちょっと横に泳いで、再びヒラタを映すそこに見えるのは、ためらいと、逡巡と。 ヒラタの身体の下、明後日の方を見るカワノが、困ったような途方にくれたような苦笑を浮かべ、すぅっとヒラタに視線を合わす。

 『・・・・・・ 俺さ、ノノセ先輩抱きながら、なんで俺、抱かれてねぇのかなぁって。 コウもアァもするんは、なぁ、ヒラタ、お前の役目だったろう? ってさ。 』

 『かッ、カワノォ〜・・・・・・・』

 ヒラタが感極まり鼻を啜る。 
 そして、くるっと巻きついた腕がウェッとヒラタを絞め付け、声は囁くように言葉を繋げた。

 『俺、おまえの事ばっか考えてて二回目勃たなかった・・・・・ なんかさ、どうやらさ、お前とすんのが一番身体にイイようだから・・・』

 『カ、カワノぉッ! ウォオオオオオオオお〜〜〜〜〜ッ!!』


 土曜の白昼 もう離れないッ! 愛してるッ! と、微妙に一方的に愛を確かめ合い抱き合うホモカップルがココに誕生。 

 奇しくもテレビの中すらラストスパート。 泣き崩れる愛人を抱き竦める、死んだ筈の元夫。 うっかり者のカメラマンを叱咤しつつ、ナギサは真犯人を追い、再び日光へと向かう。


 『ミムラ君、あたし達、とんだ回り道をしてたわ・・・・』

 したなぁ、俺らも5年半。 

 ほぼ6年ったらオイ、ガキつくってたらば来年、もう、七五三じゃんか! 急げナギサ、あと15分で蹴りを付けろ! そして、晴れて只今うっとり愛し合う俺らはもーもーヤルコト一杯ッ! 愛し合う二人の為、時間よ止まれ!

 あぁもこうも致す二人のその間、果たして愛はあるかってのが、今回の重要課題であったのだが。 
 答えは 『ある』 もしくは 『おおあり』 。 

 カワノとヒラタ、つまるトコ二人は、こう云う関係。

 『・・・馬鹿ヒラノ・・・・大事にしろよ、浮気すんなよ、てか、女整理しろよ・・・』

 『お前もな・・・』

 感動に震えるヒラタは潜り込ませた指先で、さらさらしたカワノの脇腹を擦り、カワノは微妙なところにひっかかってキュッとするヒラタの指先に震え、思わず上がりそうになる声を抑え、小さく息を詰らせた。 御大層な握り飯のCMを切っ掛けに、カワノは さむッ と、言いつつくたくたのトレーナーをすぽんと脱ぎ捨て温かなヒラノにしがみ付く。 5年半、ただ闇雲にサカッてキタ二人は、ようやく、愛にまみれたセックスに突入だ。 

へこんだ腹の白と、色付くベージュのチクビに,うっかり見惚れるヒラタは、今更のように余裕が無い。 大慌てでキツイ借り物パーカーを脱ぎに掛かるのだが、何故か堅結びの紐に出口を阻まれ、茶巾の頭巾の中の暗闇。

 『そん中で〜テメェのゲロ臭嗅いでなさいね〜』 

 意地悪するカワノは大抵非常に機嫌が良くて、ヒモほどけよと呟きつつ、これはこれでそう云うプレイチックに悪かないと思い始めるヒラノ。 やがてパクンと息子踊り喰いを敢行するカワノの、湿った熱い刺激に、またイイ意味で悶え、ウロタエルのであった。

 そして待ち侘びた愛の結果、カワノの舌技にヒラタが記念発射をするのと、いまだ抜けないパーカーの暗闇に、ほぼビールばっかのグレート・スメルゲロを発射するのはほぼ同時。 

 『な、ソレ被ってて、正解だろ? なぁ!』


 妙に誇らしげなカワノの声をヒラタは、自らの吐瀉物にまみれた暗闇で聞いた。



   愛は、微妙だ。
   そして夜は、まだ長い。




January 13, 2003












                                                                         
           ** ゲロッ吐きリバ     確かそんな御題で書いたと思う。