いただきマッスル*ラブファイト!!
努力・根性・汗・涙。 失敗したって、ドンマイ!ドンマイ! 考えないから、また繰り返す。
タイチロウの、彼女イナイ歴32年、熱かった、臭かった、ムンムンしてた、だって、男の子だもん、むらむらしちゃう。
金曜23時55分。 ブラウン管では、えらいブスが、これまた似合いのヘナチョコ男と揉めている。 ブス、三股かけたらしい。 で、理由は、ヘナ男の浮気らしい。 ・・って、イイじゃん、こいつら、満ち足りた下半身ライフじゃん・・。 下半身・・タイチロウは、忌わしい朝を思い出す。
鮨詰めの山手線、ド派手なブラ、これ見よがしギャルに、モア密着でパラダイスのタイチロウ。 ふわわぁ〜んとなにやらフルーティ〜な香りに、もう、小鼻ヒクつかせて、満たせ!我が肺!と、バキュームする至福列車。
♪〜トラ〜ベリング〜 って着メロにドキリ、や、動いた? 一歩出ちゃった? 俺、なんかもう、しかと握って小走りするね!! って違う、タイチロウ、バスケのアレと、勘違いしてる体育馬鹿。 ギャル、着メロに
やべぇ! ってゴソゴソ下の方探り始めて、あぁ、うん、ソコはまた、微妙なところにフィンガーテクヒット。
そして、事件は起こる。 一人極楽、タイチロウのプチボーイを、ぐわしと握る、何者かが出現。 不測の事態に狼狽隠せぬタイチロウだが、内腿地域に御探し物ギャルのスキンシップ、視界下方に眼福ブラ(アニマル・谷間アリ)、して鼻孔擽るフローラル。 握り締めるそいつが誰か分かんないけど、パーツ毎では、すんごくハイレヴェルなハッピィ。
哀しい男の胸算用は、やわやわグリグリ、不穏なマジックハンドの前に、あっさり 『お得!』 を弾き出した。
ステキな誰かさんは、凄腕シゴキ人であった。
『チッチャイのが、チョ〜カワイイよネッ!!』 うんうん、そうだろ? 俺のプチボーイ、初めてでも安心の、コンパクト設計だぜ!! ギャルの会話に、妄想スパーク。 いまや、タイチロウの脳内ヴィジョン、派手ブラギャルに、握られ、しごかれ、お花の香りをフガフガ吸い込み、ラブラブカラオケ、トラ〜ベリング、な、いい按配。
ガタンと揺れた停止信号、代々木上原、次降りるトコ。 のめった衝撃、これまた直撃、佳境に入るゴールドフィンガー。 あん、もうイッちゃうっ! 恍惚、歓喜、しかし寸でで、電車は到着。 瞬間、謎の手、コレにて撤退、嫌々!こんなトコで止めちゃイヤ!! そして耳元「主」が言う。
『じゃ、またな』 またな? いやぁ〜ん! じゃ、って常連? それもいやぁ〜ん! ていうか、兄貴? スッゴクいやぁ〜ん!! 通り魔的犯行・・・タイチロウは、そんな言葉を思い浮かべていた。
ブルーな想い出、過去って辛いね。
ブラウン管では罵るブスを、トホホなお笑い芸人二人で宥めて、泣くな!ヘナ男! 激励叱咤、混乱極めて、サラ金三昧CMスタート。 黒パンツ集団が踊るのを眺め、溜息は切ない一人暮らし、32歳。 春は、未だ来ていない、まだ来てないけれど、思わぬカタチで、来るには来る。
それは、週明け、月曜日の午後、トキメキのタイチロウ、困惑の春を迎える。
ふわりと漂う石鹸の香りであった。 そして、タイチロウに密着するしっとり真っ白な柔肌。 『・・んっ・・・』 タマンナイ声が漏れて、上下した胸、そこに薄っすら桜色の乳輪。 突入!!のラッパが響くかに思えた、タイチロウの寝耳、まさに寝耳に響く野太い声。 『有効ッ!!』 ん? ゆ、有効!! 確かに有効!!確かに、いや・・・ハッと気付けば、いがぐり君が決めポーズで固まっている。 無駄に発達した、タイチロウの、みっちりマッスルに圧迫され、息絶え絶えな柔肌の君が懇願する
『先生・・・苦しいよう・・・。』
月曜午後一、たらふく喰ったカツ丼が眠気誘う昼下がり、ムサイ野郎の熱い視線に囲まれて、決め技一本、ハッとするタイチロウ。
こ、これが背負い投げだぁ!!
とりあえず一喝するが、いまだ柔肌、目と鼻の先。 しかも密着しちゃってる、肌蹴た胴着が眩しい、う、項細えぇ〜〜っ!ハラリと俯く顔を隠す黒髪、それがこちらを切なく振り向いちゃったよ。 『先生・・』 あぁ、ウルウルの大きな黒目、ピンクの唇、紅潮したホッペに張り付いた髪の毛がこう、こう、キタァ〜〜ッ!!
ビックリ人形宜しく飛び退ったタイチロウ、
『一同実践!!
右に組め! 右足を進めんだぞっ! 返しにタイミング計れっ!!』
裏返った絶叫残し、疾風のように道場を走り出るのだった。 急げ、急ぐのだ、職員トイレは結構遠いが、もうもう、プチボーイってば、ダシテヨォって、大騒ぎ。 そして大放出、すっきり脱力の中、タイチロウは気付く。
あの、魅惑のセクシーカワイコチャン、アレは陸上部の弾丸ボーイ、1年D組オカヒロミチではなかったか?
期待のスプリンター、確かそう、アイツ、あの、カワイコチャン・・。
オカヒロミチ ・・・ それが、アンタの遅すぎた春、アンタにとって、最初で最後のマドンナらしいよ・・と、運命は囁く。 運命は、往々にして残酷だ。
『やぁ〜、ですからまぁ、そう云う事で、節度ある交流、ねっ、ソレを各自先生方、しかと指導、ヨロシク!!』 腰巾着、チョビ髭教頭が、得意の「ヨロシク」で二時間半の会議を〆る。
秋、それは芸術、それは文化、文化と言えば文化祭。 なら行くだろうよ、こんな男子校のムンムン野郎は、付近の女子校、総舐めで勇んで行くだろうよ、胸だの股間だの妄想だの膨らまして。 会議の御題は 「他校との文化交流の実際について」 。ぶっちゃければ、毎年必ず、付近の女子校より殺到する 「アンタとこの生徒さん、うち、来んで下さいよ!」 な、クレーム対策であった。
ヨロシク言われても、無理だな・・・と、タイチロウは鼻をほじった。 爪が伸びていたか、ちょっと粘膜がヒリヒリした。 ヒリヒリした鼻をかんで、血ぃ出てないね!
と安堵し、そして、またウットリ困惑のドリームに浸る。
オカヒロミチ ・・・彼の事が、忘れられないの・・・ や、乙女になってる場合ではない。 タイチロウは、先刻保健室に入り込み、彼の身体の秘密、総てリサーチした。 174センチ・59キロ・右眼0.1左眼0.6(近視・乱視)・左奥歯C2アリ。
あぁ、こうこの辺、顎のあたり・・・ で、う〜ん、俺よか米2袋分軽い? わかんねぇな、微妙だ、細かったよな、手荒く出来ないな。 そして、ビバ!ガチャ目 バンザイ!近視! 揺れる眼差しの秘密、我、見極めたり。
歯、歯はね、甘いモン食べたら気を付けなきゃね!
『センセ、これ、手作りチョコです・・・』ってか? 手作り? 甘い? チュウも甘いだろうなぁ・・・。 けどよ・・・。
タイチロウの恋は険しい。 相手は可愛くても男子校生。 そしてタイチロウはといえば、馬鹿でも教師。 有り難いな、身内のコネってのは。 今はアリガタカねぇけども。 気付け、タイチロウ、問題はソコじゃない、お前も男って点だよ。
いつも、眼で追ってるの、制服のカレ、風みたいに走るカレの事・・・ って、また乙女になっていたと、ワシワシ嫌な汗を拭う、学び舎の影。 アレからの今日まで、タイチロウの視線は、オカヒロミチに釘付けだった。
学食の中華丼が好物なのも、現国のマナカ先生にちょびっとメロメロなのも、普段眼鏡で、身体動かす時だけコンタクトにするんだって事も、タイチロウの 「ヒロミチファイル」 に記入済みであった。
そして 『オカ君に、話し掛けたい!』 な、タイチロウの取った作戦は、 『秋の挨拶運動』 としてパブリックに展開され、効果を上げる。
『オハヨウ!オカ君!!』
『あ、ムナカタ先生、おはよう御座います!』
『きょ、今日の授業は払い腰だぞ!! 気合入れてけよ!』
『うわぁっ!! こないだみたいに潰すのナシっすよっ!』
『お前もなぁ、ちょっと鍛えろ!!』
『え〜! 先生すっごいマッチョじゃん、そんなん無理だよぉ〜、あはははは!』
『あははははは・・・』
我が人生、至福ナリ・・・ 安い至福にうっとりだ。 タイチロウ、オカヒロミチ意外には、ま〜ず、声掛けちゃ居ない。 だって、あなたしか見えないの・・・
恋する男は、直進あるのみ、授業ともなれば高鳴る鼓動。
『相手を、前隅に崩せぇ〜〜〜っ!!』
むんずと掴むのは、演習モデルにエントリィの 『カレ』 の胴着。
ちょっと、怯えた瞳が、罪作りねっ!キャッ!
『そして引きつけるぅ〜〜っ!!』
ぎゅうむっ!って、イヤン! 腰がもう、水も漏らさぬ密着! ち、ちょっと
擦り付けちゃってもイイかしらぁ〜〜、ナ、ナンテねっ! ナンテねっ!!
『そこで、一気に払い上げろっ!!オリャッ!!』
あぁ〜〜ん! ゴメェ〜ン! 痛かった? どおしようっ!!
崩れ落ち、力無く投げ出された細い身体が、荒い息に波打ち、縺れた黒髪の隙間に、哀願と恨みの眼差し。
『・・・センセェ、手加減しろってば・・・』
つい、立ち上がる痩躯に、手を差し伸べてしまったタイチロウ。
肩が落ち、覗く鎖骨の色香にクラリ、立ち上がり際の間近に立ち昇る、石鹸と汗のタマラン香り。 キ、キタァ〜〜〜ッ!!
『そ、ソデ握ったら手首立てろぉ〜! 腰入れすぎんなぁ!
足跳ね上げるときゃ足首伸ばせぇ〜ッ!! 一同、ヤレッッ!!』
そして駆け込むのは、もはや馴染みの、東棟一階職員トイレ。 スッキリさせて、落ち着かなきゃ!って、もう、メロメロ。 オカヒロミチに、のめり込む自分、日増しに恋する乙女に成り果てて行く自分を憂い、握ったチンコに涙するタイチロウであった。 勿論、乙女は勃起ナゾしないのだが・・・。
『なぁ〜、センセェ、俺みたいのは、やっぱ、格闘技向かないかなぁ。』
『や、そんな事ナイぞぉ!』
繰り返し、投げられ、組み敷かれ、凹み気味のオカが、悔しそうに漏らす。
『やっぱ、先生みたいに、男はガタイなんかなぁ・・』
『オカ!! 柔道は、力の駆け引きだっ!! 相手の力を寧ろ利用してヤル、それが強さの秘訣!! であるから〜、オマエのような、しなやかな細身、かつ、筋肉を使える奴のが、じつは、強かったりするぞっ!!』
『セ、センセ、イイ事言うなぁ〜〜!!』
などと云うタイチロウ、いまだかつて、駆け引きナゾした事はない。 ただ力任せに技掛ける・・・ それだけであった。 しかし、この愛するカワイコチャンが、うっかり勘違いして 『男は筋肉!』 などとプロテイン大量摂取の、ミスターシリコンに成り下がってしまうのは、絶対に避けたい・・・ 全くの、己の嗜好に忠実な返答だったのだが、オカの心にはどうやら響いた様子。
『オカ! お前は、今のお前に自信を持て!!』
だって、今のオカ君がステキなんだもの・・・。 乙女タイチロウを
『結構、良いセンセだよな・・・』 と見つめるオカ。
何となく、信頼が芽生えつつある二人だった。
その、オカヒロミチは、繊細な見掛けによらず、案外ずぼらで大雑把であった。 朝は、大幅な遅刻と、朝錬定時の朝一が、概ね半々。 年中朝錬に遅刻し、怒る先輩の命令により、人より余計に練習するヒロミチだから、それだから、自然と記録も伸びてるのかも知れない。
・・・ こりゃ、うまい事いってるな! タイチロウは、愛する人のサクセスストーリーにホクソ笑む。 そしてどうやら、今朝は、その遅刻日らしい。
かれこれ二時間に突入する入り待ちに、切ない溜息を吐くタイチロウ。
溜息って、秋の囁きみたいね ・・・。 メロウなタイチロウは、オカ君会いたさに、校門の前、佇むのであった。 佇む、と云うか、仁王立ち。
ここ1〜2週間で生徒の遅刻率が激減している事を、そしてあれほど乱れていた服装・頭髪が、そこそこに正されつつあるのを、タイチロウは気付いていない。 皆、怖かったのだ。 マッチョで強面の体育教師が、朝っぱらから睨み利かせて、妙に気合い入れて、校門で見張ってるのが。
絶対、なんかシメル気で居るぜ、ムナカタの野郎よぉ ・・・
生徒達の間で、噂は広がりつつあった。
「彼、なかなかヤルネ!見直したね!」 教師陣の評判も、上々なのであった。
朝錬遅刻確定のオカは、漸くその姿を見せる。 が、何故かトボトボト寂しげ、そして冴えない。
『オハヨウ!!・・ン? どうした? 遅刻だぞ? 元気ナイのか?』
『・・あのさ、センセ、俺のことマークしてる?』
いやぁ〜〜ん!! ばれた? オカ君で抜いてる事、「ヒロミチファイル」二冊目入ったって事、あと、あと、色々ヤッてるの、バレちゃったのぉ??
『マ、マークって、ナニの事かなぁ?』
『皆が、センセはオレに眼ぇ付けてるって・・・俺みたいなヒョロイのは、センセ、ムカツクから、授業でもシゴクんだって・・・』
はぁ〜〜〜ビビった、その事ね、
『馬鹿言うな! オレは、お前に不満などない!』
不満! きゃ、夫婦喧嘩の決め台詞みた〜い!
『う、ん・・・そうだよね〜、センセはどっちかってぇと、俺ン事励ましてくれるもんな〜〜、けど、もしや、サクラちゃんの事なんかなぁとか・・・』
『サクラ・・?』
『や、イイんだ、違うなら、ははは! じゃ、センセ、俺、部室に顔だけ出すわ〜! また〜!!』
口篭もりつ、誤魔化しつ、部室へ向かうオカを、タイチロウは見送る。サクラちゃん、それは校舎裏で飼われてる、校長のアヒル。 校長の溺愛を一身に受け、職員は二週に一度巡るサクラちゃん当番に、ストレスを溜める。
ヤカマシイ、手間のかかる白茶のアヒルとオカ・・・ さっぱり関連は、思い当たらなかった。
オカ君の事、絶対アキラメらんないの・・・。 上の空で、いつもよりみっちり、生徒を柔軟三昧にさせ、勇気あるクラス委員が申告するまで、闇雲に 「双手背負い投げ」 を決め続けたタイチロウであったが、バレようとバレまいと、恋心は止められないという、結論に至っていた。 が、しかし、32年、溜めに溜めた思いのありったけ、オカ君、ワタシを受け取って!! っちゅう訳には、イカンよな、と、苦しい想いに胸が張り裂けそうになり、ぐっと涙を堪える。
傍目には、何かに憤り、爆発を耐える阿修羅の如くではあった。 哀れな生徒達は、震える。 この時、イキがり続けた最後の集団が、 もう、怖い、駄目! と、更正を誓ったのだが、タイチロウの知る所ではない。
胸騒ぎの放課後、ブルーなタイチロウは、件のアヒル、サクラを眺めに校舎裏へ向かう。 やたら攻撃的で、激しい蹴りと噛み技を得意とし、食い意地張ってる癖に、変にデリでナニかっちゅうと腹を壊す、厄介なアヒル、サクラ。 そうよ、こいつにゃ、酷ぇ目にあったな・・・ 一ヶ月ほど前の惨事を思い出し、舌打するタイチロウ。
その日、急にぐったりしたサクラに校長はうろたえ、獣医探しに来客を放っぽり出し、いざ受診した獣医師の 「なんか、ヘンな物沢山食べたね!」 の言葉に、即刻恫喝されたのは、前日当日サクラ当番であったタイチロウであった。
確かにラフ〜な清掃に、ちょっとばかし汚れは残ってたかも知れない、手際も悪く、気を悪くしたサクラの猛攻撃に嫌気がさし、餌もどっちかって云うといい加減にあげたかも知れない。 けど、沢山喰うほど、呉れて遣ったモノは一つもない。 つまり、濡れ衣だよな ・・・げに、権力は強し!・・・ 世の不条理を嘆くその耳に響く、馴染みの恋しい声。
『そりゃぁ、俺の知ったこっちゃナイだろっ!?』
アヒル小屋の前、数人の人影。 その真中で、ジャージの上を羽織り、短パンの足がすんなり伸びた、痩躯はオカ。 いきり立つ、半端なブリーチ君が、取り巻きの応援を一身に受け、今や生意気一年をシメようとしている。
『納得いかねんだよ! てめぇ、サボってばっかで寝坊ばっかで、ヘラヘラしやがって、そんでもオキニで、選手入りかよ?!』
ブリーチ先輩、オカに詰め寄り、ジャージの胸元を鷲掴む。 ジャージの色分けから察するに、二年生と見た。 なんだ? 選抜結果のやっかみか? オカは結構喰えないぜ。
『・・・オキニってか、タイム良かったからだろ・・・』
『じ、自慢かよっ?!』
『や、ホントだもの・・』
『うわっ! ヤナやつな!! てめぇ、アイドル系だからって図に乗ってんじゃねぇぞっ!!』
『・・・乗ってないって・・・』
のらりくらり、かつ、煽っているオカに、ついに、先輩連の手足が飛び出る、その時、タイチロウが、にゅいっと登場。
『実力負けなら、さっさと諦めろ!! 私怨で、シメル気合あんなら、人より走り込めっ!!』
腹に響く低音、かつ般若面に、チビリそうな哀れ先輩連。
ムナカタだ、ヤベ、ムナカタ何で居るんだよ・・・ 不安の波に、もう溺れそうな一同。 しかし、命知らずブリーチ君、震える小声で反撃一つ。
『セ、センセだって、アヒルの私怨でオカ、マークしてんじゃねぇかよ!!』
『なんだとおっっ! アヒルだぁっっ?!』
げ、限界です、スンマセン!! とばかりに、蜘蛛の子蹴散らす如く、散って消えた先輩連。 あん、オカ君に野蛮なトコ見られちゃった〜、な、タイチロウが、爽やか(と思っている)笑みを浮かべるその前に、困惑表情のオカが呟く。
『・・・やっぱ、サクラの私怨?』
『あのな、その、サクラとお前と俺、どこで繋がんのか?』
それは、こう云う話であった。
その日、うまい事早起きして朝連に励んだオカは、空腹に耐え兼ねて、二限を早目のランチタイムと決め、アヒルを愛でつつ特大オフクロ弁当(おかず・主食別段)を味わっていた。 半分ほどクリアした所で、気になるのは、モノ欲しい、アヒルの視線。 そして抗議の罵声。
・・・お前にゃ、喰えねぇだろ?・・・ と、思いつつメインおかずを放ってやると、餓鬼の如く瞬食する、欠食アヒル。ちょっとビビリつつ、や、少し面白かったりして〜 と、また放る、また瞬食、また放る・・・ で、完食迄には10分も掛からなかった。
『で、次の日、サクラが死んでしまうっ!!って、校長が騒いで、そんで、センセ、すっげぇ絞られてたじゃん ・・・だから、俺、俺は・・・』
唇を噛み締め、上目でタイチロウを見上げる痛々しいオカに、タイチロウはそっと問い掛ける。
『サクラ、ナニ喰ったの?』
『鶏唐・・・ 』
や、や、それはさ、こう、色々マズイっちゅうかタブーっちゅうか・・・ タイチロウは、チンパンジーを喰う己をふと想像し、即、オエッとなった。 眉を顰めたその表情に、オカは、不安を顕わにする。
『ごめん! センセェ、俺、黙ってて、センセ、濡れ衣だもんな・・』
『違う! 良いんだ、オカ、俺は、そんなのどって事ない。 俺はお前に私怨なんて一つもない!』
『じゃ、俺、眼ぇ付けられてんのなんで? けど、じゃ、贔屓? 』
『それは、それはだな、俺は個人的に、お前をマークしたかったのだ!!』
『はぁっ?!』
きゃぁ〜〜っ!言っちゃったぁ〜〜! 乙女になってる場合でなく、一世一代の告白に踏み切ったタイチロウ、もはや脳内をドーパミンがジュワジュワ満たし、ゲロ吐けば飛び出そうな心臓に、目玉の裏がチカチカした。 ガシッと、固まるオカの肩を掴み、揺さぶり、今こそ、勢いに乗り、魂の叫びをぶつける32年目の秋。
『俺はぁ、お前に、メロメロだぁ〜〜!!』
『お、俺ァ、男だよっ!センセッ!!』
『気にしなぁ〜〜イッっ!!』
『で、でも、ホモは、将来暗いって言うしっ!!』
『俺んちは金持ちだぁ!!
親父は市会議員だから職には困らないぃ〜〜っ!!
鎌倉に土地も有るっ!! 俺はぁ、あらゆる面でお前を幸せにしてやれるっっ!! だから、受け取ってくれぇっっ! 俺のっ!この愛をっっっ!!!』
もう、何もかもを捧げちゃうのよっ!! 陶酔の果てに白目剥きそうなタイチロウが、オカを抱きしめる。 みっしりマッスルに、砕けんばかりの抱擁を受け、息絶え絶えな、オカ。
『愛してる! 幸せにするよぉっ! 卒業したら一緒に暮らそうっ!!』
『あ、愛?・・え?
・・ セ、センセ、だって、だって、無理だよっ!! 絶対無理だあ!!』
必死の力で、コンクリ並の硬い胸板を押し退けて、オカが叫ぶ。
『無理だ!!だって、だって、
ホモって、ホモって、俺、だって、便秘でウンコ細いんだぜっ!!』
そうきたか?! しかし怯まぬ、タイチロウ。
『大丈夫!! 俺はこう見えて、チンコはプリティだっっ!!』
『す、スモ〜〜ル??』
そして、タイチロウは、蕩ける笑み、若干の恥じらいを含む甘い表情(本人希望)を浮べ、再び抱き締めた愛しい人に、囁くのだった。
『安心しろ ・・・なんなら、俺が受けてもいい・・』
『う、うわああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!』
恋の秋。 今は、アヒルだけが見守る、一つのラブスト〜リィ。
馬鹿とヤンキー満載の学園に一つ、運命のカップルが誕生したかどうかは、誰も知らない。
『アヒルに弁当を半分やると、凄い困難な恋愛に勝てる!』
と云う、どっか勘違いなジンクスが生まれたかどうかも、その煽りを受け、度重なるアヒルの不調に、校長が心労で4キロ痩せたかどうかも、今は語る事が出来ない。
後に、北区役所戸籍課の窓口に、オカが満更でもない幸せ顔で、判子押しに勤しんでいたかどうかも、鎌倉に白亜の『ヒロリン&タイッチ〜のオウチ』が建設されたかどうかも、ま、先のこたぁ、わかんねぇな。
October 11, 2002
* 5522Hit はむこ様
『天真爛漫な初な男の子(16)に惚れてしまった体育教師、脳みそ筋肉男(32)・受け。
どうやって落としますか?』
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