山茶花の宿
     
       


モチヅキタカシ(30歳・公務員)と、ハシモトコウジ(23歳・鳶職)が、手に手を取り合って駆け落ちしたのは、去年の5月、連休明けの朝だった。



モチヅキヨウコ(29歳・塾講師)は、その朝、やたら早起きした夫に不審を抱いたものの、わざわざベッドから起き上がるまでも無いだろうと、残眠を楽しみ、光射すリビングのテーブルの上、便箋一枚の書置きを発見する。

『許してくれ。愛を見つけてしまった。 捜さないでくれ。これで勘弁してくれ。』

何時の間に貯めたのか、ケチな夫らしい、小銭も貯まれば凄いなぁ的な通帳と、記入済みの離婚届が添えられている事にも気付く。 許せだと? 捜すなだと? ボケた事ぬかしてんじゃないよ! 女か? 女なのか? アタシは決して許しゃぁしないし、地獄の果てまで捜してやるわ!! ヨウコは、メラメラ萌える血潮に武者震いする。 

粘着、さそり座、武闘派のヨウコは、この手の事には至って強い女だった。 
まず、退職手続きの確認!そして口座を押さえねば!何の為に、ケチな公務員と一緒になったのか、そりゃ、後々美味いからだろう?! あぁ、忙しい! 離婚なんてするもんですか! 年金の問題と、諸々と・・・ヨウコの脳内は、フルスピードで損得勘定をする。 鬼気迫る形相であった。

そして、誰にも起してもらえなかった、モチヅキケイゴ(5歳)は、一人、眠い目を擦り、リビングへ向かう。 母は居た、が、オハヨウの言葉を、オハ・・で飲み込んだケイゴは、リビングの般若を、寝起きで目撃する。
その夜、ケイゴは、久しぶりのおねしょに泣いた。



ハシモトミサ(23歳・スナック勤務)は、仕事明けの荒れ果てた部屋の中、胡座をかき、煙草を吹かしていた。
  ・・糞ジジィが、閉店まで粘りやがって・・ 
ボトルの一本でも入れてなきゃ、撲殺していたろう薄ら禿を、忌々しく思い出す。 そして、ジャージのゴムが、腹回りに、きつくなったのにも苛付きつつ、脇腹をボリボリと掻いた。

裏の2歳児が、また、大泣きしているのを聞き、テレビのリモコンを探して手を伸ばすと、ソコに、ソレはあった。 とっ散らかった机の上、干からびた汁が張り付いた、カップヌードルシーフード味を文鎮代わりに、ローンズスマイルのチラシの裏、小汚い殴り書き。

『オレわ、アイに生きようとかマジおもうので、バイバイ』 (原文ママ)


ほお! そりゃ、結構!!  面食いが仇になり、とんだ馬鹿男と所帯を持ってしまったミサは、願ってもない幸運に、人生の光を見た。 が、ふと、思い立ち、窓の外、斜向いの駐車場にあるソレを見て、血管が膨張する怒りに目の前が赤くなる。 こっ恥かしい、特撮にでも使うか? お前!? と、突っ込みたくなる紫の改造車。 『初乗りで、富士山!』 あの馬鹿男は、そう言って、また無茶なローンを組んで、どうしようもない改造をした。 

したら、ローン、どうなるよ? 奥様、お任せぇ〜か? 冗談じゃないよ!! ミサは、鼠色のジャージの上下のまま、すっぴんで飛び出す。 急がねば、役所へ向かわねば、今すぐ、今すぐに、あの馬鹿と他人にならねば!! 離婚、ソレは、ミサにとって、今すぐの選択であった。そして、逃げるのだ。 ローンを踏み倒し、逃亡するのだ。

あぁコレは、昔、初めて付き合った男と夜逃げした時と似ている。 そう、あの男からして、もう、屑だったな・・・過去は、いつでもメロウだ。 尤も今だって、充分にメロウでは有るのだが。 980円のサンダルだけが、愉快そうにアスファルトで鳴った。 ノーブラの乳が、激しく躍動した。



爽やかな五月の朝、『特急なすの』は、大宮を通過。 進行方向右側、指定席に並ぶ、まるで共通項の無い二人。 長めのマダラ金髪が鬱陶しい、アディダス、白ナイロン、ライン入り上下、ゴールドのブレス、センス炸裂の若い男。 コナカの29800円(スラックス付き)、紺地ストライプのスーツ、取り敢えずのネクタイ、黒縁眼鏡、キチリと撫でつけた、今時律儀な七三。

『・・・コウちゃん、後悔してない?』  七三が言う。
『ナニ? あ、オレねぇ、ハンバーグ特別弁当!!タッ君も食べるよねっ!!』

金髪が、はしゃいで笑う。 七三は、幸せを噛み締めた。 
弁当は、不味かったが、幸せであった。



ヨウコは、何故か、久々に昂揚感ある生活を送っていた。 愉しかった。突き止める自分、追い詰める自分、着実に答えが返る手応え。 仕事柄、子供繋がりで、親達とのコネクションも有る。 陰の薄い夫は、居なきゃ居ないで、生活に支障は無く、寧ろ楽なくらいだ。居なくても困らないが、居なくなった理由は知りたい。 知って、その上で、とっちめてやりたい。 上手く行けば、ナニカ搾り取れるかもしれない。 ヨウコは、持ち前の押しの強さ、粘着を持って、着々と情報を拾い出して行った。

しかしながら、元夫、タカシの女関係は、実に綺麗であった。 コレといった、遊びもしていた様子は無い。 念の為に調べたが、同じ時期退職した女は、職場には居なかった。 かと云って、残る女にも、そう、気の利いたタイプは居ない。 

『モチヅキさんねぇ、ここ数か月は、北町公民館新設工事の企画で、忙しかったしねぇ、もう、そりゃ、熱心に現場にも足運んでて、やぁ、律儀な人でしたよ。』


皆、そう言う。 じゃ、なんだよ、ナニが嫌だったんだよ? アタシか? 畜生、ふざけんな! じゃ、まぁ、何でもイイや。 表向き、別居中、幸い稼ぎは充分な自分。 結果、今のところ損など一つもしていない。 そして、この楽しい調査を止めるのは、余りに惜しい。
ヨウコは、今、生き甲斐を見つけた。



『ハ〜イ! ミミちゃんで決まりねぇ! 今日からヨロシクッ!!』

薄暗い部屋、スチールの机、その向うから、ちっぽけな布の塊みたいな衣装が、差し出される。 ヒトゴロシの眼で笑う支配人の顔を眺め、ミサは後悔仕切りであった。 とりあえず、咄嗟とはいえ、この店は、とっても、不味いんじゃないか? 手っ取り早く荷物を纏め、アレから即、部屋にあった雑誌を捲り、ありがちな 『初めてでも安心!マンション完備!』 な求人欄をチェックしたミサだったが。 条件は三つ、幾分、離れた所、それなりに足回りの良い所、そして、時給の良い所。 

で、この、首都を少し離れた、辺鄙な店に来たミサは、あれよあれよと事務所に引っ張られ、本日より『ミミちゃん』を名乗るはめになる。 パブスナック ・・そうは言うが、コレ、このノリ、この衣装、ランパブ?! そうか? そうだろ? あぁ、ダイエットしとくんだった・・ 後悔は先には立たないのである。 アタシ、コウ見えて、段腹だ・・・ ミサは、着痩せする自分を少し恨んだ。 そして、願う。 どうか、自分よりブスで、デブで、ババァがこの店には居ますように!!


しかし、キャバクラ歴は伊達じゃない。 ミミちゃんは、なかなかに良い仕事をし、調子の良さから早速、強面の姉さん方とも折り合いをつけ、まぁ、快調な滑り出しであった。  そして、件の支配人が、洒落でなくヒトゴロシで9年入っていたと云うのを、ミサは、僅か三日後に知る。 それは、しけたホテルのベッドの中、当の支配人オオタの口から出た真実であった。 またしても、ミサ、屑男をゲット。 
後悔とは、いつだって、先に立たないのだった。



静かな、那須塩原のリゾートホテル、従業員寮。 男は、傍らに眠る愛しい姿に、感極まり涙ぐむ。 こんなに幸せで良いのだろうか? 二人は洒落たペンションでのハネムーンを楽しみ、そして何となく、そのまま目に付いたここの求人募集に引き寄せられ、まんまと採用された。 

『兄弟なんです』

そう言った男二人に、くたびれた初老の支配人は僅かに眉を顰めたが、こんな山中での従業員集めは面倒なのだろう、二人纏めて住み込みで・・・と、事は進む。 『一応ねぇ、万が一のアレでねぇ・・・』 そう言った支配人は、二人に、保険をかけた。 で、そこで、男は、ふと思いつく。 あぁ、モシモってのは、急に来るもんだ・・・。 男は、さっさと書類を作る保険のオバちゃんに、声をかける。 万が一。 愛し合う自分達にも、保証は必要だ。 この愛しい男が1人になっても、そして自分が1人になっても。 

思わぬ、新規契約に恵比須顔のオバちゃんは、コウジが名前を3回間違えても、「嗜好」の欄に 『スカトロとかあましハードなのはにがてです』 と記入しても、薄ら笑って二本線を引いてくれた。 互いに掛けた、1000万円の保険契約。 其れは、婚姻届に似ている。   あの日、現場の養生シートの上、タカシの弁当を美味そうにコウジが食べたあの時より、二人の恋は始まり、そして今、愛の生活が始まっていた。 幸せだった。



建設現場に通う夫。 駅前の書店で 『全国とくとくペンションガイド』 を購入した夫。 当日早朝、スポ−ツバックを片手に1人、タクシーに乗ったらしい夫。 6時14分発上りに乗り込む直前、キオスクでゆで卵を買った夫。 そこからが、難航した。 いずれにせよ、ソコに女の影はない。 突き当たる壁に、焦れるヨウコであったが、その一方で、事態は思わぬ展開を見せ始める。 緻密な調査、聞き込み三昧と、みるみる情報網を広げるヨウコに、口コミで調査依頼が飛び込むようになったのだ。

『うちのダンナ、
   女居るらしいんだけど、アンタそう云うの調べてるって聞いて・・・』
『ネコの、マリちゃんを捜して!!』
『結婚式で、スピーチ頼める子が来れないって・・・』

勿論ヨウコは、キチリと金を獲り、そして見事にミッションを遂行してのけて、更に実力・評価を上げる。 その情報網も、ジワジワと、直実にフィールドを拡大しつつあった。 口コミの威力は、侮り難く、評判は噂となり、年明け3月、ヨウコは事務所を構えるに至る。 


        『北町よろず事務所』 
       *  浮気調査、迷いペット捜し、各種代行業、何でも引き受けます!! 

な、事務所設立。 工作員は厳選3名、いずれも諸々の調査過程でヨウコがスカウトした選りすぐりであった。 コレなら、ケイゴの小学校、私立でイケルわ ・・・既に黒字を弾き出したヨウコの第二の人生は、華々しくスタートした。 

たまに脳裏を過ぎる、薄らぼんやりした夫の面影は、もはや人生の通行人の一人に過ぎない。



私鉄沿線、かろうじて急行が停まるこの町で、ランパブ『どれみ♪ふぁんふぁん』NO.1のミミちゃんは、身体を張って生きていた。

それは比喩などではなく、そのマンマである。 人殺し支配人オオタとのお付き合いが始まり、彼って、まんざら屑でもないのかも〜・・などと仄かな期待をしていたミサではあったが、屑ハンターの目に狂いなし。 オオタのマンションに移り住み、甘ったれたクリスマス、正月と夢を見た後の現実は、セックス&ヴァイオレンスのハードコアであった。

ヒトゴロシ・オオタは、基本的にはマメで気が利く男である。 家事全般をこなし、ちょっとしたプレゼント、外食など、ミサへのもてなしも充分過ぎるほどではあったが、それらが台無しになる豹変を来たすのであった。 それはセックスの後、いきなり、戦慄の実録ヒトゴロシたる本領発揮。

『なぁ、お前、店の客とヤッたか?』  と 始まり
『お前、OOに俺の悪口言ったろ?』  と 絡み
『な、舐めやがって、このアマァ〜〜〜〜ッッ!!』 と 暴行開始。

ミサは、手始めにアバラを左右、交互に2本ずつ折った。 腐った桃みたいな打撲は、全身に散らばり、仕事前にコンシーラーを駆使してそれをカヴァーする腕前は、いまやハリウッドの特殊メイクに匹敵する。 ひとしきり残虐の限りを尽したオオタは、失神したミサを見て、さめざめと泣き、後悔に暮れ、手厚く介抱する。 そしてふらつくミサを店に送り出し、労わり、食わせ、そしてまた・・のループは続く。

殺されてしまう・・・や、何しろ、実績があるのだオオタは・・・ミサの警告ランプは激しく点滅していた。 点滅ランプは光っていたが、今日もミサは、半乳のビスチェで客の膝に乗って労働に勤しんでいた。 
日常の惰性とは、時に危機感を麻痺させる。



ゴールデンウィーク明け、5月下旬の農閑期、久々の休日を二人は美しい那須高原で過す。 ホテルのロゴ入りバンではアレだから、と、奮発してレンタカーを借り、爽やかな春のドライブを満喫するハッピィな二人。 ハーブ入りなんたらとか云うカレーを昼食に食べ、『ボンカレーのが美味いなぁ!!』とはしゃぐコウジをタカシは『可愛い奴め』と見つめた。

あれから一年。 度重なる激しい大ポカで、幾度か解雇寸前まで追い込まれたコウジも、その都度タカシの勤勉さと、ホテルの人手不足の『ネコの手』要員として、首の皮一枚で生き長らえた。 何もかも、過ぎてしまえば楽しく美しい想い出だ。 ぎすぎすして、がさつで凶暴な妻ヨウコとの結婚生活も、いまだ心残りな息子ケイゴの事も、そしてコウジとの運命的な出会いの事も、この一年など、目まぐるしさは二時間ドラマの如くであった。

しかし見よ、愛し合う二人はこんなにも幸せだ。 タカシは山頂の清々しい空気に胸を張る。 ジャガリコを齧るコウジの、半分黒くなったプリン頭が、こっちに旋毛を向けている。 永遠に、閉じ込めてしまいたい、この愛しい景色よ!! 

『タッ君!帰りはさ、オレに運転させてよ!!』

コウジが油でギトつく指先をシャツで拭う。 
いいとも、あぁ、そうだな、それもいい ・・・エンジンがかかると同時に、流れ出す、随分前に流行った演歌。 いい按配の兄貴が、ラジオで、うっとり、歌っていた。

・・・ あ〜いしぃ〜〜ても、愛しても、ああぁ〜、人の妻ぁ〜〜〜


妻では無い、夫だったのだ。 

そして愛するだけじゃぁ、駄目なのだ、幸せは、自分で掴まねば・・・
タカシは微笑んだ。 僕は、愛の勝者だ。 その微笑みは12分後に凍りつく。

『オレねぇ! 峠の最速ってゆわれてたんだっ!!』

コウジがおもむろにアクセルを踏み込む。 そして弾丸の如く、飛び出す車体。 17分後のカーブで、黒のインフィニティは、谷底へ消える棺桶となる。 

永遠なんて、ある筈が無い。 何でも終りは唐突だ。



二日前、サロンで手を掛け、珊瑚色に塗られたマニキュアが剥がれるのも、かまやしなかった。 ヨウコは、とうに切れた受話器の向こうに耳をすませ、耳鳴りするようなパニックに立ち尽くし、幼児の仕草で爪を噛む。 

順調であったのだ、何もかも、何もかも、事務所も軌道に乗り、依頼も順番待ちをするくらいの繁盛であった。 毎日が、活気に満ちて、生き甲斐だらけであったのだ。 夫の存在など、その退職金も使い切った今となっては、つまらない老後のはした金など問題にならないくらい順調で、先月、ついに、件の離婚届をヨウコは提出した。 ヨウコは、モチヅキの姓を、晴れて、手放した。

その矢先であった。 雑音の混じる受話器の向う、濁声の男は、栃木県警のウエダと名乗る。
 夫タカシが、那須高原で、事故死した。 
同乗者の無謀運転による谷底への転落事故死。 

『えぇ〜、同乗者ねぇ、ハシモトコウジさん、奥さん、ご存知ですか?』


濁声が言う。 ・・・ハシモトコウジ・・? ・・知らないよ・・男? ・・働いてた? 兄弟? 一年も?・・・ どういう事?!  夫の事なんて忘れてたくらいだが、思い出して漸く離婚したばかりだが、死んだと聞いても、どって事無いのだが、逃げた相手が男であったと云うのが、どうにも、腹立たしかった。 その男が自分より若いと云うのも、悔しかった。 最後の最期で、夫にしてやられた気がして、ヨウコは足元がぐらつくのを感じた。 

ヨウコは、立ち尽くす。 受話器を握り締め、爪を噛み、その一人の客が、事務所に訪れるまで、西日を浴びて立ち尽くした。



駅前商店街、中ほどの『天神食堂』、本日の定食〔豚生姜焼き・味噌汁・香物付き \700〕を、ミサは、ぼそぼそ口に運ぶ。 味なんて分からない、だけど、食べねば、今は体力勝負だ。 こう云う事は今までだってあったけど、食べない、弱る、死にたくなる・・と順路は出来てしまう。 だから、食べねば、だって二日半は食べて無いのだから。

好奇心満々の眼で、40がらみの店員がミサを眺める。 剥げた化粧、生足にゴールドのピンヒール、そして、何故かきっちり男物のカーキのスプリングコートを着込んだ前歯の欠けた女。 注目の的の、ミサ。

それは、三日前の夜。 常連客の一人が、ミサに本番をせがみ、拒んだミサに 『誰にでもヤラせる癖によう!!』 と、怒鳴った。 そして、その客を、オオタがアイスピックで刺した。 客の眉間に、黒い穴が開く。 倒れ込む客に、馬乗りになって腕を振り上げるオオタを見たのが、ミサのまともな最後の記憶だ。 気が付けば、客の誰かのコートを羽織、ミサは走り出していた。 コートのポケットの財布を開くに躊躇など無い。 電車を乗り継ぎ、乗り継ぎ、白日夢の逃走の末、ぐるり回って辿り着く、ここは、始まりだった街。

始まりに戻ったなら、始めからやり直して行くしかない。 そもそもの発端は、夫コウジの失踪であった。 ならば、コウジを捜そう。そして、順繰りに、逃げた後始末をつけて行こう、逃げたって逃げたって、また逃げる種が増えて行くばかりではないか? ミサは、店のガラス越し、向いの雑居ビルに、視線を止める。 あれだ・・・。 

『北町よろず事務所』 
  浮気調査、迷いペット捜し、各種代行業、何でも引き受けます!!

ミサが、向かう先は、とりあえず決まった。




そして、
二人の女は、邂逅を果した。 珈琲が冷めても、ブラインド越しの日が傾き始めても、拳を握り締め、嗚咽する二人の女は、向き合い、俯き、そこに、座ったままであった。


そして、
6歳になったケイゴは、離婚して権利を失った母に代わり、1000万円を受取る。それは、父の愛人の命の値段。 そして父の愛の値段。 母ヨウコは、決してその金に手をつける事は無い。 それは耐え難い屈辱である。


そして、
ハシモトイサオ・カズ夫妻は、ぼんくらで悩みの種であった息子コウジの、最初で最後の親孝行を、49日の法要過ぎに、唐突に受取る。 虫だって、一つくらい恩は返すもんさ・・・イサオの口癖通り、息子コウジは死して漸く虫並になれた。


そして、
何故自分は受取れないのだ! と、保険外交員に掴みかかるミサは、しどろもどろで説明する、気弱そうなその男と、二時間後にはしっぽり恋に落ちる。 気弱そうな男が、賭け麻雀で多額の借金をしている事は、まだミサの知る所ではない。



そして、
山茶花が咲く頃、皆、また、さして変らぬ日常を繰り返し、繰り返し、繰り返し。
日々の遣る瀬無さもあるが、
ささやかな幸せも、ちゃんと、そこにはあったりする。



満更でもない、そんな、それぞれの、日常。







September 18, 2002




       * 大川栄作が、好きなわけじゃぁナイので、 歌詞が正しいかも疑問です。 沢山人が出てくると、
      名前が覚えられなくて、大変だと思いました。 後、長いのも途中でスジがわからなくなるのでので
      もう止めます。 ・・・メモとか、とるべきか、つまりは。