    
                
       
                 夕暮れ便所海岸 
               
                 
       
       
       
      『・・・ いや〜だからさ、セクシィ〜なのはラクダ、ペ〜ルシャ〜の女王様っぽいアノ目がねぇ、うぅ〜ん猫じゃさぁ、ま、ヴィジュアルともかくとして実践っつうか、サイズ的にどうよ? ダハハハハハ ・・・・・・』 
       
       
      夕暮れの汚ねぇ便所海岸、かもめの糞だらけの突堤の上、そっくり返って爆笑してる馬鹿は、もう相当ラリッてるから、俺はビシリとオトナの余裕ってのでもって相槌を打つ。 
       
      そうだね、ラクダだね、ラクダはイイねぇ、 
       
       
      馬鹿の捲れたTシャツの間で、恥かしげも無く覗いてる臍のキワをサービスで突付いてやった。 ぺちゃんこな白い腹が波打つ。 あぁ、益々喜んじゃってるよ、おい、こいつどうするよ? おい。  
       
       
       
      かれこれ3時間以上、俺はこの馬鹿と一緒に、この潮の薫りっつうか、何か色々混じっててエライ事かも知れなそうな異臭漂う海原眺めて釣り糸なんぞを垂らしてる。 で、馬鹿は時折、尻の脇に置いた 『なっちゃんオレンヂ』 の空き缶の中、甘ったるいヤナ感じの液体を吸い込んじゃぁ馬鹿を極めているらしい。  
       
      大した求道家だ、お前、立派だよ。 
      で、付き合ってる俺は物好きとしか言い様が無い。 物好きもイイトコロだ、ほかに良いお友達はごろごろしてるというのに、俺は中学2年から向うずっと、この馬鹿とお友達をやっている。 
       
       
      『 ビバ! 大漁なり!! スバラシキ文明にベロチュゥ〜〜〜〜〜ッ!!』 
       
      そうですか、良かったですね、おやんなさい と手を叩いてやる俺。  
       
       
      馬鹿は御機嫌で素敵な獲物、ビニールの絡まったワカメもどきと、仲良く抱擁中のビデオテープを釣り上げて、ピンクのバケツに収めた。  
       
      しかし、いつも思うのだが、こう云うゴミテープ、家庭用の120分とか一体ナニ写ってるんだろうと、俺は再生してやりたくなる誘惑としばしば戦う。 
       
       
      馬鹿は釣ってしまえばもう、それには執着しない。 ただ増え続ける、忘れ去られたコレクションの数々がピンクのバケツに満ちている。 
       
      ゴム長靴(左のみ)、ハングル文字付き謎のプラボトル1.5リットルサイズ、 
      自転車のタイヤ(枠のみ)、なんだかワカラン金属部品(一部)。  
      が、コレをどうするつもりかは聞かない事にする。  
       
      聞きたくもねぇし、聞かない方が良い事しか、こいつは言わない。 
       
      寧ろ言わなくて良い、知らなかった振りして欲しい事を、積極的に発言したりしやがる。 
       
      例えば、今さっきみたいに、だ。 
       
       
       
      『俺さぁ〜、お前見てると勃つときあるんだよねぇ〜コレって恋ですかぁ〜? ダハハハハハ、ヤラセロ!! っつうかヤッてくれ!! ダハハハハハ・・・・』 
       
       
      ダハハじゃねぇよ。  
      何でそう口に出すかな、出せるかな。  そう云うの言うな、ヤメレ。 
       
       
      馬鹿の発言は俺にどうしようもない口渇と、動悸と、そして焦燥を湧き上がらせる。   
       
      俺は物好きの域を通り越して、オカシナ意地を張るようにこの馬鹿から離れられず 『釣り馬鹿大会IN便所海岸』 3時間目に突入しようとしている。 
       
       
       
      夏も終りの海風は幾分冷えるし、もう帰りたい俺なのだけど、馬鹿は今、またヒュイっと釣り竿を振り上げ投入した。  
       
      ブリーチかけ過ぎてアジアを捨てた白髪頭は、溶けた毛先が途中で切れたり細くなったり、やけにまばらに風になびくから。 あまつさえまともに喰ってもいない馬鹿だから、顎なんて握っても砕けるだろう尖り具合だし、中身の無さに見合った小振りの頭は、それでもバランス悪く、細過ぎる首に危なかしく乗っかっている。  
       
      笑いの余韻か、耳朶が薄っすら赤い。 
       
      竿を波に獲られ格闘する流木みたいな白い腕が、サイズの大きいTシャツから伸びている。  
      その袖口から一瞬見えた、白と淡いベージュの点二つ。  
       
      俺は咄嗟に目を背けた。  
       
      あぁ、やだやだ。 俺ももう、コレまでなのか?  
      で、馬鹿はタイミングだけはヤナ感じでイイ。 
       
       
      『一寸だけ、なぁ・・・・・・・・キスしてみねぇ?』 
       
      間近で馬鹿がこっちを向いて言う。 こげ茶の瞳孔は若干開いてて、微妙に焦点の合わない視線が俺の顔を逡巡する。 奥二重で柳の葉みたいな瞼がゆっくり瞬きして、色素の薄い口唇がもう一度駄目押しをする。 
       
       
      『な、キス、しよ・・・。』 
       
       
      馬鹿の手から釣り竿が空き缶とゴミの波間に沈み、俺は首に巻きつく馬鹿のヒンヤリした腕にゾクゾクして、何かまた余計な事を言い出される前にその口唇を塞いだ。 小さな蛇みたいに、馬鹿の舌が俺の口の中を走り回る。 俺はとっても身体に悪そうなモンで一杯の馬鹿の口の中を、猛烈に探検して味わう。 
       
       
      あぁ、だから嫌なんだ。 だから、こいつは、馬鹿なんだ。 
      なにが、キスしようだ。 ソレで済むか? やめれるか?  
       
      俺もだし、お前もだよ、気付かなくったって良かったのに、こんで良かったのに。  
       
      お前はもうそうやって、勝手に煮詰まって、ラリって、自分ばっか蕩けた脳みそに責任逃れして、素面の俺に、なんもかんも押し付ける魂胆で居やがる。  
       
       
      ーーー で、まんまと魂胆に乗っちゃう俺は、いまや、物好きからキワモノ好きに変更だ。 
       
       
       
      キスしながら薄目開ける馬鹿の口の端から、どっちのか判らない唾液が、ツ・・・と落ちた。 そのまま耳たぶに歯を立てると小さな声があがり、やけに可愛いのがなんかリアルで、俺は自分が今、イタシちゃってる事に動揺し、かつ、ギアチェンで没頭に向かう。 
       
       
      首筋にわざと痕をつけて、しがみ付いてきた馬鹿の薄っぺらな胸に、シャツから手を差し入れた。 さっきのベージュ、そして白が、目玉の奥で幾度も再生されて今見てる生の画像に重なる。 
       
       
      『背中、痛い・・・』 
       
       
      コンクリで擦れたか、馬鹿が訴える。 
       
      が、そんなこたぁ気にせず、ベージュを吸い上げ、舌先で擽ってやった。 
      馬鹿が跳ねる。  
      それは恐ろしく刺激的で、どっかなんかが吹っ飛ぶもんがあった。  
       
      そして俺だって、抜き刺しならない所に来ていたのだが、察したか、馬鹿は俺のその堪らんようになってるのを、モタモタと引っ張り出して握った。 
       
      てめぇにするのとは若干向きが違うんで、まどろこしい手付きではあったが、何せ御馴染みのもんだし、遣り方はまぁそう変りゃぁしない。  
       
      つまり、擦り上げ、絞め、グリグリ刺激し、抜き始めた。 
       
       
      やばいよ、こりゃ、俺だけイクのはもう、絶対避けたいよ。  
       
       
      俺は馬鹿の背中をそっと起し、向き合い座らせると、馬鹿の可笑しなアメコミのガラのダボパンを引っ張り下ろし、半ケツのその窮屈な思いをしてたらしいリトル馬鹿をヤワヤワと擦った。 そして馬鹿の身体を少し持ち上げて、邪魔臭いそれは膝から引っこ抜きそこらに放った。  
       
      俺を挟む様に足を開き、膝を立て、剥き出しの下半身を曝した馬鹿から目が離せない。 目が離せないままオレは、ゆらゆらするやや細身のソレを擦り、刺激する。 馬鹿は、しがみ付く。 肩に着地した馬鹿の頭の重み、俺の耳元で深い溜息と掠れた声。 
       
       
      『すっげぇ、イイ・・・』 
       
      あぁ、ホントにもう。 ホントに俺、もう駄目駄目だな。  
       
      夕暮れの突堤、ヘドロの臭い嗅ぎつつラリッた馬鹿と、抜きっコなんてのしてる俺。 しかもそれが恐ろしくイイとか思っちゃってて、いや、こいつヤッちゃうのはマジで、凄〜くイイんじゃないか? とかもうもう、俺は戻って来れない所に逝ってしまっている。 
       
       
      畜生、畜生!! 何でこの馬鹿こんなに、ソソルんだよッ馬鹿の癖に!!  
      ラリ中の、中卒の、マクドの面接で即効キラれる非常識なヤンキー崩れの癖に!!  
       
      なのに、あぁ畜生、今まで付き合ったどの女よりも今オレはクラクラのメロメロだ。 
       
      や、それはこの馬鹿のフィンガーテクが秀逸だからとか、そればっかりではなく、あぁやだやだ、俺はこの馬鹿に突っ込みたいなどと切実に思ってしまっているのだった。 
       
       
      『はぁ・・んっ・・・』 
       
       
      ぬらぬらの先っぽをグリグリしてたらば、馬鹿が信じ難いセクシーヴォイスで喘ぎ、俺の胴中に跳ね上がった足が絡みつく。 馬鹿の腰がゆらゆら揺れて、僅かに浮き上がり、もはや俺の息子の事なんか構っておれぬと、その指は俺の背中をシャツごと握り締め、俺の首にしがみ付いたもう片腕は、俺の後ろ頭を禿そうなくらい鷲掴んでいる。 
       
       
      やるのか? 俺? コイツと、ココで、最後まで、やるのか?  
       
       
      葛藤は行動に即決したようで、俺はそろそろと浮き上がって揺れてる馬鹿の腰を後ろから支えるようにして、その部分、息子を収めるにソコより他に無さそうなそれに、指先で触れた。 
       
      ビクリと一瞬、馬鹿が震える。  
       
      や、ココは無理だろう、狭いっちゅうか、開いて無いに等しいじゃないか?  
       
      きゅっと窄まったソコをとりあえず指先でぐるり辿って、手始めに指一本から侵入を試みる勇猛果敢な俺。 どっちのかワカランぬらぬらを擦りつけ  
       
      「ちっと、力抜いて開いてみろ」  
       
      と、些か余裕無く馬鹿に命令し、またそれに馬鹿が、小さく ・・うん・・ 、とか言うのが変に素直でいいツボにヒットしたもんだから、俺の血管吹っ飛びそうだ。 
       
       
      どうにかこうにか、やって見りゃま、関節二つ目までが一寸難航して、馬鹿も息詰めたり吐いたり哀れだったが、その先は呆気なく収まってしまった。 収まったが、狭くて熱いココは、女のアレとは勝手が違う。  
       
      けどもホモの連中がそこでヤルからには、なんかイイトコロが有るんだろうと、俺は入り口から指の届く最奥まで、その窮屈な洞窟を、指先だの腹だので刺激しつつ探索して廻る。 
       
      『な、なんか、変な感じ・・・気持ち悪いってか・・・』 
       
       
      馬鹿には不評だ。  
       
      俺の息子も、馬鹿の腹に擦れて どっか収めといてくれよ〜う と、メソメソしている。 いい加減もう、入れちまってから考えようとか思って、グルッと回したその瞬間、凄い締め付けと馬鹿の強烈な喘ぎ声が俺の色んな所を直撃した。 
       
      ココか? ヒットか? その場所を、もう一度指の腹で擦る。 
       
       
      『・・・・・・!!』 
       
      もはや馬鹿は、声にならない悲鳴を上げる。  
      薄っぺらな身体がソコに触れるたびに撓り、なまじ細い指が痛いほど俺に喰い込む。 それって、こう、滅多味わえないような下半身が視覚で直撃されるってな、一寸凄い有り様だ。  
       
       
      ならば本命を一つ と、俺は息子をソコに忍ばせるべく、駄目押しにそのイイトコロをグリグリしてやったのだが、良過ぎたか? 馬鹿の跳ね上がった身体が前のめりになり、たまたま俺は、 いざ行かん! と体勢を変えようとした所で、馬鹿を支えるべく左手は俺の息子方面、そして右手は馬鹿のイイトコロ。  
       
      ならば俺達は、というと転がるばかりなのだった。 
       
       
      転がったら馬鹿がバケツをひっくり返し、まんまとコレクションに尻を濡らし、驚いた挙句、俺に絡まったまま変に捻り入れるもんだから、俺達は間抜けな半回転をし、落ちた。 
       
       
       
      『しょっぺ〜〜〜〜〜〜っ!!』 
       
       
       
      馬鹿が、叫ぶ。 そして呆けた、笑顔で俺を見る。 
      馬鹿はしっかりしがみ付いたまま。 俺は馬鹿を、しっかり抱き締めたまま。 
       
       
      夕暮れ、夏も終りの便所海岸の海。 どうやら馬鹿は落下時に、イッたらしい。 
       
      そして俺は今、すこーし素面に戻り、戻って尚、まだ抱き合ったまま立ち泳ぎするこの馬鹿と二人、色々すんのも悪くねぇなぁなどと考えている。 
       
      とりあえずヘラヘラし、俺にひっつき、クセェだの沁みただの言ってる馬鹿に、チュウでもするかと、考えている。 
       
       
      『見ろよ!!』 
       
      馬鹿が、嬉しそうに指をさす。 
       
      どう見ても使用済みのコンドームが、ほんの数十センチ先を漂っていた。 
       
       
       
      俺たちはソレを眺めながら、必死で立ち泳ぎしながら、バイキンだらけの二度目のベロチュウを交わすのだった。  
       
      まぁ、概ね馬鹿と俺は巧くいく。 
       
      所詮、キワモノ好きが仇になったな。 俺は。 
       
       
      確信しつつ、どうやって突堤に昇ろうか、そしてなんてことだ!  
      この馬鹿は、フルチンではないか? 
       
      俺には考える事が山積みだったのだが・・・。 
       
       
      『次は、 もっと、 な、 ・・・あぁ・・・』 
       
      幸せな奴め、なぁんにも考えちゃいないウットリしてる馬鹿は、実に良い。  
      抱き寄せた馬鹿の頭は、ヘドロの海で物凄い悪臭であった。 
       
       
       
      けど、ま、愛してる。 
       
       ・・・ 多分な。 
       
       
       
       
       
       
       
      September 7, 2002 
       
           
           
       
            * 某M様と、会話してて『魔性のヤンキー』に食指が動く。 魔性? 失敗だ、何も言うな、何も。 
               
        
        
                    
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