プリ〜ズ!ヒットミ〜!サックミ〜!ディア 
           
       
       
       
                         いじめてください、御主人様。  
       
                         このわたくしめを、貴方の御慈悲で、躾てください、御主人様。 
       
       
                              *** 
       
       
      二人で土下座で、見あわす眼と眼。 
       
      えぇ?! どうしてなの? 嘘って言ってよ!! だって君って、キツイ目付きで、言葉は辛辣、皮肉上手な酷薄な笑みで、君ってだって、Sじゃァないの?  
       
      フローリングに陽光きらめき、レンブラントの陰影宜しく、二人の愚者をもアートに昇華。 
       
                             *** 
       
      清々しい朝、キウィとワイン。 出掛けの嗜み、カナリア色のR錠2つ。 何かが起こる、何かが始まる、夏の白日はマチネの後の、シナプス瞬断立ち尽くす路上。  
       
      ところで食後の、憩いはドコで?  
       
      静かなところ、思想が漂う、無口なところ。 あぁ、あそこにしよ、お気に入りの場所。 
       
       
      僕は瀟洒な洋書の棚で、大好きなソレを抜き取り眺める。 
      スライスされた素敵な人体。 あぁこれ、こないだパーティで食べた、テリーヌなんかと良く似てる。 暫く堪能、それから次は、知恵の輪・パズルも、ココまで極めり、形成デザイン実践図解。 僕はこれ見て感心しきり、頭の皮が右頬に廻り左米神を引っ張り繋げて、あら、肉塊が、顔面もどきに! こりゃビックリだ!  
       
      鼻孔を掠める馴染みの香り、あぁ、これ、アレだ。 今はもう遠い御主人様の、肌より馨ったリヴゴーシュ。 最後のプレイにピアスが3つ、両の乳首とお臍の際に、愛の名残のプラチナ揺れる。 碧眼麗し御主人様は、とっとと、ドイツの妻のもと。 思い出すたび涙が浮かんで、受傷後ビフォ〜の衝撃フォトも、未練の涙で霞んで滲む。 滲む視界に開かれたページ、メイプルソープのマニアな写真。 
       
       
      『こう云うの、見て、泣けちゃうの?』 
       
      痩せ型長身、切れ長きつい目、細い鼻梁に、皮肉な口元、耳から脳まで痺れるヴォイス。 あぁ、想い出す! 誰かにそっくり! ココは気丈に振舞わなけりゃ! 
       
       
      『泣けるってよりは、感嘆するけど。』 
       
      何故か強気の喧嘩越しの僕、泣いてた事だの御主人様だの、脳内ワードを駆除すべく語り、  
      「生、在ル肉塊、人格、如何ニ?」 「形骸化セシ、尊厳、如何ニ?」  
      屁理屈・理屈が陶陶止まらず。いつしか、見知らぬそいつと議論。しかし見る程、この人タイプ、しかも何だか御仲間みたい、じわじわ話題はSM方向、深みに嵌る探り合い。 
       
       
      ビル内パティオのオープンカフェで、僕らは見つめる眼と眼を離さず、越える瞬間を狙ってる。 チコリのサラダ、パプリカの黄色、水滴浮かぶ紅茶の琥珀とおんなじ色の、いまや虜のそいつの瞳。 僕はペリエで唇湿らせ、リーチを賭けんと言葉を放つ。 
       
       
      『君の瞳は欲情を誘うね。 君の琥珀には視姦が似合う。』 
       
      見つめる琥珀が僅かに揺らめき、顕れ始める欲情の色。 琥珀は、真っ赤なチェリィを摘む僕の指先をうっとり眺め 
       
       
      『綺麗なその指、何に使える?』 
       
      低く囁き僕の手を引き、その指先をチロリと舐めた。 だから僕も、そのまま乗り出し、琥珀の瞼に吐息で囁く。 
       
       
      『使い勝手は、ご随意のまま』 
       
       
      白日、カフェでの、いちゃいちゃ僕らに、仰天ギャラリィどんだけ居たろ? 
       
       
       
      かくしてウキウキ、向かうは僕んち。 何しに? ナニしに、愛交す為。  
       
      そいつはカリヤと名前を名乗る。 僕はシウタと名前を名乗る。 言葉少なに歩く道行き、だけども二人の胸は高鳴る。 横目で伺うカリヤは綺麗。背丈は大体おんなじ位で、体型、それも、まァ同じ感じ。 だけどもクール、カリヤは酷薄、綺麗で冷たい氷の美貌。  
       
      玄関入れば、絡み合う僕ら。 もう待ちきれずに口唇貪る、そのままワルツを踊るが如く、バスルームへと縺れる二人。 温度低めのシャワーに竦み、小さく声上げまたしがみつく、サボンの香りはリヴゴーシュ、 おや? と、見開く琥珀の瞳に、 運命だから と微笑み返す。 互いの身体をくまなく辿り、小手先調べに探り合う僕ら。 
       
       
      あぁ、カリヤってプレイの前とか、とことん優しいスィートなタイプ、だけどもそれって、イザ始まると、打って変わって悪魔のタイプ!  
       
      もはや脳内シチェーションに、僕は恍惚、触れればイケそう。 カリヤはカリヤで、エレクト状態、淫蕩な笑みが氷を溶かす。 あぁ、あれ、きっと、考えてるな、僕に施す物凄い事。 
       
       
      茄子紺色のローブを羽織、何か飲むかと、とりあえず聞く。 内心余裕のない僕らだけど、表情至ってクールに決める。 御主人様が手切れに残した、ココはかなりのゴージャスマンション、ベッドルームもざっと十畳、キングサイズのベッドは真中、寝しなに愉しむ洋書の書棚、その反対にはでっかい水槽、不気味で巨大なアロワナ徘徊。 
       
       
      『じゃあワインどう? モーゼルならば、今冷えてるけど』 
       
      も一度聞いたその途端、カリヤが僕に手を伸ばし、あぁ、箍外れた、化かし合いオワリ。 僕らは床にその身を投じる。 そして激しいキスも長々、口唇離せば御決まりの台詞。 がしかし、それは、皮肉なユニゾン。 
       
       
       
                いじめてください、御主人様。  
                  このわたくしめを、貴方の御慈悲で、躾てください、御主人様。 
       
       
       
      なんで? ドウシテ? こんなのってアリ? 笑えばイイの? 泣いたらイイの? 
       
       
      スタイリッシュなクールビューティ、プレイもクールなマスター求む! 奴隷希望の、それが僕。 
       
      センシュアルで魅惑の小悪魔、甘い言葉でプレイは鬼畜、そんなマスター求む! の、カリヤは下僕希望の筋金のM。 
       
       
       
      『縛りは駄目なの?』 
       
      『俺が、遣るの? 君こそ鞭打ちくらいは遣っても、イイでしょ?』 
       
      『止めてよ、そんなの怖くて出来ない!』 
       
      『だって好きでしょ?』 
       
      『じゃ貴方出来る?! 縛り、鞭打ち、逆レイプ、みんな好きでしょ?でも、出来る?』 
       
       
      神様、酷い。ホントに酷い。僕らはビジュアル、こんなにタイプで、あぁ、運命だなぁと魅惑の明日と薔薇色の日々を、高鳴るハートで期待たのに、こんなの酷い! あんまりじゃない?! 
       
       
      諦め切れない僕らは、二人、可能な限りの活路を捜す。 でっかいベッドに身を寄せ合って、どうすりゃいいかと議論を交す。 そうして結論、御互い譲歩、かわりばんこでS代行。順番公平、アミダで決めた。 
       
      わぁ、君当たりだ、涙目の君。  ちょっと嬉しい、ときめきの僕。 
       
       
      ベッドサイドのフローリングに、肌蹴たローブに、後ろ手拘束、口にテープのラッキィな僕。 見ちゃいられないし、聴くのも泣きそう、どうしてもコレ! と、目隠し耳栓、鞭持ち立つ君。 こう言っちゃアレ、でも似合ってる。  
       
      さぁ、始めよう、この際色々文句は言うまい、だって次ぎ遣る僕だって怖い、分かるよ君のその恐怖。 大きく息を吸い込んで、震える声で、君が言う 
       
       
      『み、惨めな奴隷め、鞭が欲しいか?』 
      『御主人様の、鞭をください、どうぞお願い!』 
       
      聞こえて無いから一寸間があり、それでも振り上げ一発目。  
      あぁ、堪らない! うっとりの僕。 
       
      がしかし、どうやらカリヤがおかしい。  
       
       
      『あぁぁぁああぁあ・・・・・・・ぶっちゃったよご主人様を!あぁどうしよう! !卑しい下僕の分際でッ!痛かったでしょ? あぁ、僕のプリンスを! あぁどうしよう!』 
       
       
      どうやらパニック、ウロウロ徘徊、けども目隠し方向滅茶苦茶。 あぁ、そのままじゃあ、書棚にぶつかる!! ハッ?こりゃしまった!僕、喋れない!!! 慌てて身を起こし駈け寄る僕だが、目隠しカリヤがイザ抱き締めんと、伸ばした腕が顔面ヒット! -- 痛ぁ〜いッ !-- だけども、まァ悪くない。ボク的には悪くないけど、ますますカリヤは錯乱・混乱、悲鳴をあげつつ書棚にクラッシュ。 
       
       
      『た〜す〜け〜てぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』 
      『*〜*〜*〜**〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』 
       
       
       
      雪崩の如くに、書籍が陥落。 人に厳しいハードカバー。 もがいた拍子に書棚がグラリ。抱き合う僕らはその下敷きに。 空の書棚と言っても重い。 後ろ手にした、腕がエライコト!! 僕抱き締めるカリヤも悲惨、見えず、聞こえず、錯乱ピーク。 慰めようにも、僕、しゃべれない、助け呼ぼうにもカリヤはアレだし、あぁ、助けてっても、僕らのこの様、一体どうよ?  
       
       
       
       
      あれから、どれだけ経ったやら、疼く痛みと、変らぬ惨状、 
      加えて何だか排泄欲も。 
      だけどもそこに、すこぉし変化、 
      何だかカリヤ、鼓動がUP。 何だか僕は、背筋がゾクリ。 
       
       
       
      『・・・・・・・ シウタ、コレって放置? ねぇ、コレって、結構、萌えない?』 
       
      『  (悪く、ないね。) 』 
       
      『・・・・・実に、結構。』 
       
      『 (こんなプレイ、初めてだ) 』 
       
       
       
      僕らは、哀れな二人の奴隷。 
      苦痛と孤独に寄り添い耐えて、まだ見ぬ素敵な御主人様の、労いの言葉、待ち侘びている。 
       
       
      僕らは、下僕、夢見る下僕。 
       
      あぁだから早く、僕らを見つけて!! 素敵なサドの、貴方を待ってる。 
       
       
      だからお願い! 
       
                プリ〜ズ!ヒットミ〜!サックミ〜!ディア! 
       
       
       
       
       
       
       
       
      August 6, 2002 
       
           
           
       
           
      * はむこ 様   「僕は君が好き。でも僕も君もやられたい。どうしたらいいんだろう」 
                        マゾ同士 
         
        
                    
         |