衝動パラドクス

      
       



            『言い訳すんのにゃ、無理あるな』     『餌ちらつかせてて、今更だろ?』


 −−− 言い訳? そうだな、無い訳じゃない、こっちも随分手間かけたしな。 どっかの馬鹿は尻軽だから、始末つけんのは楽じゃァねぇな。 とっかえひっかえ、御盛んな事だ、どのみち本気じゃ無い癖に。 隣の芝生は青いんだろよ、そんなの求めて落胆するのか? お前の戯けた欺瞞に付き合う、阿呆に、少しは同情するよ。 


それでどうした? 色男。 ホントの恋だの見つけたか? 馬鹿だね、お前は、無駄に足掻いて、良く見ろ、此処だ、ホントの恋なら此処にあるだろ。


 −−− だから何? ってこっちが聞きてぇ。 事有る毎に、邪魔入れやがる、お前ってヤツは線路の小石だ、くだらねぇ事でウンザリするほど、人の人生転覆させる。 ほっとけ、クソ、邪魔くせぇんだよ。 餌だ? 馬鹿か? 勝手に遣れよ。 そう云うのはな、煽られ損だろ? お前のまたぐら事情なんざァ、俺の知った事じゃない。 俺は、知らねぇ、何にも知らねぇ、この先の事は、知りたくもねぇ。


視線? あぁそりゃ、ビシバシ来てるさ、俺が気付かぬ訳ねぇだろう? 仕方がねぇさ、見るのは自由だ、其処まで俺も傲慢じゃねぇし。 けどよ、おかしな解釈すんなよ、黙認するけど認めちゃいねぇ。



          『誘ってる? そりゃお前だろ?』      『頭カタイな、チッタァ譲歩しろよ』



 −−− あぁ、冗談じゃない、止してくれよ。 物事、双方都合が大事だ、それが社会のルールだろ? お前が、俺見て、何思ってるか、俺見て、何したがってるのか、あぁ、知っているさ、あからさまだしな。 けど、そりゃ、マンまでお前の都合。 俺が付き合う義理なんてねぇ。 きっぱり言うぜ、俺はのらねぇ。 その癖お前は、とことんあざとい、ならばそう来るか、畜生め。 


そうだよ、別段、男も結構、俺は幸いどっちもイケル。 あぁ、ぶっちゃけたら、お前でもイケル。 そうだよ、てっきりその気もあったよ、ちらちら訳有り匂わせやがって、おかしな揺さ振りかけやがってさ。 けど、無理、駄目だろ、もう致命的。 俺は遣るほう、下は御免。 でもって、お前も上だっつうなら、そりゃ、縁無かった、御終いじゃん。 オレはどっかで、誰かを抱くし、お前もどっかで、誰かを抱いて、もう、良いだろう? 俺を半端に揺さ振んな。


 
 ーーー 確かに誤算だ、俺もマズった。 あぁ、脈有るなと、モーションかけたし、喰い付き上々、首尾良く思えた。 俺の気配に、お前は答えて、お前のサインに、俺は気付いて、それが、全く、皮肉な結果で、まさかお前がタチだとはな。 考えてみろよ、ビジュアル見たって、お前充分、ネコじゃあないか。 その、腕、その腰、その面曝して、抱くのか? お前が、ピンと来ないね。


あぁ、知ってるよ、お前はなかなかやり手と云うのを、あちら此方で噂は知ってる。 やり手で、節操無しって云うのも、あちら此方で聞いている。 けどな、お前の遣り方は少し、切迫してる。 何、焦ってんだよ、何から逃げる? なぁ、恋なんだろ? 認めちまえよ、越えるってのも、悪かぁないぜ。



        『理由? 欲しいか? 作ってやるさ』     『畜生、てめぇが足開いてみろ』

 
 ーーー 粋なハカライ感謝したいな、会社もたまには気が利いている。 まさかお前と出張なんてな、不況の煽りかツインで二泊か? 薄禿部長に、感謝したいね。 お前、露骨にヤナ顔してたが、残念、オレは、コレに乗るぜ。 あぁ、願っても無い、待ち侘びてたぜ、そろそろ俺も、限界だしな。 正にチャンスだ、コレ、見逃すほど間抜けじゃねぇよ。 


しかし、露骨だ、其処までするかね? 飲まねぇ、ソッポで、着替えは見せねぇ、狭いビジネス二人きりっても、そうまですんの、寧ろ、アレだ。 お前、先を、意識、してんだろ? 恐れってのは、その先にある、可能性、故に警戒すんだろ? なぁ、もう潮時、進むに良い時期、任せな、理由は作ってやるよ。 バスルームからはシェーバーの音、ふうん、結構音響くのな、いよいよ、やるか、ケリのつけどき。


 ーーー あぁ、限界だ、二日、寝てねぇ。 けども、もう良し、4時間後にはチェックアウトだ。 動かない、お前、拍子抜けだが、追求すまい、それで結構。 バスルームの中鏡に映る、隈が浮き出た死にそうな俺、その俺の後ろ、不遜な笑みした、お前が、シャワーのコックを捻る。 何で? お前? 止せ、畜生め! 縛りか? くそっ! 待てよ、オイ、コレ、俺んじゃねえか? 両の手首を束ねるネクタイ。 


縺れて転がるバスタブの中、シャワーカーテン、外れたループ。 覆い被さる半裸のお前、降り注いでいる冷たいシャワー。  あぁ畜生め、セクシーじゃねぇか、こいつを抱くのは吝かじゃねぇが、抱かれるってのは、でも、クソ、滅茶苦茶手際が良すぎだ、這い回る指が一々ツボだし、耳朶を擽るオマエの吐息に、不本意ながらも声が掠れた。  人生、転機は逆転発想、あぁ、まぁいいか、このまま一気に越えるってのも。



    『素質、有るじゃん』         『うるせぇ、イケよ』

             『悪かねぇだろ?俺にしときな』      『条件一つ、次は遣らせろ!』







             越えてしまえば、衝動それ故、始まるその先、パラドクス。






August 1, 2002




      * レイ 様  「攻同士・嫉妬・ネクタイ・シャワー+エロ」  
        
         コレ、多分、3話くらいの連載にすると案外纏る気がしております。