百鬼夜行
あぁ、見ちゃいけないよ、あれは、物の怪、化け物どもが、逍遥するのさ、見ちゃいけないよ、見たら終いだ。 奴等は、闇が、大好きなのさ、人の心の薄暗がりが。
病んだ野犬が死んだのか、ガジュマルの影に、鬼火が揺れる。
死して尚、貧しい、灯火。 生に疎まれ、死にも厭われ、行き場無くして迷う鬼火。 この、忌み者めが、と、祖母が竿でそれを追う。 つまり自分のようなものだ、と、コウジは石垣に腰を下ろす。
選手権を間近に控え、父シゲノブの、指導は苛烈に、コウジを苛む。 この小さな、孤島の村で、父シゲノブは、王であった。 全国大会12の覇者、4度の五輪で健闘し、ミュンヘンの其れは、世界8位を修めたシゲノブ。 絶対君主の支配下の元、コウジは隷属を余儀なくされた。 何処まで行っても、血は断ち切れず。 何処まで行っても、あの、シゲノブの子だと、重圧は常に、コウジを縛る。
何故、砲丸か? ハンマーか? 逆らう術など、あるものか。
そんなの考えた事も無い。
覇者の息子は、覇者たれと、指導は最早、暴行の域。 こと大会前には尚の事、コウジの身体に生傷絶えず、治癒しきらぬまま、重なる小さな無数の痕跡。 誰しも、其れには気づいてはいた、だがそれだけだ。 偉業とは、そうしてこそ成し得るべきこと。 輝く偉業あるが故、父は、すべてに於いて、免罪された。 すべてに於いて、そう云うものだと、免罪された。
夜風は、潮の、香りを運ぶ。夏草を翻弄し、コウジの耳元で、風は断罪し勝ち誇る。 僅かに開いた口唇が、幽かに音を持たず紡ぐ、
『許して、ください』
虫の音に、紛れて消えた。
本土5日目、薄暗い小部屋に、コウジは居た。
咽返る安香水に、非現実な酩酊を覚え、こめかみを伝う汗の軌跡を、泣いているのかと、自嘲し笑う。
『今日は、アンタは、どうしたい?』
酒焼けしたよな、女の声。 ケツワレの尻に、ひやりと触れる、其れを身体は、悟って震える、僅かの恐怖、上回るのは浅ましい期待。 コウジは、部屋の、隅に纏めた上着の隠しを女に示す。 気だるく、女が、隠しを探る。 黒のラバーが隈なく覆う、加齢を隠せぬ、女の身体、腐臭を孕んだ、爛熟の様。 小箱を手にした、女が振り向く、厚化粧の、唇が吊り、哄笑と嘲りを、コウジに投げる。
『あはは!また、これかい? 性懲りの無い、変態め!』
女はコウジの背後を見遣る、上半身をラバーで覆う、奇怪な袋のような男が、コウジの尻を、大きく開く。 節くれた指が捻じ込まれ、執拗に、塗り込まれて行く、冷たさに内腿の筋が引き攣れる。 コウジは浅い、息をする。 冷たい其れは、徐々に熱と、痒みを伴い、疼く粘膜に身を捩る。 ・・・お願い、します、・・・懇願の声は、届く事無く、口中に嵌るギグに止まる。 こじ開けられた、口の端から野良犬みたいに唾液が落ちる。
『おやまぁ、こっちはパクパクしてるよ! たいした好きモノ振りだぁねぇ?!』
其処に触れたい触れてくれお願いだお願いします其処の其処に酷くても良い入れてくれ、満たしてくれ描き回してくれ気が狂いそうだお願い其処に其処に其処に・・・
括られた手では、かなわぬ願い、ケツワレ男は女に寄添い、幼児の手ほどの、逸物を曝す。 コウジの其れは雫を洩らし、ゆらゆら待ち侘び、竿筋を濡らす。 女が小箱をコウジに見せ付け、勿体付けて、そっと開く。
ケツワレ男が、ディルドをその手に、グロテスクな其れにオイルを垂らす。 慣らしもせずに、男は其れを、コウジの尻に、突き立てる。 吸い込む吐息も、粘膜の痛みも、それでもしかと、咥え込み、限界までに、引き伸ばされて、粟立つ快感悦楽に過ぎず、脳裏に浮かぶあの日の情景。
裏庭の奥、崩れ落ち、苔生す石垣の夏草の影、ガジュマルの下、獣のように交わる男女。
『お楽しみは、ゆっくりしなきゃねぇ』
女が、コウジの陰茎を縛る。 途端に、羽虫の如くの、モーター音をコウジは直腸内に感ずる。 うねりは、容赦なく粘膜を擦り、絡みつく其れを巻き込んで、直腸内を行き来する。 ある一点で、コウジは跳ねる、にんまり笑った女が屈み、尖らせた爪で鈴口を抓る。 開かれた足は、肩幅よりも、幾分広く、床の装具に固定され、ケツワレ男が出し入れをする、ディルドとコウジの淫靡な音色が、小部屋の中に湿って響く。
『さあ、言いなさい』
女が小箱に指先を入れ、摘んだ其れを、コウジに見せる。 細く、小さな銀のマチ針、安っぽいパールの彩色がぼんやり光る。 其れは、母の、母の持ち物、・・・お願いします・・・声にならない伸吟が漏れる、女は認めて腕を伸ばす。怒張し揺れる、陰茎に立つ、憐れな銀の細い針。
『ほら、次、言いな』
コウジはうめく、懇願す。 あの日、マグワル獣が二匹、質素な夏の簡易服を着た獣の裾は腹まで捲くれ、夜目に眩い白い尻。ガジュマルの幹に手を突き縋り、獣は哀願咆哮す。肌蹴た袷に零れる乳房、節くれた指が鷲掴む。 ・・・許してください、許してください・・・
『あぁ、良い子だね!』
憐れな針が、もう一本。 あの日の獣の代わりに発する、コウジの言葉は獣の言葉。 白い獣に覆い被さり、黒い獣が息を吐く。 白い獣に、己を捻じ込み、叩き付けては激しく揺らす、・・・どうだ?オマエは、エライのは、誰だ?・・・
『もっとかい? あはは!!』
白い獣は、仰け反りうめき、しかし咥えた獣の其れを決して拒みはしなかった。 ・・・許してください、許してください・・・言葉は悲鳴に、声無き嘆願、白い獣が月明かりに泣く、苦痛ばかりでない嗚咽。
『こんなにしてさ! たいした屑だよ!』
いまや12のマチ針が、無様で間抜けな針山宜しく、雫に根元を濡らして揺れる、ケツワレ男の注挿も、非現実の酩酊の中、肉の悦び只それ故に、コウジの身体は求めて悶える。 そして突然抜かれるディルド、急な空虚に、コウジの其処は収縮しかねて痙攣をする。
吊られた腕が引き攣る痛み、開かれた股間の疼く痛み、しかし、其れすら、やはり快楽。
ケツワレ男が女の命で、自らのものでコウジを犯す、破格の長さに胃がせり上がり、嘔吐を催しコウジはえずく、構わず男は突き上げ引き抜き、抜くギリギリの、カリの太さに、縋るコウジは獣と違わず。 女が笑って振り下ろす鞭、陶酔の中で、コウジは微笑む。
あぁ、アレは、そう、浅ましい獣、忌まわしいモノ、あの月明かりの下マグワル二匹、アレは父さん、そして母さん、獣のように、ガジュマルの下、母さんの上げる悲鳴は歓喜、父さん貴方は、獣の王だ、浅ましく、淫らな、忌まわしい、夜の獣の長たる王だ。
あぁ、見ちゃいけないよ、あれは、物の怪、化け物どもが、逍遥するのさ、見ちゃいけないよ、見たら終いだ。 奴等は、闇が、大好きなのさ、人の心の薄暗がりが。
老いた、祖母が、目を覆う。 見ちゃいけないと、目を覆う。
コウジは、獣の母に、代わって、その身の穢れを告白す。
獣の長たる父に代わって、心の慰安を哀願す。
女がコウジの戒めを取り、放つ瞬間、父を想った。
父とマグワル己を想い、母を屠る、己を想った。
許して、母さん。
2001年7月14日、空に向かう、ハンマーの軌跡は、83m47を記録する。
世界7位。 父、シゲノブを、越えた瞬間。
晴天の下、想う、あの日の鬼火。
July 28, 2002
* フィクションですからね!!関係者には、隠密ですわよ!!
* さの 様 メールにてのリク ・・ ムロフシ受け
「薬打たれて拘束。バイブ挿入、陰茎に待ち針12本で我慢汁」
・・・ 微妙に、愉しかったです。 でも、イニシャルSは、鬼決定。
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