モリムラ     

      
       



あぁ、こんにちは、あなたがですか?


初めまして、あ、初めましてじゃないんですよね、あぁ、すみません。 
えぇ、御免なさい。ホントにこんなで、覚えてなくて。 あの、随分お若く見えるので驚きました。 俺と、同い年なんですよね、はは、見えないな。 


あぁ、凄い汗だ、外、暑かったんですね。 あ、そこの、えぇ、すみません、お客様に動いて貰ってしまって、えぇ、そこの冷蔵庫に御茶が冷えていますから、どうぞ、お飲みください。  湯飲みはそこに、洗ってありますから。 


これね、 これは、ここ来た時暴れてぶつけたらしくって、いえ、もう痛みは無いんですけど麻痺が残ってしまって。 まぁ、ここじゃ上げ膳据え膳ですけどれど、ちょっとした事に時間が掛かってしまってソレが困りますね。



絵ですか?  あぁ、先生や家族から聞きました。 俺、描いてたらしいですね。 結構巧かったって聞いてます。 企業契約も決まってたって。  なのに、何でそれ、全部燃やしちゃったんだか、俺、何、自棄になってたんだろう。 


これは・・・あぁ、これ、これ、あなたですね、凄く綺麗だ。 
何だか優しい顔をしている。 でも、絵全体は何か怖いな、なんとなく。 これが? 俺が描いたのですか? ふうん、何かピンと来ないけども、へぇ、こう云うの、俺、描いてたんだ。 なら、じゃ、忘れてて幸いかも知れませんね。 
だって、もう、この手じゃ無理でしょ?



・・・あぁ、つまりそうですか、俺、大学であなたをスカウトしたって訳ですね。 
何だか、強引な男ですね。  学部も違うし面識も無いあなたに、よく、そんな勝手な申し出が出来たもんですよ。 あはは、自分の事なんですけど、呆れますよ。 結構、俺、嫌われてたんじゃないですか? 
唯我独尊? はは、良く言えば、全くそうでしょうね。 
迷惑ばかりだったんじゃぁ無いですか? 


止して下さいよ、煽てたって此処じゃ出すものすらありませんって。 
人が集まって、ていうのは、ある種、恐いもの見たさなんじゃないですか? 
だって、何だか、鼻持ちなら無い男って気がしますよ、って、自分の事なんですけど。 うん、多分、だから婚約者にも愛想尽かされちゃったんでしょうね。 
此処入ってすぐ、俺、婚約解消されちゃったんです。



でもねぇ、しょうがないっていうか、普通そうですよね、俺、こんなだし。 
寧ろこのまま結婚って言われても俺も相手も困惑するばかりでしょう?  いや、別に、その彼女と何かトラブったとかじゃ無いらしいんです、向うはそう言ってるんですけど。 あの日は電話もしていないって、そう言うんですけども、
じゃ、何であんな雨の中、俺、飛び出してったんでしょうね。 



あの、何か、顔色悪いですけど、大丈夫ですか? 
はは、此処で、俺に心配されるのも心外ですか? 
窓、少し開けると良いですよ。
此処、案外風が入るんです。 尤も、フェンス越しじゃぁ、風情もありませんけれど、でも、たまに風にあたりたくなりますね、この中は常に同じだから。


あぁ、それ? なんなんでしょうね、20枚あるんですけど、俺、運ばれた時、それポケットの中で握ってて、だから、処置するのに服脱がしたりするの、大変だったって聞きました。 獲られまいって暴れたらしくて、これ、この葉っぱ。 
紅葉ですよね。



嵐山の紅葉? 



じゃ、柄にもなく、俺、感傷にひたってたのかな。 二十歳の想い出で20枚。 
ふうん、俺、一人で、行ったのかな、彼女とはまだ、ハタチじゃ付き合いも無かったと思うし、はは、ちょっと厭だな、男一人で京都行って紅葉拾いして来たってのも。ほんと、柄じゃないって思います。いや、以前の俺って知らないけど、
でもねぇ、でも、これ、大切だったんでしょうね。


えぇ、何か想い出すきっかけにって、看護婦さんがそうやって、壜に入れて飾ってくれたんです。 今のところ全然ですけど、でもいつか、兆しでも見えたらって。 
何だか気の長い話ですよね。 



思うんですけど、俺はこうして、いわば仕切り直して生きているけれど、その、前の俺と生きてた人達って、ずっと、最初から未だ繋がってるんですよね。 俺の中では切れちゃってるのに、何処かで、俺の知らない、俺の人生が、誰かの中で続いてるって、なんか、こう、鬱陶しいって言うか・・・



御免なさい、あなたにどうこうってつもりじゃないんですけど、でも、あなたは今日、以前の俺に会いに来て、今だって、俺でなく、俺の中に、前の俺を見てるんでしょ? 分かります、分かるけども、でも、そしたら今此処に居る俺って何なのかなって思いませんか?



・・・ 済みません、八つ当たりですよね、分かってるんですけど、何か、つい、済みません。 俺、こんな事、人に言った事無いんです、ホントなんです、なのに、どうしたのかな、あなた不思議だ、あなたと居ると、そういう奥の方の感情がぶくぶく泡立ってきて、何だか飲み込まれそうになる。 
俺、あなたのこと信頼してたんじゃないかな、勘ですけど。



あ、それは、そうして丸めて置いてあるんです、すぐ使えるように。 
俺、雨降ってる夜って、駄目なんです。 何かね、錯乱しちゃうらしいんです。 他人事みたいに話しちゃうんですけど、自分では、何か心臓がドキドキしてきて、眼がちかちかして、それで・・・って辺りしか大抵覚えてないんですよ。 後は、気付くとこう、それで結わかれてて。 


それね、胸のところと、手と足と、固定するんです。 そうして、俺が暴れたり、飛び出したりしないように、怪我したりしないようにするんですよ、雨降ってきたら。 




俺、ずっと繰り返すんですって。

そうじゃない、そうじゃないから、行くな、行くな、嘘だって言え、行くな、



誰に、言ってるんだろうって、随分皆で調べたんだけど、分からなくって、肝心の俺はこうだし。 はは、俺、案外、女性関係綺麗だったみたいで。



そうじゃない、そうじゃないから、行くな、行くな、嘘だって言え、行くな、

ポケットの中で、紅葉握って。
俺、誰を引き止めようとしてたんだろう?




ちょ、ちょっと、どうしたんです?

なんで?

泣いてるんですか?
厭だなぁ、もしかして、俺のこと可哀想とか思って?



全然ですよ、俺、ちっともピンと来ないんです、自分の事だけど、
何か、ちっともそう思えなくって。



だから、あなたが泣く事無いんですよ、



だって、モリムラなんて奴、もう、居ないんですから。




July 24, 2002




      * ミムラ様 御生誕日 : 『タリナイ攻めと、それ故にすれ違い報われない受け』
                明日、ややエロ有りを、も一つ贈呈。