快楽小部屋     
                      
 



     俺の指は馬鹿みたいに震えちゃってて、ファスナー10センチちょっと下ろすのに難儀してたりする。 
     お前の手は俺のシャツの中にまんまと潜り込み、探し物でもするみたいに背中だの腰だのを這いまわる。 


お前の襟足が汗で滑るのを掌で感じ、俺は漸く取り出したソレを夢中で擦りあげる。 お前が、曖昧な声を洩らし、すかさず俺の胸に吸い付くから、俺もみっともなく甘ったれた声をあげた。 俺は、お前の後ろ頭を大事なもんみたいに抱えてる。


           『余裕、ねェな』    『勢いだろ?』


勢いって言やぁ、すごい速さだ、この展開は。  お前も、俺も、どうかしてる。 


ほんの二時間くらい前、俺とお前は見知らぬ同士だった。 安いんだか、不味いんだか、たいして注文も早かない駅前の店で、オレはつまらなそうなお前に出逢った。 ありゃ、最悪な合コンだったな。

やたらテンションの高い勘違い小ブス二人と、ダンマリ女、まともそうな一人はどうやら男ツキらしいし、じゃ、駄目じゃん。 お前は小ブスAに相槌打って、あからさまな作り笑いしてたけど、きつい顔の癖に、笑うと餓鬼っぽくなるんで、憎めないのが得な奴だよってな。 

俺は、仕切りにくだらねぇ話しもってくる小ブスBなんてそっちのけで、お前の薄い口唇が吊り上ったり、冷めた春巻きを咀嚼したりすんのを眺めてた。 ダンマリが、訳わかんねぇ自爆ギャグ飛ばして来て、ノダか誰かが突っ込み入れて、そん時だ。 

遣ってらんねぇって顔で、お前は軽く上向いてタバコの煙を吐き出した。 


  顎の下、喉ん所にホクロが二つ。 


           『お前、何で笑ってた?』    『秘密発見』    『何?それ』


教えねェよ、教えるもんか。 けど、お前も笑ったな、俺見て、ちょっとガンつけてから、不意打ちみたく。 

あの時、俺たちは何だか秘密を掴んじゃったよ、知ったら最後ってな秘密を。 

そっからは、お前が俺を眺める番だったろ? 知ってたよ。 小ブスの話はつまんねぇけど、お前が俺を見てるってのがどうにも楽しくて、えらくドキドキしたな、俺はすっかり上機嫌。 だから、お前が便所に行ってすぐ、帰るって出てったのには、納得出来なかったね。 なんだよ、一抜けか? さっさと御開きか? 途端に小ブスが鬱陶しくなって、俺も鞄を引っつかんだ。 
ノダには悪いけど、もう、良いだろ?

で、店出てすぐの路地ん所で、お前、煙草吸ってたじゃん。 ビラだらけのビルの壁に寄り掛かって、空気が苦いってな小難しい顔して、で、お前は俺を見た。


           『なぁ、アレ待ち合わせ?』        『追っ駆けて来たの、てめぇだろ?』


どっちだってかまやしねぇ、俺たちは、そうして出逢った。 

駅までのごちゃごちゃした路地を、俺たちはたいして喋りもせず、前になり、後ろになり、ちょっと近づけば触れられるくらいの距離でもって、並んで歩いて行った。  今日のは、最悪の合コンだったなって、まァ、共通の話題はそれで終了。 けど、オレは何だか浮かれてて、同じくらいヘンに緊張してて、路地の向うにターミナルのライトが見えたら、どうしようもない焦りで一杯で。

自販機ん所でおまえが 乗り換えか? って聞いて来ても、 お前はどこまで? って聞き返すのが精一杯で、全くどうしちゃったんだよ、俺は。 だから、とりあえず落ち着こうと便所行ったら、お前も入ってきて、ちょっとびびったし。 鏡に映るお前、なんか、気合入ってたし、迫力っつうか、なんてぇか。 

俺は、鏡のお前が近づくのを、阿呆みたいに眺めてた。 俺の顔は、引っ掛けた水で濡れていて、流しっぱなしの水道の水が俺の手を冷やしているけど、ちっともクールになれねぇよ。 お前が俺のすぐ後ろまで来て、俺は振り返って、何? って。 口を動かしたんだか動かせてなかったんだか。 

お前の、気合顔を、俺は見ていた。 思うより、近い距離で、見ていた。 
背、同じくらいだな、と、お前が何か言わねぇかと、見ていた。 

そして、入口で数人の足音がした。


「 なんだよ、水出しっぱなしじゃん 」



   水なんて、どうでも良いんだよ。 それどころじゃねぇよ。 
   俺たちは何しようとしてんだよ。 なんだって、そうしたんだよ? 

お前は俺の腕を掴み、俺はお前にしがみつくように、俺たちは縺れるように個室へ入った。 御世辞にも綺麗じゃない、アンモニア臭が鼻をツンとさせるそこに、野郎が二人、棒立ちをする。 なんなんだよ、馬鹿か? どうすんだよ? 

けど、俺たちは、動いた。 親切な誰かが、蛇口を閉めて、立ち去ってくれたその途端、俺たちは素早かった。 お前が鞄を便座に投げ置き、俺はお前の首に両腕を回した。 お前の指が俺の頭をクシャクシャしてるのにゾクゾクして、お前の舌がもがく魚みたいに入って来たのに応えて。 俺たちは思う存分にお互いを貪った。 


あぁ、そりゃ、すげぇな、日頃掻き回してるばっかの舌が二つで暴れるってのは、キスだけで俺たちは息が上がり、もう、なんか、くらくらしそうだ。 二人で深い溜息を吐いて、俺のボディバックはすっぽ抜けて床に転がってて、あぁ汚ねぇなと思ったけど、それどころじゃない。 俺はお前のなんもかんも触りたいし、そこを舐めてみるってのはどんなか知りたかった。 お前だってそうだろう。 お前は、俺の頭を片手で掴み、耳の後ろに舌を這わせ、首筋まで滑らせて、そこに軽く歯を立てた。 

時折ホームの発着音が響いて、俺たちはその喧騒に紛れて、荒い息を吐き、堪えきれない声をあげた。 

お前はドアとコーナーに挟まり、オレは便座を邪魔に思いながら。


          『お前、男とある?』     『ねぇよ』     『最悪じゃん』


どうしたら良いかなんて、わかりゃぁしないけど、俺は気持ち良くなる事をするし、お前もそうすんだろう。 最悪で、最高の行為。 俺たちは互いのものを擦りあい、キスをして、触れ合って、発着ベルの何回か毎にイった。 もう、どろどろで、どうにも、こうにも。 



「あぁ〜〜合コン、サイアク。」

ノダの声だ。 俺たちは、動きを止める。 お前はドアを背に立ち、オレは便座に掛ける。 捲くれ上がったシャツに、ファスナー全開、出してるし、どっちのか分かんないので濡れてるし、お互い、酷い格好だ。


「シマ、とっとと帰ったな」

「そりゃ、帰るだろう、アレじゃな」

「リカも帰ったろ、きっついのに捕まってたしな」

「まぁな。二人帰ったらあからさまにがっかりしやがってな、ブスの癖に」

「二次会までで、御持ち帰りナシってのもな」

「持ち帰りたいの居たかよ」

「居ねぇし」

「やべ、電車来る」


  俺たちは、見つめ合って笑う。 

  下から見上げるから、お前の秘密のホクロが見える。


          『お前、シマって言うの?』   『お前、名まえ? 女みてぇ』


名前も知らない癖に、俺たちはこうしている。 小部屋の中、俺たちは恋をしていた。 多分、続く恋。 俺は、目の前のお前のに口唇を寄せ、先端を舐めて口に含んだ。 

   発着音が遠くに聞こえる。 

   だけど、どうでも良いじゃないか。 

俺たちは、もっともっとこうしていたい、こうするだろう。 電車がなくなったら、その時は、駅二つ先のお前の家まで縺れ合い、触れ合い、キスをして、時には夜更けの暗がりで、それ以上の、もっと先をしても良いだろう。 


          俺たちは、何だか、とってもイイ感じじゃないか?





          掴んだ秘密は、離しちゃ駄目だ。






     * 201ゲット タカタ様  『トイレの個室エロ』  御情けでも、有り難いリク。 
                 書いてて愉しい便所エロ。 わたくし的には、スィートなお話。