水兵 リーベ 僕の船  



そりゃ新手の嫌がらせかよ? と 思わなくもなかった。 あまりに不気味だったから。


『 喰ってみろよ、騙されてみろよ、ほらよ。
                  初めてにしちゃ結構イイ線いってるよな、おい 』

俺のハニィがそう言っている。 変な箸使いでソレをツッ刺して俺に喰わそうとしている。

『 なんだよ畜生、とんだ甘えんぼさんだな。 こうか? 
                              ほれ, あ〜ん だぜダーリン』

ああ、今、正に俺の愛が試されている。 
ハニィの愛に、応えてやりたいのは山々だが、俺の右脳は警告ランプ回りっぱなしだ。 それもこれも、俺が空腹を訴えたばっかりに。 俺のぺヤングをお前が喰っちまったばっかりに。  

俺たちは少し殴り合い、折角だからついでにセックスし、何も解決しちゃいねぇ空腹に痺れを切らしちゃった俺が、ちょっぴり切れたもんだから、可愛いハニィのラブラブクッキングは始まってしまった。 

俺のハニィは一生懸命だ。 

しかし不吉な音や不吉な臭いや、とりわけ不吉なハニィの舌打ちなんかが聞こえたあたりで、俺はもう、謝ってしまえば良かったのだろうか。 俺たちの愛の巣は、いまや戦場だ。 特にキッチン付近は、テロ行為の後さながらに。

そして、フリーズした俺がここにいる。 男の勇気が試されている。 


ヒントくれ。 何が何だかわからない。 
この皿の中、箸の先にぶら下がる、これが一体何かがわからない。 わからないのも怖いが、聞くのもとっても怖い。 やっぱアレだろ。聞いたらますます喰わねばならない約束だろう。 ハニィはしきりと勧めるが、てめぇは一口も喰っちゃあいねぇ。
 
なぁ、それ、一番怖いんだよ。
 
教えてくれよ、コレ、なんだ?  


ソレは、てらてら脂ぎって、白い所と焦げた所が 1:9 でキムコの中身みたいなのが飛び出してて、それは万が一の挽肉臭いけど、そんなのしばらく買った覚えもねぇ。 はっきりしてるのは、ニンニクの臭いがしてケチャップが血糊みたいにかかってるって事だ。

こりゃ、すごいヒントだな。 
さすがの所ジョージだって、わかりゃしねぇだろうよ。


『わかんねぇ、わかんねぇって、何言ってんだよ。 コレ? ギョーザだろ? 冷凍庫の隅っこにあったじゃん。 あ〜なんだ、ちょっと焦げてさ、やべぇって油足してみたんだけど、こいつらボコボコ腹破れちゃってさ、そこでピンときたよ。 卵でとじればイイじゃんってさ。 で、卵ときたらばケチャップ。 な。』 

ギョーザか。 そうか、餃子か。 

なーんだ、ハニィ、疑って悪かったよ。 わかりゃぁなーんだってモンだ。 
ギョーザに卵にケチャップ。 まァ、悪かねぇ。 ナイスアイディアだ、ハニィ。 
少々油っぽいのもスタミナのモトだ。


あー、こう云うわかんなさは、久々のアレだ 
ナマガルシップス みたいなモンだ。 
アレがなんだか思い出すまでの気味悪さといったらもう。


俺は、にっこり微笑み口を開けた。 
ハニィもつられて口を開け、ソレを俺の口に放り込んでくれた。

ダ〜リン、美味しいかい?  なんて眼で語るなよ。 畜生、可愛い奴め。 

ほらな、モノがわかりゃぁ喰えねぇ事もねぇ。 美味いよ、ハニィ。 
どんな風にか、例えるモンが見つからないけど、俺には上等な代物だ。 勢いつけて、もう一口喰う。

愛だな、ハニィ。


『 かぁ〜〜ッ!!喰ったよ!こいつ!!すげぇ!!すげぇよ! 男だよ!! なぁ、どうよ。 どんな味? ピリッとしねぇ? なぁ? なぁ? へぇ、わりと平気なの、ふうん。 俺、あのギョーザ二年もんだし、やべぇかなって 思ったんだけど、ビバ!冷凍。 侮りがたしだな!! けど、いやマジで、どっか痛ぇとか痒いとか吐きてぇとか思ってねぇ? −−− と、時間的に、もちっと後か? 
睨むなよダ〜リン、惚れたぜ惚れ直したぜぇ〜。 
                     やぁ〜、 お前って、すげぇ男だよ 』




・・・    ぜってぇ、 コロス      ・・・









    July 2, 2002



      * 元素周期表 : 左から右へ 水素(H)から硫黄(S)まで。 
                   トラディショナル語呂合わせ。