モルヒネカクテル




     『 現状が 不可逆的であるという状況下でそれを使う検討をするの。 』


こめかみに金属音。 眼球の裏で踊る。 頤をつたう。 
上向かされ 上顎がきしめば もう 後は。

舐めとり 唇を滑らす。 
さぞや美味いものだろうねぇ と うっとりした空想。

舌を巻きつけ味わうが如く。 含み 啜り 甘噛みし 喰らいつく。
そんなに音を立てて まァ 浅ましい。 まるで作法がなってない。

暇を持て余す指先も借り出され 貪るさまは 
                        働き者のミシンのよう。

大きく小さく 数回の身震いと共に ソレは口蓋に滴る。 
生暖かく ゆるゆると 否応なしに 嚥下が困難。

渇ききった咽頭に 膠のように張り付くそれには、どうにも 我慢がならないが。


       ・・・    水 くれない?   ・・ 
                                                後にしな。    ・・・



ひっくり返され、関節が鳴る。 崩れ落ちる 出来損ないトルソー。
折って 畳んで 大忙し。

蝸牛の大群が 身体中を占拠する。 産毛がそそけ立つ。 

小さな痛みは つま先を引きつらせる。

瞬きしても、滲む視界。 持ち上がり 曝け出されて 
冷やりとした感触が 其処からの予告。

よしてくれ侵入しないでくれ 勝手をするな 勝手に掻き混ぜるな 
そうじゃない、そうじゃない、そうじゃない。

暑い 暑くて堪らないのに 膠が張り付いたままだ。

                        暑くて暑くて堪らない。 



      なのに ぞっとする。 


耳元の哀願。   うわごとの懇願。
意味などあるものか。 あって堪るか。


四肢が跳ねる 愚かな蛙。  跳ねちゃ 駄目だろ。 
流されぬため 流されるため きつく其処に絡ませる。 

声帯を震わすのは もはや言葉などではなく。  
ただ ただ 待ち侘びる瞬間。

せりあがる、膨張するかの如く、充たされる、充たしてくれ。
でないと 空虚に絶えられない

こめかみに金属音。 眼球の裏で踊る。 頤をつたう。 

すがるのか?  何に?   何を?  




               嘘を付け。




     『 どうしようもない時にね。 
               どうにもならないなら 苦痛は少しで良いでしょ?
                                  少しずつ 少しずつ うっすらと 
                                                ぼんやりしてくるようにね。 』





      なぁ 検討してみてくれよ。 これって 不可逆的状況下ではないか?





 July2,2002




* モルヒネカクテル ・・ モルヒネとシロップ・香料などを混ぜたもの。

                                 
末期がん患者などに投する。