ランデヴー
お前がそんなに、困惑するなら、俺は眠った振りをしよう。
灯りのない部屋。冷蔵庫の青い光が漏れる。照らされるお前は、ますます亡霊のようだ。
まだ飲むか? 飲んで、酔って、誤魔化すつもりか?
まァ、それも良いだろう。 最も、誤魔化せるのかは疑問だが。
何しろ、俺が、覚えてる。忘れるものか。残念だったな。
お前はいつでもギリギリだ。 鼻で笑う強がりは、精一杯の虚勢だろう。
自分を憎んで自分に苛立ち、そのくせ自分が大の御気に入りときてる。
始末の悪いナルシストぶりに、いい加減、辟易するだろう?
お前にとっちゃあ、きちがい女とラリってヤルのも、地下鉄の便所で
薄ら禿にヤラせるのも、ささやかな自己満足なんだろうよ。
もっと酷い奴が お前は大好きだからな。
お前は、そんな事恥じてはいない。 そんな事は、問題じゃない。
言えよほら、 飢えているか? 欲しいのか?
歯痒いだろう、そこに在るものが手に入らないのは。
そうしてまた誤魔化すか。 欺瞞だそれは。 代わりは代わり。
解ってるだろう?
お前は俺に、悪態を吐き、汚い言葉で俺を煽る。
時に、焦れて、拳を振り上げる
ああ、解ってるとも、お前が望む事なんて。
俺は、お前を張り飛ばす。 お前の腹に、膝を埋める。
お前の頭蓋を、床に叩きつける。
お前は苦しい息を吐き、俺の奥歯を軋ませ、俺の背骨に踵をめり込ませる。
なぁ、知っているか?
その時、お前がどれほどに幸せそうであるかを。
その眼が、語るものが、どれほどに甘いかを。
其処にだけは、嘘がない。 ましてや其処に、隠し事など出来やしない。
奴と寝たよ と、お前は口元を歪ませる。
お前がヤッたかヤラれたかは知った事じゃないが、奴は俺の親友だ。
親友を侮辱された男として、俺は正しくお前を殴ろう。
だが、誤解するな。
俺は、お前のした事に腹を立ててはいない。
寧ろ、その策を今まで使わなかったお前のなけなしの
モラルに驚嘆している。
可哀想に、お前はそこまで切迫していたか。
ああ、見ているよ。
こうして殴りあい縺れ合い、俺はお前だけを見ている。
そして、息遣いとため息を漂わせ、俺たちは床に転がり目を伏せる。
廃棄場のような六畳に、お前と俺は、僅かに離れて転がっている
ほんの、ちょっとだ。 しかし、遠いな。
お前はやがて、緩慢に身体を起こし、俺を呼んだ。
別に他意はない、ただ、疲れていた。
だから俺は、目を閉じ口を開かなかった。
お前は、もう一度俺を呼び、反応のない俺にほんのちょっと身を寄せた。
ほんのちょっとだが、唇が触れるには充分だろう。
一瞬だ。
その一瞬のため、お前は、静かに嗚咽する。
なぁ、もう一度触れてみろよ。 温いビールを床に溢したりする前に。
なぁ、もう一度、俺に触れてみろよ。
酔いの混沌に、また、誤魔化しを求める前に。
そして言ってみろ。 お前が心底欲しいものを、言え。
お前がホントを晒すまで、俺は眠った振りをしていよう。
June
30, 2002
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