** 続*星ヶ丘ビッグウェーブ  ますらお奮闘編  **


                 #5.  腐敗する僕らのプライドとかカレーとか



       ねぎと卵とウドン玉二つ。 


あとはハラダセレクトのすぐ喰える物をぶら下げて、仲良くガラガラを引く俺らは無事、懐かしきハイツ星ヶ丘に到着した。 丸四日ぶりのマイルーム。 


「閉めッきりだったから、部屋ン中エライ暑いんじゃないの〜?」 

と,
暢気に開け放つドア。 

ブハァ〜ッと俺らを襲う異臭、腐臭、コウション! コウション! コウション! 
黄色ランプが赤に点滅、前屈みのハラダが大きく数回咽る。


 「な、なな・・・、」

ナンだよ? 俺ンちどうなちゃったの? 


 「・・・・ ま、窓ッ・・・」

手で口を覆ったハラダが果敢にも侵入開始。 
バタバタ窓を開け発生元を捜すハラダに続き。 遅れてそれに習う俺。 そして間も無く、キャァ言う台所。 


 「ヒィ・・ッ・・・・・こ、こ、コレは?!」

 「俺に聞くのかよッ?!」

いえ、すぐわかりました。 カレーです。 ソレはカレーです。 

出発前の晩、ハラダが作ってくれたカレーです。 美味かったです。 
美味かったから明日の朝残り喰って出掛ける言って、そんで寝坊して喰わずにそのまんま国外脱出しちゃった俺です。 


 「すっげぇ馬鹿! マジ馬鹿だ、クソ、大馬鹿だ!」

キレてます、ハラダが珍しくキレ捲くってます。 咳き込みながらキレてます。 

ソレは至極尤もだと思うので、パンチの効いたスメルに噎せ涙目になりつつも、俺は黙々と赤や黄色の謎だらけ鍋をジャージャーに水に浸けるのです。 洗剤ターボです。 泡塗れの俺は、最早コレまでだと思いました。 どん底だと思いました。 幾ら綺麗に洗っても、この鍋でうどん煮るのは勇気だなとも思いました。 ていうか、うどんなんかもう作っちゃくれねぇッてか、アバヨとハラダ帰るんじゃないかなとも思いました。

だけど、ハラダは帰らず、ドン底にはまだ 『底』 があった。


 「カーッ、カビ生えそうな湿気ッ!」

今寝起きですな敷きっ放し布団に喝を入れたハラダが、風でも通そうと思ったか普段閉めッきりの詰め込み放題クロゼットをガタンと豪快に開く。

      そッ、ソコは駄目ェェ〜〜〜〜ッ!!


 「・・・な・・・に?・・・」

グシャンとハラダの足元に落ちた紙袋。 
袋の口からジャジャ〜ンと飛び出る、男たちの乱舞。 


 「・・・カノ・・・・・」

俺に尻尾があるなら、股の間に挟みキュゥンと後退りするだろう。


 「・・・・・・・・・」

この場に於ける沈黙は、恐怖でしかなかった。 


ナンで今あんなのを、ナンで早く返さなかったんだろうか、
ナンで、俺は、ナンで選りによってこのタイミングでアレを、ナンで?

何故だか訊きたいのは俺だけじゃなく、不吉なトーンダウン、見解を述べるハラダ。


 「・・・・・カノ、こう云うのしたいの?」

 「や、いや違う、全く違う、俺は、」

 「悪りィけど、俺、こういう趣味ねぇんだわ。 期待に添えなくてスマナイけど、」

 「わ、わかってる、俺も別に」

 「別ッてナニがわかってんだよッ?!」

ハラダが紙袋を蹴飛ばす。 

ザザーッと盛大にバラ撒かれたブツに、魔界の地獄絵図と化すフローリング。 
そのインパクトに、言い訳すら引っ込んでしまう弱腰な俺。 


 「最悪・・・」

吐き捨てるようにハラダは言った。


 「・・・最悪 ・・・やっぱアレだね、所詮カノはイロモノとして俺見てるンだよね、どんな凄い事するんだろうって興味深々で、カノその辺のハードル低めだから、仮に俺がそういう趣味でもまァイイやで乗ってくれンだろうけど、でも、そういうのって所詮興味本位だしさ。   まず、続かねぇんだよ、」

 「き、決め付けんなよ、」

俺はそんなつもりじゃない、


 「ホントの事だよ、続かねぇって。 興味で入った関係は、ヤッたあと何も残らねぇし、あーイイ経験した! で終るんだよ。 ・・・・尤も俺だって、おまえ乗せたら思い出作りに一度くらい・・ とか思わなくもなかったけど、でも今は冗談じゃない。 そこまで自虐に浸る気はない。 そもそも、おまえはコッチ側じゃねぇしな、」

 「ッてナンダよ?おまえこそ壁つくンなよッ! そうやっていつも、俺を蚊帳の外に置くなッ!」


畜生、アッチ側だの言われる俺はソコにどうやって踏み込むのか、どうしたら踏み込ませて貰えるのかまたわからなくなる。 ハイオシマイと、チョークでピッと線を引かれたような気持ちになる。 

ヒュイと片眉を上げたハラダが、意地の悪い猫撫で声で言った。


 「・・・・じゃ聞くけど、カノ、携帯の待ち受け誰?」

 「さ、サトエリだよ悪いのかよ、」

ハニィ実写版は良かった。 微妙にコブスなのがまた良かった。


 「ふぅん・・・じゃ今まで付き合った彼女のステキな共通項って何?」

 「ァア?」

ハラダの意図が読めない。 
けど、誠意を持って答える俺は過去を丹念に穿り返し、


 「・・・・ッて・・・お洒落ッてほどでもねぇし、美人じゃねえよな、かと言って可愛いわけでも・・・・普通?  や、コブスどまり? 料理作って貰ったこともねぇし、優しいッてかあぁ二股で振られたのは違うッぽいから・・・スタイル・・・おォ! そう、そうッ、胸ッ! 胸デカかったッ!!」

見つけた共通項をガッツポーズで答える俺。 
だが速やかに、それがハラダの誘導地雷だと気付く。 気付くがもう遅い。


 「だよな・・・・わかるだろ? おまえ筋金の巨乳フェチだもん、グラビア系好きだし、イェロウキャブのメンツ7〜8人ソラで言えるし、ヤキソバはぺヤングでなくてUFO派だし、今までの女みんなソレ系だし、くそぅッ、ビーチじゃすっかりケメ子に魂抜かれてソワソワしやがって、アーどうせ俺じゃ見応えもねぇしなッ!」

 「な、ナンダそりゃ?」

ソレとコレじゃ違うというホントを、どうハラダに説明して良いのやら


 「決まりだよ、そう言う事だよ、性の不一致だろ? 合わねぇんだよ、無理、無理だ、どのみち奇天烈な凄い事期待されて、ヤッて、なァんか期待ハズレ言われて」

 「い、言わねぇよ、」

 「言わねぇ保証アンのかよッ? 挙句、でもやっぱ俺オッパイ星人だしバイバ〜イとか言われてダァ〜〜クソッ! でも俺は、絶対、おまえ許さないからなッ! 緩さねぇし手離してもやんねぇよ、おまえ逃げようとしたって、キチガイみたいな事仕出かす気も満々、」

 「じゃッ、 じゃァ、ヒトツも問題ないだろ?」

 「ふざ・・・」

 「フザケンなって?」

 吊り上がったた三角目で、ハラダはダッテと言うけれど、でもなァハラダ、聞けよハラダ、

   問題なんてナシ。 ナッシング。 ないよ。
   なんにもナシ。 ノープロブレム。

 「・・・・だって、」

 「だってガッカリなんかしないから、サヨナラなんかしないから、ましてやおまえから逃げるなんて事有り得ないしむしろ、逃げられたくないと思ってるから、だから、」

 「だって・・・・」

アァなのに一気に捲くし立てたあとで、脳震盪起こしそうなハラダ。 
真っ赤から真青に移行中のハラダを、迷う目をしたハラダをアァもうもうもう大好きだッ畜生ッ!!

         問題無し・・・ 

俺はギュウッと抱き締める。


 「なァ、ハラ・・、俺も同じなんだよ。 俺は女しか知らねぇし、男同士でどうするかもわかんねぇし、勝手がわかんねぇから、俺なりに悩んだんだよ。 といっても、まさかあんなマニアな方向でヤれる自信がなくて、でも、でもなァ、おまえにガッカリされたら俺は立ち直れねぇ気がするしなァ・・・・・・」

 「・・・・ガッカリすんのはおまえだろ? 俺に鷲掴みの乳なんかねぇよ、」

ブランと垂らしたままの腕。 

まだゴネる気のハラダは、まだ俺をギュウしてはくれない。 だけど俺は回した腕に力を入れる。 臍を曲げたハラダを宥める俺は、なんだかワァ〜ッとした気持ちで一杯になる。 この気持ち、この気持ちは、


 「無くても、かまわねぇし。」

 「嘘吐け・・・・」

  しょうがねぇなァ、そんじゃァ言うぞ?


 「俺、おまえが飯喰ってるだけで勃つから、」

耳朶に落とした駄目押しのカミングアウト。

ビクリと震えた身体はみるみる熱を持ち、キュゥッと巻きついた腕はシッカと、俺の頭蓋骨をホールドして、


 「・・・・すっげぇ馬鹿だ・・・・」

馬鹿で上等。

唇が重なるまでの一瞬、いつだって俺はハラダに見蕩れるのだ。

見蕩れて煽られて、どうしようもなく好きで堪らなくて、言葉を捜すより息をするより、ただただ甘い舌を絡め、吐息を貪り、ハラダを味わう事しか頭ン中には無くなってしまって・・・・。 ストンとハラダが力を抜き、後退ッた俺はしたたか壁に頭をぶつけ、そのままカタマリになってズリズリと床に崩れる。 

腹の上に跨ったハラダがよろけ、片手をにつく。 

それでもキスは止まらない。 

半ば圧し掛かるようなハラダを見上げるようにキスする俺は、なんだか襲われてるッぽい気分になり、微妙に倒錯的な興奮に頭の芯がくらくらとした。 首筋に、切ない溜息。 飛ぶと云うのはこう云うンだと思う。 押し付けられ、皺の寄った派手なシャツ。 

その内側、潜るようにして薄べったい腹を舐めた。 


 「・・・ふ・・ッ、  ん・・・・・」


ピクンと強張らせた肌、生理的な泡肌が立つそこ、臍のキワ、アバラの内、順に舌先で探る俺も耳鳴りするくらいギリギリだ。 息を詰めたハラダが、シャツごと俺の頭を抱える。 俺は照る照る坊主のようになって、締め付けられる腕に促されて隅々までを味わう。 そして息苦しい空間に見つけたベージュの突起。 舌先で触れ、緩く歯を立てる。


 「あッ・・・・・・」

大きく撓ったハラダ。 

プツッと馳せるようにボタンが飛び、肉の薄い肩を滑り落ちる段だらのシャツ。


 「・・・ハラダ、」

返事の代わりに洩れた溜息。
眉根を寄せ、切なく声を殺すハラダ。 もっと鳴かせてやりたいハラダ。

ならば俺はそのベージュを攻める。 啄ばむように、転がすように、


 「・・・アッ ああッ、」

もっと鳴かせてやりたくて、声を上げさせたくて、


 「ッ・・・・ん・・・かッ・・・カノッ・・・・・」

身を捩り、俺を突っ撥ねようとする腕。 

だけど、本気じゃない抵抗に俺ン中の幾つかが切れた。 ぷつんと切れるたびに、止まらなくなる欲望。 どうしようもなく、もうどうしようもなく、だから、まだ解放する気なんかない。 まだだよ。


 「――  ふ・・・ンッ ・カノッ、」

ビクンと撥ねたハラダ。 

と、汗で尻の裏が滑り、ズデンと床に落下した頭。
ガツンと脳天が痺れた。 瞼の裏、比喩で無く火花が2〜3コ飛んだ。 


 「・・つぅ・・・・」

チカチカする視界、見下ろすハラダが 「今度は俺な、 」と言う。


 「・・な、」

何を? と、問うより早く指はツツツとファスナーを下ろし、一瞬チラリと見た目の、なんて意地の悪い事。 
俺がその意味を知るのは、パクンと潔く息子を喰われてからだった。


 「・・・ぅ・・・ッ・・・、お、オイ・・・」

 「まだ出すなよ、つまんねぇから、」

半端に咥えたままの会話は、嫌な感じでキた。
ていうかすげぇよ。 ハラダ、すげぇ! 

こないだまで付き合ってたバイト先の女も、相当フェラは巧かったが、イヤ、これはその比じゃぁない。 これが男同士の技なのか、一々ツボを突く刺激。 容赦無い攻撃と、おまえは鬼だと言いたい寸止め。 

巧過ぎ。 巧過ぎるッ、


 「・・・オッ、おまえ、  お、おまえ元彼何人、居るンだよッ?!」

上目遣いで顔を上げたハラダ。 
ツルンとその唇から滑る俺の、ゆらゆらする先端を 見ろよ と言わんばかりに舐め、


 「カノ、元カノ何人いる?」

 「さ・・・・3人・・・・」

上ずる声がカッコ悪ッ!

一人上乗せした答えをフフンと鼻で笑い、


 「・・じゃ、俺二人追加・・・・」

ご、五人かッ?! 五人? チキショーッ!  


何か言ってやろうとしたが、そんな余裕をハラダはくれない。 

ロングストロークで吸われ、刷り上げられ、括れを唇で絞められたら俺はもうどうにもピンチだ。 
そういや彼女と付き合ってた頃、俺はよくハラダにその素晴らしきフェラを語っていた事があった。

・・・・・・まさか覚えていたのか、ハラダ?


 「・・・・こう云うの好きだろ?」

アー、覚えてやがった。

そして忙しく、ハラダの唇が俺を抜く。 


 「・・くッ・・・ま、待てッ 」

と 自分に、ハラダに。 

でも制止虚しく、俺はハラダの口ン中でイッた。 
コクンと嚥下するハラダの喉元、濡れた唇は生々しくリアルで、


 「・・・おまえの味するけど、キスする?」

掠れた声で囁かれ、それに乗らない訳がない。

青臭いキス。

これが俺のかなと思いつつ、その隠微さにカァッと血が上り貪るように絡め合う舌。 さっきまで俺のを色々してた舌を、唇を、心底愛しいと思い味わう。 圧し掛かる後ろ頭にソッと手を添えて、ぶつけないようにゴロリと体勢を入れ替えた。 至近距離で見下ろすハラダの顔。 潤んで紗が掛かった瞳。 くちゅッと唇が離れ、また、より深く重なるくちづけ。 余裕のない吐息。 同時に洩れた溜息が、リアルに俺達の状態を知らせる。 

互いの輪郭を確認するようになぞった。 


 「・・・・したいか?」

皮膚を通して聴く、くぐもった声。


「したい・・・・・・」

その時視界の端、乱雑な床の上に見つけた役に立つシロモノ。


 「なァ、コレ・・・・」

ヨイサと腕を伸ばし、掴んだソレを得意げに見せる俺。


 「・・・コレかよ・・・・」


やや不評なハラダを窺いつつ

 「必需品だろ?」

と先輩の言葉を伝える。

しぶい表情のまま、ハラダは


 「・・・・でもねぇけど・・・」

思い切り不本意な様子だった。 
間も無く俺も、全くだと思う。 


    蓋を開ければラズベリィ。


 「・・・・何でコンナン買ったんだよ・・・・」

 「や・・・・・俺じゃねぇよ、くれたんだよ・・・・」

 「誰が?」

 「すげぇオカマ」


・・・ サイテイ ・・・ と言うハラダが、俺の半脱ぎジーンズをニジニジッと脱がして放る。 
そして器用に、片手で自分のも脱ぎ、ポンと蹴飛ばすとしがみ付いて言うのだ。


 「・・・・・したら、ちゃんとイカせろよ?・・・」




         そうして俺らは目くるめくソレに突入する。 


ギリギリにテンパリ、少々梃子摺りながら、ハラダのリードで進められ、チャンと二回ずつイッた俺たち。
二度目の脱力のあと、互いの鼓動がゆっくり静かに落ち着くのを、重なり合ったままの俺たちは名残惜しく聞いた。

 真昼間の情事。 白昼堂々の事後。


惜しむらくは、やたらファンシーな香りに包まれた事後。 
そこに腐敗臭とヤリマシタなあの匂いでもう、なにがなんだか・・・・


 「・・・・最低だよ・・・・・」

ガラガラ声のハラダ。 ハラダをこんなにしたのは俺だ。


「ま・・ある意味忘れられないハジメテ物語だな・・・」 

ボーっと天使でも見そうな俺は、ハラダに骨抜きにされた。


「・・・最低・・・」

絡めた足を擦り付け、肩と首の窪みに頭を落ち着けるハラダ。
隙間ないくらいに引き寄せる俺。


腐臭とイカとラズベリィ。 だからどうした?
ベタベタな俺たちは蒸し暑い六畳で幸せな惰眠を愉しむ。




      どうか今、火事とかありませんように、
      地震とかありませんように
      うっかり間抜けな空き巣が入りませんように



      俺たちのハッピィな余韻を、もう少し、もう少し、もう少し・・・・


      うどん喰いたくなるまで、









  12/28/2004









     
 **  続*星ヶ丘ビッグウェーブ ますらお奮闘編  ** 5.       完結



  

  * 星ヶ丘のその後 最後までやって頂きたく ・・・・ というお題で書く。
    

     
  


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