村上ヨハネと俺、高橋パウロはマルミ町の現場で運命的な出逢いをし、素早く男の友情を深め、一夜にしてカラダの相性をも確かめる仲となった。 日頃アスファルトをホジクルのが生業のヨハネは、意外にもケツは掘られるのが得意で、現場見習の俺はココでも見習らしく、ヨハネの熱血指導の下ソレやコレやアレの腕を磨く。
「てか、欲ゥ言やァ太さイマイチだけどナゲェしな。 ま、ソレはソンで使い勝手もインだけどよ、」
そう言ってにんまり目を閉じるヨハネの背中を、硝子越しのポカポカした光は金色に照らす。 そんなのを俺は世界一綺麗だと眺め、幸福な自分にホウと溜息を吐いた。 幸せだった。 知り合ってからノンストップで、加速をつけハッピィを邁進し続けていたヨハネと俺。
そりゃもう恐ろしい勢いで。
多分、全て、きっとそのように全て、流れは決まっていたのだと思う。
火は熱く水は冷たく風が吹いたら桶屋が儲かるとか、そう云う当たり前のように。
そんなある日、ヨハネが事後の一服を美味そうに吹かしつつ 「あのよ」 と言った。
「あのよ、パウロ、テメェなんかチンコでかくなってねぇ?」
言われて覗き込むソレは重労働後の虚脱に頭を垂れ、ヌラッと奇形のミミズの有り様で寝そべる。 試しに握っては見たが、日頃の御愛顧そのまんま、右手にピッタリお馴染みの感触。 色んなモンでベタついてる他は別段、コレといった変化は無い。
「や、デカクなったぜ。 ココとか、こんカサの部分とかよ、カラダ張って試してる俺が言ってンだから、ぜってぇ間違えねぇだろ?」
じゃ、そうかも知れないが、でもま、デカイ分には問題ねぇしなとその話は落着。 また数日が過ぎ、心なしかニ割増でハイテンションなメイクラブを展開する俺達には怖いものなんてない。 けれど、ついにその日俺は衝撃の事実に直面する。 ソレは爽やか朝、いつもの早起きファックの佳境。 GO! と、ピストン開始直前の俺に、ヨハネの鋭い待ったが掛かる。
「終了ッ!! 撤収ッ! 撤収ッ!!」
涙目のやや御立腹フェイス、俺の身体を押し上げ押し退けんとする力は、かなりマジモードだった。
「も、限界……おまえデカイにも程がある。 俺ァどっちかッていうとSだし、尻にコルク詰めて緩ゥい生活する覚悟も出来てねぇし、とにかくヤベぇよ、ハラワタ破れちまうよ」
ヨハネが凝視する膨張率8割のチンコ。 なるほど、我ながら魔人のようだとホレボレする凶悪さ。 デカイ。 デカイけどでも、昨日の晩はヤれたのに今朝ヤれないってのはどうよと思ったが。 けれど、さっさと着替えを始めたヨハネに、もはや続きの意志はナイらしく、渋々グイッと引っ張り上げたトランクス、なんですか〜? という感じに股ぐりから顔を出すマイチンコ。
こ、コリャスゲェッ!!
「だろォ? な、ソンナンで掻き混ぜられたら堪ったモンじゃねぇッてわかったろ、デカチンのバカヤロめ!」
はい、バカヤロでした。 俺は見くびってました。
チンコがデカイのは素敵だけど、デカ過ぎるチンコはたいそう情けないのでした。
けれどその時、予兆は囁き声のように耳元を掠め、大きな流れは緩やかに確実に、終着点を目指していた。 羽音のような耳朶を震わす予言を、俺たちはまるで気にしてはいなかった。 ただ、日々鼻先につきつけられる後戻りの出来ない現実を前に、阿呆そのものの反射で慄くばかりなのだ。
斯くも、後戻り出来ない現実。 俺のチンコは日々、アレよとアレよと縦に横に凶悪に成長を続けた。 股にドデカイ尻尾をぶら下げてるような俺に、当たり前の日常は遠ざかる。 動くに重いし、なにしろズボンが穿けない。 小便をする様は消防士の放水さながらで、 「チンコがデカ過ぎて働けません」 てな偽り無い理由で無職になった俺は、今やヨハネのヒモ状態だった。
「ま、気にすんな。 その内ヒュッと縮むかも知ンねぇしよ。 てか、実はどこまでデッカクなるか楽しみでもある。」
ソソリ立つ竿部分を、ヨハネがサワサワと撫でた。 Tシャツにフリチンのオレは座椅子に凭れ、ヨハネの指と舌が複雑に動くのを眺める。 想い出すのはガキの頃、裏山でオヤジと早起きして見上げた光射す木立の天井。 クヌギの幹に細い手足を絡め、静かに厳かに蜜を吸うカブトムシ。
俺のチンコはココ数日おッ立ったままだ。 先端は蛍光灯の紐を僅か掠める程ともなり、動く事も侭為らぬ俺はずっと座りっきり、重ねた布団に寄りかかり長い一日を過ごす。 腹は、減らない。 ただ咽喉が乾く。 けど小便は出ない。気付けばクソも長い事していない。 けども射精はする。 一日数度、ヨハネがサワサワと触れ、チロチロと舐め、見事大発射する大量のソレはサラサラと透明。巧い事ゴム代わりに巻いたビニール袋の中、たぷんと堪ったソレはスッとする薄荷に似た匂いがした。
「……甘い…?!」
指先を湿らせたヨハネがそう感想を述べる。 不思議だねぇと二人で笑った。 不思議で俺達は幸せだねぇと笑い、寄り添って眠った。
そんな風に、満更でもなく、寧ろ満ち足りた日々だったと言って良い。 毎日に、何も不満はなかった。 巨大化するチンコと共に生きて行く気持ちは、大事な何かを育てるのに似ていた。 そしてヨハネも、ゆっくり確実に変化する。 過酷なドカチンしてる癖に何故だか透き通るように白く、吃驚するほど軽く、ふとした表情が怖いほど綺麗になっていった。
「不思議だよねぇ。 腹、減らねぇのよ、全然。 でもギュゥッと内側から力が湧いてきて、なぁ、俺さ、今日70キロの鉄骨4往復したぜ。 楽勝で。」
そりゃ、スバラシイ。
長座するオレは、チンコに寄りかかるヨハネの旋毛を指先でクシャクシャにする。 ヨハネが満ち足りた猫の顔で目を瞑った。
そして、唐突に俺達は引越しをする。 現場でヨハネがくすねた台車に乗せられて、晩秋の深夜、町外れの小高い丘へ、町金逃れの夜逃げのように俺達は移動する。 薄く軽い身体のヨハネは飛ぶように踊るように、重い特大の台車を曳き、俺と俺の上に重ねた家財道具一式を、星降る丘の天辺まで楽々と運んだ。 そこには、いつの間に建たか、小さな六畳ほどのプレハブが一戸。 「イイ場所だろう?」 と得意気なヨハネが鼻を擦る。
「夢、見たんだ。 光を浴びろって、ソイツは俺に言った。」
プレハブの天井、屋根はパカンと観音開きの細工がしてあり、ナルホドそれならば俺は居ながらにして日を浴びる事が可能なのだろう。 気遣いに嬉しくなり、アリガトウ、アリガトウ、俺は何度もヨハネに礼を言った。 「イイって事よ」 涙ぐむ俺を優しくスルーして、ヨハネは手際良く荷物を室内にセッティングする。 七割は収納出来、残り三割のガラクタはそこらに捨てた。
そうして俺達の新しい生活が始まった。
ヨハネは日の出と同時に天井を押し上げ、丘の中腹にある古い作業場跡に水を汲みに行く。 2リットルのボトル二十本を軽々運び、ヨハネはオハヨウと俺に言う。朝日を浴びた俺は、ニュキニュキとまたチンコが伸びて行くのを感じ、寝起きの身体に4リットルの水を補充した。 ヨハネは仕事を辞めたらしい。 ずっと、俺の傍らで過ごす。 何を話すでもなく、うつらうつらしながら、俺達は日を浴び、丘の上で一日を過ごす。 飯も喰わず、それでも至って健康に、ヨハネはサワサワ俺を愛撫し、俺は相変わらずの大発射をこなした。
やがてチンコは天井を突き抜け、観音開きは開いたままになる。 青空の消失点となったチンコからの発射は、しばしば美しいニ連の虹をかけ、いつしか町は 「虹の町」 と呼ばれるようになった。 その頃だ。 その虹の麓、俺とヨハネを訪ね、女達が来るようになったのは。
最初の女が来たのは、雨上がりの晴れ間。女は、おずおずとプレハブを覗き込み 「御柱様に触れて、宜しいでしょうか?」 とヨハネに声を掛けた。
「大きく、素早く、丁寧に擦りなさい」
ヨハネが神妙に答える。 俺が黙っていると女は小さく目礼をして、漆塗りの柱にも見える我チンコを、大きく素早く真剣な表情で擦った。 間も無く大発射する俺。 大空に掛かる虹を見て、女は 「あぁ」 と声を漏らす。 そして深々頭を下げ、女は来た時同様おずおず出て行った。 その女が再び現れたのは、数週間が過ぎた夕刻。 女は上等の酒を手に、俺達の前に跪く。 顔を上げない女に、ヨハネは言った。
「大切に、育てなさい」
女はそれを聞き、更に頭を低くして、涙混じりの呟きを繰り返し、酒を俺達の前に置くと後退りで出て行った。 それからは、もう引っ切り無しだった。 切羽詰った顔の女が次々に俺を擦りに来て、帰って、暫くすると酒を持って頭を下げに来る。 一体なんだと言うのだ? と、ヨハネに問えば 「そう云う仕組みって事だァ」 と暢気な答え。
さっぱりわからぬまま月日は過ぎ、俺は、俺の裏側に根が生えた事を知る。 蜘蛛の糸より細い半透明の根は、無数に背中ッ側から床にへばり付き、どうやら畳の目と床板を通過して、プレハブ下の柔らかな地面にまで到達している様子。
「……じゃ、もう、水汲みは要らねぇよな?」
萎えて、まさに古びた木の根に似た俺の足を、ヨハネがそっと撫でた。
「寂しいなぁ、寂しいけど俺ァ幸せだ。 寂しいけど、こういう流れだモンなぁ、逆らえねぇよなぁ、でもま、6:4で幸せだと言えなくも無い。」
ヒヤリとチンコに触れるヨハネの唇。 ヨハネの身体が、恐ろしく冷たいのに俺は驚き、病気なのか? と訪ねたが、ヨハネは目を閉じた侭
「そう云うふうになっただけ」
と、言った。
俺のワカラン事が、ワカラン内に 「そうなって」 来ている。 少し不安になりヨハネを抱き締めようとしたが、みっしりした根で腕が床に張り付き、それは叶わなかった。 やがて聞える優しい寝息を待ち、久々に俺は一睡も出来なかった。
その日からヨハネは、物思いにふけるようになる。 けれど何も出来ない俺はただ、その冷たい身体に寄り添い、時折大発射で大空に虹を掛けるばかりだった。 そうして数日後の日の出、妙に晴れ晴れした表情のヨハネは、俺に 「じゃぁな、」 と言った。
「じゃぁな。 そろそろじゃないかと思ってたンだが、俺ァ、天辺で見張ろうかと思う。」
……て、天辺てドコだよ? そろそろ一体、一体ナニを見張るんだよ?
うろたえる俺を抱き締め、真顔のヨハネは 「ずっとなんだよ」 と囁く。
「ずっとなんだよ。 ずっとおまえの傍に居るし、まぁアレだ、会えないけど触れている、そんなだからオイオイ、ベソ掻くな、でけぇチンコして! あはは、ホントにデカクなった! おまえ、チンコでっかくなったよなぁ!」
久々に聞く、ヨハネの笑い声。 つられて笑う俺はヨハネが靴下を脱ぎ、裸足になったのをナンデかなぁと眺めた。 裸足のヨハネが俺の腹の上にポンと乗り、ひゃぁ軽い! と驚く俺。 その隙にヨハネはスルスルと器用に、猿のようにチンコを昇り出す。
待てよ、オイ、何してんだよ、ヨハネ? おおい!
するするするするヨハネは昇って行き、チンコを這い昇る虫の手足のような感触は、何か、物凄くイイ感じで、遠ざかるヨハネを呼び戻しつつ、不安に襲われつつ、ベソを掻く俺は四度も天空に大発射した。 やがて、それが先端かどうかもわからない辺りで、ぷつり、俺のチンコは何も感じなくなる。 ポッカリ開く天井の向う、青い空の向う、すっくと伸びたチンコの先、多分、昇ってるか休んでるかするヨハネはソコに居るんだろうが、俺にソレを知る術はない。
俺は、来る日も来る日もシオシオと泣いた。 訪れる女達は変わらなかったが、何人かは俺の顔を綺麗な良い匂いのハンカチで拭い、何人かは俺の唇に上等の酒を含ませてくれた。 来る日も、来る日も、チンコのどっかに居るらしいヨハネを思い、予測のつかぬ 「そう云うふう」 を恨み、無駄にデカチンでデクノボウの俺はつる草に覆われた六畳のプレハブで、シオシオシオシオと涙するのだった。
しかし、その日、何かが俺の内側の方でカチリと嵌った。
最初、また女が何か貢物を持ってきたのかと思った。 が、それはプレゼントではなく、小さな白い塊。 ふわふわで、白くて、ピンクで、か弱い小さな小さな手がモゾモゾと、歪に怒張した俺の、焦げ茶のチンコのゴワゴワしてそうな竿を、モタモタモゾモゾと触れる。 もぞもぞ動く可愛らしいそれは、芋虫みたいな赤ん坊の、小さな柏餅みたいなオクルミだった。
「御柱様、授かりましたこの子を御覧下さい。 大切に大切に育てました。」
歯の無いチッチャイ口元がフニャリと笑いのカタチになり、大福みたいにフカフカのホッぺを醜い俺のチンコにぺったり引っ付け、赤ん坊はまた、フニャラと笑った。
-- おまえ、幸せか?
あぁ、大切に大切にしなきゃナンねぇよなぁ。 こんなに弱ッちくて可愛くて、ふわふわナンだモンなぁ。 小さな小さな掌に擦られて俺は、こそばゆくて腹を波打たせ声を上げて笑った。 笑いながら、快感とは違う、何かこう、不思議なざわめきを身体の芯に感じて、全てが透明に冷えるような不思議な大発射をした。 きらきらプリズムが偏光する不思議な美しいニ連の虹。 己の掛けた虹を眺め、これで全て良しと、俺の中でカチリと決着がつく。
後はしんと静まり、満ち足りた長い長い時間の始まり。
女が俺を擦る。 その子供らが俺を擦る。
「御柱様、御柱様、虹見せて下さいよう!」
俺を呼ぶ声が暖かく俺を包む。
「御柱様、ノブオは5歳になりました! その下のジュリは今度三歳になります。 御柱様、この子らをずっと見守ってて遣って下さいませ。 そう天使様にもお伝え下さいませ。」
そして、我も我もと小さな手が老いた手が、優しい手が、ゴツゴツした手が、俺のカギガチしたチンコを猛烈に擦る。
「来るゾォッ!!」
天を仰ぐ子供らは、地鳴りのような大発射に歓声を上げ、美しい虹に見惚れるだろう。 降り注ぐプリズムは霧のように、優しい薄荷の甘い蜜。
―― チビッコ顔射大会? マニアだなぁオマエってばッ!!
どこかでヨハネの声を聞いた気がした。
光射す場所、青空の真ん中。
俺は、そのような結末に微笑む。
** アポクリファ−−或る聖者の記録−−
:: おわり :: 20031031
クリスマス仕様と言えなくもない・・・・・・言えなくも・・・・ない・・・・・
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