自分、面白い話も出来ないし、イイなって思うヒトにも声かけられなくて
      彼女いない歴=年齢? やだよ、やっぱ、恋がしたいって思ったですよ、
      自分的に。そんな時、モテモテの先輩が、コレを勧めてくれました。
      『俺、コレに出逢う前、超モテナイ君だったんだぜ』って、信じられない
      ですよ、先輩すごいイケメンだし。 で、いまですか? 読み始めて1週間目
      くらいに、総務課のマドンナに告られたんです。 てか、そっからがもう、
      吃驚するモテっぷりで、あははは!!
                     クヨクヨする前に河童!こっそり教えたいですね!

                    ** 栃木県 見てくれ!マグナムさん 25歳

     
    

            河童艶笑夜話
    
    




風の便りが辛うじて届く、山二つ、峪一つ越えたその集落には、コシヌケ淵と呼ばれる、緑濃い溜まりがあった。 澱みの中、得体の知れない魚が泳ぎ、溜息に似たあぶくが沸々と浮かんでは消えるその淵に、村の者は滅多近寄ることは無い。

そんな、曰くの物の怪淵に、近寄る者は、余程の酔狂。 或いは、忌み事それすら、現世の刃に比ぶれば優し、そんな絶望抱く者。 

朝まだきの靄の中、水牛の角の如く乳白の踵が、しっとり冷たいヨモギを踏みしだく。 僅かに伏せられた瞼は、森の木陰の緑を映し、その瞳は水面の静寂と、底の知れぬ混沌を思わせる。 痩躯に薄着で、身を縮める、その若者。 雅な風情に儚い美貌、東の村、フウの孫、カツジュとは、正に絶望抱く後者であった。



フウの娘は、村一番の器量良し。 肌は白磁、胸元に香る水蜜、切れ上がるまなじりは誘い、付き合いも良かったから、村の若者の殆どは、一度二度と、娘の跳ね上がる身体を押さえつける娯楽に興じる。 癇癪持ちのフウ老人は、始終、娘を味見した輩を、鉈を手に追い回し、時に酷い目にも遭わせたが、艶事は秘めた隙間に、より、艶を増す。 

ついに、匙を投げ、これでどうだと、村一番の御宝持ちと、件の娘を添い合わせたが、御宝も、日々慣れれば飽きが来るらしい。 摘み喰いも、摘まれ喰われも引切り無しに、大らかに、事は繰り返されていった。

西の村、堕胎屋のカク婆ァは、フウの家の隠れたる常連であったが

「供物をくすねた小僧の頬っぺたよか、よっぽど、この腹、膨らみなさる!」

と、歯の無い口でカカカと笑う。 面白くないフウ老人は、その都度、顰め面で言うのだった。 

「早く、へこましてしまえ!貧乏百姓の種、色狂いの孫なぞ、望んじゃおらん!」 

すると、婆ァはホオヅキの枝、クルリ手繰り捻り進める。 しんばり紐を、硬く握って仰向け転がる、娘の虚より、赤黒い、肉塊一つ、引き摺り出せば、蓋付きの桶にポンと放る。 

「さあ、終いだよ。これでアンタぁ、また膨らむよ!!」


婆ァは仕事の駄賃の銅貨で、どぶろくを買ってちびりちびりと、良い按配で、山を越える。 山の中腹、一服ついでのこの淵のほとり、手桶の蓋をひょいと開けて、水蘚ミドロの水面の泡に、飛沫小さく肉塊を投げた。

「ホラよう、物の怪、忌み児の肝だ! 酒の肴にゃ、勿体無いさぁ!」 

後には、泡と連なる波紋。 笑うが如くに広がり消えた。



子捨ての淵の水蘚を眺め、ぬらりとしたその奥、潜む魔物を心待ちにする若者、カツジュは、山鳥の無粋な悲鳴に身を竦ませる。

『あぁ、いけない、堪え性が無い、これしきで怯えていては、魔物に喰われるなど、出来よう筈が無い。』


嘆くカツジュ、尻軽女を母に持つ、憐れな子。 父親は居ない。 

父親は村の外れ、年老いた父親と暮らす知恵足らずの男だった。 茫洋と夢見る眼をした男、しかし、空っぽの頭蓋を覆うのは、天帝様の美童もかくや、滅多見ない美貌。 それに思わず手を出し、乗り上げたフウの娘、尻軽の母、テダレの母の手腕ゆえか、知恵足らずとても、なかなかに良い仕事振り。 ついつい溺れる愛欲の果て、気付けばうっかり、月日は過ぎて、小高い丘の、膨れた下腹。 

ところが不運、はたまた強運、巧みに操るカク婆ァの枝、ホオヅキの先に一向触れず、引きずり出される肉塊は無し。 終いに、みるみる娘は苦しみ、流石のフウも、婆ァを制す。

『あや、しぶとい児め! 兄者姉者の運気をもろたか?!』


九つ十日の月足らず、奇しくも水場で白痴の男、足を滑らし敢え無く絶命、その晩赤子は弱々しく泣き、父の死出逝き見送り生まれる。 生きるを、誰にも望まれず、死ぬ事すらも拒まれた、死に損ないの、憐れな赤子。 フウ老人の名付けを受けて、死に損ないの意、カツジュと名乗り、因果な生の始まりに泣く。


そして憐れなカツジュは育ち、親に授かる雅な容姿、も一つ授かる淫蕩の質。 望まざるとも、男女を問わず、その身は引き寄せ、淫夢を誘う。 あがらいたくとも、因果な身体、たやすく墜ちる快楽の闇。 カツジュ十六、白磁の肌の、そこかしこに咲き、いまだ散りばむ、愛欲の印、それは、育ての父の印。 母は、鍛冶屋の御宝に夢中。 お古の亭主に、未練は薄い。 

もはや、畜生、人を外れた呪わしき身は、生を絶つのが幸いなのか、哀し恨めし、淵のほとり。

『物の怪様、おわしますか? おわされるならば、どうぞ、この因果な粗命、ナマズの頭やフナの背びれ、それらに飽きた、小腹の足しに、どうぞ、お召し上がりくださいませ。』


水際、踝まで浸れば、ずぶずぶと泥濘に沈む。
――― 物の怪様、物の怪様 ――― 
細く低く囁くカツジュの声は流れ、不意に抜ける風に心許無い薄衣、花びらの如く、痩躯に張り付く。 細波立つ水面。背筋を這い上がる、怖気が華奢な二の腕に産毛を逆立たせ、言い知れぬ恐怖に、色褪せた口唇が、声をあげんと開いた。 

ヨモギ色のぬらりとした大きな手、奇妙にへばりつく五本の指が、カツジュの膝を一握りする。 にゅいと水面に伸びたソレが、カツジュを淵に引きずり込めば、驚き開いた口唇の隙間、薄紅い舌、強張るそのまま水面に消えた。 
すべて一瞬、瞬きの刻。



ぼんやりした光の中、ぴちゃりと内腿に濡れた感触を感じ、カツジュは、緩々眼を開く。其処は、椀をひっくり返したような、三間四方の空間であった。 壁、天井を覆う苔が、仄かに明りを放って光る。 そこにカツジュは横たわり、不思議な生き物にぬらぬらと粘つく液体を、手足、腹、胸、隈無く塗り付けられていた。 

全身、水草の淡緑、ぬめりをおびた皮膚、突出したクチバシにギョロリとした眼、頭に抱く鏡面の皿、逞しい偉丈夫の身体では有るが、明らかな異形。 カツジュを弄る五指には、蜻蛉の羽の如く水掻きが張り、吸い付く無数の吸盤がぴちゃりと音を立て、日頃曝さぬ皮膚を滑る。

『・・ふっ・・あ、あなた様は物の怪様・・』


掬い取られた花芯がジワリ、心ならずも熱を持ち、くびれに絡む淫靡な吸盤に、淫蕩の血は脈を打つ。 咄嗟に身を捩るカツジュに圧し掛かるのは、冷やりとした異形の重み。

『我はこの淵の主、水藻之守。 して、そなた、自ら喰えとは、愁傷な事を。 ならば応える、それが、スジ。 しかし、喰らうに惜しい身体じゃ、血肉に還すにゃ、まだチト早い。』


低く篭る声は、意外と耳障り良く、甘噛みされた耳朶のこそばゆさに、カツジュは跳ねる。 ちろろと、細い舌が耳腔を掠め、首筋を伝い、思わずあげた声。

『・・ひ・・っ・・はぁあっっん・・・』
『ホレ存分に、ココは、愉しみを知っておろう?』


反り返る胸の蕾に吸盤の愛撫、ぴくんと息吹く其処に、さながら這い回る虫の如く。  塗り付けられた粘液の冷感が、不意に粟膚立つ奇妙な戦慄を湧き上がらせ、カツジュに添わせた異形の手指が、無数の触手と変じ蠢く。

咄嗟に腰が浮き、擦り付けられた感触に喘ぐカツジュの、哀れ細腰は、ぬめる腕に竦められ、抵抗叶わず。 しかし因果な身体、喜悦する先端、揺らぎ強請るソレを、触手の指、きゅると締め付け諌める、淫らの戒め。

『すわ、せっかちじゃ、主の宝珠は、既に天突く勢いぞ!。』
『・ッ・ぁあっ・あっ・・ん・か、堪忍してぇっ・・』


やわやわと触手に煽られ、泉湧く花芯しとどに、粘液と蜜入り混じり。 ピちゃピちゃと舐めとる長く紅い、水藻之守の舌が、徐々に、波打つ腹から下方へ進む。 舌先の快楽は、熱と震えを伴い、最早その、人外の悦楽に、カツジュ、声を押さえる事難しく。 

腰骨の翳り辿る、ぞわり蠢く触手、さながら別個の意思を持つかの翻弄にて、カツジュ声嗄らし唇濡らす。 蜜壺に舌の先端を捻じ込まれ、ついに引き攣る内腿の筋、反り返る美しい足背の妙、カツジュ一度目の精を放つ。 長く伸ばされた舌が素早くソレを掬い取り、吸盤の蠢きは、脈打ち緩む身体を、また、跳ね上がらせる。

『甘露ナリ! はて、不思議じゃ、この滋味、味わい、どこか馴染みの、其れのような・・・ホレ、この味じゃ・・』


揺ら揺らする茎、にゅるりと舐り、軟骨のようなクチバシの中、まだ蜜滴る花弁が消える。ちゅうちゅう、さながら、乳飲み子の如く、吸い上げる精は不思議と尽きず。

『・・ふ・ぁアッ・は・ンッ・・い、いっそ喰らって下さいませぇエッ・・』


もはや、己がどうなる事か、強烈に猛る情欲と淫猥な疼き。 異形の絶技と、吸い尽くされる筈の其処より、何故か湧き上がる奇妙な活力に、カツジュ身を捩る。 しかし、強請るよう擦り付け、異形の首筋に、しかと絡めた、細い二本の脚。 滑る物の怪に縋る両の手、宙を掻き、言葉と裏腹、浅ましく、いっそうの快楽を追う。

『この、好きモノめ! 我ら一族の秘技、もっと味わいたいと申すか?!』


耳まで切れ込む異形のクチバシ、其処より覗く長い舌。 二つに割れた先端の動き、チロリ、子蛇の戯れる如く。 目指すは囚われ、悦楽の虜、曝すカツジュの、けぶる菊座。 淫靡な蠕動、潜り込む事巣穴の如く、内膜を擦り奥へと進む。

『・・いっ・・ひぁあぁっっ・そっ、ソレ、ダシてっ、だしてぇっ・・』


未知の感触、慄くカツジュ、咄嗟に身起し、まなじりに涙。 粘膜のウロで、子蛇が踊る、ひゃぁと悲鳴も、愉悦に蕩け、吐息切なく歓喜に染まる。 再びモタゲル哀れな花芯に、無情な触手が執拗に絡む。 むず痒さとこそばゆさ、重なれば強烈な快楽が。 白磁の肌は、怪しく光り、もはや嬌声堪える事無し。 

『主の兄らは、蕩ける甘味、姉らはまろい滋味であったぞ。 主の母者に礼を言おうぞ、年に二度ほど喰らわせてもろた。 主の身体も同じく絶品。 喰らえと、言うたな? 確かに言った、ならば永劫喰らわれるが良い。』


ビクンと締め付け欲しがる粘膜、途端にスルリと子蛇は逃げる。 そして、膝裏ひょいと担がれ、虚ろなまなこが、ソレを見た。 滑る緑の物の怪の腹、その下腹部に、みるみる隆起。 カリダカ竿長カサ広し、国産品なら5枚でイケル、村一番の御宝持ちの、育ての父でも比にならず。 そして仰天、物の怪故か、竿全体にひらひらと、怪しい襞が淫靡に揺れる。

先端へ行けば野葡萄の紫、猛る逸物、ぐいと突き出し、カツジュに触れさせ、物の怪が言う。

『どうじゃ、浅ましき己を呪うか?喰らわれ、我血肉となりたいか?』


にんまり笑う、水藻之守の、両掌に力が入る。

『現世に私の平穏は無く、ただ快楽の手段と成り果て、父親にすら身体を開く浅ましき身。真意、欲せられる事無く、虚しい、悔しい、寂しい、生きて身を置く安らぎなど無し・・・』


うわ言の如く呟くカツジュ。きつく瞑ったまなじりに雫、光る緑の苔の色映し。 それを見つめる水藻の守、嘲る瞳のその奥に陰。 振り切るように、細腰抱え、先刻までの愛淫に緩む、カツジュの菊座に、ぐいと一突き、息飲む間も無くぬらりと侵入、内部で広がるその御宝に、せり上がらんと、カツジュがもがく。 

『・ひぁ・ぁアッ・は・ンッ・・う、うごいてる・・いや、イッ・いやぁっ・・』

『つらいか、どうじゃ?苦しいか? 異形に犯され辱められ、それでも生くるは、もっと辛いか? 』

『現世は、私の生を望まず、静かな水底、いっそ優しと・』


内部で異変、圧し責め立て、繊毛の妙、さながら無数の虫這う如くに、柔らな内を、ぞわぞわ進む。 過ぎる快楽、恐怖に慄く。

『・・ならば、水底、永劫の時、我伴侶として、生きるはどうじゃ? 血肉啜られ、兄姉に続くか、この淵、ワシと、守って生きるか。』


ぐいと突かれて、仰け反る痩躯、濡れた口唇、悲鳴も枯れる。 混濁の渦に、ただ思うのは、静かな水底、伴侶と欲する異形と寄り添い、うたかたの時、緩やかな時、ソレはあながち悪くない。 水藻の守が、ぺチャリと両手で、カツジュの頬を挟んで囁く。 不思議と静かな、深い瞳で、カツジュの瞳を凝視する。

『・・さぁ決めるが良い、我と往くなら、名を叫べ・・』


震える瞼、薄っすら開き、物の怪の瞳何故か魅入られ、カツジュその腕すいと伸ばし、異形の首筋絡めてすがる。必要とされる眼差しは、甘く、それは、快楽の玩具としか求められる事の無かったカツジュの寂しい心を蕩かす、熱を孕む。

『わ、我名はカツジュ・・どうぞ、お傍に・・どうぞ、・ッ・ァア・・・』


嬌声の名残、開かれた口、アァあ・と、連なり発せられる声、虚ろな眼に溢れる涙。 物の怪の体躯、四肢絡ませて、喘ぐカツジュが身を震い、達す。 

すると、カツジュの身体が波打ち、激しい嗚咽と苦悶の表情。 物の怪の腕に、しかと抱かれて、えずくカツジュの腹せり上がり、吐き出されたる、琥珀色の珠。 して、その琥珀珠を、素早く手にし、水藻の守がくわっと飲み込む。

なんと仰天、泥濘の如く、水藻の守の身体が崩れ、崩れたドロリが見る間に変化し、やがて現る、精悍な面、見目麗しい、偉丈夫が笑む。 四肢投げ出して、茫然と、横たわるカツジュ、そっと抱き、張り付く黒絹、指先で梳き、愛しむ眼をし、くちびる落とす。

『名を貰い、契り、主の身より獲り出したシリコダマ、この身に収めることにより、こうして主と同じヒトガタに変ずる事が出来る。 カツジュよ、後悔はないな? 共に生きるな?』


『ともに、この水底で、お傍に・・・』




乾いた音を侘しく立て、長く連なる霜柱踏み、ひねた足音が、淵に、水面に、近付いて来る。 

「はァ、ここいらには、冬が早いね。」 

白い息吐き、婆ァがヒョイと、手桶の蓋を退かして放る。 

「ほうれ、物の怪、また土産だぞい!」 

ポチャンと落ちる、ソレを追い ―― あぁ、カツジュもまた、この淵の底、泥に埋まって腐っておろう ―― 婆ァは暫し、波紋を眺める。 考えあぐねて、腰元の筒、半分残ったどぶろくを手に、ヒョイと淵に投げ込み叫ぶ。


『そこに、おるのが、幸せだよう!!』



コシヌケ淵は、子捨て淵、物の怪二匹が寄り添い暮らす。
投げ捨てられる、嬰児を喰らい、甘露甘露と舌打ち暮らす。


見目麗しい、物の怪二匹。
永久に、仲良く、暮らしたそうな。






November 13, 2002





    * 何から何まで、やけっぱちな痕跡

      J庭潜伏記念 手縫い本 【奥義 珍宝香】より 一部改定(てか、元が行方不明)。