    
              
       
                 パンチングヒ〜ロ〜 
               
                  
       
       
       
      人は見かけじゃない、中身だって言うけど、モノには限度ってあると思うの。  
      例えば、アタシ、このアタシ、どうして、アタシって、華奢な二の腕と白肌じゃないのかしらって、いつもいつも、思ってたわ。 神様って、ホント、意地悪・・・ 
       
       
      こないだ、いいとも出たら、タモさんがいきなりアタシのカラダを触った。 
       
      『おぉ、黒いのッ! イイ身体してるねぇ!この腕ッ!丸太?!』 
       
       
      よ、止してよッ、セクハラッ?! そぉゆぅトコ、いきなり触るって、失礼じゃないの! ま、捲くんないでよ、エッチぃッ!! 嫌ッ! こんなトコで、肌見せるなんてぇッ!! 
       
      ―― うわぁ〜、カナメくんスゴォ〜イッ!!  
       
      ・・・って、お客さんまで酷ぉい、ソコ気にしてるのッ、だからぁ、長袖のだぼだぼでカヴァーしてるってのに! あん、もう、ちょおっと、ドウチン! 夢見がちにボケてないで、言ってやってよッ!! アタシがここ出る前二キロダイエットしたってのも、このブスどもにガツンと言ってヤッテェッッ!! 
       
      『・・・彼・・歌う前、現場やってたんで・・』 
      『ほぉおっ!! ガテン系ッ!? 歌えるドカタ! アハハハハ!!』 
       
       
      イッやぁアァ〜〜ッッ!! ドウチンッ!! 余計な事言うんじゃないわよッ、もうアタシ、死にたい、みんなが笑ってるわ、みんなで、アタシの事ゴッツイ荒くれ者だって顔で見てるに違いないッ!! チガウ、そんなじゃないのッ、アタシは花と動物を愛するピースフルなオンナだって事、ガツンと言ってヤンナキャ、違うって事、フォロウしなきゃっ! 
       
      『や、タモさん、他にも一応、ウェイターとか居酒屋系でバイトは入れてたんスけど・・・』 
      『ほぇえ〜・・似合わね〜けど、』 
       
       
      大きなオセワよ、でも、そうよ聞いてよ、タモさんッ、アタシは身体だけじゃぁないんだからッ、見てッ、アタシのハァトを見てッ!! 
       
       
      『・・・・けど、現場の方が合ってたみたいで・・・・・』 
       
      ど、ドウチンッッ!! 
       
      『だろうなぁ!! 悪そうだモンなぁっ!!』 
       
      タモさんッ!! 
       
      ―― カナメく〜ん!ワイルドォ〜〜ッ!! 
       
      う、うるさいのよッブスッ!! 
       
       
       
      収録終った楽屋で泣いたわ。 アタシの事なんて、誰もわかってくれない・・・なのに、ドウチンのニブチンは、仕出し弁当、鮭か洋風五目か選べとか言ってるし、アァ、みんな何もホントに、わかっちゃイナイ。 白くて細くて繊細に見えるドウチンは、血色悪いだけのズボラ〜だってコトも。 繊細な硝子のハートを抱えてんのは、この、アタシなのに、アタシなのようッ・・あぁ、みんな騙されてるッ・・・。 
       
      『・・・鮭、食べなよ・・・』 
      『た、食べなよッて、アンタ・・自分が魚喰いたくないだけなんでしょォッ!!』 
       
       
      トサカにキテ、バンッと机を叩き立ち上がるアタシ・・の、厭なタイミングにまた、気の利かないコブスのADが来やがったワ。 ふん、アタシより華奢で白いヤナ感じ!! アンタ、自分のコト可愛い系とか思ってんじゃないのッ? ふん、レディースの柄シャツなんか着ちゃってサァ、あっはっはぁ〜っ!  
       
      どぉ〜せアタシがソレ着たら、方向変って、その筋のペテン師みたくなるコト請合いねぇッ! 何よッ! 自慢してるワケェッ?! ぼんやり突っ立つドウチンと、アタシを見て何よ、化けモンでも見るみたいに、真っ青じゃないのよッ! 
       
      『あ、あの・・・さ、仕入れがありまして・・・あ、失礼しましたぁッ!!』 
       
       
      走ってったわよ、ふん、ドタバタと・・・。 あ〜ツイてない、またどっかの雑誌に叩かれるんだわ 『ケミス不仲!! 横暴暴力相方にドウチン衰弱!』 とかネッ!! ジョォオダンじゃないわよう、アタシが何度コイツのポカやズボラで酷い目に遭ってるか、畜生ッ! 動物占いだってアタシは『コジカ』だってのに!コジカ!!バンビよッ!!・・・誰もわかっちゃくれないんだわ・・・くやしぃい〜〜んッ!! 
       
      『・・・カナメ、怖い顔してる・・・・』 
      『えぇ!ええ!怖いでしょうよッ! どうせアタシはアンタみたく 黙ってて王子様顔 じゃないし、綺麗な女の子にはビビられるし、ブリーチ小僧には無闇に喧嘩売られるし、そうよッ! 学生ン時は、しょっちゅうヤクザにスカウトされたわようッ!!』 
       
      『・・・でも、可愛いよ・・・・』 
       
       
      ぁ・・いやん・・ドウチンったら、アタシのおでこにチュッてした。 アァン、もう、ズルイズルイぃ、ドウチンはそうやって、スグ誤魔化すんだからァ! でも、アタシはそんなカレが好きだから、ドウチンの腕の中、上目使いに覗き込みチョットだけ甘えてみるの。 
       
      『ねぇ、ドォチィン・・好きって言ってェ〜。』 
      『・・・好き・・だよ、馬鹿・・だなぁ。』 
       
      『ドォチィン・・』 
      『・・・カナメ・・・今日・・生でヤッテいい?』 
       
       
      ッ、ボケ野郎ウゥッ!! アタシはドウチンの馬鹿ポンタンに右フックを決めて、唇を噛み走り出す。 嫌いキライッ、デリカシィもムードも無いドウチンなんて大嫌いッ! 前傾ダッシュのアルタスタジオ、狭い廊下で、さっきのコブスADと鉢合う。  
       
      アンだよッ、ジロジロ見んなよッ、見せモンじゃないんだよッ! ナニ腰引けテンだよッ傷ついた美しいアタシをヤロウっての? はっはぁ〜ッ!! アンタなんかに突っ込まれたって、アタシは汁も出やしないワようッ!!  
       
      『チョト急ぐんッスけど、ナニカ用?』 
      『い、いえ、ス、スすすっスみませんッ!!がががガンバってクダサイッ!!』 
       
       
      半べそのコブスにメンチ切って、アタシは新宿の雑踏に身を任せた。 侘しい傷ついた女は、この町に、良く似合うわ・・・愛を失い、支えを無くしたアタシは儚い都会のカナリア・・歌う事しか出来ないの・・・ 
       
      ―― えぇエ〜〜ッ!アレ、ケミス? ホラ、黒いほうだヨォ、うわ、ちょぉコエェ!!ヤバイよォッ!! ゲッ、こっち見たよ見たよマジマジィ?! こえェッ!! 
       
       
      うるさいッ、ブスッ! アンタ達、人の事言える白さじゃない癖にッ!!デブッ!ブスッ!ジグロッ!! 毒づくアタシだけど商売だから、ブス二人と写真に収まってやったわ、つくづく温厚よ、人間デキテルってワケよッ! 感謝なさいよッ、ブスッ!!  
       
      カシマシイ小娘二人のおかげで、たちまちアタシはジロジロとツーショット狙いの図々しいパンピーに狙われ始めた。 美しいアタシは、つい人目を惹いてしまうのね、んで、已む無く、足早に、あぁ、メロウな時だもの、甘い甘いスウィ〜トなドーナツでも食べましょう・・って、ミスドへと向かったの。 したら、イヤダ、柄悪そうな白髪ブリーチ鼻ピアスタトゥ・トリオが白目がちにニヤニヤと・・・・ 
       
      『チョトさぁ、生ケミス?』 『カワバタぁ〜、だしょッ? ゲラゲラゲラ!!』 
      『ボクらファンでぇ〜ス、ゲラゲラゲラ!!』  
       
       
      い、いやん、こいつらラリッてんの? よ、よしてッ! ナニ囲んでンのよう、助けてェッ! アタシ、アタシ、マワサレちゃったりするワケェッ!? い、イヤよッ!ちょっと腕組まないでよッ、そ、そこの市民! ジロジロ見てないで助けなさいようッ! か弱いオンナが、いやぁッ! ドコ連れてくのッ、アンタ達ッ! 助けてェッ、ピンチよッ! ラリッた暴漢にアタシは、今、どっかに連れ込まれようとしてるのようッ!! 
       
       
       
      『『『チィ〜〜〜〜ズゥッ!!』』』   カシャッ 
       
       
      路地裏で、記念撮影したわ・・・・。  
       
       
      『マジ、嬉しいっス!』 『カァバタさん、喧嘩とかオンナとかマジ、スゴイんじゃないっスかぁ?』 『ちょぉ、アニキっスよねぇッ!!喋り駄目っすか!』 
       
       
      『『『ガンバってクダサァ〜〜イッ!!』』』 
       
       
      アリガトよ・・・・。  
       
       
      腹立たしくて、立て看板一つボコにしてやった。 アタシをわかってくれる人なんて、この世にはイナイのかも知れない。 寒いわ・・・一人が寒い、ココロが氷のよう・・・薄汚い路地で一人、虚ろに壁に凭れる悲しいアタシ・・・。 と、乾いた小さな足音、ヒョロリとした影、あぁん、来てくれたのねぇッ! ドォチンッ!! 近付くその胸に、アタシはダッシュで飛び込んだ。 ギュッとしてくれる、ドオチンの腕、はぁん、ドオチンのタバコの匂い・・・ 
       
      『馬鹿馬鹿、ドウチンのバカァ、もう、カナメを一人にしないって言ってぇ!! 馬鹿馬鹿ッ、早く来てくれないからアタシ、一人ぼっちで怖かった・・・』 
      『・・・や、弁当食べてたから・・・・』 
       
      はぁ?  
       
      ムカついたけど、ドウチンの優しい指がアタシの首筋と背中をゆっくり愛撫するから、アタシはウットリ仔猫みたいに頭をカレの顎に擦り付ける。 チュウ、してよぉ・・って抱きついたらば、ん? ゴソッていった、ナニ? ねぇドオチン、ポッケにナンカ入ってる・・ 
       
      『・・・あ、・・・さっき、・・買ったから、ソコで』 
      『ナニナニ? 見して! 見してぇ!』 
      『・・・インじゃ、ナイカなって・・・』 
       
       
      茶色の紙袋に入った小さなソレ  ・・ど、ドリンク剤? 
       
      すっぽん、ハブ、マカ、三大濃縮エキスで春到来!! オトコの自信と愛のために!!  
            極快秘薬絶倫宝 
       
      『・・・ドウチン・・・』 
       
       
      シュカッ と、蓋捻ったドウチンが、腰に手ぇあてて一気する。 
       
      『・・・ココで、ヤル? たまには・・・』 
       
       
       
      き、聞きました? ねぇ、聞きましたかっ!? どぉ言う事? 世の中は、コイツに甘すぎるし騙されてるし、絶対、絶対、ナンカ違うと思ってるッ。  
       
      殴って遣ろうとして、握り締めたアタシの拳は呆気なく解かれる。 鼻息の荒い、でも血色悪いドウチンがアタシの後ろ頭を引き寄せて、薄情でガサツな事言う、薄い唇でコトバを失うアタシの唇をねっとり奪った。 アタシはうんざりしながら痰とションベンだらけの路地壁に、ドウちんのカラダごと背中を押し付ける。 右翼の演説と軍歌が似合いのBGMって感じだった。  
       
      そして、ドウチンがアタシの足を抱え上げ、外れたベルトのバックルが膝にコツンと当たって揺れて、アタシは観念してドウチンの首筋にしがみ付いた。 尻が、ヒュウと、寒かった。 
       
      『・・・生で、入れていい?』 
       
       
      ドウチン・・・アンタ、点三つ溜めて喋んのヤメタ方がイイわ・・・。 
       
       
       
       
       
      December 17, 2002 
       
      
           
           
       
             *まりさん 様   ケミストリィ 白×黒   ケミスだよう・・・ホントだよう・・・ 
       
      
              
                   
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