    
              
       
                  ジャンクション 
               
                  
       
       
       
      ―――   アトカラ −− アトカラ −−− 丸まった舌をどうしようかケツの中ナニ入れやがった畜生オレは許さねぇがオレはもうオシなのか耳ン中の虫とってくれよ −− なぁ −  オレはこの −−− この  −− チクショウ −  飴玉みてぇだ −− 歯ァとけてるんか − オイ − もう − イカねぇよ −− もう、どうなんの −− ねぇ − ネェ −−− ハジケ −− トケル −  −−− クズレタシミニ  ――― 
       
       
       
       
      ラバーソールの靴底に、チューインガムが、貼り付いた。 
      吸い込んだ空気は、湿っていた。  
       
       
       
      『ほらよ、オネェチャン、やる気満々だぜ!』 
       
       
      ものすごいオッパイだ と、オレは怖気ずくが、リョウはヘラッとしながら、そこに鼻先を押し付けんばかりに舞い上がっていた。 何で、警戒しないんだろう、なんでコイツ、いつも、こうなんだろう。 いかにも柄が悪い、頭の悪い外人だらけのその薄暗い店で、オレは怪しいコークハイもどきを飲んでいる。 しきりに話し掛けてくる、ヒヨコみたいな小男に、オレは曖昧なうなずきを繰り返した。 
       
      うるさい音楽。 張り紙だらけ。 ションベンの匂いがどっかからした。 後ろ頭をバッテンに刈り込んだ、イカレタ大男がゲラゲラ笑って、リョウの肩を抱く。 大男が多分、下品な事を言ったのだろう、巨乳女が、大袈裟に怒った振りをする。 大男は、指を立てて抗議する巨乳女に、リョウを押し付けた。 でかいオッパイに、リョウの顔半分が飲み込まれ、半端じゃねぇパイ擦りだよぉ、と、リョウの歓声が聞こえた。 
       
       
      オレは、帰りたかった。 明日だって午後はロケがあるのだし、オレはとっととホテルに帰って眠りたかった。 ここ三日、飯屋だの、カフェだの、美味いんだかさっぱりわかんねぇ。 しかも、何言ってんだかさっぱりわかんねぇ。 外人にまみれるのに、オレはすっかり疲れていた。 けど、あいつ、リョウは、ちっとも、そう云うンがストレスじゃないみたいだ。 あいつ、わかんねぇ。 付き合いは伊達じゃなく長いけど、そう云う神経わかんねぇ。 
       
       
      『キョ、キョーレツにマジ? え? ウハァ〜〜ッ!!』 
       
       
      ウハウハしてるリョウ。 小男が、オレの袖を引っ張ってはしゃぐ。 信じらんねぇ。 やっぱこいつら、ってか、ココはヤバイ。 ロン毛で髭のマッチョな男が、女の意外に細い足を担ぎ上げて揺する。 捲くれ上がったスカートの裾、デカイのと毛が絡む。 点滅するライトに粘膜が曝される。 大男が、リョウの手をとり、女の繋がってる股座へと、持って行く。 あぁ、巨乳女はノーパンじゃんか。 女はマジかよな、派手な声をあげていて、なのに、周りの客が気にしちゃいないのが凄くやだ。  
       
      怖いじゃん、慣れてんの? 慣れんなよ、これ、普通じゃねぇよ。 
       
       
       
      普通じゃねえってのに、オレは更に普通じゃねぇトコに行くらしい。 もっとイイトコロに行くらしいと、リョウは言ってた。 あばずれ女をリョウと大男が両脇で挟み、薄汚ねぇ路地を抜ける。 水溜りが小さく跳ねた。 雨なんか、降っちゃいねぇのに、何の水だよ、ションベンか? きっと、ちょっと見、オレは、ガキを誘拐する東洋人そのものだと思う。 浮かれて早足の小男が、半分ぶら下がっているから、右手が重い。  
       
      小男は、しっかりぶら下がってて、 立ちションしたい って、英語で何て言うんだろう。 ションベンがしたかったが、とてもじゃないけど、さっきの店じゃ便所は怖えぇ。 変な匂いのする狭い階段を上がって、なんか剥がした跡のある黒いドアを女がノックした。 意外に広い部屋だった。  
      ダブリューシー!! トイレだよっ! 怒鳴るオレを、部屋に居た顔色の悪い痩せたオバサンが奥へ手招きした。  
       
       
      便所は、便座が無かったが、放尿の快感にブルッとキタ。 後ろから羽交い絞めに、毛むくじゃらの手が、ブルッたオレのチンコを掴む。 よッ、よせよ、シャツの中、わき腹からゾワッガリッて、な、ナニ? 乳首、つねりやがった、なに言ってんだよっ、畜生ッ!! 
       
       
      『 *********************?! Ahahahaha・・!!』 
       
       
      わかんねぇよ、笑うなよ、ケツ、あァ、なんでトマンネェんだよションベンがよぉっ、ガッ、なんだよ、ホモかよ、止してくれよ、ノォサンキュゥッ!! ノォッ!!  
       
      半開きのドアの向うで、テーブルに座ったリョウが見えた。 リョウのチンコを、直角に曲がった巨乳女が咥えている。 垂れたおっぱいは、まるで牛だ。 その牛女を、椅子に立ち上がった小男が、必死の立ちバックで攻めている。 大男は、チンコを掴んでなんか言ってるけどわかんねぇ。 隙間だらけの歯が薄茶色に汚れてる。 リョウの足首に、先月買ったばっかの自慢のヴィンテージが引っ掛かってぶらぶら揺れた。 
       
      ぶっとい指が、オレの口を抉じ開けにかかる。 喉チンコがなんか掠めて、ウエッとなったけど、毛むくじゃらの手が俺の口と鼻を塞ぎ、オレの口ん中に居た指が、チンコの先をグリッと擦ったから、反射で声が出て、なんか、飲んじまった。 な、なに、今の何? おい、首? 首を、締められた …殺されンの?…  
       
       
      上擦ったリョウの声が、水の中みたいに聞こえた  
       
      ―― で、でちまうよぉっ!! ――― リョウ、それどころじゃねぇよ。  
       
       
       
      ・・・違う、これ、動脈抑えて失神させるやつだ・・・中坊ン時流行ったなぁって、ナメクジみたいなベロチュウされてたから、後は、ちょっとわかんねぇ。 
       
       
       
       
      ガキの頃、熱出して唸ってた時、布団が水を吸ったみたいに重かった。 親は共働きで居なくって、口ん中、カラカラ、頭の奥がグラグラ、ゼリィん中に居るみたいに身体が動かないオレは、その重い布団を蹴飛ばす事すら出来なかった。  
       
      誰かが、煙草吸ってる。 
       
       
      おい、アンタ、誰だかわかんねぇけど、どかしてくれよ、なぁ、重い、苦しいよ、水? ナンかタレテル・・ヤメ・ッ、メロよ、おい、おい、耳ン中水入ってるミズ、みず! ツンボなっちまうっ!! 
       
       
       
      口ん中、突っ込まれた煙草は嫌な味がした。 白い布団が、生暖かくブヨブヨ重くって、ソレ、布団で無く、そう云う凄い、デブ女だった。 デブ女が、やけに赤い舌を、オレの耳ン中また突っ込んだ。 ぴちゃっと水音。 竦む、オレ。 カーテンみたいに、女のたるんだ腕の肉が揺れる。 見上げる顔は、本体が真中で、後はギョーザの皮みたいにやっぱ垂れ下がってる。  
       
      甲高い悲鳴。 小男が、床に転がり射精した。 大男がその腕を、小男のケツに捻じ込んでいた。 白眼の小男が焦点を瞬間取り戻し、肉に埋もれるオレに言う。  ヘロォゥ〜!!  
       
      ――― リョウは? リョウ?! おい、リョウッ!? 
       
       
      ソバカスだらけの白いブヨブヨに、オレは、埋もれてる。 首から下どうなってんだか、もしやチンコ入れてんのかどうかすら、定かではなく。 特撮? 首の下、垂れ下がる襞を押し上げると、ギョーザの真中、顔が笑って オゥ!! と言った。 身、入ってる。  
       
      も一辺、突っ込まれた煙草を吸い込むと、脳味噌が泡立って、部屋の中、ギョーザ女、天井に貼られた下品なキリストのポスターが、油みたく、どろりと溶けた。  
       
      腹ン中、ググッていう。 大きく1回吐いた。 ギョーザ女にゲロが飛ぶ。 俺にも、顔に、キツイにんにくと、ビールの匂い、眼ぇ、しみるよ、酸っぱい、苦い、笑うな女、気持ち悪りぃよ、目玉の裏がぞわぞわする、テメェらなんだよ、オレ、帰りてぇよ、おい、煙草じゃねぇだろ、これ、変な薬だろ? 
       
       
      『***********!!』 
       
       
      笑うな、テメェら、笑うな! 
       
       
      のたうってる小男の横、オバサンが腕まくりして、片手と口で、器用に腕を絞めた。 綺麗な雫、アンプルとシリンジ。 青黒いオバサンの腕。 シリンジの透明が、どす黒い赤に変った。 
       
       
      肉女、牛女、小男がアイスクリームを零してしゃくった指がオレのベロを掴む。 どろどろに溶けた女がメリケン粉みたいにオレの鼻や眼や耳やあちこちに流れてオレはそれに吸い込まれて女になってしまったけど、でかい腕がオレを殴りオレの骸骨が砕けて床に散らばった。 オバサンが覗き込み、ソレは暮れに会ったきりの、お袋に思えた。 
       
       
      なぁ拾ってくれよ、ソレ、オレんだろ?  
       
       
      酷いな、オレの脳味噌踏まないでくれよ、アンタ、怖いよ、顔、腐ってるし、腕に虫がいる、うわ、ウジャウジャして、よして、くんな、帰らして、帰らして、よせよ、もう、抜くな、ケツ? ナニすんだよ、イテ、イテテテッッ、いてぇよぉ、よして、もう、もう駄目だ、イヤだ、イヤだよ、リョウ、リョウ、てめぇ、ドコだ、てめぇ、いつも、オレはオレは、違う、そうじゃねぇ、違う、リョウ?  
       
       
      てめぇ、卑怯モンだろ? 
       
       
       
       
      オレがトロケテ床に垂れる。 
       
       
      そして、 
       
      腐ってゆくのにはもう時間は掛からなかった。 
       
       
       
       
       
       
       
      October 30, 2002 
       
      
           
           
       
            
      * ろんぶー   
      
              
                   
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