甘党ハンター*ポコチンズ
ササキシズ(82才)は、その朝、胸騒ぎがして仕様が無かったが、いつものように、暖簾を吊るし、ショウケースの埃を払った。
和菓子『うさぎ屋』は創業70年、震災も乗り越え、戦火を抜けて尚、続く強運な店。 悩みの種は、長男が碌でナシだという事だけだった。 たいした事じゃない、そう云う、ありふれた和菓子屋の朝であった。
そして、チャリを漕ぐ男、その後部にスタンドアップする男。 不吉な赤い二人の男が、今、刻々と、シズに迫りつつあった。 メガネの男は、玉の汗を浮べ、後ろの男の逸物が、熱く背中で擦れるのを感じる。 後ろの男が囁く
『カタギリ・・ソコは、すあまか?』 『いや、キンツバだ・・・』
キンツバ・・・メガネは、その甘い響きに恍惚とし、漕ぎ続ける両足の間を片手で鷲掴みたい衝動と戦った。 ソコは、充分、漕ぐに、邪魔な存在となっている。
『楽しみにしろよ・・・』
すかさず、背後からの声。 声の主は、ひょろりとした痩躯を前傾に、夏蜜柑に似た頬ををワシワシと擦り、不敵に微笑んでいた。 エクスタシーの予感が、二人を包む。
ミタラシ、海苔醤油、ヨモギ、と三色団子をならべたシズは、店の前に異形の赤を見る。 チャリの停まるギギギと云う音が、不吉を告げる鳥の如く。 火事場から逃れてきたようなメガネの男、ひもじいのか顔色の悪い長身痩躯の男、シズは、終戦直後の混乱を想い出す。
あぁ、こんなのがウロウロしていたね、あの頃は・・。
二人の男は、つるつる光沢のある赤いガウンを羽織、背には大きく、黒に金糸囲みで 『闘魂』 の刺繍。 膝からニュイッと伸びた貧相な毛脛が、歩みを進める。
『アンタ、ココのボスかい?キンツバくれ!』
『アタシはここの二代目だけども、なんだい、ケチつける気かい? キンツバなら、ほれ、ソコにあんだろ、開きメクラが、160円だよ! 札で払いやがったら、只じゃすまないよっ!!』
『く、口の減らねぇババァめ!! 栗のだよっ!! 栗の入ってる260円のやつな!!』
シズの啖呵に、イキリタツ コバヤシをカタギリはいさめる様に、その骨っぽい背をさする。
舐められて堪るもんか、戦後の動乱を生き残った大正女の熱い血が、シズの身体を駆け巡る。 メガネが、首から吊る下げたガマグチを漁り、600円を、ショウケースに置いた。
『二個くれ、ココで喰うから、包むな!』
『喰うのかい? ココでかい? ボロボロこぼして汚すんじゃぁナイよっ! 蟻が来ちまうよっ!!』
カタギリが、震える、それは、軽い興奮であった。
凄い婆あに罵られる俺 ・・・そしてココで、俺は、コバヤシに、あぁ・・・・!!
キンツバを受取る指先が、震えて止まらない。
『なんだよ、病気かい?
よしとくれよっ!! 保健所なんか来られちゃ、不味いんだよっ!!』
震える火事場頭カタギリを抱きかかえる様に、その背後から、欠食男が口を挟む。
『黙れ、婆あ、釣りはいらねぇ、俺らは、梃子でもココで喰うんだよ!!』
欠食コバヤシは、カタギリの手からキンツバを受取ると、懐紙をするりと剥がし、右手で掴んで振り翳す。 カタギリもそれに習い、仁王立ちする二人。 そしてオモムロに、揃いのガウンを肌蹴るのであった。 ガウンの下は貧相な、マッパ、その胸にはメーターのようなモノ。
『来たれ!! インシュリン*パワ〜〜!!』
『スィ〜ト&エクスタシィ〜!!カモォ〜〜ンッ!!』
そして、キンツバを半分ほど齧り、すかさずベロチュウを交す二人の間で、小豆と上白糖が、汁粉になって、行き来する。
キレやすいイマドキノ若者 ・・・ シズの脳裏に浮かんだのは、その言葉だった。
脳髄に染み渡る甘味が、二人を支配する。 胸部のメーターは徐々に右に傾き、そろそろ血糖180のレッドゾーンに突入する勢い。 レッドゾーンの危機にあるのは、二人の下半身も同じ。 日当たり悪い、不味そうなキノコの如く、ゆらゆらするそれは、それでも彼らのマックスであった。
『うをぉぉおおおおおっっ!!キタキタキタッ!!』
コバヤシが、カタギリを突き飛ばし、先走る己のチンコを握り締め絶叫。 突き飛ばされ、ショウケースに両手を付いたカタギリは、握り締めたキンツバを一口齧るとコバヤシを促す。
『バッチコ〜〜〜イッッ!!』
絶叫するカタギリの口元から、小豆の破片が飛び散る。
・ ・・ホレ見ろ、汚しやがって、シズは忌々しさに舌打ちをする。
コバヤシはカタギリのガウンのケツをバサッと捲くり上げ、オモムロに捻じ込み、激しく叩きつける。 骨ばったケツが、鈍い打撲音を響かせ、玉袋のパーカションが、妙に軽快であった。 浮き上がったアバラ骨、
・ ・・ダシもとれやしないね・・・シズは昔鍋にした、飼い犬の事をふと思い出す。
・ ・・そう云う時代だったよ・・ 目の前の馬鹿が、更に忌々しくなった。
いよいよ、クライマックスへ向けて、白目を剥きマグワル二人。 カタギリは突き出したケツをくねらせ、辛抱堪らん己の根元をキツク絞める。 そしてオットセイのように、二人はイナナキ、暫し弓形に痙攣した。
仲良く昇天。 モア、ヘヴン!
『カタギリィ〜〜〜!!』
『コバヤシィ〜〜〜!!』
フィニッシュに喘ぎ、ショウケースに折り重なり突っ伏す二人。 シズは、うんざりしながら、上客用の冷茶を紙コップに入れ、二人に差し出す。
『気がスンダなら、コレ飲んで、さっさと帰っとくれよ!!』
カタジケナイ・・・と荒い息をし、美味そうに茶を飲み干す二人を眺め、つくづく厭な時代になった、とシズは溜息を吐く。 そして、碌でナシと評判の長男ではあるが、こいつらよか、ずっと真っ当じゃぁナイか? と再評価を下す。
『じゃぁな、ババア!達者でな!!』
まだ腰の立たぬカタギリを引き摺り、幽鬼のようなコバヤシが不敵に笑う。
『キンツバ、上等だったぜ、サラバだ!!』
カタギリの肩に腕を回し、ぶら下がったようなコバヤシが、口だけは偉そうにシズに放つ。
『もう、くんじゃないよっ!!次は、警察呼ぶからねッッ!!』
すぐさま、塩を撒きたいシズであった。 そしてヨタヨタと、最悪の二人は店を後にする。 カタギリはコバヤシにおぶさるようにスタンドアップし、漕ぎ手はコバヤシとなった。
『次は、阿佐ヶ谷か?』
『おう、時雨堂の麩饅頭だ!』
麩饅頭、しっとりとし、中はヒンヤリした水羊羹風がイイ
・・・ そして俺達の愛は再びソコで、試される!!
コバヤシのチンコは、期待に首を長くする。 年老いた亀の如く。そしてカタギリも、ケツの穴がうずくのを抑えられなかった。 じわじわと、コバヤシの中出しスペルマが、カタギリの毛脛を伝う。
二人は、ハッピィで、ファンキ〜な、甘党であった。
そして、シズは、ショウケースの前に佇む。
磨き上げたばかりのソコに、どろりとした白濁が飛散し垂れている。 シズは、ソレを伸ばした指先で掬い取り、ペロリと舐めとった。
『青クセェ・・・』
戦死した夫、と、その後浮気した風呂屋の若造、シズは記憶の中のソノ味を想いつつ、舌打し、硝子クリーナーを、吹き付けるのであった。
おわり
September 23, 2002
* なにやら御疲れのS様に、メールで押し付けてしまったこの文章。
どこかで公開したいけど、流石にノベルに入れるのは嫌だと思い、キワ部屋へ一歩前進。
あらためて、キワ部屋オープンにふさわしい作品だと、自分でウキウキしました。
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