いつか王子様が
 
        



   あたしはずっと待っていた。 
    あたしだけのあたしを好いてくれる王子様がやって来るのをずっと、待っていた。


男の子って、乱暴でキライ。 臭くてムサクて毛ダラケなのもなんかイヤ。 あたし、可愛くって綺麗なふわふわしたものが好きなの。 イイ匂いの石鹸とか、ちっちゃな硝子のウサギとか、そういうのに囲まれて、大好きなスミレの刺繍のクッションを抱きしめてるときが一番に幸せなの。 だから毎ンちホントにつらいわ。

『デカイっスね!』

大きな御世話よッ! デルモ系とか言えないワケ? ち〜び! ち〜び! あんたたちがコビトなんでしょ? 腹立ち紛れにダンクを決めたら、スゲェッッてギャラリィが騒いだ。 ちょっと嬉しい。 でも、ホントはスゲェ! じゃなくてカァ〜ワイィ〜イッ!! って言って欲しいの。

あたし、可愛いコになりたい。 可愛いコになって、王子様を待つの。 スミレのクッションを抱きしめて、王子様がチュってしてくれるのを待つの。

『あ、あのぉ……』

ふわふわのセミロング。 小さな袋をもって立っていたのは華奢な足をした一年の女の子。 あぁ、きっとそう、仙道クンのファンの子ね? えぇ、わかるわ、渡して欲しいのね、ほら、貸しなさいよ、 そう思ってあたしが近付いたらその子、青くなってバタバタ帰ってしまった。 あたしは半端に伸ばした手を引き戻し、気付けば自分の体を抱きしめていた。

どうして? どうしてだろう、どうしてあたしは。 ごしごしタオルで顔を拭ってみっともないナンカがコソゲ落ちればいいと思った。 馬鹿ねぇ と笑おうとしたけどうまくいかなかった。 ソンナふうに、何気なく残酷に、毎日はちょっとづつ、あたしを傷つける。 あの日まではね。


『だけど、繊細なプレイなんだ。』 

翔陽戦が終わったとき、控え室に向かう廊下の端で、あたしはその声を聞いた。 少し高めで、カツゼツのはっきりした声。

『て、あのデケェのだろ? 魚住?』

あたし?

ガサゴソした声の挙げた名前に、自分の名前に、またか、また傷つくのかと精一杯身を縮めるあたし。

『だけどね、彼は繊細だよ。 プレイは優美ともいえる。 面白いね、興味深いよ、とても。』

言葉と共に集団が曲がり角から顔を出す。 そして、あたしは彼に出逢った。 えぇ、会った事はある、今さっき同じコートで戦ったのよ、そうよ、でも、多分この瞬間がホントの出逢いだと思う。 気恥ずかしく目を伏せるあたしに彼はにっこり微笑んで言ったわ。

『キミの噂をしていたんです。 魚住さん。 とても良い試合でした。 ボクは、あなたのプレイ、好きですよ。』

彼のことばは優しい風になり音楽になり、あたしは彼らが通り過ぎて暫くしてもまだ、そこに棒立ちしていて、そして、泣いている事に気付く。 

   ***。 ***。 ***。

小さく彼の名を囁くあたしは、もう、辛くなんてなかった。


いつか王子様が、きっとやって来る、そして、やって来た。

だから、あたしはずっと笑って行こう、笑って行ける、

   * **、***、***、***、***、***、


   あたしは王子を待っている。 王子のキスを待っている。


                                     −− ツヅク
    
  


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