一万三千円の男
なァ、これが最後だから教えてくれよ。
どうしてこういうことになったんだ? ことの始まりはなんだったんだ?
やっぱりアレか? 1万3千円。冗談じゃねえ今時ガキの小遣いだってそんなもんじゃ効かねえって。だいたいあれってお前がギった金じゃん、コンパ用の積み立てのコンパ箱さぁ。あれホントに1万3千円だったの? それだけしか入ってなかったの? それって悲しいよつーか、あんまり惨めじゃん可哀想じゃん悲しいじゃん、俺。なァツカモト、ホントに1万3千円だったワケ?
「1万3千円だったっスよ」
ああそうかい。俺の人生は1万3千円かい。俺の運命っちゅうもんは、ガキの小遣いにも足りねえ1万3千円で決まっちまったってことかい。ご機嫌じゃねえか。なあツカモト、最高だよなあ最高。言うことなしの人生だ。こんなステキな人生が他にあるかってんだ。ブラボォ。もう少しすりゃあ迎えが来るんだろう。此処ではない何処かへ。そりゃどっかの旅行会社のCMだよ。なんにしろめでてえなあ、俺は行っちまって二度と帰ってこらんねえんだからなあ。なあ、めでてえだろうツカモト、めでてえって言えよ。お前が一番めでたいんだよ! なに? 俺? やっぱ俺? めででえのはやっぱ俺? あっそう。そうじゃないかと思ってたんだ、俺も、ひそかに。
ねえあんた、そう、迎えが来るまで俺とツカモトを見張ってるあんた、あんただよ。俺のめでたい話、聞きたい? 聞かせてやろうか。聞いてくれよ、減るもんじゃねえからさあ、なあ。
今を去ること一ヶ月前、コンパ最中のマンモス居酒屋、フラフラんなって便所に入った俺。でかい居酒屋だけあって便所もデケエ。珍しいことに誰もいねえな、と周り見渡したら、後ろで野太い声。
「センパイ大丈夫っスかァー?」
デカいなりして後ろにぬぼーっと立ってんじゃねェよツカモト。ナニ、お前もションベンなの? ヤダねお前と連れションなんて。なんでって、ほら、お前の、マグナムなんだろ? ガラがでけえからナニもでけぇんだろ? そんなの、繊細なオレ様の目の前にさらすんじゃねえよ。俺ってお育ちのいい美少年だもん。美少年って言うには歳取り過ぎてる? ちったぁまけろよ。とにかく野郎のでけぇナニなんて見たかねえんだよ。あっち行け、あっち。そだ、お前、部室の貯金箱から金、抜いてたじゃん。アレ、幾らだよ。ちっと寄こせば黙っててやるよ。
「見てたんすか……」
あん時俺が部室で寝っころがってたの気づかなかったろ。いや単にサボりたくて寝てただけだったんだけどね。あん時びっくりしたなあ。お前、マジな顔で貯金箱、開けてんだもん。そんなにまずかったのかよ。なんか借金でもしてた? だっけどあんなコンパ箱よ、どうせ大して貯まってなかったろ。幾らよ、幾ら。言っちゃえよ。
「センパイ……見ちゃならないものを見ちゃいましたね」
なんだそりゃと腹抱えて笑う俺。ナニソレ、笑える。壁に寄りかかって笑う俺とツカモトの他に、トイレに人影なし。二足で近づいたツカモトが背後から俺を抱え込み、口の中にハンカチを押し込んだ。自慢じゃねえけど細こい体、俺を楽々持ち上げたバカデカツカモトは、じたばたもがく抵抗をものともせずに個室に連れ込んで、鍵掛ける。
「悪いけど、口ふさがせてもらいますわ。余計なこと、アンタに言いふらされても面白くないし」
おびえる俺にビンタ一発、倒れた拍子に洋式便器で腹打ってしゃがみこむ俺。痛くて動けねえ俺をうつ伏せにして便器に抱きつかせ、ケツむいて尻山左右に割り広げるツカモト。なにしやがんだと言う暇もなく、野郎、マグナムにゴムつけてぶちこみやがった。
もちろん、ほぐすとかなんかつけて濡らすとか、その頃の俺が知ってるわけねぇだろ。たぶんツカモトも知っちゃいねぇ。無理矢理指で広げてぐいぐい押し込むだけ。目の前が痛みで真っ赤。
「センパイ、ちっと緩めて下さいよ。俺の、食いちぎられそうですよ」
後ろから囁いて、俺の尻っぺたギュッとつねる。痛くて怖くて、俺は尻から力を抜いた。
便所に誰か入ってきて用足すたんびに、ばれるんじゃないかと、びくっびくっと震え上がる。隣の個室に入られたときには息も止まった。ツカモトはそんな俺に、わざとゆっくり出し入れしやがる。
「イイっすよセンパイ、最高っすよ。こんなんなら、もっと前から犯っときゃよかったなあ」
犯られてたまるかよ馬鹿野郎、という俺の声はハンカチに吸い込まれて声にならず。ともかく俺の処女喪失は、マンモス居酒屋の便所の個室、血まみれの純情だった。冗談抜きで、尻切れて血ぃ出し過ぎて、貧血起こしたもんなあ。そうしてあの馬鹿は、尻穴から血は出るわ子種は出るわの死にそな俺を、写真つき携帯で撮りゃがるし。
「このメール、どこに送りましょうかね。今、コンパに来てる全員に送りましょうか」
やめろ馬鹿。
「じゃあ、これから俺んち一緒に帰りましょう。そしたら、送らないで上げますよ」
そん時俺に何ができた? 尻から血ぃ流して動けないで、薄ら笑い浮かべて俺を見下ろすツカモトをぽかんと馬鹿みたいに見上げてた俺にさ?
そいで俺はまんまとツカモトにお持ち帰りされた。帰ったとたんまた犯られて、尻腫れ上がって、次の日一日飯も食わずに寝てたよ。
ツカモトがパチンコにはまって、あちこち借りまくってるってのは、奴が連れてきた客から聞いた。はは、俺はツカモトの部屋で、野郎のダチ相手にケツ、売らされてた。俺を犯るかわりに借金チャラにするってね。そりゃもう、尻の穴の飽く暇がないくらいだったぜ。次から次へと、お前一体何人に借金してたんだ、ってもんでさ。そのうち、こんなんじゃらちがあかねえ、とか誰かが言い出してさ。あっちゅう間にビデオ撮り決定よ。え? 決まってんじゃん、主演男優は俺。いや、主演女優かな。なんのこたあねえ、今までやってたことをビデオに撮って売るだけだもんな。も、勝手にしてくれって。だっておれ、拉致られてからツカモトの部屋、一歩も出てねえもん。ずっと男とアレしてるだけだもん。そりゃもう、慣れたもんよ。アンアン声出してさ、尻振っちゃってさ。
感じてたかって?
感じるわけねえだろ、馬鹿。痛えだけだよ。
そ。俺、一度だってケツで感じたことねえ。ふりしてるだけだ。痛くて怖くて嫌で……畜生、思い出したくもねえ、ツカモトの一番最初のが……
くそ。
ビデオ撮ってる時に、この野郎、センパイ、これでもう逃げられませんよ、って言いやがんだ。
いつ逃げるんだよ。どうやって逃げんだよ。そんな根性あったらとっくの昔にやってるよ。そうだよ、根性なしの俺が悪いんだよ。全部悪いんだよ。これでいいかよ、ツカモト。俺をはめて、ウリやらせて、ビデオも撮らせて、金入って、よかったなあお前。めでてえなあど畜生。
死にやがれ!
素人ハメ撮りモロ出しホモビデオ、ってさ、やくざのスジ通さないで素人が売ってさ、馬鹿だねえ、すぐ見つかってヤキ入れられるに決まってんじゃん。
ホント、速攻、一人が事務所連れ込まれてボコよ。ツカモトと俺んとこにも、ごついのが二人来てさ。あ、あんたのとこの人だったね。今でも元気? よろしく言っといてよ。
それでどうしたって?
続投よ続投、畜生、主演女優続投よ。監督とスポンサーが代わっただけ。それと……
犬が来た……
なァ俺の清く正しいケツってのは、クソするためにあんのよ。でっかいシェパードに後ろから乗っかられて、犬にカマ掘られるためにあんじゃねえのよ。
犬だぜ犬! 畜生が爪立てるやら、イク時噛みつくやらで、俺のか弱い背中は血まみれだ。そんでもって、犬のアレってのは臭くて、汁ドバドバ出やがんのな。俺ホントに、シェパードの子産むんじゃないかと思ったよ、あれだけ出されると。それで痛ぇの。まあやっぱな、犬のチンコってのは毛が生えてるからな、毛。それでねえ、犬に犯られてる間、俺泣いてた、うん。なんでこんな目に遭うんだってさ。
ビデオ撮って儲けるやくざはいいよ。でもおれってさ、金、入んないじゃん。こんな痛い目遭ってさ、辛い思いしてさ、何にもなんないじゃん。1万3千円ってさ、それ、ツカモトがギった金じゃん。俺、見たぞって言っただけじゃん。俺のとこに来たわけじゃないじゃん、1万3千円。
俺、何のためにこんなことしてるんだ。なんでこんなことになってんだって。
恨んだねえ、あの時は、ツカモト。シカトしてんじゃねえよ、お前のことだよ!
いいんだこいつは。俺が何言ったって、聞きゃしねえ。聞く耳持たねえ。金のことだけしか考えねえ。
ねえあんた、迎え、いつ来るの? 犬の他にもさ、ゲンコ突っ込まれた話とか、ウンコ食った話とか、してやろうか。ウンコってさ、苦えんだよ。あれって、ビリルビンって奴の味なんだってさ。……聞きたくない? はは、だって時間の潰しようがねえもんよ。そんで俺、どこに売んの? 東南アジア? そう。もう、どうだっていいやそんなこたぁ。でもねえ、俺、思うんだ。一ヶ月だぜ。一ヶ月前、俺さあ、げらげら笑って、飯食って、女引っかけて、ゲーセン行って、遊んでたなあって。一ヶ月前……
遠いねえ。遠い昔だ。もう、戻れねえ……
あ、車来たみたいだ。
これで終わりかよ。じゃあ行こうかあんた。世話んなったなツカモト。お前のことは忘れねえよ。地獄の底から呪ってやるからよ。
「センパイ、最後ですから、ホントのこと言います」
おう、なんだよ、言ってみろよ。
「1万3千円ってずっと言ってたでしょ。
あれ、ホントは小銭もあったんです。1万3千11円でした」
オチつけるな馬鹿野郎ッ!
終
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賑やかしと言うより足を引っ張るようなものを添付してしまいました。
参加させていただければ幸いです。
痛いッ・・・有効!有効ッ!!
さのさま、アリガトウ御座います、メールでのテロ参加。
足引っ張られと言うより、グググと戻れない深みに引っ張り込まれた感じです。
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