乙女の闘魂
澱む熱気と期待に酸欠。
ドーム内特設リングは、満場の客の怒号に溢れた。
そして、いよいよ客席後方、スラッシュメタルのテーマが爆音。 客は総立ち、振り上げる拳。 通路でひしめき哀れなり警備員、薙倒されてキュゥと伸びる。 見よ、スポットライトの照射も不敵に、登場するのは覆面の男。
〜 さぁ! ドームの熱気が異界へ誘う! うねるが如くの大歓声、はたまた非難と糾弾を浴びてか、
リングの狂犬・戦慄のジステンバー・覆面ヒールの最高峰 『ロドリゲス・五郎』
今宵の惨劇を予告する彼の如く、不敵な笑みでの登場です!!!!
対戦相手は美形レスラーの プリンス こと オレンジ・ピエール!!
やぁ〜もう、王子と野獣、期待の対戦ですねぇ! イトウさん! 〜
『あぁん!むらむら緊張するわぁ! やん、このローブ、ちょっと地味じゃぁなぁい? だからアタシは、ピンクのスパンコールのがイイって言ったのにぃ、もおうっ!! でもまぁコレはコレで、お姫様ちっくよネェン! うふん』
二メートル近い巨体に分厚い筋肉の束。 黒地に黄色の蜘蛛の巣を描く、オドロしい覆面から射るが如くの鋭い視線。 その右頬に張り付く、マダラの毒蜘蛛のタトゥ。
禍々しい図のタトゥが右肩〜背までおぞましい糸を吐き、鈍くライトに跳ね返り光った。 絡み捕られて死を待つばかりの、憐れなアゲハ。 男は群がる観衆の狭間、時に跳ね除け、時に殴り、睥睨するように悠然と進む。
『いやぁん、ココ、冷房ケチッてんの? もう汗掻いちゃうぅ! それにマスクよ! マスク! やぁねぇ、この時期って蒸れちゃってぇ、乙女のお肌は柔なのようッ!! あぁンでも、うっとりねッ! マスクしててもアタシの美貌は垂れ流しよ〜ン! ホラ見てみんながアタシに、ク・ギ・ヅ・ケ!』
悪のカリスマ・地獄の使者に、一目対峙しあわ良くば触れようとする子蜘蛛のような観衆が、その鋼鉄の身体に無数の賞賛の手を伸ばす。
『ちょぉッとぉッ!!もうッ、イヤン! アタシに勝手に触んないでったらァ、触ンな言ってんでしょッ!! もう、わかんない子ねぇ、エイ!! ・・・あらキャッ、ちょっとリキ入っちゃったかしらン? -- まぁイイわ-- フン、不細工はアタシ嫌いッ!』
〜 あぁロドリゲス、非情です!悪の化身!自らのファンすら容赦なし!殴ってます! 威嚇してます!!
どうです?! イトウさん! 〜
『・・・だぁ〜かぁ〜らぁ〜、汚い手で触んないでッてば! ペッペッ、アンタ、好みじゃ無いのようッ!!』
〜 最早ロドリゲス、狂えるアドレナリン!! 此処より既に戦闘モード入ってます!
入ってますねぇ? イトウさんッ!
アァアまた一人、鉄拳を浴びた観客が鼻血吹いてますよ
-- けど、嬉しそうですねぇ、いやいやファン心理ですかねぇ、イトウさん!?! 〜
やがて男はリングへ乗り込み、不吉な音を立てて、凭れたロープを数回しならせる。向き合う青コーナーは、対戦相手。 フロリダ育ちのオレンジ・ピエール。 甘いマスクと巧みな技で、いまやまたの名を リングの貴公子・ジューシープリンス。
『あぁ〜〜ンッ!! ピエ〜ルッてば、写真の100倍、うぅん千倍も激プリティよぉッ! イヤァン、アタシどうしよう!!』
そして豪華な花束を抱えた三角ビキニの悩殺ガールズ、向き合う二人におずおずと花束を贈呈。 いやさすが、王子ピエールにっこり微笑みブロンドさらり、花束ギャルも思わずウットリ。
『ナニィ? あのブスッ! 一寸ばかりおっぱい大きいからって、アタシのピエ〜ルに色目使ってるワケ?』
一方、不憫なもう一人。 凶悪・不穏の権化に対峙、震えも止らず、俯き加減、それでも必死で渡した花束。
が、しかしイキナリ。 いきなりの凶行勃発。
『ナニさッ!下向いちゃって、アタシ見て笑いでも堪えてンのかさッ? キィ〜〜〜ムカツクッ! こうしてやるぅっ!!フン!!イイ気イイ気味、ブ〜ゥスッ!泣くがイイわっ! 』
〜 キレました! キレた! イキナリです! どうした?ロドリゲス!?
ゴングガールを、おもむろに花束で殴打とは!! 非情です!
あぁ泣いてます、水着ギャル、蹲って動けません!!
・・・ 薔薇でしたねぇ、痛いでしょうねぇ、イトウさん! 〜
『えっ? なにようレフリー、アンタがしゃしゃり出てくるわけ? 畜生! 皆でこの水着女、贔屓するってわけねッ? じゃ、アンタにもこうよッ!! エイッ!』
〜 おおっと!制止に入ったレフリー・カワセトシロウ(41歳)、頭突き受けましたっ! 昏倒してます!
・・・・・・ おやぁ? アレ、脳震盪ですか?
一瞬白目、なりましたね? 見ましたか? 今夜は荒れますねぇ、イトウさん!! 〜
転がるレフリーをリング下に蹴落として、今まさにピエールを狙う狂獣が欲望の炎を吐きつける。
『待ってらっしゃぁい、ピエ〜ルちゃん! アタシがアンタをぎゅうっと捕まえちゃうわよぉん!!』
小技を繰り出すピエールの健闘、がしかし、男は虎視眈々とその隙を狙い、首筋にホールド。
さてさて憐れアゲハか、プリンス・ピエール。
『・・・んもぉ、暴れん坊ねぇ、でぇもぉ、ほぉ〜〜らっ、つ・か・ま・え・たっ!! あぁん、離したくなぁい! でも、アレ、行くわっ!』
勢い任せでロープに弾く。
もはやピエール、人間ロケット。 豪速飛行で飛ばされすかさず、ロープに弾んでリバウンド。
『 ソォレッ!! アァ坊や、このアタシの胸に飛び込んでらっしゃぁ〜いっ!!』
飛んで行く先、ソレ即ち悪魔の抱擁。 激しくガチンコ、ラリアート。 もんどりうって倒れるピエール、乗り上げホールドのロドリゲス。 鋼鉄の四肢が、ピエールを縛る。
『 アンッ、猛烈ねェ〜 うふふ坊や、押し倒されちゃえ!! うふ〜ん、あぁもう食べちゃいた〜い!! チュウしちゃおっかしらぁ。』
〜 ピエール動けません!! カウントか?
レフリー、カワセトシロウ(41歳)、まだ、ダメージを残しふらつきながらも、カウント体勢!! 〜
『え? なに? もうカウント? 一寸、早や過ぎない? レフリー、何さ、さっきの仕返しってわけ? 』
〜 ワン・トゥ〜・スリ、ッ、
あぁ! 跳ね除けました! ピエール、悪魔の腕より奇跡の脱出!! 間一髪です!!
やぁ〜危なかったですねぇ、イトウさん! 〜
『駄目よ駄目駄目ッ!! ま〜だ此処で、終わっちゃつまんないわぁ、ホレ、お逃げなさい −−−アタシの可愛い坊や!』
男は、ネズミをいたぶる猫の如く、生かさず殺さずその残虐に酔う。 鼠のプリンスは既に消耗が激しく、乱れたブロンドの間から覗く瞳は漠然とした恐怖、畏怖、そして危機感を雄弁に語る。
この敵は、何かが違う。
何かが、己を脅かそうとしている。
しかしピエールとて、技巧派といわれるレスラー。
己を叱咤し、果敢にも得意の関節技へと持ち込もうとチャンスを狙いつ、距離をとる。
〜 ピエ〜ル! 出鼻のダメージが響くのか、技にキレがありませんっ!!
--- スピードがどうもねぇ、イトウさん。
が? おぉッと! カケたか? 背後廻りこんだぁ! ピエェ〜ルッ!
関節技から反転、そしてッ!! 逆エビ! 逆エビ決まるかぁ〜〜〜? 〜
『 いやぁんもう、バックはイイけど痛いのはイ・ヤ! アン、でもキュートなヒップが、アタシのヒップにうぅん密着。 ---けども坊や、遊びはもうお終い、アタシはヤルときゃヤル女!』
脅威の背筋・のたうつバビロンの大蛇の如く、男はその身を跳ね上げくねらせ、瞬く間にピエールの拘束を放れる。
〜 あ、あの体勢は、ロドリゲス、ヤルのか? ヤルか?
出ますかねっ? イトウさん!! 〜
『はぁい、ギュゥッ! 抱きしめちゃう〜〜ッ! で、ちょおっと御仕置きよぉん!!』
〜 ロ〜ドリゲェスッ、悪夢の抱擁・死の序章、そして、そ、そして、出たッ、ブレンバスタ〜!!
決まった!
決まりましたねぇ、イトウさん! ピエール哀れなり!! 哀れ瀕死の美しき瀕死のプリンス!! 〜
最早ピエールは浅い呼吸をするのみ、身動き一つ取れず。 男はその身体に覆い被さり、より一層ピエールを圧する。
『 アァ〜アン快感ッ! もうアタシ達ってばリングのメルティングラヴァ〜ズ、触れ合う肌も熱いわぁ〜』
〜 レフリー・カワセトシロウ(41歳)カウント入りますっ!
ワンッ! ツゥ! スリィ〜! 入ったぁ〜ッッ!!
圧勝です、悪は勝ち誇るか? 情け無用のリングの仇花!! ロドリゲス五郎、不敗神話崩れずッッ!!
あぁ一斉にピエール陣がリングに雪崩れ込み、乱闘です!
ぅをお?!ココもッ、ココにも危険がァッ!!
ィ、イトウさんッ! 避けて! パイプ椅子がっ!! 〜
混乱とカオスのリングにて、男が意識を失い酸欠のピエールにドサクサ紛れのベロチュウを贈った事は、誰も知らない。
そして次の対戦相手 南国の赤い薔薇*ドンファン・ベルーシ に、激しく食指を動かされている事も、まだ誰も知らない。
覆面レスラーロドリゲス五郎。 おとめ座。 AB型。 巳年。
薔薇のクッションと、シルバニアファミリイ・コレクションを愛する24歳。
ちなみに男は外専。 リバOK.
趣味と実益を兼ねたこの仕事は、彼の生き甲斐でもあった。
August 27, 2002
* 知る人ぞ知る 『かぶる?』 奇天烈かつ麗しい魔性の祭典に、心はチヂに乱れ、潜り込む算段には
余念がないわたくしでした。 で、面識の無い chibi様(主催者)に、イキナリ、コレを送りつけたのです。
−−− 無鉄砲。