なんか罵倒されてると思って、それ喰うのやめた。 

口ン中まだ残るのをベロで掃除して、左奥に引っ掛かったのはソコに有る癖に取れなくてムカツク。
そんな俺の前に立ち、ヨシズミはドモリながら怒鳴っていた。
小鬼みたいに目ぇ吊り上げて、台詞カミカミで怒鳴り散らしてた。

『オレは言ったじょッッ!!』

じょッて何だよ? お子チャマでしゅか〜? 
もしかしてコイツ、舌、短いのかなと思った。 
けど「じょ」はねぇだろうと、わりにツボに嵌りゲラゲラ笑ってる俺をヨシズミは黙って見ていた。 
あんま見た事ない、なんか、変な顔で見てた。 
だから俺は親指を突き出し、ヨシズミに言ってやった。 

イェ〜〜イ! 

笑えよ、でなきゃ喰えよ、ナニ変な顔してんのオマエ?


皿の上スプーンで切り崩す黄色はグズグズと蕩け、中身の赤はモソモソしてゲロに似ている。 
あぁこの際言っとくけど、俺ケチャップターボのチキンライス嫌い。 
あとなんか、塩足りねェンじゃねぇの? 

ヨシズミは何も言わない。 
何も言わないで俺を見てる。


冷めるとよけい不味くなるから、モソモソするソレをスプーンで杓った。 
どっかで「いいとも」の声が聞えた。 
何度も聞えてるから、あぁ日曜だよなとしみじみした。 
どうせ怒るんなら喰った後とかにしてくんないかなぁと思ったが、そう云う問題じゃねェとかヨシズミは言いそうだ。
絶対言う。
じゃ、この場で怒られててもまァ良しとして、今はコレを早く喰っちまいたい。 
喰ったらカモシゲんトコに行く約束がある。 


オマエも行く?


伸ばされた腕と広げた掌がテーブルを走る一瞬。 

薄汚れた深緑のビニールタイル、その上にぶちまけられた黄と赤と砕けた皿の鋭角の白。 
まさにゲロそのものの真ん中で、俺はスプーンを構えポカンと口を開ける。

『・・・・・・わかんね・・・』

ヨシズミが顔を手で覆う。

『・・・おまえ、ナンもわかんねぇよ・・・・』

目を覆い額を鷲掴む広げた手の甲に「う」の字に似た小さな切り傷が一つ.。
赤より薄くオレンジよりは濃く、血は半端な勢いで淡くヨシズミに色を着ける。 


だから手を伸ばし、歩み寄り、俺はソレを舐めた。

裸足の足の裏でグチャリと潰れる赤と黄と鋭角の白。 
半端な鈍痛は足の裏ばかりではない。

俺らは何もわかっちゃいない。
俺らは何一つ知ろうとしない。



なァおまえ知らねぇだろうけども俺さ、オムライスが嫌いだ。








      :: おわり ::



         百のお題  039 オムライス