ココだけの話。 ザビエルも吃驚だが、実は、この世はアイツの為にある。


何しろ運のイイ奴が居たものだ。 それはクロベ。 今そこで、ババァの行列サバイてるデカイ男。 そして運にスル〜される男も居たものだ。 それは俺。 今ここで、切れそうなクロベにハラハラしてババァを奥様と言い直す男。 そんな俺らは梅雨開けの日曜、出来たばかりのアミューズメントホールとやらで、会場係のバイトに勤しんでいた。

目下の任務は、手荷物お預かり係。 入場時、客から預かった荷物を時間が来たら返す。 以上。 わぁ楽勝じゃん! と説明会ではヌカヨロコビした俺たちだが、だがしかし、その数500以上、相手が【下町のプリンス*ウメザワキヨシ】お目当てのオバサマ集団とくれば、そりゃぁ、蜘蛛の子を散すが如くのカオスと混乱があったわけで。

カァ〜ッ、ウジャウジャわからねぇよなぁ、畜生! と、ぼやくクロベは自棄をおこしたか、一挙にソレを両手で抱え上げ、カウンターに見立てた簡易長テーブルの上、ドサリとまとめて並べた。 常識有る俺は、ソンナンじゃどうなる事やらとハラハラするのだが、クロベは非常識ナリに手際が良い。

『ひゃ〜くにじゅうきゅうばんの、鰐皮ショルダーとタカマシ屋の紙バッグのお客さまァ〜ッ!! ひゃァくにじゅうきゅうばんの鰐皮ショルダーあんどタカマシヤ袋のお客さまァ〜ッ!!』

あ、アタシよォ〜と片手を上げ、突進して来るマダムが一人。 すかさずクロベ必殺 御人好しスマイル を炸裂させ、

『…… ハイッ、お疲れ様でしたァ、またどうぞいらしてくださいませぇッ!!』
『うふふ、ありがとぉ。』

上機嫌のマダムが、素早く一丁上がる。 そして胡散臭く眺める俺を見て「な、このほがハエェじゃん」と得意げなクロベ。 

確かに見る間に列は捌け、茹だるほどあった奥の手荷物は徐々に隙間すら見え始めていたりする。 けど、なんかスッキリしない俺だった。 

向こうかた、東階段の受付を見れば、真っ当に番号探ししてるにもかかわらず行列はトグロを巻き、焦れたおばさんたちが不満を述べ、急かされる係員は逆切れ寸前で、なんともエライコトになっていた。 そんな修羅場の市民ホール、数字を復唱するクロベの野太い声が響く。 場違いなソレは咎められもせず、あらら威勢がいいわねぇ! と、なにやら好印象。 

いつもクロベはこうだ。 コイツ、何事も、人生甘やかされ過ぎかと思う。 


『そりゃぁつまり、人徳だろう?』

何をイケシャァシャァと。 

『そうよ、俺、運も勘も滅茶苦茶イイぜぇ〜。』

知ってる。 

クロベは小2の時、たまたま祖父母と出向いた某老舗デパートの、通算百万人様に選ばれて十万円の商品券を貰った。 ソレが当たり人生の始まりだったらしい。

その後、街角チビッコジャンケン選手権でアメリカ行きをゲット。 蛇ガリコチップスの懸賞では特賞オーディオセットをゲット。 現金・家電から食い物・旅行券まで、何かと当たって何かと潤うクロベ。 最近では正月の余り葉書で出した懸賞が当たり、でっかいエスティマを乗り回す身分。 怠け者のクロベがここまですんなり進学出来たのも、恐るべき勘の良さでマークシートを制覇したゆえだと、俺は睨んでいる。 

『アレはさ、不思議なんだけど、コレだぜッ! って数字がこう、ピカッッて見えるんだよねぇ。 二択とかだと「コッチだッッ」て感じで。 同じようでソコは違うんだよ、絶対違うんだなぁ。』

そうはイクか、ならばどうよ、俺のこの不運振りを。 

俺の不運は、サクラ幼稚園年少時から始まる。 

入園当日、当日なのに、俺は春風に倒れた【おめでとう!!】の看板の下敷きになり腕と肩の骨を折る。 ソコからは不運道邁進。 道を歩けばキャッチに当たり、自転車に乗れば当て逃げされて、店に入れば「品切れですゥ」とまず、言われる。 あぁ今日は不味いなと思った抜き打ちには必ず、手堅く引っ掛かり、じゃ、もう息を潜めて生きてればイイかと言えば、ヤンチャな誰かの巻き添えで、より酷く修正不可能なとばっちりを受ける。 チナミに二択では迷った末、必ず外れ、マークシートを遣ろうモノなら、決まってラスト1題、何故か解答欄がもう無い事に気付く。 

それだから、俺は今年ランク二つ下のG大付属に渋々入学。 
クロベは勘だけでランク二つ上がり、同じくG大で俺と出会う。


『初っ端から寝坊したしよ、バスなんか待ってらんねぇって、走って二駅飛ばしたさぁ。 ちんたらした坂ヒィヒィ上がって、あァ、もうソコだッつう時、ファイツオォ〜ってな陸上の連中がゾロゾロ横切って。 で、うん、ジャ〜ンって感じ。 奴ら通り過ぎて、ぽっかり穴開いたみたいな視界ど真ん中、お前、居たし。 正門の前、映研の奴らに勧誘されて、物凄く嫌そうに時計見たりして、水色のシャツ着て、ポカリの500ぶら下げて、 俺ね、それでピピピとキタわ、コッチッ!! ソレだッ!! って感じ、』

俺にしたらピピピッてか、朝から奇天烈なホモナンパ、わぁ〜ヤバイ奴に出遭ってしまった! ジーザスッ! とかだったけど。 でも、世界は俺の気も知らずクロベを中心に回り、いまやアンナやコンナもする、俺とクロベの抜き差しならぬ仲。

『だからよ、俺は運命に愛されちゃってるのよ、あははは!!』

ソンじゃ、確認しとこうか? お前ってば、身も心も俺に捧げるッ!とかマジ思う?

『な、ナナナナなんだよ、おい、つ、ついに俺にメロッとキタか? だなぁ、ようやく俺の素敵さがわかっただろ? だろう? オレッくらい愛タレナガシで、フォ〜ユゥ〜な男、絶対居ないってわかっただろッ?!』

したらばOK。 OKだ。 

俺のスカを糧にクロベはラッキィを鷲掴み、結果、俺はクロベとスペシャルにハッピィになるのかも知れない。 コリャ、巧いコトいっている。

それだから、ココだけの話し、マハトマガンジーも吃驚だが、この世はクロベの為にある。
だがしかし、世界を回すクロベとは、間違いなくこの俺のモノ。


     There is the world for us. 

     今日も明日も明後日も、世界は俺らの為にアル。






      :: おわり ::



         百のお題  026  The World