あんたがいるから俺は、俺で在り続ける事が出来ない。
     あんたは俺が居る限り、あんたの人生を歩く事が出来ない。
     どうにもなんねぇな。

     どうにもなんねぇから、なぁ、いっそどっちか死ぬってどうよ?


そう言って笑ったアレはほんとに馬鹿だから、六日後の朝、僕の訃報を受け、紙みたいに白くなり奈落みたいな暗い眼をしたという。 馬鹿だね、そんなにうろたえて。 そんなに打撃を受けるんなら、あんな、人を試す提案しなきゃ良かったのに。 ほんとに浅はかで馬鹿で、ほんとに、なんて可愛いんだろう。 だからね、僕がアレを諦められる訳が無いじゃない? そうでしょ? ねぇ。

やだな、よしてよ、僕だってそこまで悪人じゃない。 僕はね、そう、僕はアレを開放してやりたかったんだ。 僕という枷を外し、アレの言うところのアレらしいアレの望む人生とやらを、プレゼントしてやろうとしただけなんだ。 

え? 諦める? え? 何を? あはは冗談じゃない、僕はアレを手放す気なんて一つも無い。 僕という存在の枷をアレが重いと感じるなら、ならば外してやろうというそれだけ。 枷無しで縛り付けるんなら、檻に入れるが一番だろう? 僕はアレに僕の死を教えた。 つまりアレの中では僕が消えた。 僕が居ない世界で、実は僕の檻の中。 見える枷を一つ外しただけの自由をアレは満喫し、僕に飼われる。 実に良い按配の計画だったんだけどね、あぁ、アレがまさかあんな馬鹿だとは。

ま、ね、全て結果だけれど、だから、なにせ浅はかで馬鹿なんだよねアレはさ。 だからああいう風になったのは全くの誤算。 全くのアクシデント。 でも、またと無いチャンスではあったんだ。 訃報を受けた二時間後にアレがぴょんと7階からのダイブをするなんてねぇ、まさか今時そんなメロドラマな展開考えないでしょう? まさか拠りに寄ってアレが、そんなセンチメンタルに浸ってたなんてさ。

で、ね、今? あぁ御覧よ、ほらね、フフフほらコッチコッチ、この部屋だよ、そら御覧。 

アレだよ。

そう、良いだろう? 憐れで馬鹿で可愛いもんだろう?

アレはね、ああして僕の事を一日中待っている。 僕に生きる全てを委ね、僕の訪れるのを待っている。 皮肉だろ? 今やアレの全世界は僕を中心に回り、片や僕の人生の総てはアレを中心に回る。 アレは僕無しじゃ生きられない。 あぁそれはもう、比喩表現でなく本当の意味でね。 だけど僕だってそうさ。 僕はこうなる以前からずっと、アレ無しで生きられるとは思っていなかった。 アレの居ない人生なんて考えたくも無かった。

だからさ、これは神様の御褒美だと思ってるんだよ。

こんなにもアレを想いこんなにも愛を注いだ僕に、『じゃぁ、アレをあげよう』ってきっと、神様が良きに計らってくれた幸いなのだって。 僕はね、最近確信しているんだ。 うん、僕はね、今とっても幸せだ。 

愛しているよ、

ほんとうに、

ほんとうに僕らはもう離れられないんだ。 


僕らは互いを引き釣り互いを搾取して生きる、歪な美しい双子。
世界の終わりまで、ずっとずっと僕たちは、ずっとずっとずっと……。



     愛しているよ。





      :: おわり ::



         百のお題  016 シャム双生児