マイナー系の俺とメジャー系のお前は、そもそも反りが合わない二人だった。

日常に深く沈み込むように、息を潜め、空気すら疎ましく生きる俺とは反対に、暮らし振りそのものが波風のお前なぞは、攪拌する空気すら派手に彩色して、突き出した拳のように己の存在を示す。 それをお前が望まざるとも、お前の軌跡は蛍光色の残像となり、あちらこちらに忙しい点滅をする。

そんなお前は二ヶ月前の深夜までを、同じようなメジャー系の相棒と過ごし、道端だの、路地裏だのに、蛍光色の飛沫をこれ見よがしに残し、不穏な胸騒ぎを無駄に誘っていた。 そして俺はといえばやはり、同じようなマイナー系の相棒とあの日の深夜までを過ごし、店の壁際だの湿った高架下だのに、煮凝りのような低音の澱みを残し、ゾッとする無気力感を挑発的に誘っていた。 

それゆえに、俺たちは逸脱を常とする。 相棒との相乗効果で酷く高揚し、あるいは沼に溺れるように。 慢性的な疲弊感を持余し、時にヒリヒリするほどの皮膚感覚を疎ましく思い、墜落する時間の経過をただ、車外の景色を眺めるように、無為に無作為に受け止めていただけ。

つまり、二ヶ月前の俺たちは、禍々しい二つの点にすぎなかった。
しかし、俺たちはあの日を境に、引き寄せられ、そして融合する。

水蘚の青を纏う俺は、搾取され続ける体温と、抜き取られ続ける思考に辟易し、お前を取り巻く蛍光色の熱に、恐る恐る触れようとしたらしい。 それはなんとも誘惑的で嗜虐心をそそる、アンモラルな御遊びの匂いがした。 

かたや泡だらけの胸騒ぎを引き連れたお前は、息切れする好奇心に悲鳴を上げ始め、そして見やるドロリとした抑鬱に、ふと、ちゃちな足首を浸してみたくなったらしい。 それは恐怖と背中合わせの快楽を思わせ、さながらリスキーな性交を試みる緊張感に似ていたと、のちにお前は言った。

だから俺たちは二ヶ月かけ、じわりじわりと溶け合った。 

引き寄せあう欲望は、理性では制御出来ず、もはや獣の本能のそれに近く。 対極にある互いの進入を、全身は拒み震えはしたのだが、その苦痛を上回る悦楽に逆らう術を、俺たちは一切持たなかった。 ずるずると掻き混ぜられる剥き出しの悪意だの好奇心だの、絡め捕られては深い混沌に投げ込まれる闘争心だの理性だの。 逆らうシナプスを麻痺させて、生温い体液を持つ一つの塊へと、俺たちは刺激的で緩慢な変化をしたのだった。


斯くして、マイナー系の俺とメジャー系のお前は、生温い無彩色の塊となる。

拮抗し合う俺たちは、御機嫌な無となって、なかなかに心地好い退廃ではないか?



      :: おわり ::



         百のお題 010 トランキライザー