樹から落ちた林檎とともに

「じゃあ残った部屋はデリアがひとりで使ったら?あたしとミネアが一緒でいいから」

 今夜はひとりの部屋だ。そう思うとデリアは急に胸の鼓動が早まるのを感じた。
 こんな早鐘のように打ち続けると、飛び出してしまうのでないだろうか?と、デリアは心臓の当りに左の手を置き、自分の鼓動を確認した。
 そして、意を決し、大きく深呼吸をすると、前に立っているライアンの外套へと右の手を延ばした。
「な、なんでしょう?デリア殿」
 突然外套を引っ張られたライアンは驚いて振り向いた。
「……あ、あのライアンさん。今日は……今夜は」
 デリアは外套の端をつまんだまま俯いている。
 その様子を察したライアンは周囲を見回し、誰も自分たちを見ていない事を確認すると、デリアの耳元でそっと囁いた。
「わかりました。夕餉が済みましたら、頃合を見てお部屋に伺います」
 ライアンのデリアを見る目付きが変わる。主を敬愛する従者から愛しい女を見る男の目付きに。
 そんな目で見られたデリアは胸の鼓動が益々早まり、手足の指の先まで熱くなるものを感じた。

       ※

「まだ、山ほどありますな」
「ええ……ミネアがあとで砂糖煮にすると言っていたのですが、それでもまだこんなに……」
「うむ。でも仕方ありませんな……売り物にならないのでは」
「そうですね。収穫前に樹からに落ちてしまって、傷があると早く腐ってしまいますからね」
 デリアとライアンは寝台の上に並んで座り、机の上に置かれた林檎の山を見つめていた。
 この宿の周辺は林檎の産地だ。今デリア達の居る部屋の窓からも林檎の木々が見える。
 昨日この辺りの地方に嵐が通り過ぎ、沢山の林檎が樹から落ちてしまった。
 普通に樹からに収穫出来れば保存がきき、他の村や街、国々にも売ることは出来るが、傷ついてしまってはそうもいかず、出来るだけ早く食べてしまわなければ腐ってしまう。
 そういうわけで今、この宿屋に泊っている客には、林檎が無料で山ほど奉仕されているのだ。
「早く……食べないと勿体ないわね」
「そうですなあ……」

 会話が途切れるとライアンはデリアの肩を抱き、そっと口づけをした。
 デリアはライアンの行動に少し驚き戸惑った顔を見せた。
「今夜はこれを、御望みではありませんでしたか?」
 デリアは今度は自分からライアンに口づける事でそれに答えた。
 口づけを交わしていると、次第にライアンが激しく舌を絡ませてきた。デリアはその行為に戸惑いながらも身を任せた。
「……お待ちしておりました。貴女が私を再び御望みになって下さる事を」
「ライアンさん……いいのですか?わたし……前のとき……」
 そう言いかけたデリアの唇をライアンが再び塞いだ。
 あんな形でライアンと結ばれた時の事を悔やんでも、今更どうしようもない。でも今、ライアンがこうして自分を抱いてくれているのだ。今ここからが、ライアンとの本当の始まりなのだ。
 デリアはそう自分にいい聞かせた。

 唇が離れるたびに、デリアの衣服は一枚づつ取り除かれる。乳房を露出させられると、一瞬そこへライアンの唇が触れる。少しずつライアンの呼吸が荒くなり、やがて最後の下穿きに手がかかると、がごくりと唾を飲み込んだ。ライアンの喉仏が動く様を見つめながら、デリアはなぜかとても恥ずかしくなり、思わず目を閉じた。
 その僅かな時間にライアンが自分の衣服を手早く脱ぎ去っていた。
 
「きゃ!」
 目の前には屹立したライアンの肉茎。デリアは思わず小さく声を上げ目を丸くした。
「ん?どうされましたか?」
「あ、あの……こんなのが……」
 くちづけを交わしただけで、男のひとはこうなるものなのか?デリアは少し驚き、無言のままライアンのモノを見つめ続けた。
 そんなデリアの様にライアンは少し苦笑しながら言う。
「……触ってみますか?」
 言われるまま、デリアがライアンのものを握ると、ライアンは小さく声を立て目尻が僅かに下がる。
 デリアはその様子をとても滑稽に思いながらも、嬉しそうにしているライアンを見て自分も嬉しくなった。

 こんな状態の男性のモノを目にするのは初めてではない。まだ旅に出て間もない頃マーニャとミネアで泊った娼館で男と女の営みを見せつけられたときと、街中でアリーナと買い物しているときに、上衣だけ羽織った頭のおかしな男が自分たちに見せつけて来たとき。
 それと……。
 (この間は両方とも……よく分からなかった……)
 前の事を思い出し思わず比較しかけたデリアはその思いを頭の中から消し去ろうと首を振り、ライアンの肉茎を握ったまま己の秘所に導こうとした。
「デリア殿。まだ早いですぞ。貴女のご準備がまだ、整っていません」
 ライアンはそれをさりげなく制止すると、デリアの茂みへと頭をずらした。

「あっ……」
 デリアの茂みの中の花弁がライアンの指で押し広げられた。
 茂みの中を見つめ続けるライアンの呼吸が荒くなる。
 デリアも次第にその部分が熱くなり、滴っていくのを感じた。
「ああ……デリア殿のここは、やはり……素晴らしい……」
 やがて花弁の肉芽にそっとライアンの指が触れ、ゆっくりと弄られる。
「あっ……ん」
 その刺激はなんとなく心地よく、デリアは思わず身をくねらせた。それを受けるようにライアンの指の刺激が強まってゆく。
「あっ……ああん!」
 その愛撫に思わず大きく声が出てしまったデリアの唇をライアンのもう片方の手が塞ぐ。
「出来るだけ……声を御控え下さい。隣室に我らがこのような行為を行っている事が、知れてしまいますぞ」
 
 知れてしまうことが悪いことなのだろうか?そんな疑問が一瞬デリアの頭の中に浮かんだ。だが、口づけをされ、続けてライアンの指が花弁の中の蜜壺へと滑り込むと、すぐにどうでもよくなってしまった。
 ライアンの指がデリアの蜜壺の中を何度も出入りする。その度に聞こえる水音にデリアは自分の中の滴りが増すのを感じた。
「は……あっ……ん」
 ライアンに言われた通り、声抑えながらデリアは喘ぐ。
 やがて、ライアンは一瞬愛撫を止め、デリアに囁いた。  
「デリア殿……どうやら貴女のご準備も整ったようですし……そろそろよろしいですかな?」
 真剣な言葉を言っているようでも目付きはぎらぎらとして、いやらしい。
 
 ……これが欲望に満ちた男の顔なのだ。
 前のときは、どうしようもない精神状態でそんな事を考える余裕はなかった。だが、改めてこうして向き合ってみると、ライアンの新たな面が見える。自分を『勇者』として扱う『仲間』としてでなく、ただの『女』として求めてくれている『男』としての顔が。

 デリアが小さく頷くと、ライアンは身体を起こし、再びデリアの唇に口づけ、同時に花弁の滴りの中へ肉茎を押入れた。
「ああ……」
「……っん」
 ライアンが小さく呻くとともに、デリアはその押し入られた感触に違和感を覚える事に驚いた。前に受け入れているはずなのに。と。
 
「やはり……まだ痛むようですな」
 少しだけ浮かべてしまったデリアの苦痛の表情をライアンは見逃さなかった。
「仕方ありません。まだ、我らが過ごす夜は二夜目。それもあれから、ひと月ほど経っております……女性のほうは……快楽を得るのに……時間がかかると、いいますからな」
 自分の中に入りながらライアンの息が次第に荒くなる。でもそれは苦痛から来るのではないのだとデリアは感じ、聞き返してみる。
「ライアンさん……は?」
「……気持ちよい……ですよ……これでも、耐えているのです……貴女の中が……凄すぎて」
「わたしの……何が凄いの?」
「ああ。おやめください……貴女がそうして、喋られるだけで……ああっ!」
 その瞬間ライアンは肉茎をデリアの中から引き抜いた。そして肉茎の先から白く生温かいものが数回にわけて、デリアの下腹部に滴り落ちた。
 この間はこんな風に自分の中でなっていたのか……。
 射精の瞬間を目の当たりにしたデリアは、興味津々と自分の下腹部と萎えたライアンの肉茎を交互に見つめた。

「……もうしわけありません……こんなに早く……」
 ライアンはとても恐縮した顔で、枕元に置いていた手拭でデリアの下腹部を拭き取りながら言った。
 デリアは身体を起こすとライアンに口づけ、笑顔を見せた。
「いいの」
 デリアはなんだか珍しいものを見たような気分になり、一瞬で終わってしまった行為や大して快楽を得られる事が出来なかったは、どうでもよくなっていたのだ。

「林檎。食べなきゃね……」
 デリアは机の上に置かれた林檎をひとつ取りだした。嵐に襲われて落ちてしまい傷ついた林檎。傷がはっきり見える林檎だった。
 ……まるで、あのときの自分のようだ。デリアは林檎を見つめながら、ふと考えてしまった。
 デリアは傷の部分を小さくひと齧りした。
「私も頂こう」
「あっ……あの、ライアンさん……」
 ライアンはわざわざデリアの持っていた林檎を取り上げた。目の前にはまだまだ山ほどあるというのに。
 そしてデリアの齧ったあとをそのまま齧った。
「うん……美味いですな。少しぐらい傷ついても中身は変らない」
 そう言いながらライアンは齧った林檎は再びデリアの手に返した。
「どうぞ」
 笑顔でそう言われてデリアは一瞬面食らったが、なんだか可笑しくもなり、その林檎を今度は大きく齧った。
「そうですね。本当に美味しいですね」 

 デリアはなんだか嬉しかった。これはライアンが『恋人』である自分にしか見せない顔である事を確信したからである。

「今度は……頑張りますよ。一回出してしまうと、次は長持ちするのです……ですから、デリア殿も……」
 ライアンはおもむろにデリアの耳元で囁きながら、デリアの乳房を愛撫し始めた。デリアは林檎を飲み込むライアンの喉仏が動く様見つめ、その愛撫に身を任せた。
 そっとライアンの逞しい胸板に触れると、早鐘のようなの鼓動がデリアに伝わった。

− fin−


あとがき

イベントに出るのに新刊がなくて寂しかったので、もともとweb用に公開するべく短い話し話を本にして、Web掲載前提で無料頒布したものです。そのあとがきにも書いていますが、単にいちゃついている二人を書きたかったのですが、ちょっと影を落としたウチのライ女勇らしい(?)話になってしまいました。
ライアンさんの喉仏の描写が出てくるのは一応「アダムの林檎」の暗喩のつもりです。
これを同時期に書いていたDQ9の小説とムダに繋げようとして、挫折した作品でもあります。


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