「うーん。やっばりいい男だったわ。あのホイミンとか言うひと」
「姉さん!何言ってるの!こんな時に!」
デリアとアリーナ、マーニャ、ミネアの4人は城の門番の目をかすめ、魔法の鍵でキングレオ城に潜入すると、城の兵に気付かれぬようにデリアを先頭にして壁伝いに歩いていた。
潜入したときから、やたらとにやけた顔をしていたマーニャが放った言葉に、ミネアがすかさず怒り出す。
「もう!いったい二人でなに言ってるの!ここにはあなた達姉妹の仇のバルザックがいるのでしょ!せっかく助太刀しようと一緒に来たのに!ねえデリア」
「えっ。……ええ。そう」
デリアはアリーナの言ったことを聞いていなかった。あのホイミンとか言った旅人がいった人の名が気になって仕方がなかったのだ。
それは、少し前に訪れた岬のお告げ所の修道女が『勇者』の姿を伝えたと言った人の名と同じであった。
その人に『勇者』といわれる自分の姿をあの修道女がどのように伝えたとのかと思うと、デリアはなぜか気恥ずかしかった。ただの小娘である自分が『勇者』だなんて失望されていないだろうかと。
デリアはここで最後の『仲間』に会えるのだろうか、それはどんな人なのだろうかと考え、わくわくと期待をするような妙な気分だった。
「なによ!デリア!あなたまでぼやっとして!」
アリーナが少し興奮気味にデリアを睨みつけ見上げると、デリアはたじろぎ苦笑した。
「ご……ごめんなさい」
デリアはこんな時アリーナに対して引け目を感じてしまう。背ばかり高く木偶の坊のような自分と違って、身体は小さいが、頭の回転が速くてきぱきと動くことのできるアリーナ。だれもが褒め称える可憐な容姿。さらさらの亜麻色の髪。時々垣間見られる王女としての気品の高さ。デリアはそんなアリーナこそ本当の『勇者』ではないかと、時々思うのであった。
それよりも今はマーニャとミネアの仇であるバルザックと、そして一緒にいるはずのキングレオと対峙しなければ。とデリアは思いなおした。早くしなければ、その最後の『仲間』も殺されてしまうかもしれないのだ。
マーニャとミネアが一度殺されかけた相手を、今の自分達で倒す事が出来るのだうろかという不安もあったが、倒さなければ『仲間』が揃わない。そう思うと心してかからなければと思った。
デリアは大きく気持を切り替えるため大きく深呼吸すると、すべての神経を張り巡らした。
「……行きましょう。案内してマーニャ、ミネア。アリーナ……怪物や護衛の兵士が現れたらお願い」
「任せて!」
デリアの目つきが変わったことに、アリーナが満足げに頷いた。
デリア達はマーニャとミネアの記憶を頼りに、バルザックが、そして最後の『仲間』が捕らえられていると思われる部屋へと向かった。
すると少し離れたところで、ざわざわと人が争うような声が聞こえてきた。
「このあたりよ」
ミネアがそう言いい、奥まったところにある部屋の近くに来ると、大勢の兵士を相手にただ独り抵抗する者がいた。その者は自らを抑えつけようとしている兵士を次々に剣の峰で、柄で、そして肘で、相手の鳩尾を、頚筋を確実に当てていた。
「あっ!あの人だ!」
アリーナが思わず叫んだ。
「あの人がバトランドの戦士ライアンだよ。腕の立つ奴だとは思ったけど、本当に凄い!」
ライアンは自分を拘束しようとしたすべての兵士達をなぎ倒すと、アリーナの声に気付き振り返る。と同時にその声の主と共にいたデリアを見つけると、驚くように大きく目を見開き、デリアの方へと駆け寄って来た。
「……その姿……そのいでたち……。間違えない!お告げ所のお告げのとおり……私はバトランドの王宮戦士ライアンと申す」
ライアンは先ほどの兵士とのやり合いで、少し息を乱してはいたが、ゆっくりと言葉を確かめるように言った。
デリアは最後『仲間』に会えたと思うだけで、なんと答えたらよいのか上手く言葉が見つからず、暫くライアンの全身を眺めた。
女としては高めの背丈である自分より、頭ひとつ以上高い背。一見細身ではあるが、長い手足に無駄なくつく筋肉。
デリアが少し緊張した面持ちで、ライアンを見上げていると、ライアンは申し訳なさそうに手に持ったままだった剣を鞘に収め、デリアの前に跪いた。
「おお。ついに探し求めた勇者殿にお会いすることが……貴女さまを探して私はどれほど旅をしたことか……」
ライアンはデリアを感激の眼差しで見つめた。デリアもその眼差しを受けるように、思わずライアンの目をじっと見つめた。
思わずライアンはデリアの手を取り、その甲に接吻しようと、デリアの手に顔を近づけた。
その時デリアの胸の奥で熱く奇妙な感情が湧き出した。胸がどきどきと高鳴り、息がつまりそうな感覚。
デリアはそれと似た感情をどこかで感じたような気がした。だがそれが、いつだったのか、どこでだったのかは思い出せなかった。
「うふふ。お二人さん。ねぇ。こんな事してる場合じゃないかもよ。ふふふ」
ライアンとデリアのやりとりを見ていたマーニャが笑いながら言うと同時に大勢の兵士の声が、がやがやと聞こえて来た。
「姉さんも笑っている場合じゃないでしょ!デリアもほら!」
「全く。さっきぼやっとするなと言ったとこでしょ!デリア!」
皆の叱咤にデリアは、はっと我に返った。
「うむ。今は苦労話をしているときではないな」
ライアンはデリアの手を離し立ち上がると、再び鞘から剣を抜いた。
「この部屋の中にいるのは、世界を破滅せしめんとする邪悪の手の者と聞きます。ともに打ち倒し、その背後にひそむ邪悪の根源をつきとめましょうぞ!さあ中へ!」
ライアンに促されると、デリアはさらに気を引き締め剣を鞘から抜いた。
「おのれ!くせものめ!であえ!であえ!」
城の兵士達がデリア達のそばまで迫ってきた。デリアが兵士達の方向に振り返り剣を向けようすると、ライアンがさっとデリアの肩に触れながら、首を横に振った。
「とりあえずここは、私が引き受けます。さぁ!皆で中へ!」
ライアンの申し出にデリアは即座に頷きながら、扉の取手に手をかけた。
「では、そちらはお任せます」
「お任せを。勇者殿」
デリアは扉を一気に開ると、部屋の中へと飛び込んだ。
部屋の奥の玉座には八本の足を持つ怪物が待ち受けていた。
「あれが。キングレオよ」
さっきまでの笑顔が嘘のようなマーニャの真剣な眼差しがそこにあった。ミネアもその怪物を睨みつけている。
ただの怪物でない妖気にデリアは剣を握りなおす。アリーナも腰を落とし体勢を整えた。
そんな一同を見つけた怪物は不敵な表情で、デリア達を睨んだ。
「私の名はキングレオ。デスピサロさまに代わりこの国を支配する者だ」
やはりこの怪物もデスピサロの手先。デリアはその名を聞くと、生唾をごくりと飲んだ。
「姉さんバルザックがいないわ」
「……そうね。バルザック!いるなら出てきなさい!」
「ほう。そこの娘。お前達は確かバルザックに怨みを持つ娘だったな。生憎だがバルザックは、ここにはいない。残念だったな」
キングレオはかつて対峙した姉妹を嘲笑うように答え、自信ありげに言葉を続けた。
「退屈しのぎにちょうどよいわ!人間どもの力のなさを思い知らせてやる!お前たちをそのような脆い生き物につくった神を恨むがよい!」
八本足の怪物は突如『凍える吹雪』を吐き出し、デリア達を襲った。
苦しい闘いだった。
いきなり『凍える吹雪』で襲われてしまった上に、八本の足の鋭い爪で右から左からと素早く自在に攻撃してくるおかげで、ミネアに任せようと思っていた回復呪文をデリアも唱えながらの闘いとなった。そのためデリアがキングレオを直接攻撃できるまでに時間がかかってしまったのだ。それでもアリーナは無謀に飛び出して行くので、最後はぼろぼろで危ないところだったのだ。
「全く。いつも無茶ばっかりなされて……もう少しご自分の身を……」
「いいでしょ!結果的には倒せたから!」
「でも姫様……もう少しでお命が……」
「うるさいわね!クリフト!あなたまで、説教する気!」
「いえ……私は」
アリーナに諭すように言うブライと、彼女の身を案じるクリフト。そんな二人になぜか反発するアリーナ。アリーナが無謀な闘い方をしたの後には必ず繰り広げられる光景だ。
「ほっほっほっ。なぜか同じようなやり取りが、前にもありましたねぇ」
トルネコが大きなお腹を揺さぶりながら笑った。
ブライとクリフトそしてトルネコはデリア達のあとから城に潜入した。ブライ達がキングレオのいた部屋の前まで来たときは、ライアンはまた大勢の兵士を独りで倒し、デリア達もキングレオにとどめを刺したところだった。
「ああ。そういえばライアンさん。ホイミンていう人があなたによろしくと言っていましたよ」
トルネコの言葉にライアンは驚いた表情を見せた。
「それで、彼はいま何処に?」
「いやぁ。わかりませんなぁ。気がついたら、私達の前からいなくなってたので……」
「そうですか。取り乱してかたじけない」
ライアンが大きくため息をつき顔を上げると、二人のやり取りを見ていたデリアと目が合った。
「お見事でしたぞ。私が助太刀いたす前にあの怪物を倒されるとは」
「あなたこそ素晴らしい。あんなに大勢の兵士を独りで……あなたのような強いひとが仲間になってくれれば、とても心強い」
「私をそのように評価されるなど、過分なお言葉ありがたくお受けいたします。私も邪悪な者を打ち倒すために、あなた方とと共に闘いたく思います。私はその為に貴女を探していたのですから」
ライアンは再びデリアの前に跪いた。
「先ほどは……失礼いたしました。どうぞ私にお手をお許し下さい」
デリアが一瞬戸惑いながら、おそるおそると手を出すと、ライアンはその手に軽く接吻をした。
ライアンのその言葉と仕草にデリアの胸は熱くなった。仲間が揃った感激と安心感なのだろうとデリア自身も思ったが、もう一つの感情が湧き出したことにはデリア自身も気付かなかった。
「私を覚えていて?バトランドの王宮戦士ライアン殿」
突如として、アリーナが割り込むようにデリアの横に立ち、いつもと違う口調でライアンに話かけた。
「おお。これはこれはサントハイムのアリーナ姫様。武術大会での優勝おめでとうございます。貴女様の優勝ことは各地で称えられておりますぞ」
ライアンは先ほどデリアにしたようにアリーナの前に跪いた。アリーナがごく自然に手を差し出すと、即座にライアンはアリーナの手を取り接吻をした。
アリーナはライアンのその仕草に満足げな顔をし、デリアの方を一瞬ちらりと見ると、再び得意そうな表情を見せた。
デリアはアリーナのそんな表情を見るとなぜかとても複雑な気分になった。
そんなとろこにマーニャがデリア達の方へと近づき、アリーナの背中をぱんと叩いた。
「さあさあ。こんな時だけ上品ぶらずに!まだまだこの城の後始末もあるし、バルザックの居所も突き止めたいから、協力してちょうだい!」
「そんな事いわれなくとも、わかっているわよ。ちゃんとやるわよ!」
「ありがと。それでこそアリーナね」
アリーナは不満そうに言ったが、マーニャは素知らぬふりをして、笑顔で答えた。
「デリア」
ミネアが真摯な顔でデリアに話かけた。
「これで『導かれし者たち』は揃ったわ。これかも苦難の連続となると思うけど、あなたが皆を導くのよ。それが邪悪な者から世界を守ることになるのだから」
「でも……私……今までだって……」
「大丈夫です。そのために私達がいるのですから。そうですな。ミネア殿」
デリアが自信なさげにしていると、ライアンがわずかに微笑みながら話かけ、ミネアも頷いた。
たったそれだけの言葉にデリアはとても勇気づけられたような気がした。
「さぁ。マーニャの言う通りもう少し城の捜索をしましょう。バルザック自身が潜んでいるかもしれないから、皆気を付けて」
「まぁ。デリアが怪物と闘っている時以外に、そんなにはきはきとしゃべるなんて」
マーニヤは少し驚いたように目を見開きながらデリア見た。そう言われるとデリアは照れくさくなってしまった。
「えっ……そう?変……かな?」
「ふふ。ちゃんといつものデリアもいるのね」
「姉さん。茶化さないの」
「あら。誉めているのよ。なんだかデリアここに潜入したばかりの時と、ちょっと変わったかな?どこがと言われても上手くいえないけど」
デリアは少し考えるようにして答えた。
「……たぶん。仲間が揃ったのが嬉しいのだと……」
「ふーん。そうかもね」
マーニャは軽く流したが、デリアにとっては最後に王宮戦士ライアンが『導かれし者たち』として揃ったことが本当に嬉しかった。それだけで、自分の中から見えない力が漲るような気がしたのだ。
「行きましょう。マーニャ、ミネアこの城は他にどんなところがあるか、覚えている?」
「えっと。どうかなぁミネア?」
「…………自信はないわ。ごめんなさい」
姉妹が戸惑っていると、ライアンが口を開いた。
「私が先鋒で参りましょうか?一応城の中は偵察して知り尽くしているつもりですが」
ライアンの申し出にデリアは頷く。
「ええ。お願いしますライアンさん」
「では、参りましょう。デリア殿」
デリアはライアンに続いて歩きだした。いつもこのよう場合、デリア自身が先鋒なので一瞬戸惑ったが、ライアンの背中を見ていると。しだいに心強くなった。……この人には任せられる。そう思うと、このままどこまでもついて行けるような気がした。
−fin−
あとがき
勇者ちゃんとライアンさんの出会い編。
「予兆」でも書きましたが、デリアちゃんは自分自身では気がついていないのですが、どうやら惚れっぽい性格のようです。でも傾向には統一性がありません。なぜなんでしょう?
ライアンさんもいくら長年探していた勇者に会えたとはいえ、世間知らずで田舎者の初心な女の子に誤解されるような態度をとっちゃいけませんね。気がまわるようでも、どこか不器用なのでしょう。でもひょっとしたら、ライアンさんもこのときから、まんざらではなかったのかも知れません。
勇者ちゃんとアリーナの関係。
二次創作を書いて(描いて)いらっしゃる大多数の方は、勇者ちゃんとアリーナは「大の仲良し」設定をされていますが、ここの勇者ちゃんとアリーナはちょっと違います。仲が悪いわけではないのですが、お互いにコンプレックスを抱いています。アリーナは勇者ちゃんに対してかなりの対抗意識をもっていますが、勇者ちゃんはそれに気がついていません。
でも妙に世間ズレしているところは、同じだったりします。
ブラウザバックでお戻り下さい。
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