手作りお菓子

「ほう。これをデリア殿が……旨そうだ。いただこう」
ライアンは感心しながら、デリアが作ったというお菓子に手を延ばす。
「ラ、ライアンさん。それは……ちょっと……なま」
「クリフトはわたしのを食べてね」
「は、はい姫様」
クリフトはそんなライアンに何かを言いかけたが、アリーナにすかさず話しかけられ、その先の言葉を告げる事が出来なかった。

デリアとアリーナはある宿屋の厨房で加加阿のケーキを作った。
最初はミネアに教わりなから作っていたのだが、途中で街の人に占いを頼まれ、席を外してしまったのである。
ケーキを作るのが初めてだったデリアは、ミネア戻ってくるのを待つつもりであったが、アリーナが「作ったことがあるからわかる」と言ったので、一緒に作業を進めた。
だが、アリーナも実のところよく覚えていなかったようで、なかなか上手くいかず、試行錯誤でなんとか形だけ作り上げた。
そんなところへ窓のからクリフトとライアンの姿を見つけたアリーナが、二人を厨房へ呼びつけたのである。

ライアンは何か言いたそうなクリフトの表情を見ることなく、デリアの作ったケーキを口にした。
「うむ……」
ライアンの表情が一瞬歪んだのをクリフトは見逃さなかった。
「おお美味い……ですよ。デリア殿」
だがライアンは冷静さを装い、デリアに微妙な笑顔を向けた。
「本当ですか!ライアンさん」
デリアの顔が嬉しそうにぱあっと輝く。
「ああ。本当ですよデリア殿」
ライアンは唇の端を少しひきつらせながら、デリアに優しげな瞳を向けた。
そんなライアンに見つめられたデリアは少し恥ずかしそうに俯き、ライアンに問いかける。
「あの……甘すぎないですか?ちょっとお砂糖入れすぎたかな……と思ったのですけど?」
「うむ。確かに……少し甘いようですな。だがこれくらい甘くとも私は大丈夫ですぞ。それよりこの中心の……トロりとなった所が……特に美味いですな」
「ありがとうございます、ライアンさん。あの……よかったら、もっと……食べて下さい」
「……うむ。では、いただこう」
クリフトは二人の会話を聞きながら、いつ、どこで、どういったらいいのか、まずライアンに言うべきか、デリアに言うべきか戸惑い言葉をかける事が出来なかった。
「ほら、クリフトも早く!わたしのを食べて!」
クリフトがそんな風に戸惑っていると、アリーナがわくわくと期待した瞳を向けてきた。
「はっ……はい。では」
目の前にあるアリーナのケーキを見つめながら、クリフトはごくりと唾を飲み込んだ。
「うふふ。クリフト、唾飲み込むなんて。やっぱりよく焼けている方が美味しそうにみえるよね?」
「そ……そうですよ姫様。い、いただきます」
クリフトはそう言いながら目を閉じ、アリーナ作ったケーキを一気に口に入れた。
「どう?ケーキの材料はね、どれもここの女将の自慢なんだよ。だから絶対に昔作ったのより美味しいと思うよ」
クリフトは口の中でざくざくと音を立て食べながら、うっすらと涙を浮かべた。
「やっぱり涙流すほど美味しいのね!嬉しいなっ!ほらっ!もっと食べて、食べて」
「はひ……いただきまふ……」
クリフトは目を閉じ、涙を流しながらざくざくと音を立てて、アリーナのケーキを食べ続けた。
ときどき薄目を開けてアリーナの嬉しそうな顔と、その横で黙々とデリアのケーキを食べ続けるライアンの顔の歪みが次第に大きくなってゆく様を交互に見つめながら。
 

  ※※※※※ 

ミネアとマーニャは厨房からデリアとアリーナの作ったケーキの残りを部屋へ持ってきて眺めていた。

「まったく、もう。大の男二人がケーキの食べ過ぎで腹痛起こして倒れるなんて、ちょっと情ないわね。で、今クリフトとライアンは? 」
「二人共落ち着いて眠っているわ」
「そう。それにしても、このデリアとアリーナの作ったケーキ。あたしが見ても一目でひどいものだとわかるわ」
「まあまあ姉さん。二人とも初めて作ったから仕方がないわ。姫様は作った事あると言っていたけど……本当の所はわからないわね」
「ふーん。姫様のそれはきっと、いつものデリアに対する対抗意識ね。それにしても、ライアンはともかく、クリフトは見た目でわかったはずよ。デリアのは生焼け、姫様のは焼き過ぎだって事ぐらい」
「うーん。加加阿を使ったからね。茶色いから焼け具合が判りにくかったかもしれないわ」
「……ミネアあんたって。兎に角、これ味のほうも吐くほどに砂糖入っていて最悪じゃない。二人とも一口で止めればいいものを半分も食べつづけたなんて」
「それは姉さん、ライアンさんはデリアのをクリフトさんは姫様の手作りお菓子を食べてあげたかったのよ」
「だから馬鹿馬鹿しいのよ!ったくウチの男どもは、このマーニャ様という大人のいい女が目の前にいるというのに、あんなお子様たちに!!」
「ね、姉さん……」
「まっ、ライアンもクリフトも、もともとあたしの好みじゃないのが幸いだわ」
「それは、負け惜しみね。姉さん」
「ミ、ミネアあんたは本当に……まっ、でも面白いものがみれたから、それでいいわ」
「……そうね、姉さん」

マーニャーがくすくすと笑うと、ミネアもアリーナとデリアが試行錯誤してケーキを作っていたであろう様を想い、くすくすと笑った。

─fin─


砂糖吐くほどに甘々のライアン×女勇者&クリフト×アリーナ。
じゃなくて、砂糖吐くほどに甘い手作りお菓子を食べて感激のあまり(ウソ)倒れた、ライアンとクリフトでした。

実はこのお話のこの部分はWEB用のダイジェスト版。
「完全版」は2009年5月発行のコピー本「Cacao Cake Capriccio」を読んでくださいね。
ついでに言うとライ女勇の部分だけは、後日談もあります。詳細はサイトのどこかを見てくださいね。


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