七夕夜話 〜ディーノ








 風に揺れる笹が、まるで年に一度の逢瀬を誘(いざな)うようだ。

 初めて見る風情ではないけれど、とても鮮烈に感じるのは、隣に佇む浴衣姿のの所為だ。



「・・・・・・ 綺麗だ 」

「うん。 飾りがとっても綺麗で可愛い ・・・・・」



 七夕笹を見上げたの答えにディーノは苦笑を浮かべた。

 どれだけ可愛いのか知らないのは本人だけで、日本では目立つ恋人に声を掛けてくる女の子達にやきもちばかり妬いていて。







――― ったく、そんなんだから、心配なんだよ









 まあ、そこが可愛いんだけどなとシシっと笑う。



「ん? どうした?! ・・・・・・ ?!..........」



 見上げようと少しあげた横顔に、チュッとひとつ。




「んもう! ディーノったら ・・・・・ 恥ずかしいよ ・・・・」

「なんでだよ。 俺たち、愛しあってんだろう?」



 真っ赤になったのは、ディーノの言葉と腰に回された大きな腕の所為。
どっちにつっ込もうかと迷っていると、笹を見上げて、確かにコッチも綺麗だなと呟いくディーノ。

 その彫の深い横顔に、胸の鼓動まで騒ぎ出す。




「俺たちも、織姫と彦星みたいに永遠に愛し合う運命なんだな・・・・。
 そうじゃなきゃ、こんなにもを愛せるわけねぇよ」



 なっと熱い視線で見つめられ、じわりと目元が熱くなる。
イタリア人気質のリップサービスだと思っても、とっても嬉しくて。


 照れ隠しにもうと視線を外しながら、でもと少し不安げに言葉が続く。



「いやかも ・・・・・ 織姫と彦星だったら、一年に一回しか会えないもん。
 私、ディーノとずっと一緒に居たい ・・・・・」


 自分の事を想っての可愛らしい物言いに、だらしなくにやけてしまう。


「大丈夫だって」

「どうして?」

 自信ありげに微笑むディーノを、不思議そうに見上げる瞳。
その瞳に確かに映る自分をみて、愛しさをまた募らせる。

「だって、俺、牛飼いじゃなくて、跳ね馬だから」

「へっ?・・・・・・・・」




 また、訳の解からないオヤジギャグもどきのこじつけに、視点が揺らぐ。



「私に言わせると、『跳ね馬』っていうよりむしろ ・・・・・」

「むしろ? ・・・・・・ 」

「・・・・・・・ 種 ・・・・ って感じ ・・・・・」

「ぅっ?! ・・・・ そっ、そりゃないだろう?  ・・・・・」



 思い当たる節があるだけに、乾いた苦笑いが浮かぶ。


「だってこっちは大変なんだから ・・・・・」

「そりゃ、があんまり可愛いからだぜ」




 少し拗ねて見上げる視線に、どきりと煽られていると、にっこり笑ったはぎゅっとシャツを掴むと体を預けてきた。



・・・・」

「でも、嫌じゃないよ ・・・・・。大好きだから ・・・・・ ディーノのこと ・・・・」




 恥ずかしそうに顔を埋めるをぎゅっと抱きしめて。



「俺もだ、。 ・・・・ 俺の運命のprincipessa ・・・・」



 ほんのりと石鹸の香りが鼻をくすぐる。
見下ろした白いうなじに、もう、情熱は止められなくて。



「やっぱ俺、の言うとおりだ ・・・・・」

「・・・・・ ディーノ .......」

「抱きたい ・・・・ を ・・・ 壊しちまうくれぇに ・・・・・」
「ディ っん ・・・・・ 」




 もちろん答えなど待てる余裕はなく、跳ね馬の情熱(ねつ)は、天空を流れる河でも諌める事は無理で。

 純白の言葉を持つ姫星は、今宵も紅くその身を染める。






 



2007/6/28
執筆者 風見屋 那智那