理由 2 白哉Version







いつまでも、浮竹の好意に甘える訳には行かない。

その機会がやっと巡って来たのは、ここ(ソウルソサエティ)に来てから、一週間が過ぎた頃だった。

調べていくうちに、は一つの疑問に当たった。

『なぜ朽木家は、ルキアを見殺しにするのか』

四大貴族の一角である朽木家であれば、その気になれば、いかなる手段でも講じられるはずだ。
しかも、ルキアを連れ戻したのは、当の朽木家当主であり義兄の、朽木白哉と知って疑問は深まるばかりだ。
謀略、遺恨、世間体、その他の理由を探しても、白哉の意図が見えてこない。



――― ならば直接聞くまでか・・・



朽木邸への帰り道。
堀川沿いにちょうど散り始めた桜の花びらが、道に広がっていた。

「私は、と申します。朽木白哉さんですね。」

先ほどから気配には気づいていた。
微弱だが、今までに感じた事のない種類の霊圧だ。

「何用だ。」

返事をした白哉にはホッとした。

「良かった、返事をしてくれて。」
「・・・・・・」

返事を返したのは、桜の精と見紛うばかりのの容姿に興味を示したからだ。
花びらを纏う姿を、己の持つ刀と重ねた。

「朽木の処刑に、貴方は何も思わないのですか?」

の問いに表情一つ変えない。
憂いを含んだ表情を浮かべ「お手間を取らせました」と一礼するを見つめた。

「なぜ、問うた?」
「彼女を助けたいから。」
「なぜ、助ける?」
「私の大切な生徒です。それに・・・・・」

は、視線を舞い落ちる花びらへと落とす。

「昔の私に似ているから。」

ほんの少しだけ微笑を口元に浮かべる姿に、白哉は苛立ちを感じた。
それは、己に対しての苛立ちだと解っていた。

夜宵、出会った理由を断ち切るかのように、言の葉が舞う。

「ならば、礼を持って禍因を断とう。師の義に免じて。」

散り急ぐ花びらが一斉に二人を包んだ。

「?!」

柄を握る白哉の懐で、柄頭を押さえて見上げる瞳。

「お収め下さい。私のような下賤の血で汚すものではありません。」

凛として見上げるに、咲き誇る桜の気高さを見た。
盛衰を見極め、華やかに散る薄墨の花びら。







――― 掴みたい





心は風となり、風は歩みとなり、白哉を動かす。
捉えたはずの腕は、一陣の風とともにすり抜け、桜の樹へと帰する。

「瞬歩をかわすか・・・・。だが、逃がさぬ。」

舞い落ちる間を与えず、佇む樹の元へと身を移す。
しかし、その手に残ったのは舞い落ちた花びらだけだった。

「水面の先は・・・・」

白哉は、川面に揺れる波紋を見つめ、もと来た道を戻っていった。
















着替えたは、浮竹が待つ部屋へと戻った。

「春水と入れ違いでよかったよ。」

まるで、悪戯を誤魔化す少年のような笑顔だ。

「怪我はないか?」

ずぶ濡れで戻ったに、驚いた浮竹だったが、何も聞かず着替えを渡したのだった。

「ええ、大丈夫です。」

今度ばかりは、浮竹の優しさが痛かった。

「失礼する。」

突然の声に、は身を硬くして奥へと隠れ、浮竹は笑顔をつくろう。

「珍しいな、朽木隊長。こんな時間に訪ねてくるなんて。」
「悪いが、兄を訪ねたのではない。」
「おいおい、だったら誰だって言うんだ?」

白哉は奥を見据えて話を続けた。

とか言ったな。
 聞こえているであろう。
 お前の問い、答えが欲しくば、私と来い。
 そして、己で見つけて見よ。」
「白哉!何のつもりかは知らんが、それ以上?!」

襖の陰から姿を現したをみて、浮竹は止めても無駄な事を悟った。

「どうするつもりだ。旅禍と解っているだろう。」
「案ずるな。私以外の者に、切らせはせぬ。」
「お前が一番危ないんだよ。」

やれやれと言う表情で、奥から出て来るを見つめた。

「体に気を付けるんだぞ。」
「十四郎さんこそ。」

向けられる微笑に、心が痛む。

「いつでも、戻って来いよ。」
「うん。ありがとう・・・・お世話になりました。」

もう、は二度とここへは戻らないだろう。
そうと解っていても、言葉を掛けずにはいられなかった。
自分と出会った事が運命なら、白哉と出会った事も、また、の持つ運命なのだ。

ありったけの笑顔を込めて、「さようなら」と言ったの背をいつまでも見送った。









つい数刻前、花を散らせた川沿いを白哉の隣に並んで歩く。

「なぜ、あそこ(雨乾堂)に居ると?」
「解らぬとでも、思ったか。」
「ううん、ただ、ここまで興味を持ってくれるとは思わなかった。」

心を見透かされた言いようが、カンに触ったらしい。

「私の、機嫌を損ねぬ様、気をつけることだ。   長生きしたくば。」
「ええ、そうするわ。機嫌を取るよりは、楽そうだから。」

白哉は、少しだけこめかみを揺らした。

「意味が理解できないようだな。」
「なんて言って屋敷に連れて行くの?
 やはり、『愛妾』?」

苛立ちを面白がるように、次の話題へと移るは、白哉が今まで会ったどの女性とも違っている。

「一介の使用人をわざわざ当主が連れ来る訳ないものね。」
「身の程を知れ。」

の視点は確かに間違っていない。
しかし、認めるだけの理由も持ち合わせていない。

「朽木はね・・・・」

また、話題を変えるに、今度は視線を取られた。

「貴方の事が大好きなのよ。貴方が思っている以上に。」

取られた視線を掬うように、優しい視線が見つめ返した。

「なぜ言い切る?」

すぐに外された視線を惜しむかのように、白哉の視線はを追う。

「内緒・・・」
「ならば、言わせるま――― 」

白哉の言葉を流して再び話し始める。

「昔三人の覇者たちが、啼かない不如帰を見てそれぞれ言ったそうよ。
 一番自由に生きた覇者は、『殺してしまえ』と、
 一番栄華を極めた覇者は、『啼かせてみよう』、
 そして、一番長く天下を取った覇者は、『啼くまで待とう』と。
 貴方なら、どうするのかしら?・・・・・朽木 白哉。」

の言葉が終わる間際、朽木家の門が大きく開かれ主を待つ。
門が開かれたと同時に、半歩下がったに、白哉は驚いた。
そして、二人は無言のまま、玄関へ続く石畳を歩いた。

「お帰りなさいませ。」

うやうやしく使用人頭であろう初老の男が、頭を下げる。
居並ぶ使用人たちの、への視線を牽制しつつ、主の言葉を待つ。

「この者を、『西の離れ屋』に。」

主の言葉に、ざわめきと感嘆が押し殺されながら聞こえた。
『西の離れ屋』そこは、代々当主が、特別な女性を住まわせる場所。

「かしこまりました。どうぞ、ご案内いたします。」

白哉に続き、玄関を上がったに、唯一、表情を変えないあの男が、声を掛けた。

「白哉さま?・・・・」
「望む役を授けた。鳥の行方は、その身で知るがいい。」

少しだけ後ろに向けた端整な横顔から、紡がれた言葉は今までにない抑揚を持っていた。
僅かな視線に挑むように、自らの視線を絡めると、は、ふわりと白哉の前に躍り出た。

一瞬の出来事だった。

「さみしゅうございます・・白哉さま・・・」

白哉の首にその細い両腕を伸ばすと、精一杯背伸びをして、その唇に自分の唇を押し当てた。
しかし、白哉は、逆にの腰と髪を掴むと更に強く、押し付けた。

そして、生暖かい感触がその柔らかさを慈しむように、薄く開いたの唇をなぞった。








冷たく光る視線のままで。










冷酷な視線とは対照的に、崩れ落ちそうなの体をそっと降ろす。

「躾から必要とはな。
 屋敷では、傍らに座せ。」

言い捨て横を通り抜ける白哉に、一礼をしながら呟いた。

「下手くそ・・・・」

敗北を認めたの負け惜しみに、少しだけ白哉の口の端が歪んだ。





白哉初書き
口調が今一わかりません。
感想などいただけると、嬉しいです(ボソッ。

2005/4/16