理由(わけ) 1






ここは十三番隊隊長宿舎、雨乾堂。

「しっ、失礼いたします。」

いつもの様に元気な挨拶で、清音が朝餉の膳を下げに来た。

「あっ・・・」
「どうした? 清音。」
「いっ、いえ。あの・・」

清音の言葉にドキリとしながらも平静を装って、浮竹は言葉を掛けた。

「嬉しいのであります。」
「嬉しい?」
「はい!最近、隊長は、残さずお召し上がりになっているので。」
「そうか?」
「はい!以前は、箸もお付けにならない日があったので、心配しておりました。」
「ああ、その事なら最近調子がいいからな。」
「嬉しいです!」

感激に咽ぶ清音に苦笑しながら、「ご馳走様」と声を掛ける。
その言葉に、清音は、深々とお辞儀をすると、カラの膳を嬉しそうに下げていった。

清音の足音が渡り廊下から消えたことを確認して、奥へと声を掛ける。

「もう、大丈夫だよ。騒々しくてすまないね。」

やれやれと頭をかきながら振り返ると、優しい笑顔が迎えた。

「すみません。私の所為で・・・」
「別に、君が悪いわけではないし、体調が良いのは事実だ。
 君と、ここ(ソウル・ソサエティ)で再会した時には、心臓が止るかと思うほど驚いたがね。」

偶然にしては、不自然すぎる再会をこの男は笑い飛ばす。







出会いは半年前、浮竹は、虚(ホロウ)を追って現世に来た。
指令を終えて帰還の途に着いた時、隠れていた一体に隙をつかれた。
隊員達の体力を考慮し先に帰還させ、浮竹一人で対峙した。
大した相手ではなかったのだが、もう一体隠れていた。
そして、発作が重なり応戦が遅れた時、
かすむ意識の中で真っ二つに割れた虚(ホロウ)の後ろに立っていたのが、
彼女、『 』だった。

地獄絵の中に佇む、刹那の如く佇む魂。
流れる黒髪に慈母の微笑みで、浮竹を包んだ。

浮竹は一瞬にして心を奪われていた。
初めて魂の美しさを見た気がしたからだ。

手当てを受けながら、ただ、黙ってその横顔を見つめた。







――― なぜ、自分が見えるのか?








――― なぜ、力を持っているのか?










数々の疑問は、傷口に照射(あて)られた光によって飲み込まれた。
霊力だが、少し異なる力。
それは、傷口だけでなく浮竹の病巣も優しく鎮める。

「なぜ、俺を助けた?
 虚(ホロウ)に食われるかもしれないのに。」

これだけの力を持っている者だ。だたものではない。
返るはずの無い質問を投げ掛けた己に、苦笑が洩れた。

「助けるのに、理由が要るの?」

返って来た答えに添えられた微笑で、奪われた心の全てを持っていかれた。
久方ぶりの感覚。

「あなたは、理由が無ければ困ってる人を助けないの?」
「いや・・・」
「良かった。そう言う人だと思ったわ。」
「なぜだ?」
「女の感。」

の言葉に、浮竹は吹きだした。

「つっ・・・」
「だめよ、傷口が開いてしまうわ。」
「すまない。つい・・・」

少年のように照れる浮竹にも微笑んだ。

「名前を、教えてもらえないか?」
「・・・・・・」
「いや、無理にとは言わない・・・」
・・・・・ よ。あなたは?」
「良い名だ。  俺は、十四郎・・・浮竹十四郎だ。」
「ありがとう。」

そして、躊躇いがちな「憶えておくわ」の言葉に送られて、浮竹はしばしの眠りに落ちた。









「何も聞かないんですね。」

黙って床に視線を置いたままの浮竹に、はすまなさそうに視線を伏せた。

「あっ、いや・・・・」

『出合った時を思い出していた』などと、照れくさくて言えるわけもなく、言葉を濁した浮竹に、の表情は曇る。

「人を助けるのに、理由は要らないんだよ、俺も。」





――― なぜこんなに優しく微笑んでくれるのだろう






は、胸が熱くなるのを感じた。

「『朽木ルキア』彼女は、私の生徒でした。生徒と言っても、ほんの一ヶ月だけだったけど、大切な教え子です。
 彼女はが普通ではない事は、気づいていました。でも、こんな事になってるなんて・・・・」

は、ぎゅっと拳を握り締めた。

「だから、なぜ、朽木が極刑にされなきゃいけないのか、確かめに来たんです。
 そして、もしも、濡れ衣なら・・・・」
「そうか、朽木の・・・・」
「ええ。あなたの部下だったんですね。」
「ああ。  良く調べたな。一体どこまで入り込んだんだ?」

咎める言葉ではなく、驚きの言葉でを包む。










――― 本当に優しい人・・・・・












少し和らいだの顔に安心すると、浮竹は身支度を始めた。
すると、は、掛けてある黒装束を持ち、背後から袖を通すのを手伝う。
そして、隊長服を羽織り紐を締めた浮竹に双刀を渡す。

が浮竹に匿われた時から、どちらともなくごく自然に始まった。
浮竹は、その時のの顔が大好きだった。
とても優しく自分を見つめてくれるからだ。
しかし、己が以上に嬉しそうな顔をしている事に本人は気づかない。

ただ、二人とも、このひと時をとても大切にしている。
それだけは、お互い解っていた。

夜に動き回りあれこれ調査をすると、入れ替わりに浮竹は隊員たちの下へと出かけてゆく。

一人きりになったは、空の布団にパフッと埋もれた。

「浮竹 じゅうし・・・ろう・・・・・・か・・・
 変な人・・・・でも、気持ちいい・・」

程なく、柔らかな残暖に包まれては眠りについた。








浮竹Version&白哉Version別れます。


2005/4/16