常初花 5





 二人で見た朝焼けは、柔らかくこれからの行く末を導くように明けていく。
白哉の腕の中で、ポツリとが言った。

「私も、本気出さなきゃ・・・」
「何も心配はいらぬ」
「朽木の事も?」

白哉は何も答えない。

「道は違っても、目指す所は同じだと信じてる」
「ならば、邸から出るな」

 あまりにも的確な白哉の指示に、から笑みが零れた。

「そうしてあげたいの、やまやまなんだけど・・・」

 小さな溜息とともに、柔らかいの髪にキスを一つ落とした。
状況は何も変わらない。
は、旅禍でルキアを助けようとしている。
白哉は、黙して語ることはない。

 しかし、は、白哉が自分を受け入れてくれた事で、信じる道を迷わず進もうと決心した。
そして、何があっても、白哉を信じようと、心に決めた。


たとえ、刃を交えようとも。

「愛してる・・・」

「・・・・」

「ねぇ、愛してる・・・」

「・・・・」

「ねぇ・・」

「・・・・・聞こえている・・」
「だったら・・・」
「何だ?」
「・・・・・・・・・・」
?」


「もう、いい」
「どうした?」

は、クスクス笑い出した。

「白哉、うそ、下手」
「・・・・」

「いいよ、言いたくないなら。寂しいけど・・」
「・・・何度も言う事ではない」
「それも、うそ。恥ずかしくて言えないんでしょ?」
「・・・・」
「白哉らしいな・・・・」

 は、白哉の大きな胸にその頬をよせた。
規則的に聞こえる鼓動が、言葉と同じくらい心地よい。


・・・」

 白哉は、の頬にキスを落とすと、耳元で囁いた。
すると、見る見るの頬は、紅く染まった。


「よっ、良くそんな恥ずかしいこと・・・・」

見上げた白哉の表情はいつもと変わらない。

「まだ、足りぬが、仕方あるまい」

 愛することに酷く不器用。
もしかしたら、生きる事に不器用なのかもしれない。
 は、白哉をぎゅーっと抱きしめた。














 翌日、定例の隊首会後、再び市丸に呼び止められた。

「今日、うち(三番隊)に新人が来よったんです。はん言いはるんですね、噂の別嬪さん」
「?!」
「さすがにご存知なかったんですなぁ。良く許しはったなあと、思っとったんです。
 これで、表立って攫えへんようになってしまいました。
 でも、その分実力勝負です。ボクも、本気ですから」

 からかう様な市丸の言葉に何も答えず、踵を返すと一番隊隊舎へと向かった。
山本総隊長に面会する為だ。

「失礼致します」

部屋に入ると、今日は珍しく隊首会に出席していた浮竹も来ていた。

「珍しいのう。お前まで来るとは」
「白哉!・・・お前、許したのか?」

浮竹の言葉に表情を変える事無く、山本総隊長の言葉を待った。

「二人とも、同じ用件のようじゃのう。まあ、いいじゃろう・・・
 おぬしらには、話しても良いと、が言っておったからのぅ」
をご存知ですか?」
「ああ、良く知っておる。小さい頃からのぅ。の霊圧を見たことがあるか?」
「「はい。」」
「あやつは、死神と人間の間に生まれた赤子じゃ」
「死神と人間?・・・そんなこと、ありえる訳が・・・」

さすがの白哉も驚きの表情を浮かべた。

「死神と滅却師(クインシー)との間じゃ。
 この尸魂界(ソウルソサエティ)で唯一、『壊浄煌』を射る者じゃ」
「弓・・・・」
「それに、名だけなら、おぬしらも知っておろう。
 未だあの者の記録は、破られておらんからのぅ」
「記録と言うと、あの、たった一ヶ月で試験免除ではなく、全て飛級で正規卒業した・・・」
「そうじゃ。学院始まって以来、あの記録は破られておらん。『四楓院』は、母方の姓じゃ。夜一直伝の瞬歩は、見事じゃった」
「先生、でしたら、我々どちらかの隊に」

しかし、白哉は何も問わない。

「・・・おぬしは解っておるようじゃな」
「ご面倒を、お掛け致しました」

頭を下げる白哉を見て、浮竹も、が望んで三番隊に入隊した事を悟った。

「ともに生きたいと願う者が現れたと言っておった。
 そのために、道を切り開くのじゃと。頼んだぞ、を」

二人は、一礼をして場を辞した。

「白哉、どうする?」
「どうもせぬ。が、望んだ事だ」

白哉の言葉に、浮竹は微笑んだ。

「変わったな、白哉」

ちらりと視線を浮竹に流したが表情は変わらない。

「かも知れぬ・・・」

しばらく二人は無言で歩いた。
長い回廊を抜けた、護廷出口に弓を背にした影があった。

、久しぶりだな」
「十四郎さんも、お元気そうで」
「・・・・・」

無言で通り過ぎる白哉に、は一礼した。

「おい、白哉?!」
「・・・何をしている、置いて行くぞ」

白哉の声に、浮竹は安堵の息を漏らし、は嬉しそうに微笑んだ。

「はい、白哉様!」

 そして、二人に続いても歩きだす。
長い廊下は、いつになく明るく感じたのは、浮竹だけではなかったはずだ。

「ここで、失礼する」

二人の後姿に、再度、呟いた。

「変わったよ、白哉。・・・・がんばれよ、

 二人に背を向けて、浮竹も帰りの道を歩き始めた。
その後、互いの心を思いやるばかりに、すれ違っていく二人を、知る由もなかった。




2005/7/16

常初花完

お付き合いありがとうございました。
途中で、白哉の既婚が発覚し、修正致しました。
続きは・・・ご要望があれば検討します
一言お待ちしています。