12.眼差し 〜朽木白哉
「最悪・・・」
いったいこの言葉を、この隊に来てから何回呟いたのだろう。
一番来たくなかったここへの移動が決まったのは先月。
浮竹隊長が、言いにくそうに告げた番号は『六』。
そう、あの朽木白哉の隊。
私は、あの男が好きになれない。
射すような視線と、感情を浮かべることのない顔。
確かに、綺麗な男性(ひと)だとは思うけど。
浮竹隊長に、移動の理由を聞いたが、はぐらかされるばかりだ。
そして、いつもあの視線を感じながら、仕事をしている。
急に降り出した雨。
護廷からさほど離れていない店の軒先で、雨宿りする朽木隊長と出くわしてしまった。
目が合ってしまったので、回れ右して道を変える事も出来ない。
「最悪・・・・」
また、言葉が洩れた。
「どうぞお使い下さい」
雨は止みそうにない。
私は、隊長に傘を差し出した。
いつもの視線が帰ってくる。
読み取れない表情。
――― やっぱり好きになれない・・・・
しかし、そのままにしておく訳にもいかず。
私は、傘を置くと失礼しますと一礼し、雨の中を走り出した・・・はずだった。
「待て」
「?!・・・・」
しかし、しっかりと掴まれた腕を引かれ、隊長の腕の中にすっぽりと入っていた。
無言で傘を持つと、そのまま歩き出す。
ちょっと――― これって現世で言うところの、『セクハラ』じゃありませんか?
文句を言おうと見上げた視線は、包むような視線とぶつかった。
間近でみる朽木隊長は、凄く綺麗で、私は不覚にも頬が熱くなった。
慌ててそらした視線は肩にまわされた腕へ。
「あっ・・・・・」
視線の先には、雨に濡れた袖。
――― まさか、私を庇って?
「隊には、慣れたか?」
不意の問いかけに、隊長を見上げた。
「・・はい・・・」
「そうか・・・・」
少し和らいだ眼差し。
――― この人・・・・
「あの・・・」
「何だ?」
どうした?と問う眼差し。
「何故、私は・・・・ここ(六番隊)へ・・・・」
「私が、浮竹に頼んだ」
迷惑だったか?と不安の色。
その眼差しは、気遣いながら私に問いかける。
「いえ・・・ありがとうございます」
数分前まで、苦手だった上司なのに、今は、素直に言葉が出た。
言葉の代わりに、朽木隊長の瞳が優しく笑った。
なぜ、私を望んだのか?
きっとそのうち、答えがわかるだろう。
今は、ただ、その心地よい眼差しに包まれていたかった。
朽木隊長が、少しだけ近く感じた、雨の昼下がりだった。
2005/8/12