Report - VS GROW 2


 ―― ????:オーロラ第四拠点 PM 23:00 ――


 キース・ボールズの確保から五日後。

 オーロラ幹部ソフィア・デ・フェリスは、施設内の私室でコーヒーを啜っていた。
 なかなか片付ける暇のなかったデータ整理を終え、一息ついていたところである。

 
コンコン…

 突如ノックの音。
 彼女の私室に足を運ぶ者など、幹部以上の人間か、そうでなければ菓子を漁りに来
る、無礼な金髪の猫くらいである。
 …そして後者は、ノックなどしない。
 
 
カチャッ…
 
 ソフィアは静かにロックを外し、ドアを開けた。
 そこには、深いブラウンのスーツに身を纏い、細く開いた瞼の奥に、全てを見透か
すような瞳を持った40代前後の男が立っていた。

 ソフィア:なにか御用かしら?アンソニー
アンソニー:この時間ならここだと思ってな。…少しいいか?
 ソフィア:くつろいでないで、サッサと帰るべきだったかしらね?
      フフッ…、どうぞ

 彼はソフィアの私室に置かれた、白い丸テーブルの椅子に腰を下ろした。

 オーロラ幹部、アンソニー・ターナー。
 銃器のエキスパートを揃えた戦闘班と、非公式且つ緻密な情報収集を行う情報部を
抱え込んだ特殊部隊『Shaft』の指揮官である。
 ソフィアがオーロラに籍を置いた当時、彼女は彼の元で活動していた。今では、同
じ「幹部」という立場で肩を並べ、二人の強い信頼関係は組織に大きく貢献する結果
を積み重ねている。

 ソフィアはすぐに熱いコーヒーをカップに入れ、彼の前へ差し出した。

アンソニー:準備がいいな。私が来る予感がしてたか?
 ソフィア:そんなわけ無いでしょ?私がいつも二杯飲むだけ。それを入れたのよ
アンソニー:ネブラスカの一件、ヴァルキリーはまた上手くやったらしいな

 人柄の良い、父親のような微笑みでアンソニーは言う。
 ソフィアはその言葉を聞いて、少しオーバーにフフンと鼻を鳴らしてみた。

 ソフィア:ウェスト・ボスの側近を確保できたのは大きいわ
      オイシイ話はまだ聞き出せてないけど
アンソニー:そうなのか
 ソフィア:ユンのキックが、いつにも増してキツく入っちゃったみたいでね…
      殿方の大切なトコロに♪
アンソニー:ショック状態とは聞いていてが…いまだなのか?
 ソフィア:ええ。敵を褒めるわけじゃないけど、生きてただけで表彰ものよ
アンソニー:彼女達は今何を?
 ソフィア:ここのところミッション続きだったから、明日まで休暇を与えてるわ
アンソニー:そうか…

 アンソニーは少しだけ考えるような素振りを見せたかと思うと、テーブルの上のコ
ーヒーに手を伸ばした。

 ソフィア:…で、何の用っ?
アンソニー:………
 ソフィア:ウチ(Ballkillie)に頼みたいことがあるんでしょ?そして、ご要望の
      出勤日は「明日」…
アンソニー:…分かり易かったかな
 ソフィア:何年付き合ってると思ってるのよ。重要なことは電話じゃなくて面と向
      かって話したがる性格…変わってない
アンソニー:………
 ソフィア:休暇中の部下を気遣う、その素振りもね

 彼はゆっくりと面を上げ、ソフィアに苦笑いした。

 ソフィア:心配無用よ。適当に代わりの休みでも当てるわ
      それに、あのコ達はヤワじゃないから
アンソニー:…有難いよ
 ソフィア:さぁ、どうぞ?

アンソニー:…私のところの諜報員が、GROW幹部「サウス・ボス」の正体とその居所
      を突き止めた
 ソフィア:居所も!?凄いじゃない!
アンソニー:と言っても、約一年掛かったがね

 アンソニーは胸ポケットから一枚の写真を取り出す。
 写っていたのは、ベレー帽を被った巨体の黒人男性だった。

アンソニー:「アーノルド・クルーガー」。南アフリカ共和国のヨハネスブルグで目
      撃された
 ソフィア:彼が、サウス・ボス?
アンソニー:ウチでも特に腕利きのがいてね。ソイツが上げてきた情報だ。裏が取れ
      ていると思ってくれていい
 ソフィア:…この男、随分と強そうね。…軍人?
アンソニー:元…な。取り巻いている手下も似たような素性だ
      ここ数日、時間は不定期だが毎晩その手下達とたむろする酒場がある
      いつまでもこのエリアに留まってくれる保障も無いのでな
 ソフィア:そこにヴァルキリー達を向かわせればいい?
アンソニー:ああ…。目的は当然、殲滅ではない
 ソフィア:わかってるわよ。こんな状態じゃ、まずは情報でしょ?
      …アーノルド達の会話でも探らせればいい?
アンソニー:そうだな…そうして貰いたいところだ

 ソフィア:でも、何故あのコ達に?「シャフト」も良い諜報員を持ってるじゃない
アンソニー:…この、アーノルド・クルーガーという男が曲者でな
      口で説明するのは難しいが、とにかく…銃などでは倒せない
 ソフィア:へぇ…よく分かったわ
アンソニー:目的は情報収集だが、万が一を考慮に入れるならば…
      「丸腰でも超人的な能力を発揮できる者」に任せたい
 ソフィア:………
アンソニー:また、意図的にか偶然かは分からないが…
      アーノルドが過去に殺した人間を洗ってみたが、その人数の多さの割に、
      女性が一人も見当たらなかった
 ソフィア:どういうこと…?女は殺さない…?
アンソニー:そんな推測も出来るな。まぁこれは、お守り程度の要素だがね
      …どうだ?彼女達に任せたい気持ちも分かるだろう?
      どんな…
 ソフィア:「どんなに良い情報も、生きて持ち帰れなくては無意味」…
アンソニー:………

 彼女はアンソニーの言葉を遮って、彼が言おうとした言葉を一字一句違わず答えた。
 それはもう何年も前…。初陣に出るソフィアに対し、彼が口にした言葉だった。

 ソフィア:大丈夫よ。あのコ達はそれこそ「超人」…
      心配するなら、アーノルドのアソコの心配をして。…なんてね♪
アンソニー:まったく…恐ろしい娘達だよ
      お前も考えたものだな。ヴァルキリーなる精鋭を結成するとは
 ソフィア:あら…でもヒントとなった第一人者を育てたのはあなたよ?
      残念ながら、もうオーロラを抜けちゃったけど…

 アンソニーは物思いに耽るかのように、静かに視線を落とした。それは、組織内で
は普段誰も見ることの無い、珍しい表情だった。

 ソフィア:言うなれば、ヴァルキリー『No.0』とでもいったところかしらね
アンソニー:私とて、好きでこの道を歩ませた訳じゃない
      …アイツが自分で選んだんだ
 ソフィア:フフ…あのコ達もまさか、先輩がいるなんて思いもよらないでしょうね
アンソニー:………
 ソフィア:…彼女、どうしてるかしらね?
アンソニー:さぁな…。自分の気の向くまま、悪人を屠っていることだろう
 ソフィア:お得意の急所攻撃でね♪
アンソニー:血は繋がっていないが、これでも一応本当の娘のように思っていてね…
      …正直、辛い部分もある。アイツの話は止めにしてくれないか?
 ソフィア:…そうね、ごめんなさい

アンソニー:酒場の地図はすぐにデータで送る
 ソフィア:了解よ
アンソニー:任せたぞ…ソフィー


 ―― 南アフリカ共和国:ヨハネスブルグ 酒場 PM 21:30 ――


 …翌日。
 ヴァルキリー達は、シャフトが手配したヘリによって目的地に到着。
 既に酒場の席に着いており、ターゲットとは一つ屋根の下という状態にあった。
 彼女達はそれぞれのバトルスーツを着用していたが、上には民間人を装うため、目
立たぬコート等を羽織っている。
 酒場は床も壁も板張りで、古めかしい雰囲気の内装。
 入り口から入って右奥のところに大人数用のL字ソファーがあり、そこには、迷彩
ベレー帽を被った軍人風の八人の男達が座っていた。
 そのうちの一人は、二メートル近くあるスキンヘッドの大男。
 この男は女好きらしく、三十分程前、店内でヴァルキリー達とすれ違う際に奈津女
の胸に触った。騒ぎを起こす訳にもいかず、その場は湧き上がる怒りを何とか抑えた。
 テーブルはその他に四人用の小さい物が十二脚。GROWとは無関係と思われる人間が
三十人程ちらほらと座っており、ヴァルキリー達はその小さなテーブルの一つについ
ていた。

 そして……。
 彼女達のテーブルから二十メートル程のところにある、店内奥のカウンター。そこ
では二人の男が腰掛け、話をしていた。
 一人はサウス・ボス…『アーノルド・クルーガー』。
 店の奥にいる軍人風の連中と同じ迷彩ベレー帽を被り、大き過ぎる図体はおおよそ
二メートル三十センチといったところである。手首すら隆々とし、その巨体が鍛えぬ
かれているのが服の外からも伝わってくる。
 もう一人は、この店には似つかわしくない程の気品の高そうな初老の紳士である。
 肩くらいまである美しい白髪のウェーブヘアー。髭も同じく白髪に染まり、漆黒の
燕尾服に身を包んでいる。
 彼は、たった今この酒場へ入って来て、アーノルドの隣へ座った。
 入ってきた時に一瞬見えた表情は、穏やかさと厳格さが入り混じった、近寄り難い
雰囲気を醸し出していた。

   ユン:(何者だ…?あの男…)

 初老の紳士が来るまでは、アーノルドは何を喋ることも無く、ウィスキーを傾ける
のみだったが、「話相手」が現れたことでヴァルキリー達はここからが正念場と悟る。

  クレア:(しっかし、面白れェ組み合わせだな…紳士と野獣)
  奈津女:(あのハゲ頭…!あたしの胸にッ…!!)

 彼女達の意識は、アーノルドと初老の紳士、そしてその部下と思われる者達に集中
していた。しかし、表面上では怪しまれぬよう、何気ない会話を交わし続けた。
 演技力も高かったためか、周囲の者に違和感を感じさせることは無かったようで、
そうこうしている内に、アーノルドは遂に口を開き始めた……。

アーノルド:予定時刻ぴったりだな…ヴァルター
ヴァルター:私のポリシーでね…時間の約束は破ったことが無いのですよ

 アーノルドは懐から一枚のCDを取り出し、ヴァルターと呼ばれた初老の紳士の前
にそれを置いた。

ヴァルター:ほう…これですか。相変わらず見事な手並みです
アーノルド:これだけで『ヴォイド』が動くとは考えにくいが…とりあえず一つ…だ
      …しかし、すまないな…どうやってもデータの抽出が不可能だった
ヴァルター:構いません…それ位の方が信憑性があります
      それにしても、あの御方も人使いが荒い…
アーノルド:フッ…ボスの完璧主義も度を越えているな、アンタに直接来させるとは
ヴァルター:…まぁ、良いではないですか。こうして会うのも久しぶりです
アーノルド:アンタらしい物言いだな…どうせ左程時間も無いのだろう?
ヴァルター:フフ…お見通しですか

 ヴァルターは、世界を壊滅させるほどの兵器を欲する組織の人間とは思えない程に
穏やかな様子で語る。その内容は、GROWの組織系統を少しずつ…断片的にだがイメー
ジさせてくれる。ヴァルキリー達の緊張感は次第に高まっていった。

ヴァルター:ああそうそう…聞きましたか?
アーノルド:…何をだ?
ヴァルター:ヘンリー氏の側近だった男が行方知れずとなったそうです
アーノルド:……フン

 ほぼ、無表情と言えるほど顔を変えないアーノルドが、明らかに不機嫌な顔になる。

アーノルド:俺はあの男は好かん…その側近もついて行く男を間違えたな
ヴァルター:…フフ。確かにその件についても組織内で色々と噂が立ってますな
アーノルド:噂だと…?
ヴァルター:はい…。側近としていい様に動かした後、不要となったため、捨て駒に
      していたそうです…
      ヘンリー氏の兵隊は多い……にも拘らず、数人しか割かなかったと…
アーノルド:あの男のやりそうな事だ
ヴァルター:お嫌いなのですな。まぁ、ヘンリー氏は策略のみで物事を推し進めると
      ころがありますからな…
      貴方の様に純粋な「力」で任務を完遂するタイプからすれば、気に入ら
      ないものかも知れませんね…

アーノルド:『東』は何をやってるんだ?
ヴァルター:……『掃除』ですよ、虫の…ね
アーノルド:あいつも何を考えてるのか解らん男だが……強い信念を感じる
ヴァルター:珍しいですね…褒め言葉ですか
アーノルド:そう取っても構わんよ
ヴァルター:おそらく…貴方が感じている強い信念というのは…「仁義」というもの
      でしょうね
      …次の金曜日…中国の『黄龍楼』を攻めるそうです
アーノルド:『黄龍楼』…一年位前にも、『東』はそこへ行ったな…?
ヴァルター:はい…、次の金曜日で丁度一年なのですよ…
アーノルド:………

 アーノルドはヴァルターの言葉から記憶を手繰り寄せ、何かに気づくと「フッ」と
笑みを漏らした。

アーノルド:確か一年前…あいつの相棒がそこで死んだよな
ヴァルター:……察しの通り…
      そう…『黄龍楼』での目的は果たしているのですよ、一年前にね…
アーノルド:弔い合戦か…クククッ…!
      日本人は律儀だな……復讐に関しても
ヴァルター:貴方は彼のそういうところがお好きなのでしょうが…あの御方もよく許
      可したものです
アーノルド:余計な芽は摘んでしまえばいいという判断だろうさ
ヴァルター:確かにね…同じ目的を持とうとも、人にはそれぞれの『やり方』がある
      ものですからね…

 
カタン…

 そこまで言うとヴァルターはアーノルドから差し出されたCD−ROMを懐に収め、
立ち上がった。

ヴァルター:さて…時間です
アーノルド:もう行くのか
ヴァルター:ええ…『次』があるのでね

 背を向けたまま寡黙にウィスキーを傾けるアーノルドに、ヴァルターは踵を返し…

ヴァルター:そうだ。『やり方』と言えば…怒らないで聞いて頂きたいのですが…
アーノルド:……?

 わざとらしく、何かを思い出したようにヴァルターはアーノルドに語りかける。

ヴァルター:貴方のやり方は、少々「恐れを知らな過ぎる」ところがありますな……
      …その「力」ゆえに
アーノルド:心配ない
ヴァルター:ふむ…まぁ、あくまで私の推測…ですが
      …ヘンリー氏は上手く回避した様ですが…、我々の中で初めに足がつく
      のは…貴方かと
アーノルド:どうかな。それがそんなに大きな問題か…?

 ヴァルターは静かに目を伏せ、口元を緩める。…少しだけ笑っているようだった。

ヴァルター:問題かどうか…ですか。少々測りかねますが…

 
コッ… コッ…

 余裕の表情のまま、入り口の方へと歩み始めたかと思うと、その初老の紳士は、ヴ
ァルキリー達の座っているテーブルの前でピタリと止まった。

ヴァルター:…それについては、このお嬢様方に意見を求めてみましょうか

   ユン:(……!)
  クレア:(こいつ……)
アーノルド:………

 アーノルドは、スローモーションの様にゆっくりと振り返り、ヴァルキリー達を睨
み付ける。

  奈津女:(マズい…のでは…?)
アーノルド:フフフ…まったく…、あんたも人が悪いな
ヴァルター:直接的な物言いは苦手でね
アーノルド:そういう事ならそう言え…フッ
      …ま、俺の負けだ。さっきの忠告は、聞くことにするよ
ヴァルター:ご理解頂けましたか…何よりです

アーノルド:お前らぁっ!!!
  ???:!!

 ガタッ!!

 板張りの壁を震動させるほどの怒号とともに、アーノルドの部下と思われる者達が
全員立ち上がった。無関係な他の客までビクついた様に動きを止め、静まり返ってい
る。

アーノルド:…出るぞ。この店には世話になった…壊したくはない
   ユン:………
アーノルド:女……お前達もだ
      ……出ろ


 ―― 南アフリカ共和国:ヨハネスブルグ 裏路地 PM 21:42 ――


 アーノルドに言われるがまま、ヴァルキリー達は酒場のすぐ裏手にある、人気の無
い道に来た。アーノルドとその八人の部下。そしてヴァルターという予想外の男に囲
まれ、その場の空気は異様なものとなり、凍りついていた。

アーノルド:ヴァルター…ここは俺の管轄、手出し無用だ
ヴァルター:ふむ……

 ヴァルターは少し考えたフリをするが、実際はどうでも良いと言わんばかりに頷き
答えた。

ヴァルター:従いましょう……では、私は去るとしましょうかね
アーノルド:例の「物」…頼んだぞ
ヴァルター:ご安心ください

 優しく笑うと、ヴァルターは後ろを向いて音も無く歩き始め、次第に見えなくなっ
ていった…。

アーノルド:さて…いつまでだんまりを続けているつもりだ?…女
   ユン:………
  ???:ボス!この女達、ヤッちまっていいんですかね!?いいならとっとと始
      めちゃいましょうよ!ハハッ!!

 下品な言葉と笑い声を飛ばしたのは、スキンヘッドの男である。その様に、奈津女
は今にも飛び掛りそうになるが、先程から黙っているユンに考えがあると信じ、勝手
な行動を取らないよう、ぐっと堪える。しかし…

  クレア:いーぜ…?
  ???:あ…?
  クレア:アタシに勝てたら、煮るなり焼くなり×××ツッコむなり、好きにしや
      がれってんだ!
  奈津女:ぁ……ははは…
アーノルド:………

 アーノルドの兵達はクレアの台詞に一瞬引いたが、少々の沈黙の後、ドッと笑った。

  ???:ヒャハハハ!!この女イカれてるぜ!気に入った!

 ガチャッ…!!

 兵のうち、二人がどこから取り出したのか、ライフルを構えた。
 奈津女の我慢虚しく、この不利な状況のまま戦闘開始となるかと思われた。
 しかし…

  クレア:この町はこういうコトもザラに起こるって聞いてたけどな!お前らなん
      かに殺されてたまるか!!汚いモン出しやがったら、タマごと噛み潰し
      てやる!!
  奈津女:(クレア……さん…?)
   ユン:(フフッ…)

 兵の数人は「タマごと噛み潰す」の発言に、顔をしかめ、腰が引けた。アーノルド
はというと、無表情のままヴァルキリー達を眺めている。

アーノルド:(この女…何を言っている…?)
  クレア:レイプ…?上等だよ!アタシらは強いからな?後悔すんなよッ!?
アーノルド:(…ヴァルターの思い違い…なのか…?)
  奈津女:そこのハゲ頭ッ!さっきはよくもあたしのムネ触ってくれたわねっ!!
      覚悟しなさいッ!!あたしのタマ蹴り、すっごくイタいんだからッッ!!
  クレア:お〜…やっぱ怒ると言うねぇ〜あはっ♪
  奈津女:へっ…?!あ…あははは……

 奈津女は自分の発言を思い返し、照れくさそうに目を泳がせる。

アーノルド:(くだらん……)
  ???:この人数を前にその度胸は認めるが…ちょっとおバカだったなぁ
アーノルド:バリー!
  バリー:ハッ!!

 サウス・ボスの声に返事をしたのは、例のスキンヘッドの大男である。

アーノルド:紹介しよう…バリー・ヤング少佐だ
  奈津女:………
  バリー:へへへ…
アーノルド:言っておくが、彼は強い…俺とそこまで大差無いだろう
      …そして、無類の女好きでな…
   ユン:………
アーノルド:ハッキリ言えることは、これからお前達に確実に不幸なことが起こる、
      …という事だ

 
ドンッ…

 アーノルドは巨大な粘土で出来たような、重そうな掌をバリー少佐の肩に置いた。

アーノルド:俺は戻る……
   ユン:……!
アーノルド:…こいつらが何なのかは知らないが、お前達の好きにしていい……その
      金髪の女が言ったようなことでも、してやればいい
      …但し、最後には殺せ……ヴァルターの小言は貰いたくないのでな
  バリー:イエス、サー

 ニヤニヤと下品に笑いながらヴァルキリー達の方を見るバリー少佐を尻目に、アー
ノルドは、ヴァルターが消えた方向とは逆方向に歩き始めた。
 すれ違いざまに、アーノルドはユンを見下すように睨み付けていった。

アーノルド:………
   ユン:(この男…、やはり女は殺さないのか…?)

  バリー:オイ!!お前らの相手はこのオレだよ…!
  クレア:へッ…!

 アーノルドのさすがの巨体も、次第に小さくなってゆく……。

  クレア:目に浮かぶねェ…お前らが叫び声をあげて女のコになる姿が
  奈津女:ツイてるわ…、あんたと戦えるなんて
  バリー:ハハッ…!なんだ?胸揉まれたのを根に持ってたのか
      悪かったなァ。それだけじゃ足りなかったんだろ?
  奈津女:ばっ…!馬鹿言わないでッ!!
  バリー:次はちゃんと気持ちよくしてやるよ。ヘヘッ…日本人は初めてだなァ…
   ユン:(あと少し……)

 …そしてついに、サウス・ボスはこの裏路地から姿を消した。

   ユン:…上出来だ、クレア
  クレア:そりゃどうも♪…ま、ホントは親玉もやりたかったけどよ…
      …チョット厳しそうだったから、しゃーねぇ
  奈津女:間一髪でしたね。これなら何とかなりそうです
  バリー:ハッ…!ナメてんのかッ!?来ないならこっちから…!
  クレア:くんな

 
バッ…!

 ヴァルキリー達は三人同時に、纏っていた地味なコートを脱ぎ捨てた。
 中にはいつものコスチューム。露出度の高い二人の女と、制服の美少女に、兵士達
は目を奪われる。

  クレア:急かさなくても、コッチから行ッから♪

 
ブオッ…!

  バリー:なッ…!!
  クレア:あ…

 
ガシッ…

  兵士A:へっ?!
  兵士B:あ……

 クレアが飛び掛ろうとするよりも早く。
 後ろに立っていたライフル兵二人の睾丸が、ユンの左手と右手に収まっていた。

   ユン:痛いぞ…?歯を食いしばれ
兵士A、B:やめッ…!

 
ブキュキュッ…!!

兵士A、B:イイィィィィ―――!!ギッ、アァァアアァァ――――ッッ!!!
      …ァ……

 
ドサッ…

 ライフル兵二人は、とんでもない力でユンに睾丸をヒネり上げられ、無様に開いた
口から泡を垂らし、地面に崩れ落ちた。

  バリー:(は…早いッ…!)
   ユン:ライフルの連射なら、カスったかもしれないところを…馬鹿だな
      犯すなどと考えず、殺すことだけ考えてサッサと撃つべきだったのだ…
  バリー:………
   ユン:股の間に脆弱なタマがついているだけでも致命的だが…
      男とは、性欲までもが弱点か……フッ、悲しいな
  バリー:面白い…お前みたいな女を無理矢理ねじ伏せてヤるのは、さぞかし快感
      だろうよ
      …かかって来い

 一人で勢いづいているバリー少佐をクスッと鼻で笑い、ユンは睾丸を捻り上げられ
た激痛で気絶している兵の尻を踏みつけながら言った。

   ユン:ご指名頂いたところ生憎だが……お前達の相手はこの二人だ
  バリー:何ィ…?
  クレア:んあ…?
   ユン:私はヴァルターを追い、あのCD−ROMを奪う……今なら追いつける
  クレア:あっそ…いーよ、了解
   ユン:奈津女…
  奈津女:はいっ
   ユン:触られた胸のお返し……思い切りタマにぶつけてやれ

 
ブワッ…!!

 奈津女にいつものクールな笑みを向けると、ユンは風のように壁を走り、バリー少
佐の後ろへ抜け、そのまま走り続ける。

 
バンッ!ババンッ…!!

  兵士C:クッ…!!

 ユンの動きを止めようと、兵の一人がオートマチック拳銃を連射するが、当たる気
配は無く、銃弾は全てあさっての方向へと消える。気がつけばユンの姿も…消える。

 
ドゴンッ…!!

  兵士C:ク…ぁッ…!!

 
ドサッ…

  クレア:ど〜こ見てんの〜?お前らの相手はこ〜っち♪

 ユンに気を取られていた兵士の無防備な股間を、クレアは後ろから全力で蹴り上げ
た。絶望的な表情で白目を剥き、ビクビクと足元で痙攣している。

  兵士C:………
  クレア:ありゃ…?ツブれちゃったにゃぁ〜ん♪

 猫のように手招きしながら舌を出し、クレアはバリー少佐を挑発した。

  奈津女:あらら…なんかもう五人しかいなくなっちゃいましたね
  クレア:そーだな。情けねーなコイツら。股間蹴られてもそんなに痛くねーよな?
  奈津女:痛くないですねぇ〜…気を失っちゃうなんて、弱過ぎて笑っちゃいます

 二人の美女は更に、性別の差を利用した挑発で、男達を笑い、怒りを煽った。

  バリー:甘く見ていた。お前達、全力で相手してやれ
  クレア:おいおい…まだ甘く見てるよ。お前も来いっての
  バリー:ナメるな…逆だ
      この四人を倒せたら、俺が二人まとめて相手になってやる

 
ザッ…

 兵士達は正方形を作って、クレアと奈津女を囲むように立った。
 銃が不向きと悟ったのか、四人ともナイフを手にしている。

  クレア:ふ〜ん…ま、いいや
  奈津女:じゃあ…
  クレア:いぃ〜く〜ぜぇぇぇぇっ!!!

 
キンッ…!

  兵士D:げぐ…ッ!!
  クレア:ひひっ…♪痛ェか…?

 クレアの掛け声と同時に、すでに一人の兵士の股間には癖の悪い膝がめり込んでい
た。ナイフを持っている手どころか、足の力も抜け、がくっとその場に倒れる。
 隙を逃すまいと、背後から別の兵士が飛び掛かる。

  クレア:あ〜…

 兵士はナイフを振り下ろせそうなところで、美しい金髪と豊満なバストをぶるんと
震わせ、イタズラ顔が振り向いた。

 
ドボッ…!!

  兵士E:ギィアああァアアァァぁぁ―――ッ!!!!

 振り向き様、身を低くしたまま、右手をグーにして股間の膨らみ目掛けて強烈なア
ッパーで迎撃した。拳からぐちゃりと睾丸の潰れる感触が生に伝わってきた。

  クレア:い〜いキンタマ持ってんじゃン。デカいな。ま、無くなっちゃったけど

 
ゴォォォッ!!

  兵士F:えッッ…!?火ッ…?!
  兵士G:バカなッ…!何故…!!

 クレアは目を丸くした。残った二人の兵士が、突如炎に囲まれたのである。

  奈津女:ふんっ!!

 
ドスッ…!!

  兵士F:グッ…!

 奈津女は炎にうろたえた兵士の鳩尾に、強烈な肘鉄を入れる。そして…

 
バキッ…!!

 動きが止まったところを、ハイキックで首を刈った。兵士は脳を激しく揺さぶられ、
一瞬で意識を失う。純白の下着が丸見えになっていたため、スカートを直す。

 
ヒュッ!

  奈津女:おっと!
  兵士G:チッ…!

 兵士が側面からナイフで切りかかったが、奈津女のセーラー服を傷つけることもな
く回避される。

  奈津女:この服、里の匠に加工してもらったもので、一応優れモノなの
      …結構高いんだから、気安く触んないでね
  兵士G:フン…!!

 奈津女は両腕をだらんと降ろし、構えも取らず兵士の攻撃を誘う。
 …愚かな兵は、未だ力の差もわきまえず、好機と取り違え、突撃した。

 
ガッ…!

  兵士G:!?
  奈津女:残念ッ♪

 兵士は困惑した。美少女が消えたかと思うと、眼前に白のパンツが飛び込んできて、
顔をすべすべのフトモモで挟み込まれたのだ。
 鼻先からは、奈津女の秘所の魅惑的な香りが…。

  クレア:お〜お〜っ!エロい技だねェ〜!
  兵士G:もッ…モゴッ…!
  奈津女:よっ!!

 
ブオッ…!ドゴォォンッ!!!

  クレア:げッ…

 兵士の顔を股間に挟んだまま、反動をつけて脚力で一回転させ、兵士の頭を地面に
叩きつけた。

 
パンパンッ…

  奈津女:ふぅ〜…

 スカートの土を払いながら、何事も無かったかのように溜息をつく奈津女。クレア
は引きつった表情で話しかける。

  クレア:お前…強烈だな
  奈津女:え?…カッコいいと思いました?『日村流・神雪崩』です♪
  クレア:いや、よくわかんねーけど要するにフランケンシュタイナーだろ
  奈津女:違いますよー!そんな横文字じゃないです
  クレア:どーみてもフランケンシュタイナーだって。ひゃ〜…コンクリで喰らわ
      すヤツぁ、ヒールでもなかなかいねェぞ…エグいね〜お前
  奈津女:く…クレアさんの「タマつぶし」よりはマシだと思いますけど!
  クレア:あーあーこの娘は…そーやってすぐキンタマとかチンチンとか言う…
  奈津女:いッ…!言ってませんッッ!!

  バリー:………
  クレア:お。奈津女…お前のお目当てのスキンヘッド君が、なんか睨んでんぞ
  バリー:…本当に二人まとめて相手にすることになるとはな
      大した女達だよ…笑っちまう程にな
  奈津女:覚悟…できてる…?
  バリー:ああ…できてるさ…

 
ビュッ…!!

 バリー少佐はサバイバルナイフを取り出した。

  バリー:二回セックスする覚悟がな……フヘヘッ!
  クレア:…奈津女。コイツ、バカっぽいけど…多分結構強いぞ
  奈津女:………
  クレア:ナイフの持ち方で分かる

  バリー:さぁッ!!!来いッ!!!


 ―― 南アフリカ共和国:ヨハネスブルグ 離れの荒地 PM 21:50 ――


 人の気配の無い…一瞬砂漠と見紛う程の荒地。そこを横断するように、一人の初老
の紳士が歩みを進めていた。
 その後ろからは一人の美女が追跡する。紳士が走ろうともしない為、二人の距離は
どんどん縮まり、ついには両者とも荒地のど真ん中で足を止める。

   ユン:…待ちなさい
ヴァルター:………

 ヴァルターは「フッ」と小さく笑みを漏らすと、穏やかな表情のまま、追っ手の方
へ振り返った。

ヴァルター:やはり…ですか
   ユン:……?
ヴァルター:これほど早く私に追いついたということは……アーノルド氏は貴女達と
      戦う事を放棄したようですね
   ユン:………
ヴァルター:相も変わらず…あの事件のことがトラウマとなっているのでしょう…
      …不憫なことです
   ユン:独り言は止せ…。おとなしく、アーノルドから受け取ったCDをこちら
      へよこせ

 気品の高そうな男は、細い目を少しだけ開き、ユンを見つめた。
 この瞬間…、ユンは不思議な感覚に捉われた。今まで感じた事の無い感覚…。
 それが何であるかは、この時はまだ分からなかった。

ヴァルター:イヤだ…と言ったら?
   ユン:鉄則だろう?力ずく…ということになる
ヴァルター:………

 ヴァルターはスッ…と出した懐中時計を開き、時間を確認するとそれを閉じた。

ヴァルター:これなら正当防衛ですし、アーノルド氏も許してくれますかね…?
   ユン:………
ヴァルター:貴女達はおそらく、我々の事を殆ど何も知らないでしょう…
      …失礼ですが、私も小物に構っていられる程、暇でもないのでね
   ユン:減らない口だな。…年を考えた方がいい。悪事からは引退しろ

ヴァルター:『三分』です
   ユン:……?
ヴァルター:聞いていたとは思いますが…。私は時間の約束は破らないのがポリシー
      なのですよ…
      「ポリシー」とは私にとって、命の次に…
      いや…命より大切とすら言えるものです
   ユン:何が言いたい…?三分以内に貴様からCDを奪え…ということか
ヴァルター:誤解ですね…
      『三分間生存できたら、見逃して差し上げる』と申しているのです

 そこまで言うと、ヴァルターはニッコリ笑い、ネクタイを外した…。


 ―― 南アフリカ共和国:ヨハネスブルグ 裏路地 PM 21:50 ――


 
ビュッ…!!

  奈津女:くっ…!
  バリー:ハハハハッ!どうしたァ!?
      キンタマ蹴りなり炎の大道芸なり、さっきまでの勢いがねェな!

 バリー少佐はナイフを巧みに操り、迂闊に近寄れない空間を作り続けている。
 二人のヴァルキリーは、斬撃を受けこそはしなかったが、攻撃に転じれずにいた。

  クレア:おおおォォらああぁッッ!!!!
  バリー:!!!

 
ガゴォォンッ!!!

  クレアは、奈津女が少佐を引きつけている間に、背後から近くにあったドラム缶
を投げつけた。少佐のニメートル程もある体には大したダメージにはならなかったが、
攻撃のリズムを狂わせるには効果的だった。

  奈津女:ハァッ!!

 
ザアッ…!

  バリー:グゥっ…!

 少佐が体勢を崩した隙に、奈津女が掌を広げて両手を突き出すと、あたりの砂が舞
い上がり、彼に襲い掛かった。砂が大量に目に入ったのか左腕で目を覆ったまま、ナ
イフを適当に振りかざしている。

  奈津女:(今だッ…!)

 
ダッ…!

  クレア:奈津女ぇ!!待てッ…!!
  奈津女:へっ…?
  バリー:ヒャハハッ…!

 
バシュッ…!!!

  奈津女:きゃあァッ!!!

 なんと、バリー少佐は的確に奈津女が飛び掛ってきた方向へ、ナイフの連撃を浴び
せたのだ。…彼は砂を見事防いでおり、視力を奪われた演技に繋いでいたのである。

  奈津女:くッ…!
  クレア:………
  奈津女:すみません、クレアさん…迂闊でした

 クレアは奈津女の胸元を見て、目を丸くした。

  奈津女:でも平気です…、クレアさんのおかげで何とか咄嗟に…
  クレア:いや…いいんだけどよ…お前…それ…
  奈津女:……?

 そう、クレアが目を丸くしたのは、奈津女が怪我を負ったためではなかった。

  奈津女:(なんか…胸がスースー…)
  バリー:ヘッ…ヘヘヘ…、ハズしちまったが、こりゃ〜最高だぜ!

 奈津女は自分に何が起こったのか予想が付きつつも、恐る恐る自分の胸へ視線を…。

  奈津女:きゃああぁァァァ―――○π●´ッ!!!!!

 「そこ」では予想通りの事件が起こっていた。
 奈津女の特注のセーラー服がボロボロに裂け落ち、形の良い綺麗な乳房が、両方と
も、丸見えになっていたのである。顔を真っ赤にし、両腕で抱えるように胸を隠し、
その場にぺたんと尻をつく。

  バリー:初々しいねェ〜…!恥らう顔がイイぜ…勃起しちまうよ
  奈津女:は…ハゲ頭ぁ〜…ッ!!お…おまえ…触るだけじゃなく…こんな…!!
  バリー:しかも結構デカいじゃねェか…
      …さ〜ぁ、そのオッパイでどうしてもらおうかな
  奈津女:みッ…!見るなぁッ!!!バカッ!スケベッ!!変態ッ!!

 奈津女は胸を隠そうと腕をもぞもぞと動かすが、発達した乳房は隠し切れなかった。
それどころか、腕を動かすことで、もにゅもにゅと谷間が強調されるように柔らかそ
うに揺れる。

  バリー:………

 バリー少佐は清純な乙女のその官能的な姿に、煩悩が肥大する。

  クレア:(ナイスだ、奈津女♪)

 
ガッ…!!

  バリー:なッ…!しまッ…!
  クレア:へっへ〜ん、武装解除ぉ〜っと♪

 少佐が奈津女に見惚れた一瞬の隙を突いて、クレアは空を舞うようなソバットで、
サバイバルナイフを蹴り飛ばした。

  バリー:ちぃッ…!!
  クレア:おぉぉぉぉおおおリャァァアァァァァッッ!!!!

 
ドゴンッッ!!

 武器を失い、瞬時に格闘でクレアをねじ伏せようと豪快なフックを繰り出す少佐。
しかし、テクニックでは金髪の猫娘が数段上手であった。拳は虚しく空を切り、クレ
アのクロスカウンターが顎を捉えた。

  バリー:グ…ぁっ…!!
  クレア:もいっちょぉぉッ!!

 
ズドンッッ!!

 大男がグラついたところを、間髪いれず溜めをつくってのラリアットで追い討ちを
かける。巨体は大木が倒されたかのように派手な音を立てて、土を舐める事となった。
 強烈な攻撃を立て続けに貰い、自身の体が思うように動かないことに気がつき、少
佐は敗北を確信した…。

  バリー:ぐ…くぅ…!!信じられん女だ…ッ、お前達の…勝ちだ
  クレア:ひゅぅ〜♪まだ気ィ失ってないとは。さっすがタフだねェ…
      さぁ〜て…と!

 
グイッ…ガシッ!!

  バリー:?!

 クレアは見かけによらぬ怪力で、バリー少佐を無理矢理引き起こし、羽交い絞めに
した。

  バリー:何だッ…?!何をするっ…!!
  クレア:奈津女ちゃ〜ん?
  奈津女:ぐすっ…、は…はい…?

 不覚を取るほどの相手では無かった筈であるのに、このような痴態を晒されたこと
に、奈津女は悔しさで涙目になっていた。

  クレア:おら、奈津女。コイツのキンタマ蹴っ飛ばせ
  奈津女:……!
  バリー:ひッ…!な!何行ってやがる!俺は負けを認め…!!
  奈津女:……認めてない
  バリー:あ…あ……

 奈津女は頬を赤くしたままであったが、胸も隠さずに怒りに身を震わせ、少佐を睨
みつけた。その表情は少佐に、えも言われぬ恐怖心を植えつけた。

  奈津女:あたしが認めてない……ってゆーか、許してない
  バリー:ぅあ……
  クレア:ひひひひ。この星じゃ、セクハラには「キンタマ潰し」っていうお約束
      があんだよ。…知らなかった?
  バリー:お…お前らっ…悪魔か…?
  クレア:ほら。男として見る、最後のオッパイだ。よーく拝んどけって
      …案外気持ちイイかもよ?奈津女ちゃんのキンタマキック♪
  バリー:いッ…痛みを知らんくせに言うな!!やめろッ…!!マジでヤバいッ!

 少佐は必死で逃れようとするが、クレアの体のどこにそんな力があるのか、全く外
せなかった。目の前にはすでに、男の股間を蹴る事に躊躇の無くなった美少女が立っ
ていた。

  奈津女:…よくも、あたしのムネ触ってくれたわね
  バリー:ヒッ…!
  奈津女:よくも、こんなカッコにしてくれたわねッッ!!!
  バリー:わッ…悪かった…!!
  奈津女:本ッ気で蹴るからねッ!お前のタマなんか潰してやるっ!!
  クレア:膝でイったれ♪
  奈津女:了解っ!
  バリー:やっ…やめてッ…!!

 
タッ…

 美しい乳房を震わせながら、女子高生の姿をした死神が瞬間移動のように物凄いス
ピードで突進してきた。この速度だけでも脅威となるものを、痛みを知らない無邪気
な女は、更に渾身の力を乗せた膝で『男性の鍛えられない急所』へ――

  奈津女:ツブれちゃえぇぇぇぇぇっっ!!!
  バリー:待ッ…!!
  

ッッキィィィ―――――ン!!!!
バリー:ヴウウウウウウゥゥゥゥッッ!!!!!

 綺麗な膝は、二つの肉の球体を見事に骨盤で押し潰すように、メリ込んだ。
 少佐は獣の唸り声の様な奇声を上げたかと思うと、すぐに沈黙し、動かなくなった。

 
ドサッ…

  奈津女:ハァッ…!ハァッ…!
  クレア:いやぁ〜、カワイイ顔して鬼気迫るキン蹴りだったねェ♪あ、膝キンか
  奈津女:ざま〜みろっ、ハゲ頭!女をバカにすんなっ!!
  クレア:もう、聞こえてねーよ…ひゃ〜二個ともぺしゃんこ!怖ェ〜!

 クレアは完全に動かなくなった少佐の陰嚢をグニグニと弄りながら言った。

  奈津女:ちょっ…!クレアさんてば、何やってるんですか…
  クレア:さぁ〜てと…帰るか、ユンも終わった頃だろ
  奈津女:ですね

 
ピピピピッ…

  クレア:お…丁度ユンからだぜ…

 彼女は胸の谷間に手を突っ込み、通信機を取り出そうとする。奈津女はいつもこの
仕草を見ると、その何とも言えぬセクシーさにドキドキする。

  クレア:はいはい〜、こちら美脚去勢部隊♪ご注文はぁ?
  
【ユン:………クレア…                】
  クレア:………どうした…?

 奈津女はクレアの表情を見て…呆然とした。
 常に余裕の表情がトレードマークともいえるクレア。その彼女が、今は明らかにそ
うでない顔を見せたからである。

  
【ユン:…私としたことが…不覚を取った……。クッ…! 】
  クレア:おい、ユンッ!!怪我してんのかッ!?いまどこッ…
  
【ユン:…平気だ…大したことは…ない         】
  クレア:(ウソだろ…?ユンが…?)
  奈津女:クッ…クレアさん…?
  クレア:あっ…ああ……、大丈夫みたいだ…
  
【ユン:だが、そっちへ戻るのは厳しそうだ…すまないが…】
  クレア:ったりめーだろッ!行くよ!どこだ?
  
【ユン:お前達と別れた路地を出て……         】
  クレア:……わかったッ…すぐ行く!


 ―― ????? AM 00:15 ――

ヴァルター:シュウさん…こんな時間に、失礼致します
【 シュウ:ヴァルターか…何かあったのか?               】
ヴァルター:何か…という程でもございませんが…
      金曜日の『黄龍楼』の件ですが…
【 シュウ:何度も言うが、それはミッションとは関係無い……俺の問題だ  】
【     『ノース・ボス』といえど、この件には口出ししないでもらいたい】

ヴァルター:承知しておりますとも。私もそんなつもりはございません
【 シュウ:……じゃあ、何だ?                     】
ヴァルター:おそらく…ですが、三人の女性がその場へ向かうかもしれません
【 シュウ:…『西』の側近を消した奴等か                】
ヴァルター:鉢合わせたら、で構いません。お灸を据えてやってはくれませんか
【 シュウ:了解した                          】
ヴァルター:それだけでございます……夜分遅くに失礼
【 シュウ:また連絡する。では……                   】

 
プッ……

ヴァルター:………三人の女性…か
      …意外に、ああいった者が強敵となったりするのでしょうか…

 ………。

ヴァルター:私としたことが……少々、甘かったかも知れませんね

 飛行中の漆黒のヘリの中…、ヴァルターは一人、溜息をついた。



                                                          〜 To be continued ... 〜


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