Report - VS GROW 1


 ―― アメリカ:ネブラスカ州 AM 01:40 ――
 
  ??:………ここで待機
 ???:わぁ〜かってるって、ユン!
     心配しなくてもフライングなんてしないっての。な?奈津女
  ユン:奈津女は心配してないが、クレアは前科がある
 奈津女:あはは…
 クレア:…まぁな…

 小規模ではあるが、頑丈そうな鉄筋コンクリートの工場。
 そこから四百メートル程離れた所にある、切り立った崖の上に三人は居た。

 クレア:でも、ホントにあの工場なんだよな?ソフィーが言ってたのって
  ユン:このポイントから確認できる工場らしき物が他にあるのか?
 奈津女:確かに…見当たりませんよね…
 クレア:おい奈津女…ユンの皮肉にマジメに付き合うな
     アタシだってアレで間違いないのはわかってる
  ユン:フフッ…
 クレア:ブリーフィングルームで見たあの建物の映像は昼だったからな
     こう暗いとまったく別モノに見えるなぁって
 奈津女:暗いですか?
 クレア:ああ、夜目が利くんだっけ。じゃ、偵察頼むわ

 工場の周りには警備員らしき服装の人間が数人うろついている。
 規則的に建物の周りをゆっくりと進み、曲がり角のところで周囲を確認、後ろの曲
がり角に別の見張りが到着次第、曲がり角を曲がる。その繰り返しである。

 クレア:で?どんな感じよ
 奈津女:う〜ん…重装備…って程でもないですね。一応銃は持ってますけど…
     人数は五人で、みんなハンドガンですね
 クレア:たしかに軽装だな。ホントに『U』なのかぁ?
  ユン:ハンドガン……どんなのかわかる?
 奈津女:えっとなんか…リボルバーではなさそうですね
 クレア:ははっ!勉強不足だぜ奈津女?ユンには型番で答えね〜とな
 奈津女:ロッ…ク…?あ、「グロック17」って書いてます
 クレア:………
     お前…視力いくつ?
  ユン:フフ……さすがに驚いたわ
 奈津女:えへへ…
  ユン:どの道、侵入までは容易なようだ
 クレア:あと十五分ってとこか。はぁ〜…!あくびが出るぜ
     早く男共をヒィヒィ言わせてェ〜!
  ユン:辛抱しろ
 クレア:………
  ユン:それは私も同じだ

 そう言い、ユンはクレアに静かに笑いかける。
 クレアもそれに返すようにニッと笑った。

 奈津女:(カッコいいなぁ…ユンさんとクレアさん)


 ―― 二日前。


 
ガチャッ…

 クレア:あ〜疲れたぁ〜…なんか飲み物ぉ
????:ん、やっと来たわね〜。遅かったじゃない、私の愛するヴァルキリー達♪
  ユン:これでも急いだ…エレベーターで上がって来るだけのソフィアとは、移動
     距離が違う
ソフィア:ふふっ!わかってるわよ、冗談よっ
 奈津女:新しいお仕事ですか?
ソフィア:ええ、相当厄介なのが
 クレア:珍しいな。ソフィーに「厄介」とまで言わせるってのは
  ユン:………

 ソフィーと呼ばれた女性は、椅子から立ち上がり、壁に取り付けられている通信機
で飲み物を持ってくるように伝えた。

 オーロラ幹部、ソフィア・デ・フェリス。

 彼女は部下であるクレアに愛称で呼ぶことを許してしまうように、その性格は非常
にラフである。
 …が、オーロラ幹部の一人。
 ラフさの中に潜む卓越した知と技を見誤り、消された闇組織は数多い。
 明るく美しいブロンドのストレートヘアーに、男を興奮させる抜群のプロポーショ
ン。加えてタチが悪いことに彼女は服装までがラフ。
 デニムのミニスカートからはスラリと白い脚が伸び、ライトブルーのキャミソール
は小さめらしく、大きな胸は完全に形が浮いてしまい、当然谷間も豪快に目立つ。

 クレア:ふぅ〜ん…
ソフィア:?

 クレアはいやらしい笑みを浮かべながら、ソフィアの体を舐めまわすように見る。

 クレア:ソフィーちゃん、まぁた胸デカくなった?
ソフィア:エロ猫め。飲み物待たずにブリーフィング始めてもいいのよ〜?
 クレア:あはっ!しかもノーブラだろ。ほれ、見ろ奈津女。チクビ浮いてんぞ〜
ソフィア:見ればわかるでしょ?キツ過ぎてブラなんか入る隙間ないのよ
 クレア:あ、イヤミが出たよ。アタシらだって十分いいチチだっての。ソフィーの
     は重くてジャマ
 奈津女:ははは

 
ガチャッ…

   男:ソフィア様、コーヒーをお持ちしました
ソフィア:ありがと。テーブルに適当に置いておいて
   男:はい…
 クレア:げッ!ホットかよ!?
ソフィア:あら?いけなかった?
 クレア:え〜…アタシ「冷たいものが欲しい」って言わ…
  ユン:言ってない
 奈津女:ぷっ…!

 ユンはクレアの愚痴をバッサリ一刀両断すると、ツンと澄ました顔でコーヒーを啜
った。
 コーヒーを運んで来た男は、ついついキョロキョロしてしまう。
 『Ballkillie』のブリーフィングルームは絶世の美女が四人も集う場。
 健康な男であれば、無理もない。

 クレア:コーヒーありがとな。嬉しいよ
   男:いっ…いえ…
 クレア:でさ。オトコとしてはどー思うよ、ソフィーちゃんのエロエロボディ
   男:え…いやっ…そのっ…!
  ユン:…やれやれ
ソフィア:こら、あんまりイジめないの。ごめんね。いいわよ逃げて

 
パンッ

   男:あゥッ…!

 男が方向転換しようとするとすかさず、クレアがいつもの悪戯顔で男の股間を軽く
叩いた。

 クレア:おっ!ちょっと勃ってんじゃん♪
 奈津女:く…クレアさんてば…
   男:しっ…!失礼しますっ!!

 
バタンッ

ソフィア:あ〜あ…かわいそ…
 クレア:やっぱ男はソフィーみたいなカッコされると、アソコ硬くなっちまうんだ
     って。服装には気をつけな〜
ソフィア:違うな。…彼はユンのファンなのよ
 クレア:……ヘ?
ソフィア:ユンのそのバトルスーツって露出度高いじゃない?
     彼のアレが反応しちゃったのはそのせいよ、きっと
  ユン:………
 クレア:だってよ
  ユン:そういうこともある
 クレア:(素っ気ねェ〜!)
 奈津女:ふふっ。ユンさんはああいう人どうです?
  ユン:難しい質問だな、さっき初めて見た男にどうもこうもない
 クレア:じゃあ、どんな男だったら結婚できる?
  ユン:………

 通常このようなクレアの発言を制しようとする奈津女とソフィアだったが、この質
問についてはユンの回答が気になったらしく無言になった。
 ユンは沈黙を破る役目を押し付けられたことを悟り、面倒くさそうにコーヒーカッ
プから唇を離した。

  ユン:普通に考えて、私は夫となる者と喧嘩をしたら、間違いなくタマを蹴り上
     げるだろう。それはもう…思いっきりな
ソフィア:(この子、クールな割りに『タマ』とか平気で言うのよね…)
  ユン:結婚して二、三日で未亡人では、ただの笑い話だからな…
     『私の金蹴りに耐えられる男』…が大前提かな
 クレア:ハイッ!ユンが一生独身ってのが分かったところで、会議始めよーぜー!
 奈津女:あははははははっ!!
  ユン:まったく…
     …クレア、一口も飲んでいないじゃないか。お前の望み通り、冷めてるぞ
 クレア:サンキュ♪

ソフィア:よし、説明するわよ
 奈津女:はいっ
ソフィア:奈津女ちゃん。緊張してくれるのは嬉しいけど、内容が頭に入りやすいく
     らいには気をほぐしてね
 奈津女:あ、ありがとうございます


 ―― Briefing ――


ソフィア:さて…まず、言っておくべきことは…
     今回の相手は、多分今までで一番『強敵』ってことよ
  ユン:だろうな。ソフィアの様子がいつもと違ったからそんな気はした
ソフィア:ええ…

     敵組織の名は『GROW』。

 クレア:グロウ…
  ユン:危険度は?
ソフィア:『U』よ
 クレア:んあ?『U』?
 奈津女:危険度のランクって、AからDの四つじゃないんですか?
  ユン:…Aより酷いと考えていい
 クレア:ふーん、『ウルトラ(Ultra)』とか?
  ユン:……『アンノウン(Unknown)』
 奈津女:………
ソフィア:つまり不明ってことね。…もっとも、不明瞭というだけであって、実際は
     危険度Dレベルだったりもするわ
  ユン:しかし、オーロラ相手に実態をつかませていない、という時点で、危険度
     Aを凌ぐ可能性は十分にある
ソフィア:その通りよ
 クレア:…で、そのグロウの手がかりにカスったから、緊急招集ってコトね
 奈津女:ふむふむ…

ソフィア:GROWの目的は、とある兵器を起動することらしいの
 奈津女:兵器…ですか
ソフィア:兵器絡みでは売買が狙いのケースが多いけれど、GROWは違うみたい
  ユン:使用が目的とは穏やかではないな
ソフィア:ええ…。しかも、問題なのはその『破壊力』…
 クレア:ふーん…どうなん?
ソフィア:約四千平方キロメートルが消し飛ぶらしいわ…
 クレア:………
     ……わかんね
  ユン:おおよそ、アメリカ大陸南北合わせたくらいの範囲だ
 奈津女:ええっ!?
 クレア:…ヤベーな。でも、出来んのか?そんなん
ソフィア:わからないわ、真偽も含め調査の必要がある

  ユン:それで…?『U』ってことだが、そのGROWの何を掴んだんだ
ソフィア:情報では、GROWには四人の幹部がいるとされている…
     「東西南北」…四つの方角を司る、四人のボスが
 奈津女:幹部で四人って…、なんか大きそうな組織ですね…
ソフィア:そのうちの一人がネブラスカで何者かと密会を行うという情報を掴んだの
  ユン:………

ソフィア:ウェスト・ボス『ヘンリー・デイビス』…
 クレア:…偽名かは知んねーけど、アメリカ人かな
  ユン:情報元は?
ソフィア:無線の傍受よ、これを聞いて

 ソフィアは自分の椅子に付いているボタンを押した。
 すると、テーブルの中央にある小さなスピーカーから音声が流れ出した。

  
【   男A:ヘン……様…、先方から返信があり……た…】

 クレア:よく聞こえないな
ソフィア:このあと周波数の微調整をしてくれてるから大丈夫

  【ヘンリー?:…うか…、場所はいつも通りとい…ことでいいのか?  】
  【   男A:はい…。ネブラスカの例の工場です          】
  【      時間は二日後のAM02:00…               】
  【     :出席者はヘンリー様と先方の二名のみ、となっております】
  【ヘンリー?:分かった。他のボスに伝えておけ           】
  【      プランVは我々、『西』が遂行する…と        】
  【   男A:了解しました                    】


 
プツッ…

  ユン:………
ソフィア:以上よ
 奈津女:例の工場って…?
ソフィア:大丈夫。調べはついてるわ
 クレア:二日後…っつっても、午前二時じゃもうすぐじゃん…めんどくせ〜……

  ユン:ミッションは?
ソフィア:工場へ潜入し、密会相手の確認。可能であればヘンリーの確保をお願い
  ユン:…罠の可能性は?
ソフィア:否めないわね
  ユン:フン…まぁそうか
 クレア:で〜も!ワナだったとしてもぉ…
  ユン:…そうだな。それでいこう、クレア
 奈津女:……?

 ユンとクレアの間では、方向性が決まったようだったが、まだBallkillieに加入し
て間もない奈津女には、二人の考えが分からなかった。

ソフィア:当然「ウチ」に任されたってことは、例の如く建物内は銃火器禁止よ
 クレア:あー、いーよ。外でも使わねーだろうし、持っていかねぇ
ソフィア:五時間後にヘリを出すわ。寝るなり食事なり、適当にやって
 奈津女:はいっ!


 ―― アメリカ:ネブラスカ州 AM 01:58 ――

 クレア:さ〜てと、そろそろかね♪
  ユン:そうだな。後はターゲットが時間にルーズではないことを祈るのみだ
     ……奈津女
 奈津女:はい?
  ユン:大物を相手にするのは今回が初めてだろうが…心配するな、お前は強い
 奈津女:は…はいっ!

 ユンは奈津女に優しく笑いかけた。
 普段の彼女が持つ雰囲気とのギャップの為か、その暖かさが言いようもなく心強か
った。

  ユン:GO!!

 ユンの合図と共に、三人は瞬時に三方向に散り…走った。



警備兵A:………

 警備兵は後ろを振り返り、他の警備兵が来たのを確認して左に曲がって前進した。

 
ザッ…!

警備兵A:ッ…!!誰だッ!!

 突如背後二メートル以内から物音がし、警備兵は咄嗟に後ろを振り返る。
 しかし、そこには何者の姿もなかった。

警備兵A:……?
  ユン:逆だ
警備兵A:ひっ…!!

 彼は情けない声を上げて再度180度後ろを振り返った。無理もない。
 信じられない事に、自分が進んでいた方向に見知らぬ女が立っていたのだ。
 気が動転している彼には、ユンの美貌に反応する暇すらなく、ただただ、腰の無線
機を求めて手をバタバタさせる。

警備兵A:……ッ!?無っ…!?
  ユン:探しているのはこれか?すまない、借りていた

 ユンの右手には彼の求めていたものが握られていた。
 警備兵はやむなくハンドガンを抜こうとするが……。

  ユン:あと、これもな

 それも見知らぬ女の左手に握られていた。

警備兵A:だッ…!誰か…!

 
ゴンッ…!!!

警備兵A:ギぃアぁぁぁァァァァァーーーー!!!

 ユンは背を向けて逃げようとした警備兵の股間を、強烈に蹴り上げた。

  ユン:(あ……)

 この前の任務でターゲットが女性ばかりだった事もあってか、焦らしに焦らされた
ユンは、久々に見る「睾丸を蹴られた男の表情」に不謹慎にも快感を感じていた。

警備兵A:ぐッ…うげッ…!オエェェェェッッッ!!!

 警備兵は股間を押さえたまま膝をつき、丸くなったまま、あまりの痛みに嘔吐した。

  ユン:大丈夫…まだ潰さないであげたから……
警備兵A:ひぐッ…ウッ…
  ユン:あなた達の巡回は、前進中は孤立する…
     確かに私一人ではすぐに他の者に気づかれるだろうが…
     その者達も、同じタイミングで同じ目に逢っていることだろう
警備兵A:…キサマら…何者ッ…ゥッ…
  ユン:人手不足だったな

 ユンは警備員の髪をグイッと無理矢理引っ張って立たせ…

  ユン:手…退けな

 
バシッ…! ガッ…

 股間を押さえている手を叩き退け、そのまま睾丸を掴みあげた。

警備兵A:アアぁあッ!!やっ…やめッ…!!
  ユン:何をやめて欲しいの…?
警備兵A:つッ…潰さないで…!

 「潰さないで」。この言葉を聞くと、ユンは…秘所がじんわりと濡れてくる。
 この男殺しな自分の性癖を心のどこかで笑いながら、彼女は男の急所を握る手に力
を込めてゆく。

警備兵A:アァッ!!グェエァァぁぁーーー!!!ひッ…!助けッ…アグッ!!
  ユン:ああ…「コレ」?この、私が握ってる二つのタマのことね…?

 
ギュウウゥゥゥゥッッ…!!!

警備兵A:グヒィィーーーッッ!!オガッ…!アヒッ…!!
  ユン:あらあら…酷い顔ね。そんなにこのタマを握られるとツラいのね…?
     私には無いから、分からなかったわ…クスッ
警備兵A:ァ……ォゥ……

 警備兵の声が次第にかすれ、気を失いかけたところでユンは手の力を少し緩めた。

  ユン:私の質問に答えられたら、優しくしてあげる
警備兵A:ハァッ…!ハァッ…!質問…!?
  ユン:あなた達の組織の名前は…?
警備兵A:…そッ…!そんな事を答えたら、あの方に殺されッ…!
  ユン:あの方…というのは「ヘンリー・デイビス」?
警備兵A:……!!
  ユン:いい顔ね。よくできました

 警備兵は迂闊にも、ユンの質問に動揺の表情を晒してしまった。
 それは「Yes」と答えたのと何ら変わりは無い。

警備兵A:本当に…何者だ…、グァアアァァッ!!!
  ユン:質問しているのは私よ。それともこのタマ、要らなくなったのかしら?
警備兵A:アァアアァァッ!!ウグッ!!すみませんッッ!!
  ユン:あなたのような小物には何を聞いてもムダのようね…
     仕方が無いから、あなたでも答えられるような、簡単な質問に変えてあげ
     る…
警備兵A:なッ…なんだ…?
  ユン:この施設に、監視カメラはある…?
警備兵A:………
  ユン:中に入ったことが無いなんて言ったら、このまま…
警備兵A:わッ!わかったッ!言うから、タマはもう勘弁してくれッ!!
     二つのみだッ!正面エントランスから入ったら十字路に当たる!!
     真っ直ぐ進んだ所に地下広間へ降りる階段があって、そこに監視カメラが
     二台ある!!
  ユン:そこに取り付けられてるのは、その「地下広間」が重要な場所だからね…?
     監視カメラを制御しているのは…?
警備兵A:…十字路を左に行ったところにある、情報管理室だ
  ユン:十字路を右へ行くと…?
警備兵A:ただの薬品工場だ、表へ見せるためのな
  ユン:…ありがとう、もういいわ

 ユンは、男の最大の急所を握られ、抵抗を諦めてベラベラと情報を垂れ流してくれ
た警備兵に冷たく笑う。

警備兵A:おッ…おい…もういいだろ?頼むから離してくれッ…!
  ユン:そうね…、さすがに痛さでグッタリしてるみたいだから…
     …ゆっくり眠るといいわ
警備兵A:えッ……?

 
ギチッッ…!!!

警備兵A:!!!!!

 
ドサッ…

 ユンに突然もの凄い握力で睾丸を握りつけられ、その味わったことも無い激痛に、
警備兵は一瞬で白目をむいて倒れた。

 そして、丁度カタがついたところで、タイミング良くクレアと奈津女が現れた。

 奈津女:うわぁ〜…さすがユンさん…
 クレア:おーおー。い〜顔してイッちゃったねコイツ。…ツブれた?
  ユン:いや…一応残してやった。思ったより良く喋ってくれたからな
 クレア:珍しいね〜、歩く去勢マシーンにしては
 奈津女:尋問、うまくいったんですね
 クレア:奈津女。コイツのは尋問じゃなくて、拷問だ

 五人の警備兵のうち、クレアと奈津女が二人ずつ排除し、その間にユンが残った一
人から内部の情報を聞き出すという段取りは、ことごとく思惑通り且つスムーズに終
わった。この間、実に四分である。
 ユンは先程の警備兵から聞き出した情報を、正面エントランスへ回るまでの間に、
二人に説明した。

 奈津女:でも何とかなるもんですね!
 クレア:あははっ!なにが「なんとかなる」だよ!
     ユン。この女子高生、とんでもねーぞ?
  ユン:……?
 クレア:いやね、アタシが相当早く片付いたから奈津女を見に行ったんだよ
     そしたらこの女子高生、面と向かってる相手にいきなり後ろからハイキッ
     クよ?後ろからだぜ?アタシ張りのスピード!
     そんで、スゴいのはその後…
 奈津女:クっ…クレアさん…!
 クレア:ソイツがまだ意識がある事にびっくりして、今度はいきなりソイツの両足
     を掴んで地面に引き倒して、そのまま電気アンマ!
  ユン:くすっ…

 奈津女は男の股間を攻撃することに慣れてきてはいたが、こうしてクレアに口に出
されると恥ずかしいらしく、頬がハッキリと赤くなっていった。

 クレア:はははっ!それがさ。「ごめんなさいっごめんなさいっ」を連呼しながら、
     キンタマ踏みつける足は、イマイチ加減分かってなくて、その男顔面蒼白!
     もう完全に気ィ失ってるのに、そんままガッツガツ踏みつけて終いには…
 奈津女:も…もうその辺で…
 クレア:プチッ…!!ってイッちゃって、「きゃあああっ!!たッ…タマっ…!」
     とか言って…きゃはははっ!!!しかも何故か自分の股間押さえてんの!!
     あはははは!!奈津女にゃツイてねーっつーの!
  ユン:ふふっ…潰したのか
 奈津女:い…ぁ…その……
 クレア:………
 奈津女:…一つだけ…
 クレア:あははははっ!!!

 顔を真っ赤にして、奈津女は目を泳がせる。

  ユン:まぁ、痴漢でも蹴り潰されて仕方ないことだ
     狂った兵器を使おうなどと考えるこの連中は、それ以上に罪は重い
     …タマ一つで済んだなら幸運だ。気に病むな、奈津女
 奈津女:は…はははは…、ありがとうございます
 クレア:あ〜笑った…
 奈津女:も〜…
 クレア:そんじゃ…
  ユン:ああ、仕上げに入ろうか

 三人は正面エントランスをくぐった。
 とても明るいとはいえない程度に照明がちらほらと設置されていたが、五十メート
ル程先に十字路があるのが確認できた。

  ユン:私は、あの先にあるという地下広間の監視カメラに映らない位置で待つ
     クレアと奈津女は、左に向かって情報管理室を制圧してくれ
 クレア:映ってもいいんじゃねぇの?ゴリ押しで
  ユン:GROWの幹部は四人という話だっただろう。万が一、映像がデータ等で送ら
     れ、他の幹部に私達の姿が把握されれば、後々面倒かもしれん
 クレア:ま、わかったよ
  ユン:制圧完了次第、通信をくれ
     『U』である以上、この場を逃したくは無い。即座に地下広間へ突撃する
 奈津女:ユンさん一人でですか!?
  ユン:傍受した会話の内容を忘れたか?
     密会場所…おそらく地下広間はヘンリーと何者かの二名のみ…
     それなら多分余裕だ
 奈津女:こっちは相手の数が不明ってことですか…なるほど…
 クレア:心配すんな奈津女。こういう時はユンの判断に任せときゃオールオッケー
  ユン:………
 クレア:アタシの経験だ…ははっ♪

 互いに顔を見合わせ、小さく頷く。
 十字路に向かって、音も無く…走る。
 そしてすぐに三人は十字路に差し掛かる。

  ユン:そっちは任せるわ
 クレア:おうよ!

 クレアと奈津女はユンと離れ、左に伸びる長い廊下へと向かった…。


 クレア:へへっ…結構ホンキで走ってんだけどな…
     やっぱお前、早いな
 奈津女:あたし全力ですっ…
 クレア:ペース落とす?
 奈津女:いえっ…!これも修行ですっ…!
 クレア:頼もしいね♪

 この施設はかなり広く、二人の常人離れした疾走でも、情報管理室の扉が姿を現す
までには五分程要した。

 クレア:このまま蹴り開けるぞ。アイツを待たせられねェ
 奈津女:わかりました
 クレア:おぉぉりゃあぁぁぁあぁぁッ!!!

 
ドカンッ…!!

警備兵B:なッ!!何だッ!?
警備兵C:女…!?
 クレア:…二人か。話にならねーな…二人共貰っていい?
 奈津女:え…?

 二人の警備兵は同時にハンドガンを構えた。

 クレア:見てな

 
ヒュッ…!!

 奈津女:……!!!
警備兵B:はッ…!!

 「早い」と言いたかったのであろうが、クレアのスピードに気が動転し、言葉が詰
まる。
 クレアが二人の警備兵の丁度中間の位置へ瞬間移動したため、互いが味方を撃つ可
能性を恐れ、一瞬トリガーを引くのが遅れた。
 そしてクレアにとって、一瞬は十分過ぎる時間…。

 
ブキュッッ…!!

警備兵C:ンッ……!!

 咄嗟に片方に飛び掛り、股間めがけて容赦の無い膝蹴りを放った。
 膝は完全に精巣を破壊し、男は声も出せず、魂の無い人形の様にぐらりと地面へ向
かって崩れる。
 その男の頭が地面に着くと同時。

 
グシュッッ…!!

警備兵B:ゥブッ…!!!

 クレアはもう一人の警備兵の股の下に滑り込み、寝そべったまま、豪快に下から男
の象徴を蹴り上げた。
 自慢の靴『ゴールドラッシュ』の踵の窪みに睾丸が二つとも捉えられ、男ならば決
して聞きたくない音を立てて、それらはえぐり込む様に無残に潰された…。

 クレア:…完了〜♪
 奈津女:(お…おそろしいヒト…)

 
ガッ!

 奈津女:お……
警備兵D:動くなッ!!
 クレア:あ…ヤベ…もう一人いたの?

 部屋の入り口の所で、警備兵が奈津女の首に腕を巻き、銃を突きつけていた。
 さすがに寝そべったままの状態でこの状況は分が悪い…
 …と、クレアが考え始めた刹那。

 奈津女:とうっ!!

 
ゴキンッ…!!

警備兵D:ぁ……!ゥ……

 奈津女の踵が後ろに跳ね上がり、背後の警備兵の大事なところに、ぐしゃりとめり
込んだ。
 入り方が強烈だったのか、クレアに蹴られた二人同様、一瞬で気を失ってしまった。

 クレア:は…はははは…、ちょっとびびったわ
 奈津女:後ろから気配あったんで…この蹴り方の練習がてら、ワザと捕まってみま
     した

 奈津女はちょっとだけ照れ笑いしながら、クレアにVサインをした。

 クレア:ソイツが女だったらどうしてたん?
 奈津女:ああっ!考えてなかったです!そうだ…男のヒトだから効くんだった……
     よかったぁ〜…
 クレア:あははっ!

 奈津女:えっと…どうすれば監視カメラ切れるんでしょうね
 クレア:ん〜っとな…

 クレアは部屋の隅にある大きな装置の前に立ち、キョロキョロと装置を眺めると、
すぐにそれに触り始めた。

 
パチ、パチパチ…

 クレア:これを、こうやって…、これ…これ……はいっ!

 
カチッ…

 クレア:オッケー。これでカメラは死んだかな
 奈津女:え…?ええっ!?クレアさん、機械強いんですか!?
 クレア:………

 金髪の癖ッ毛美人は、目を細めて口をポカーンと開けたまま奈津女を見た。
 その様子から、奈津女は自分が発言を誤ったことを悟る。

 奈津女:あ…あの…別にそういう…
 クレア:一応プロなんですけどね…
     いーよーだ。どーせアタシ、おバカっぽいし〜
     宇宙人でも見つけたような顔しやがって…なんだよなんだよ
 奈津女:は…ははは…は……

 
ピッ…

 クレアは胸の谷間から小さなマイクのようなものを取り出すとそれに向かって喋り
始めた。

 クレア:ユン。いいぞ、行け
 【ユン:了解】
 クレア:アタシらどうしよっか
 【ユン:その部屋で入手出来そうな情報はある?】
 クレア:どうだろ。ちょっと見てみるわ
 【ユン:任せた】

 通信を終え、再びその小さな機械を柔らかそうな胸の谷間にギュッとうずめ込んだ。

 奈津女:あ!ユンさんだ!
 クレア:へっ…?

 クレアが通信しているうちに、奈津女は部屋の正面にある、巨大なガラス窓の外を
見ているようだった。
 気になってクレアもガラス窓の方へと近寄る。

 クレア:ほ〜…こうなってたんだ…

 ガラスの向こうは、地下広間が見下ろせるようになっていた。
 無骨な、広い石造りのその部屋は、闘技場の様にも見える。
 その中央には、ユンと…一人の男。
 赤っぽいスーツを纏った、ガタイのいい、金髪の男だった。

 奈津女:相手が一人って…おかしいですよね?

 おもむろに、スーツの男がクレア達の方をゆっくりと見上げてきた。
 男がニヤッと笑ったかと思うと…。

 クレア:………?

 
ガコォォォォン……!!

 情報管理室の入り口に、鋼鉄製のシャッターが下りた。

 奈津女:あ…
 クレア:ッ…?!しまっ…!閉じ込められたか?
 奈津女:あれが「ウェスト・ボス」のヘンリーっていう人なんでしょうか…
 クレア:違いそうだな。…遠隔操作でシャッターを動かしたのはアイツだろうけど

 
パチ、パチパチ…

 クレアは再びパネルを操作し、地下広間の音声が聞き取れるよう、機器を操作し始
め、奈津女はガラスの外で対峙している、ユンと男を見つめた。
 このガラスは防弾ガラスレベルでは済まない程に頑丈そうであった。

 クレア:しゃーねぇ。見学しとけ、奈津女
     アタシらのリーダーの力をさ…


 ―― 地下広間 AM 02:14 ――

 ???:ようこそ…不審者殿
  ユン:…貸切のようね
 ???:当然さ。もてなさなくてはいけないのだからね

 声が多少エコーする。
 広い空間の中で二人の男女が空気を張り詰めさせていた。

  ユン:名乗って頂けるかしら?
 ???:俺の名は、ヘンリー・デイビス
  ユン:嘘ね
 ???:……フン
  ユン:会議は終わったの?早いのね。お相手さんは?
 ???:………
     やはり、お前達か…盗聴していたのは
  ユン:あなたは、ヘンリーと呼ばれていた男と声が微妙に違うわ
 ???:フッ…フハハハハハハ……!!
     合格だ!なかなかキレるじゃないか

 
ピッ…

 男は胸ポケットから携帯電話のような通信機を取り出した。

 ???:はい…、はい…。ええ…掛かりました
     見たところ、チャイニーズです…
     ………
     なるほど…コイツが…確かにそうかもしれませんね
     …消しても?
     ………
     フフッ…ありがとうございます

 
ピッ…

  ユン:相手はヘンリー?
 ???:ああ、その通りだ
  ユン:あっさり言うわね。私を殺していい許可が出たからかしら?
 ???:察しがいいな、そういうお前はヴァルキリーとかいう部隊か?
  ユン:忘れたわ…体に聞いてくれるかしら
 ???:フッ…ハハハハハハ!!強い女は大好きだぞ?
  ユン:残念ね、弱い男はキライなの
 ???:お前がもしもヴァルキリーだったとすれば、俺はあのユン・リーと対決で
     きることになる!最高だ!!
  ユン:戦いたかったの?
 ???:中国の格闘技術は素晴らしい!!俺も自分で言うのもナンだがマニアでね
     本場と力比べしてみたかったところさ!
  ユン:ヴァルキリーって確か、その股間にツいてる汚いモノを潰すのが得意よ
 ???:心配無用だ、俺は常時ファールカップを着用している
  ユン:あら…ソコを蹴られるのがコワいのね

 ???:俺の名はキース・ボールズ!ウェスト・ボスの影武者よ!
     いざ…勝負だ!!

 
バリィッ…!

 キースは上着をシャツ共々、乱暴に破り捨てた。

  ユン:…私達の傍受に気がついて、打ち合わせ場所を移した…
     さらにここで罠を張ることで、傍受者を特定しようということか…
     …だが、惜しかったわね。それはあなたに「実力」が必要な作戦よ

 二人は静かに構えを取る…。そして、空気は一気に凍りつく。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 
 クレア:ボールズだってよ。アイツ名前が「タマタマ」だ。はははっ!!
 奈津女:あ…あのヒト、ファールカップを付けてるって…
 クレア:ん…?
 奈津女:ファールカップって…、男のヒトの…アソコを守るヤツ…ですよね…
 クレア:うん。まぁ、気にすんな
 奈津女:…へ?
 クレア:ユンのキン蹴りは、ホンッと尋常じゃねーから
     男のキンタマをブッ潰すために生まれてきたような女だからな、あはっ!
 奈津女:………
 クレア:アイツのキン蹴りは…
     …ファールカップごとタマをぐしゃぐしゃにする
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


 
ガッ!ガガッ…!

 キース:クッ…!
  ユン:「まあまあ」…というところか

 ユンは攻撃を受け流しているだけだった。
 キースは決して弱くは無かった。確かに早く、確かに力強い。
 この施設にいた警備兵の十人や二十人程度では、キース一人と釣り合わないだろう。
 だが……。

  ユン:単純に相手が悪かったわね…
 キース:(…あり得んッ…!俺とここまで格差があるってのか…!?)
     (もはや…人間かすら…怪しいッ…!?)
  ユン:どうする…?もう本気を出し尽くしたなら、終りにしてあげてもいいけど

 
パンッ!ガガッ…!

 キース:クソッ…!!
  ユン:中途半端に強いだけあって、「諦めが悪い」……良いことね
     それに免じて…あと五秒あげるわ
 キース:………!
  ユン:それまでに私を倒せなければ…、この脚であなたのタマを蹴ることになる
     ……私の蹴りは…凄くイタいぞ…?

 ユンはそこまで言うと、キースに微笑んだ。
 何故か、その表情は妙に妖艶だったが、キースはそんな色香を感じている余裕すら
無かった。

 
ブオンッ…!

  ユン:5……
     …そもそも、ヘンリーが居るなど期待していなかったのよ
 キース:何ッ…!?

 
ヒュッ…!パンッ…!

  ユン:4……
     …とにかく、ここに居るヤツを連れて帰りたかった…それだけ

 
ガガッ…!ブンッ…!!

  ユン:3……
     …それが影武者とは…以外にも「アタリ」だったと思っているよ
 キース:ナゼだッ…!何故拳が届かないッッ!!

 
パパンッ…!

  ユン:2……
     …だから、タマの痛みでショック死しないように…

 
ヒュンッ…!

  ユン:1……
     …踏ん張ってね

 
ブオォォォォンッ!!!

 キース:クソオォォォォオ!!!

 キースは最後のチャンスである一撃も、当然のように回避された。
 叫び声を上げる彼の胸には、そっと…ユンの掌が置かれていた。

 キース:…!?
  ユン:覇ッッ!!

 
ボンッッ…!!

 キース:ンぐッ…!!

 彼は腹から背中に向けて、妙な温度の波動が突き抜けたのを感じた。
 軽い痛みはあったが…。特にどうということは無い。
 地面に膝をつくこともなく、その場に呆然と立ち尽くしていた。

 キース:は…ハハハ…なんだ…?何とも…
     ……!?
  ユン:………
 キース:なッ…!!なんだコレはッッ!!??

 キースは自分の体が言うことをきかないことに気がついた。
 手も…足も…。自分の体ではなく、ただ伸びているだけの飾りに感じる。

  ユン:『氣』というものだ…これくらい使えたら何とかなったかもな
 キース:動かんッ…!馬鹿なッ…!!
  ユン:こいつを食らった事のある私の仲間は、「関節を接着剤でガチガチに固め
     られた様」だと言っていたわ
 キース:…上手いことを言う


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 
 奈津女:ユンさんって、たまに少しだけ口調が女っぽい時がありますよね
 クレア:うん…何でか知ってっか?
 奈津女:ぜんぜん
 クレア:ユンってさ、男のキンタマ蹴る事が性感帯っての?
     アイツ、男が痛みに悶える姿を見てる濡れるレベルのドSでさ。ま、ヒト
     のコト言えねーけど。…あ、濡れるってのは当然、マ…
 奈津女:いッ、言わなくていいですって!!
 クレア:とにかく、男虐めを楽しんでるモードに入ると、ちょっと女言葉が出るっ
     ぽいんよ
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


  ユン:さて…いい加減、終幕にしましょう
     予告通り、ソコを蹴るわよ…覚悟はいいかしら?
 キース:………

 ユンは、両足を大胆に開いたまま固まっているキースの股間を指差した。
 キースは、股間にファールカップを装着している安心からか、まだ心が折れていな
い様だった。ユンはそんな態度を取られても、楽しくも何とも無かった。
 彼女は恐怖を煽る事にする。

  ユン:カップ付けてるんですってね
     …あなたは動けないのだから、ゆっくりそのズボンを下げて、カップを外
     し…生で蹴り潰してあげることも出来るのよ…?
 キース:ッ……!
  ユン:でもそれをしないのは、「その必要が無いから」…
     あなたのペニスなんか別に見たくもないし…このままやってあげるわ…
     …男の脆いタマで…私の足の感触を味わいなさい
 キース:あ……くっ…!!

 キースの表情は、曇り始めるどころか完全に怯えた小動物のようになった。
 目の前の女の技量を思い出し、ファールカップなど何の気休めにもならない事を実
感し始めてしまったからだ。
 そして彼はついに、口にしてしまう。

 キース:つッ…
  ユン:………?
 キース:潰さないで…くれ…

 その言葉とキースの表情。ユンの秘所はしっとりと濡れてくる。

  ユン:だぁ〜め…♪

 ユンの台詞に「図体の大きい小動物」は唇を震わせ、眉を情けなく曲げる。その様
にユンはさらにエクスタシーに陥ってゆく…。
 彼女は絶頂へ向かうべく、左足をゆっくりと引いて力をためる。
 『雲龍旋風脚』の構えである。

 キース:やめてくれェッ…!そんな脚で蹴ったら本当に潰れちまうッッ!!
     蹴らないでッ!!

 彼のプライドを捨てた命乞いも虚しく…。
 ユンの鍛え抜かれた美脚が、股間に向かってくる…。
 キースには、それがスローモーションのように映った。

 キース:助け…ッ!!


 
ッッッッッ !!!!! パキッ… メシャ…
キース:ヵ………


 キースの股間からは、壮絶な睾丸のひしゃげる音と、ファールカップが無残に砕け
散る音がしたが、彼の口からは叫び声すら発することも叶わなかった。
 無理もない。軽い衝撃ですら激痛を引き起こす睾丸が、蹴りによって強打され、且
つ砕けたファールカップの破片が抉り込んだのだ。

 こうして、ユン・リー vs キース・ボールズ は、
 歴然の力の差のもと、幕を閉じた……。


 ―― アメリカ:ネブラスカ州 AM 02:21 ――

 失神したままのキースを確保し、三人は工場から離れた指定ポイントで、オーロラ
からの迎えのヘリが来るのを待った。
 予定ではAM03:00に迎えが来ることになっている。
 つまりは、計算していたより相当早くミッションを完了してしまったのだ。

 クレア:…コイツ重いな
 奈津女:だ…大丈夫ですか、クレアさん
  ユン:こういうデカい奴のデリバリーは、クレアの仕事と決めている

 クレア:で、この後どうすんのかね?
  ユン:…GROWは確かに長期戦になりそうだな。まずはこの男を徹底的に虐め抜い
     て、ヘンリーから追うべきかもな。どの道、ソフィアと話をしてからだ。
     向こうでも何か進展しているかも知れん
 クレア:でも良かったな。ギリギリ潰れてなくて
  ユン:ああ…カップが無かったら危うく潰してしまっていた…
     それでは拷問にならないからな

 クレア:しっかし、ユンの戦いは面白かったぜ!
     「ペニス」とか「タマ」とか「生で蹴り潰す」とか…、爆弾発言連発♪
  ユン:な……聞いていたのか?
 奈津女:ユンさんって、この仕事天職なんですね
  ユン:………
     クレア、ヘンな事を吹き込んでいないだろうな
 クレア:んあっ?いーじゃん性癖くらい。アタシもおんなじだしさ
  ユン:性癖とかいう表現はやめろ……やれやれ…
 奈津女:あははは…
  ユン:フッ…まぁ、別にいいか

 クレア:あ、そうだ奈津女
 奈津女:何ですか?
 クレア:ちょっとずつでいーから、アタシらにタメ口利いてくようにしてけよ
 奈津女:え〜っ!?む…無理ですよぉ〜…
  ユン:そうだな。その方が円滑かもしれん、賛成しよう
 奈津女:ユンさんまで…
  ユン:あと、クレア。お前は「ソフィーちゃん」はやめておけ、一応上司だ
 クレア:え〜っ!?む…無理ですよぉ〜…
  ユン:可愛くない
 奈津女:あははははっ!!


 日も昇らぬ時間。ネブラスカのとある場所に、美女の笑い声が響いた。
 このミッションの終わりは、GROWとの戦いの始まり。
 ヴァルキリー達は皆、それを理解してはいたが、今はただ…笑った。

 この仲間となら、どんなミッションも上手く行くと信じて………。



                                                          〜 To be continued ... 〜


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