Episode - Claire


 ゴォォォン…
 
 
ゴォン。ゴォン。ゴォン…!!

 30m程もあるであろう天井から、無数のスポットライトが照射される。

    客:ウワァァァァァ…!!

 同時に鼓膜を破りかねないほどの大歓声。
 交差するスポットライトの焦点は……言うまでも無い。
 中央のリングだ。
 数千の観客達は、そのリングに間もなく上がってくる英雄を今か今かと待ち構え、
奇声を上げている。

 …何の試合が行われるリングか?

 ボクシング…?No。
 プロレス…?近いが、No。

 ここは、裏レスリングが行われる、地下闘技場だ。
 普通のレスリングとどう違うのか…、それは割りと単純明快。
 殺して良いか…悪いかだ。
 そう…つまり、この地下闘技場には試合中に相手を殺してしまい、レスリング界に
居られなくなったレスラーや、実際に『やり過ぎてみたい』レスラーが集う。

    客:クソォッッ!まだかッ!まだかよォォッ!
    客:遅ェ〜ぞォ、畜生〜!

 相手を殺すもOK、相手が女なら犯すもOKだ。それを目当てにチケットを買う人
間も少なくない。

    客:いい加減にしろ!!ヒマだ!!誰かオレと戦えェ!!
    客:いい!!面白ェ!俺がやってやろうか!?

 そんな試合を見たがる人間達だ。当然、観客の質も悪い。

 
ブツッ…… プウゥーーーン…

 場内のスピーカーに電源が入る音がした。観客達はざわめく。

 リングに大柄なレフェリーが上がってくる。このレフェリーは数年前、表のレスリ
ング界でチャンプだった事がある男だ。これだけ無法な裏レスリングでは、並の人間
にはレフェリーは務まらない。

レフェリー:レッディィース!エェン、ジェントルメン!!!
      今宵は、よくぞこの死の宴に参加してくれた!!!
    客:当たりめーだァ!!
レフェリー:諸君の心の渇きを潤す、今宵の二人の主役を紹介させて頂こうッ!!
    客:ウオォォォォーーッ!!

レフェリー:青コーナァァー!!ナイフや銃では殺せぬ人間兵器ッッ!
      どんな殺陣を見せてくれるのかッ!?
      鋼の肉体ッ!!『アイアンコーング!アンブロォォォォズ!!』

    客:ウオォォー!!今日も血を見せてくれェェ、アンブローズ!!
      コーング!!コーング!!

レフェリー:赤コーナァァー!!彼女に去勢された男は数知れずッ!!
      今宵もあの靴『Gold Rush』は男の急所を砕くのかッ!?
      反則女王ッ!!『クレェェア!!エールリィィィッジ!!』

    客:ウォォォー!クレアちゃ〜ん!!
    客:アンブローズの野郎をタマ無しにしちまえ〜!!

 青コーナーからは、自分の胸をドラムのように叩きながら、本当にナイフの刃が通
らなそうな筋肉ダルマが現れた。
 そして赤コーナーからは……。
 美しいブロンドヘアーに、澄んだ青い瞳。スタイル抜群のボディを露出度の高いオ
レンジ色のコスチュームで包んだ美人が現れた。
 ロープを引き千切らんとする勢いでリングに登ったレスラー、『アイアンコング・
アンブローズ』は、レフェリーからマイクをもぎ取り、叫ぶ。

  コング:クレア!!お前とは一度やり合ってみたかったァッ!!
      強い奴と戦いてェからじゃねェ!
      男をナメ切ってる貴様に、男を解らせるためにだァ!!

 アンブローズはそう言いながら、下品に腰を前後に振った。

    客:オォォォ!いいぞコングゥ!!
    客:その女の喘ぐ姿を見せてくれェェ!!

 アンブローズはマイクをクレアの顔面に向かって投げつける。クレアはそれをキャ
ッチすると、大きく息を吸い込んだ……

  クレア:上〜〜〜〜等だぁッ!!短小ヤロォ!!
      お前の、皮かぶった小ッさいウインナーでアタシが満足するワケね〜だ
      ろがぁ!!入れられるモンなら入れてみな!!
      その前に、その粗末なキンタマ、ブッ潰してやらぁ!!

    客:キャァァ〜!クレア様ァ〜!!
    客:クレアー!!好きだァーー!!!

 可愛い顔に似合わず、とんでもない事を言うクレアは、場内の熱を更に上げた。

 
ブンッ!!

 クレアはマイクの電源を切らぬまま、真上へ放り投げた。
 騒がしかった場内が、初めて静かになる…。
 スローモーションのように、マイクがゆっくりとリングの中央目掛けて落下してゆ
き……

 
ゴォォォォ……ン!

 轟音を奏でた。

レフェリー:Fight!!!
  コング:ウウゥゥゥオアァァーーーー!!!!

 
ダンダンダンダンダッ…!

 開始の合図と同時にアンブローズがクレアに突進する。

 
ブオッ…

  クレア:ヘッ…!
  コング:ッ!?

 アンブローズの闘牛の様なショルダータックルをクレアはなんと『飛び越えた』。
 身長215cmのアンブローズの頭上を!
 人間の跳躍力ではない。さすがのアンブローズも目を丸くせざるを得なかった。

    客:ウォォォーー!!

 クレアは観客達へのパフォーマンスとばかりに、落下までに二度体を回転させ、猫
のように体を丸めた状態で着地し…アンブローズの方を向き、ニイッと笑った。

  コング:フッ…フハハハ!!こんな女がいるのか!!超人だな!!
  クレア:オマエが凡人なのサ、肉ダルマ
  コング:気に入ったぜ、クレア=エルリッジ!!

 
ダッ…!

 アンブローズが、再び両手を広げてクレアに飛びかかる。掴むつもりだ。
 捕らえなくてはクレアを攻撃する事が出来ないと悟ったのだ。

  クレア:甘いよ♪

 
ヒュッ…

  コング:なッ…!うおッ!!

 
ドダァァン!

 アンブローズは、突然もの凄い音をたてて転倒した。
 クレアがコングの体を紙一重でかわし、足を掛けたのだ。

  コング:……ウソだろ…?
  クレア:あはっ…どする?やめる?
      アタシとオマエ、ちょっと力の差ありすぎじゃね?
  コング:(…マジかこの女……早過ぎるッ…)
    客:ウォォォー!!クレアちゃん最高〜〜!!
    客:立てアンブローズ!!オレはお前に賭けてンだぞォ!!?
レフェリー:クレア優勢!優勢!優勢ッ!!
      アンブローズ、スピードに全く付いていけない!!
      強力な攻撃も当たらなくては意味が無い!!どうするッ!?

 アンブローズはクレアを睨みつけながら立ち上がる。

  クレア:おっ?まだやってみるかね、ゴリラ君
      そろそろペース上げちゃうケド、覚悟はいーのカナ?
  コング:常識外れな速さで動き回りやがって…、テメー前世はネコかなんかじゃ
      ねーの……
  クレア:にゃん、にゃぁ〜ん♪

 クレアはネコのように右手の甲を舐め、アンブローズを挑発する。

  コング;でもやる気出たぜ!!
      お前を倒さねーと、今夜は眠れそうにねェ!!
  クレア:………
      上等ぉ…
  コング:いくぜェ!!………ッ!!

 
ドンッ!

 次の瞬間、アンブローズがクレアの左ハイを右腕でブロックしていた。

  クレア:へぇ…やるね♪
  コング:テメェ…!間合い無視かッ…!

 
ビュッ…!

 クレアは受けられた左足を軸に、そのまま体を逆にひねり…

 
ガゴンッ!!

 大車輪のように右足をアンブローズの顔面に叩き下ろした。

    客:出たァア!トルネードハンマー!!
    客:ウォォー!!
  コング:ぅぐッ…!
  クレア:にひひ・・・

 
ガシッ…

  クレア:げっ!!

 アンブローズはクレアの右足首を、岩のような手で掴んだ。

  コング:ふははは…!捕まえた…!!
レフェリー:不死身の男、アンブロォォーズッ!!
      並の人間ならば死んでも不思議ではないクレアのトルネードハンマーを
      ものともしないのかッ!?

 アンブローズは、足首を掴んだまま、クレアを宙吊りにする。

  クレア:はは……キいてねーの…?
  コング:悪いが俺もバケモンのはしくれなんで……なぁッ!!

 
ブオンッ!

  クレア:うわっ!!

 アンブローズはクレアをロープに向かって乱暴に投げつけた。ロープはクレアを綺
麗にアンブローズの方へと投げ返す。

  クレア:やべ…すっげェ力……
  コング:オオォォォォ!!!

 
ズダァァァン!!

  クレア:オげッ…!!
    客:うおォォー!!アイアンラリアット!!

 アンブローズはクレアを左腕で力任せに叩き落とした。腕はクレアの胴体にめり込
んだ。顔面を狙ったつもりだったが、クレアが微妙に軌道を逸らしたのだ。

  コング:フハハハ…早ェだけじゃ…
  クレア:げほっ…がほっ…!!
      ふえぇ〜……、優しくしてくれよぉ〜…
  コング:……!!
      (…笑えねェぞ…?腹とはいえ、モロに入ったハズだ…!?)

 腹を押さえながら、クレアがゆらりと立ち上がる。

  コング:(打たれ強さまで有るってのか…?あの体で…?)
  クレア:…今のラリアット、おっぱいカスったよね…
      セクハラだぞ〜、スケベヤロー
  コング:(…ナンなんだ…この女…!?)
  クレア:…ほんじゃアタシも…得意のセクハラ攻撃しちゃおっかな♪

 そこまで言うと、クレアは白い歯を出して笑った。
 イタズラな美女。その笑顔に場内の男達は一瞬見惚れる。

  クレア:ちゃんと『ファールカップ』は付けてきたカナ?ゴリラ君♪

 
ブオッ…

 クレアは凄いスピードでリングの上を駆け回り始めた。

  コング:………

 アンブローズの背筋に冷たいモノが走る。

レフェリー:出たァァ!『クラッシュ・コール』!!
      もはや、クレアのファンには説明不要の『クラッシュ・コール』!!
      この宣言以降、彼女は股間以外は狙わないッ!!
      アンブローズ、男の象徴を守れるかッ!?
      ファールクィーン、クレア=エルリッジ本領発揮だァァァッ!!!

 
ダッダダッ!

  コング:(どこから来るッ…?)

 アンブローズは必死でクレアを目で追った。
 ファールカップは…付けていない。アンブローズは今、明らかにクレアに恐れを
感じ始めていた。クレアはパワーに関しては『狂っている』ということもないが、女
とは思えないくらいの馬力はある。
 それにクレアの異名『Foul Queen』。
 鈍器や刃物を使っての『反則』ではない。
 金的への執拗な攻撃だけで得た異名。

レフェリー:クラッシュコールを受けて生きていた男は、なんとゼロ!!
      アンブローズ!この先、何分男でいられるかァ!?
    客:コングゥゥ!!行けェ!ビビッてんじゃねぇ!!

 クレアは凶器を好まない。それはアンフェアを嫌うからではない。自らの手足で相
手を叩き潰す感触が欲しいからだ。
 履いている『Gold Rush』は、そんな彼女の特注のブーツだ。
 軽くて軽量。そこまでは良くある代物だが、『Gold Rush』の特徴はそん
なことではない。
 つま先、足の甲、足の裏、踵部分全てに、睾丸を逃がさない為の絶妙な『くぼみ』
が施されている。

 
グシュッ…!!

  コング:ふぐゥあァァァァーーーッ!!!
  クレア:あ〜ら、今の感触はカップ無しだな
      本気で蹴ったら終わっちゃってたね。危ない危ない

 彼女にタマを甚振られ、潰され、この世を去ったレスラーは数知れない。
 生きていても、確実に男を廃業している。

 
ドボッ…!!

  コング:うおゲェェェッッ!!

 
ビチャビチャ…!

レフェリー:クレア、二発目の金蹴りィィッ!!アンブローズ吐いたぁッ!!
      一発目が効き過ぎて、もう避ける余力も無いのかッ!!
      男ではクレアを破ることはできないのかッ!?
    客:キャ〜ッ!クレア様ぁ〜潰しちゃえ〜!
    客:あぁん…、大男がタマを押さえて悶える姿…私、濡れてきちゃう…

 そんなクレアの戦い方は、世の中のサディストな女達にも大絶賛される。
 男が金玉を本当に潰されて、気を失ったり絶命するという場面は、表の世界ではそ
うそう見られるものではない。
 急所をボコボコに集中攻撃されて、情けない声で絶叫する男を見たいがために集ま
る女達も観客の中には多いのだ。

 
ゴキュッ…!

  コング:ォぶッ…!

 
ゴキュッ…!

  コング:ゥ……
  クレア:あは!あははははは!!イタそ〜!
      ゴメンな〜!アタシ女だから加減わかんなぁ〜い!なんつって♪

 高らかに笑いながら、アンブローズの股間に、クレアの蹴りが何度も何度も叩き込
まれる。次第にアンブローズはグゥの音も出せなくなっていった。

 
ブキュッ…!

 
グキュッ…!!

  クレア:アンタ、刃物でも銃でも死なないんじゃなかったっけェ〜?
      でも、キンタマやられるとこんなモンだよな男って!
      白目剥いて、泡吹いて……み〜んなおんなじ!あはっ!!

 
ゴキッ…!!

レフェリー:クレア残虐ッ!!男達よ!この光景を直視できるか!?
      アンブローズ、生きているのかッ!?
  クレア:なんか言えよゴリラぁ!
      『やめて下さい』って言わねーと、去勢しちゃうよ〜ん♪

 
ドボッ!!

  コング:ゥ……
  クレア:………
      返事がないネェ…仕方ない、君には男を辞めてもらおう!
      観客の超〜〜〜〜Sな女共ォ!!このゴリラ君の汚らわしいタマタマが
      ブッ潰れるのを見たいかァ〜〜!!

    客:きゃぁ〜!!
    客:つ・ぶ・せ!!つ・ぶ・せ!!!

  クレア:…だとさ、ゴリラ君
  コング:……ゥ…ァゥ…
  クレア:にしし…か〜なり手加減してるとはいえ、アタシのタマ蹴りこんだけ受
      けて、呻き声出せるだけでも表彰モンだ

 クレアは、力が抜けたままのアンブローズの体を反転させ、白く美しい右腕をコン
グの背中にかけた。

  クレア:でもコイツで終了だぁッ♪

 
ガッ!

 クレアはアンブローズを近くのロープに引っ掛けて立たせ…

  クレア:オオォォォォォ…!!!

 
ズドンッ!!

 ロープに引っ掛けられたアンブローズ体のをドロップキックの要領で蹴りこんだ。
すると、アンブローズの体はロープに絡まったまま一回転し、逆大の字の状態……、
そう、開脚したまま体を逆さに磔にされた!!

    客:ウォォォーーー!!!
レフェリー:出たッ!!クレアのローリングバインドッッ!!
      この技が出たということは、アンブローズ男としての処刑の時は近い!
  クレア:ほっ!

 
バンッ!

 クレアは派手に音をたててリングを蹴ると、ロープの上に飛び乗った。
 下を見下ろすと、開脚したアンブローズが丁度良く、自分の足元でロープに磔にな
っている。

  コング:…ゥ…あぐゥゥ…俺の…タマ…
  クレア:い〜い眺めだねェ♪
      思いっきり股おっ広げて、キンタマさらけ出しちゃってェ…
      そのパンツのふくらみも、数秒後にはアタシとおんなじくらいぺったん
      こだよ〜ん、あははっ!!

 クレアはゆっくりと片足を上げる…
 踏み下ろす先は…、男の象徴であり最大の弱点。

レフェリー:出るのかァァ!!『ビーナスジャッジ』!!
      思い切り金玉を踏みつけるという、クレアのフィニッシュ技の一つ!
      タマが残るか、はたまた潰れ死ぬか!!
      名前通りの、女神による審判ッ!!
    客:キャあ〜!!クレア様〜〜!踏んじゃえ〜!!
    客:オォィ!コング!!何やってんだ!よけろォ!!死ぬぞオマエ!!
  クレア:…悪いねェ〜。もう壊すよ〜

 クレアの上げた『Gold Rush』の踵のくぼみは、アンブローズの睾丸の真
上にセッティングされた。狂った観客達の中、男の数人は視線をリングから逸らし、
強く目をつぶる。

  コング:…や…やめて…下さい…、クレア……様…

 死刑直前に、最後の力を振り絞って命乞いする事に成功したアンブローズに、クレ
アはニコッと可愛らしい笑顔で返し…

クレア:聞こえねェェ!!!

ガゴンッ…!!
コング:ィギゅぷッ…!!!

 一切の加減無しに、アンブローズの股間のふくらみを、蹴るように踏みつけた。

    客:ヒィィィィッ!!
    客:きゃぁぁぁ〜ん♪
レフェリー:……ゥェッ…はッ…入った…!ビーナスジャッジ!!
      コング生きているのかッ!?
  クレア:よっ!

 
ダンッ

 クレアはこれだけ残酷な事をしながらも、平然とした顔でロープを飛び降りる。
 逆さに磔のままのアンブローズに近寄り、自分が強烈に踏みつけた箇所へ手を伸ば
し、グニグニと触る。

  クレア:あははっ…!2コとも潰しちゃったにゃぁ〜ん♪
    客:ウォォォォーーー!!
    客:勝負あったな!よォし!よォォォし!!

 クレアに賭けていた観客達が奮い立つ。
 いかに鍛え抜かれた男であろうとも、金玉を潰されては、もう動く事など到底無理
という事くらいは、このイカれた観客達でも解る。

レフェリー:人間兵器、ピクリとも動かないィィッッ!!
      コォォォング・イズ・デェェッッド!!!
      今宵の勝者は、金蹴り女王クレア=エルリッジ!!
      一人の大男をあっけなく去勢し、これで37連勝!!
      潰したタマの数はアンブローズの2つを足して、ついに50を迎えたァ
      ァァ!!
      史上最強の男殺しは彼女だァァァーーー!!!
  クレア:あははは!
      アタシにキンタマ蹴って欲しい奴ァ、リングに上がって来なぁ!!
    客:ウォォォ……!

 
バツン……!

  クレア:…あン…?
    客:何だ…何だオイ!!

 突如、会場の証明ブレーカが全て落ちた。
 緊急用の照明も完備されているはずだが…それも点かない。

レフェリー:…皆様、状況確認中ですので、そのままお待ち下さい
    客:何だよそりゃあ!
    客:オンボロ闘技場がァ!!
  クレア:(………)
      (…こんなコトあんのか…?)

 目が慣れない闇の中…クレアがそんな事を考えていると……

レフェリー:ひぎぃッ…!!
  クレア:…!?

 レフェリーの、呻き声とも断末魔の叫びとも取れぬ声が闇の中に響いた。

 
チャリッ…
 
トットットッ…

  クレア:(見えたッ!!)

 少しずつ目が慣れたか、おぼろに物の輪郭が現れ出す。
 すると、股間を押さえて地面で痙攣しているレフェリーと……

 
ガゴォン…

 その向こうで、地下闘技場関係者しか立ち入れない筈の扉を開ける人影が映った!

  クレア:(何故あそこを開けられる…?)
      (…そっか…)
      (…あんにゃろう…、カギを奪うためにレフェリーを…)

 その人影は扉を勢いよく開けると、廊下へ出て行った。

  クレア:逃がすかクソォォォォーーー!!!
    影:…!?

 
ダンダンダン…!

 クレアは廊下めがけて全速力で走った。

 
ダッダッダッ…!

    影:(追って来る…?)
      (この闇で私を目で捉えた上に…私に追いつくとでもいうのか?)

 
ダッダッダッ…

   放送:警戒態勢…ケイカイタイセイ…
      Dエリアに不審者侵入ノオソレアリ…
      クリカエス…ケイカイタイセイ…

 
ダッダッダッ…!

    影:………
  クレア:にひひっ…!追いついたぁ〜っと♪
    影:(早い……)

 人影は、クレアを無視して先には進めないと悟ったのか、ゆっくりとクレアの方を
振り向く。
 非常口のランプが、ぼんやりとそのシルエットを映す…。
 左足のみ全て露出した、変わったファッション。
 黒く、美しいサラサラのショートヘアー。
 そこから覗く鋭い眼は、クレアを見据える。

  クレア:ひゅう〜。美人だねェ
      でも、逃がさね〜ぞぉ〜
    影:……フッ
  クレア:おい、セクシーレディ!名前は?
    影:………
      ユン……、ユン・リー

 停電の地下闘技場。
 ヴァルキリーのNo.1とNo.2は出会った。


                                                    〜 Episode - Claire  END 〜


← Ballkille's Report TOP