「中佐はわたしたち四人を平等に好いてくださっている。逆を返せば、わたしたち個人に対する特別な感情は期待できないということだ。四人まとめてではなく、自分だけを見て欲しいなんて……そんな感情を持っているなら、それは捨てた方がいい。わたしはもう、そんなものは捨てたつもりだ」

そのとき千葉凪沙は毅然とした態度でそう言い切った。朝比奈には、その言葉は未練に聞こえた。凪沙はまだ藤堂に対して恋愛感情を持っている。そして、自分も……
「そんなことくらいわかっている。でも、俺には捨てることはできない、この感情を捨てることなど」 朝比奈は呟くようにそう吐き捨てた。



うつくしいあなたへ




「藤堂さん。お話があるんです。大事な」
そう声をかけると、藤堂が振り返る。物事の奥底まで見通したようなその目が、朝比奈を見た。
「……ああ。朝比奈か。何だ、話とは」
「藤堂さん、笑わないで聞いてください。俺は、藤堂さんのいる場所が、俺の居場所だと思ってます」
「……? ふむ」
藤堂は一瞬不思議そうな顔になったが、頷いた。
「俺は、藤堂さんが好きです」
その言葉に命をかけてもいい位に、真剣に言った言葉だったが、藤堂はあっさりとこう返した。
「……ああ。わたしもおまえたちが好きだ」
朝比奈はその解答を聞いて哀しくなった。「おまえたち」。その単語が、朝比奈の心を激しく揺さぶって傷つけた。
「そういう意味じゃないんです。俺たち四聖剣、四人セットじゃなくて、俺、朝比奈省悟個人を、見て欲しいんです」
藤堂はますます不思議そうな顔になって眉根を寄せた。眉間の皺が深まる。
「どういう、意味だ?」
藤堂はそう言った。
「藤堂さんは俺たちのこと好いてくれてますよね。それは痛いほどよく知っています。俺たちも、藤堂さんに一生ついていくって決めてます」
ふむ、と藤堂が言った。
「でも、それとは別に、『四聖剣の中の一人』としての朝比奈省悟ではなく、朝比奈省悟自身を見て欲しいんです」
単刀直入に言うならば、と朝比奈は前置きした。
「俺は、七年前のあの日、藤堂さんについていくって決めました。どんなことになっても、藤堂さんのために戦うって、決めたんです。でも、それとは別に、俺は……藤堂さんという人間が、好きなんです。俺だけを見ていて欲しい。他の三人と一緒じゃなく、俺だけを特別に、見て欲しいんです」
朝比奈は自分の頬が火照るのを感じていた。我ながら恥ずかしい台詞だ。藤堂も引いているんじゃないかと顔を上げると、藤堂の表情は全く変わっていなかったので、少し安心した。
「よくわからないが」
と藤堂が言う。
「少し、考えさせてもらってもいいか、朝比奈」
「ええ」
と朝比奈は返事をした。
「では、今日はこれで」
朝比奈は照れたように早口でそう言って、藤堂に背を向けた。
中佐は鈍感だから、はっきり言わないとわからないと思うよ、朝比奈。
いつかの千葉凪沙のそんな言葉を思い出してしみじみと痛感しながら、朝比奈は帰路に着いたのだった。
十分はっきり言ったつもりだったんだけどなあ。
朝比奈は無意識のうちに呟いていた。
まだまだ、藤堂にこの気持ちは届いていないらしい。もっとはっきり、直接的に言わないと、藤堂はわかってくれないだろう。
やれやれ。
そんな言葉を口にしながら、朝比奈はため息をついた。


070210



藤堂←朝比奈です。どっちが攻めとかはナシの方向で。
朝比奈は藤堂に恥ずかしい台詞を言いまくってると思います。 藤堂は仏頂面のままですが内心はドッキーン☆(ジャガー風)としてます。乙女というか姫ですから。