すべてを手に入れたはずのわたしがきみに与えられないもの


シュナイゼル・エル・ブリタニアが部屋に入ると、機械の半身を持つ実験適合生体はベッドですやすやと眠りについていた。
近づいてみて、「おや」とシュナイゼルは思わず呟いた。
実験適合生体……ジェレミアと呼ぶべきだろうか。彼の頬に、涙が伝っていた。
シュナイゼルは無意識のうちに手を伸ばして、その涙をぬぐってやった。
すると、頬に触れられたからか、はっとしたようにジェレミアが目を覚ましたので、 シュナイゼルは、
「起こしてしまったね、すまない」
そう謝った。ジェレミアは、
「おはよう、ございまし、た……?」
と、まだ完全には起ききっていない様子で答えた。
「夢を…見ていたでした」
「さぞ、哀しい夢だったのだろうね」
シュナイゼルは鎌をかけるようにそう尋ねていた。
「いいえ、でした」
ジェレミアは、まっすぐな瞳をシュナイゼルに向けて、はっきりとそう答えた。
「ほう…違うのかい?では何故、きみは泣いていたのかな」
「……」
「まあ、いい。わたしが、きみに幸せを与えてあげるよ。過去の栄光なんて忘れてしまえるくらいに、 もう泣かなくてもいいくらいに、きみを幸福にしてあげる。きみの存在を祝福してあげる。 だから、もうきみには過去なんて、名前なんて、必要ないんだ。きみがもう泣きながら眠ることのないように、わたしがきみの世界を変えてあげる」
「……でん、か?」
「……なんだい?」
「どうして、優しくしてくれる、でした?」
そうジェレミアがたずねると、シュナイゼルは微笑んで、こう言った。
「もう忘れてしまったかもしれないけれど、…きみが、わたしたちを、愛してくれたからだよ。これは一種の…そう、恩返しさ」
「おんがえし…」
「ある人から聞いたよ。きみは不幸にも命を落としたわたしの兄弟たちのために、たくさん涙を流してくれたって。心から忠誠を誓ってくれたってね」
「……」
「だから、今度は、わたしが。きみの不幸を打ち消してあげるよ。この名前にかけてもね」
「……でんか」
「なんだい?」
「わたしも、でんかをしあわせに、しますでした!」
ジェレミアがまじめな顔で言い切ると、シュナイゼルはくすりと上品に笑って、こう言った。
「きみはきっと、地位も、名誉も、名前も、記憶も、……すべてを失っても、きみのままでいるのだろうね。
かつて美しいまでの忠誠をわれわれ皇族に誓った、きみの、ままで。」
ジェレミアはその言葉を聞いても、理解しているのかいないのかわからない様子で、きょとんとした表情のままでいたが、シュナイゼルは満足だった。
そして、シュナイゼルはそんな自分に戸惑っていた。
かつてたくさんの命を駒として使ってきた、冷血な男であったはずの自分が――揺らぎ始めている。
純粋としか言いようのない、名前も絆も過去も捨ててしまった、この少年のような男の存在が、自分の中で徐々に大きくなりつつある。その事実が、シュナイゼルを惑わせる。
今まで経験したことのないこの気持ちは……一体、なんと言う名前なのだろう。
シュナイゼルはそんなことを考えながら、ジェレミアに微笑みかけた。
ジェレミアが幼児のような笑みを返す、いや、返してくれる。
それだけで、何故こんなにも幸せなのだろう。
シュナイゼルはそう何度も自問したが、答えは見つからなかった。





070602


はいはいはい捏造捏造!!捏造三昧でお送りしました!

シュナイゼルが、ジェレミアが自分の妹&弟のために泣いてくれたことを何故知っているのかは謎です(笑)
意外と、ジェレミアが熱血涙もろいのはわりと有名だったりして……!!とか思って書いてみたのですが釈然としないのでスルー推奨で(オイ)
シュナイゼルさまはプリティでピュアピュアな無垢ジェレミアにめろめろだといいよ!
そして無垢ジェレはそんなシュナさまを母のようにしたうといいよ!
そんなのが私の中の理想シュナジェレです…。