それでも君にいいたい言葉が。




愛してるなんて口に出すのは簡単だ。
そんな言葉は誰にだって言える。
本心かどうかなんてわからない。嘘だという可能性もある。
だから、彼がその言葉を口にした瞬間、わたしはまずその言葉を疑ったのだ。

「……嘘か? 冗談か? わたしをからかっているのか? いい加減にしてくれ、キューエル。 もうお前の嫌がらせにはうんざりなんだ」

わたしがそう返すと、彼はなんだかすごく悲しそうな、泣き出しそうな顔になったので、わたしは少し後悔した。
もしかして、本心だったのか?
さんざん今まで嫌いだと言っていたくせに、さんざんののしっていたくせに、今更、「愛している」なんて。
ありえない。
でも、もしかしたら。
ありえたかもしれない……そう考えて、わたしは彼にこう言おうとしたのだ。
もう一度、本当のことを言ってくれ、と。

だが、わたしが口を開くより先に、キューエルは眉間にしわを寄せてこう言った。
「ああ、そうとも。冗談に決まっている。 わたしがおまえなんか、オレンジなんかを愛しているはずがないだろう?」
ああ、やはりそうなのか……そう考えようとしたが、わたしはキューエルの拳を見て考えを変えた。
ぐっと、親指ごと握りしめられたそれが、何かを耐えるように震えていた。
一体、何を? 何を耐えているというのだ?
考えるまでもなかった。
本心、だったのだ。「愛している」という先ほどの言葉は。
「……キューエル。」
わたしは彼に何を言ってやればいいのかわからず、ただ名前だけを呼んだ。

「気安く、わたしの名を呼ぶんじゃない、オレンジごときがッ」

キューエルはそう言って、一筋涙を流した。それをごまかすようにぬぐい、 彼はきびすを返して走り去った。わたしは一人残された。
彼が遠くへと走り去る音だけが、廊下に響いていた。
ああ、キューエルが涙を流すのを見るのは初めてだ、そんなことを、わたしはぼんやりと考えていた。





070414





オレンジデーなのでひとつオレンジなSSを書こう!と思って考えた話です。
オレンジデーに全く関係ないですね……力量不足です。