*中身はチビナスな大人サンジ×普通に大人ゾロです、ご注意







だからなんでこんなことになってんだ。
少しでも気を抜けば散漫になる思考をかき集め、なんとか言えばサンジはにっこりと笑う。
つややかに濡れた唇の形には覚えがあった。見あげる青い眸も、きらきらとした金髪も、ぜんまいのようにくるんと巻いた眉毛だってもちろんよく知っているものだ。けれどそれでいてどう見ても、このサンジはあのサンジではないのだった。
俺の大切な、愛らしい、あの。
「なんでって、いつも言ってただろ。ゾロがすきだって」
「そりゃ知ってる、が、」
「こういう意味だとは思わなかった?」
「それもあ、るッ、――は」
続く言葉は、ん、ん、と漏れる自分の甘ったるい声で遮られた。また深くくわえ込まれて、腰のあたりに重く痺れるような、じんじんとした感覚がわだかまる。ゾロの意思とは裏腹に、もうすっかり育ちきった性器はサンジの口のなかで暴れまわり、目前に見え始めた解放をいまかいまかと待ち望んでいるようだった。
ねとりとした舌の動きは、男同士であるせいか弱い部分にピンポイントで容赦がない。じゅ、じゅる、と吸いあげる音にめまいを感じて、けれど抗おうとその髪を掴む力はわれながら弱々しい。
くびれをぐるりと舌先でなぞられ、ゾロの腰は突きあげるようにがくんと震えた。んむ、とサンジがくぐもった声をあげる。ゾロから出るものとサンジの唾液で、ゾロの下生えはてらてらと濡れている。
「てめ、ガキの、くせ、に」
こんなこと考えてたのかよ、ときれぎれに言えば答えるためだろう、サンジがゾロのものから唇を離す。ぶる、と口のなかから飛び出したものから、腹に飛沫が飛んで顔が熱くなった。
ぐんと伸びをするようにしてサンジが顔を近づけてくる。顎ひげまで濡れているのは、はたしてどちらの体液だろうか。ふと気づいたように、ぐいとそれを拭ってから、そういうわけじゃねえけどとサンジはふたたび笑った。
その表情と喋り方にはやはり覚えがあって、けれど甘さを帯びた低い声や、煙草臭い大人の男の匂いや、髪を撫でる節だった指はゾロの知らないものだった。もちろん、ひげだってあのちびなすにあるわけがない。
混乱を極める頭で、けれど体にこもる熱は上がる一方だ。
「でも、早くゾロにつりあうくらいでかくなりてえ、って思ってたのはほんと」
そんで、テレビなんかで見るみたいにキスとかしてみたくて、してみたら、こんななって。
手を取られ、てのひらをそこに押し当てられる。布越しのひどく硬い感触、自分と変わらない、欲望を示す熱いそれ。握って、ゾロ、と耳元で囁かれ、動けないでいると重ねた手で上から掴まされた。
「ん、」
きもちいい、とサンジが言う。
やべえ、とゾロは思う。

ぞくぞくした。



たびたび世話になる近所のレストランに、待望の跡継ぎが生まれたのは十年前の話だ。
ゾロはそのときちょうどいまのサンジと同じくらいの年齢で、親ぐるみで付き合いのあったその家を両親に連れられて訪れたのだった。
ベビーベッドを背伸びして覗き込んで、まるで映画や絵本などに出てくる小さな天使のような姿に驚いた。赤ん坊というものは、もっと猿に近しいものだと思っていたからだ。ふくふくと白い肌、うぶ毛のように光る金の髪、珍妙に巻いた眉毛さえも愛らしい。何よりもゾロの心を捉えたのは、薄いガラス玉のような色をした美しい眸だった。
お互い一人っ子だったせいもあるだろう、ゾロはサンジを可愛がったしサンジはゾロによく懐いた。少し心配になるくらいに、サンジはゾロ、ゾロとゾロの後を追いかけた。道場まで練習を覗きに来て、ゾロはすごく格好いいねえと、ほうと息をついて頬を染めるサンジの頭をぐりぐり撫でてやったのはたしか幼稚園の頃の話だ。
ゾロがすき、だいすきだよ。これまでたしかに何度言われたかわからない。そのたび俺もだと言葉を返して来たけれど、女の子もすきだけどゾロが一番だと言われたときにはまた少しばかり先を案じはした。
でもまあそのうち目も覚めるだろう、そう考えていたのだ。
女相手に本気の恋でもすれば、俺はただの近所のお兄さんになるんだろうと。

「これ、もらった」
そう言ってサンジは、近ごろ少し筋張ってきた指で握ったしゃもじを掲げてみせた。
ゾロは大学生だ。自宅から電車で通学している。勉学的には楽な学年なのだが、近ごろは新しくはじめたアルバイトと剣道の練習でわりに忙しい。そのせいもあってあまり顔を合わせていなかったサンジが、帰ってみれば部屋の床にちょこんと座りゾロを待っていた。
ゾロ以外の男は嫌い、と豪語するとおり、あまり男の友達はいないようだ。しかし女友達は多いらしく、登下校なんかはよくきゃいのきゃいのと囲まれているのを目にしていた。
声変わりこそしていないが、体の丸みがなくなり背も急に伸びはじめて、こいつもどんどん男になっていくんだなと最後に会ったときにはしみじみ思ったものだった。
「もらったって」
「うん、なんかよ、魔法のしゃもじなんだって」
「……魔法?」
ゾロはしげしげと、その木製らしきしゃもじを眺めた。貸してみろ、と手にとって見たが、どこからどう見てもただの古びたしゃもじである。
「もらったって、誰にだ」
「公園でね、倒れてるひとがいたから、店からお水とおにぎり持ってったんだよ。目のとこにゾロみたいに傷がある、赤い髪のおじさん。そしたら、いい子だからこれあげるって」
このしゃもじを握って振り回しながら、今から教える呪文を唱えたらお前の願いが叶うよ。恋の魔法だ。しかも魔法は一回きりじゃない。一日に使えるのは一時間だけどな。もし必要が無いなら燃やしてくれればいいからさ。
男はそう言って笑ったそうだ。
「ふうん、そりゃちっと頭がやべえのかもな」
「そうかなあ」
「どうみてもガラクタっつうか、普通のしゃもじだろ」
しげしげと見たあとサンジの手に戻す。あからさまにしょんぼりとなったサンジの様子に、まだまだこいつも子供なのだなとどこかほっとする。まあそうだ、まだ小学生なのだ。柔らかな髪にくしゃりと指を入れると、低い位置からサンジはじっとつぶらな目で見つめてくる。
それが少し潤んでいるようで、泣かせてしまったかとゾロは狼狽した。
だから、つい言ってしまったのだった。
「……やってみたらどうだ。それでだめなら燃やすなり捨てるなりすりゃあいい」
うん、そうだよなと急にうれしそうに笑ってサンジは立ちあがった。ふと、そんなに願いたいことがあるのだろうかとゾロは思う。恋の魔法か。誰に、恋を。考えて、ざわりと波立った己の腹の内にゾロははてと首を傾げた。
「じゃあ、いくよ」
「おう」
ゾロがうなずくと、教えられた呪文、とやらを唱えながらサンジがくるくると頭上でしゃもじを回す。まったくかわいいガキだ、などと悠長なことを考えながらゾロはそれをすぐそばで見守っていた。
「ンーケリハ モデツイ ハイコ!!」
それが呪文らしい、高らかにサンジが叫んだ瞬間、ぶわりと白い煙が立ちのぼり視界を一気にぼやけさせた。もくもくと濃いそれは目の前のはずのサンジの姿を覆い隠した。
「サンジ!!」
異常な事態に、咄嗟に腕を伸ばしていた。少々乱暴だが手首を掴んで床に引き倒し、かばうように上から覆いかぶさった体がやけに大きい。
ゾロ、痛えよ、とすぐ近くで聞こえた声に耳を疑った。下から腰のあたりに回された腕は長く、服越し伝わるのはしなやかな筋肉の感触だった。そのままぐるんと体を返される。のしかかってきた男はサンジのようなサンジでないような青年だった。
髪の分け目がちびなすとは反対だ。なぜか黒いスーツを着ている。こいつに毛なんか生えるのか、と思っていた顎にはひげを生やして、全体的に女好きのしそうな雰囲気はどこか甘ったるい。
自分の姿をしげしげと見下ろして、かなっちゃったね、と驚いた口調があまりにそのままだったからだろう。
そのあと近づいてきた唇を、ゾロは避けることが出来なかったのだ。



かり、と乳首を噛まれて、ゾロはサンジの髪を掴んだ。くりかえし甘噛みされて息が漏れる。顎をあげるようにして歯を食いしばった。性器はしっかりと握りこまれ、女のように胸をなぶられて、無様にびくつく体をどうすることも出来ない。
「サン、ジ、……もッ、」
「ぬるぬるしてる」
こんな、なるんだね。驚いたように(おそらくほんとうに驚いているのだろう)言って、よだれを垂らす先端をサンジが指でつまんだ。そのままそこだけをしごく。唇と歯のすきまから唾液が滲んで、んっんっとたまらず鼻に抜ける声が出た。中途半端に脱がされたジーンズが、片足の膝下にわだかまり床を叩いている。
下の階には母親がいるはずだ。大きな声はあげられない。夕食の準備でもしているのだろう、ドアのすき間からは煮物の匂いがして、それよりもきつい煙草の匂いにくらくらとする。
「くそ、てめ、う、あっ、」
「ここ?」
「ち、ちが、ァ」
そのままぎゅっとしぼるようにしごかれゾロは果てた。両手で口を押さえて必死で声を殺す。勢いよく飛んだそれはサンジの手を白く汚し、ゾロはなすりつけるように腰を揺すっていた。視界がにじむ。いっちまった。中身はまだほんのガキ相手にこんなふうに腰を振って。
荒い息のまま視線をやると、サンジは自分のてのひらをしげしげと眺めていた。それからぺろりと舌を出してそれを舐め、ネギみてえなにおい、と無邪気な笑顔を見せた。かっと首のあたりまで熱くなる。それでいて下腹は性懲りもなくまた疼きはじめて、情けないやら恥ずかしいやらでますますゾロを惑乱させる。
「気持ちよかった?」
「……」
「ねえ、ゾロ」
よかった、なんてものじゃなかったから答えられなかった。それを否定的に捉えたのだろうか、ぼんやりしていると、腕を引かれ体の位置をふたたび入れ替えられサンジの顔を跨がされた。
「……あ?」
「たぶん、もっと気持ちよく出来ると思うから」
サンジのジッパーが下ろされるのを、ゾロはなかば呆然と見ていた。最後に一緒に風呂に入ったのはそう遠い昔の話ではない。しかしいま目の前にあるものは、ゾロの知っているつるんとした幼い形ではまったく無かった。下着からはみ出した、猛った雄がゾロの頬をぺしりと叩いて、そこからの先走りがなまぬるく皮膚を撫でる。
ゾロはいよいよ動けなくなったが、そのあいだにもサンジの指と口は、ゾロのすべてを知り尽くしているかのように的確な愛撫を繰り出してくる。よつんばいになって、体を支える手足をぶるぶると震わせて、動物じみた荒い息をつくことしかゾロには出来ない。
「ふっ、ふう、う、」
幹を辿っていた唇が、味わうように、転がすように袋をしゃぶる。ぼうっとなった視界の真ん中、吸われるたびにその白く締まった腹がへこんでいた。開きっぱなしになって、わななく唇からとろとろと唾液が落ちて、サンジの下腹に透明な溜りを作る。そんなところが感じるなんてゾロ自身だって知らなかったことだ。
そうしてとうとう、指がそっと尻の溝を辿ったとき、これから待ち受けているだろう事態をようやく呑み込んでゾロは制止の声をあげた。
「ま、待て、だめだ」
「大丈夫」
「大丈夫って、」
「ゾロはここ、されんのすきだと思う」
ここ、のときに指先でつんと押されて、あ、と思わず声をあげたゾロの背中は反り返った。冗談じゃねえ。尻の穴に興味などさらさらない、というか考えたこともない。しかもずっと年下の、それこそ赤ん坊のころから知っている弟のような存在に。
「なん、で」
「うーん、俺にもよくわかんないけど、なんとなくわかるっていうか」
「なんとなくじゃねえ!てめえ、そんなんでひとのケツを、――ッ、あっ」
ぬる、とそこにいきなり押しつけられた感覚にゾロはらしくもなく恐慌した。首を捻じ曲げて目に入った光景を、見なければよかったと心から思った。頭が真っ白になる。サンジがそこを舐めている。
信じがたい倒錯した行為に、けれどゾロの体は高まるばかりだった。圧迫感を感じた、と思うと、何かが入って来る感覚があって、それが指だとわかるころにはゾロの腕からは力が抜けて、サンジの腿あたりに顔を伏せるようにして声をあげていた。
腰もだんだんと下がり、それをサンジの両手が尻をぐっと割り開いたまま支えている。舌と指を深く呑んだそこは、じゅぷじゅぷとそれははしたない音を立てはじめて、すごいね、と格好いいねえと言ったときと同じようにサンジが言い、その熱い息が吹きかけられるのにさえ感じてゾロはもうわけがわからなくなってきた。
「俺も……俺もして、ゾロ」
甘える口調はやはり幼いそれだ。けれど今度は導かれることなく、ゾロはサンジのしたたるものに手を伸ばしていた。
握りこみゆるゆると濡れた軸をしごく。硬く芯をもち充血した、それがてのひらのなかでびくんとうごめいた。サンジも鼻にかかった声をあげ、指の動きを激しくする。少し浅く引き抜かれて、追うようにゾロは尻を落としていた。
ゾロがびくつくたびに、じょり、とめくれたふちにこすれる感覚はサンジのひげだ。あの幼いこどもにはないもの。すっかり敏感になった場所に過ぎた刺激は、ゾロからわずかに残った理性を奪い本能のかたまりにする。サンジ、サンジ。それだけで頭がいっぱいになる。どちらのサンジのことかは自分でもよくわからず、ちびなすと青年の姿がかわるがわる脳裏に浮かんだ。
「ぁ、い、でる、も、でちまっ、サン、ジ、っ」
「ゾロ、や、やだ、ぞろ、んなかわいい声、ださ、ねえで、あ」
なんか、くる、こわい、きもちいい。
上ずった、しゃくりあげるようなサンジのその声に、こいつは射精そのものを知らないのだと、これがはじめてなのだと、思った直後に絶頂感が押し寄せた。長く呻いた声はどちらのものかわからなかった。
すぐそばでほとばしる先端を、ゾロは唇で深く包んだ。少し遅れて、ゾロがふたたび出したものがサンジの泣き顔に降りかかる。
ゾロ、ゾロと何度も鼻声で名を呼びながら、口を犯すように激しく腰を震わせサンジはたっぷりと吐きだした。ゾロはそれを、のどを鳴らして飲み込み、なかに残るものまで無心に吸いあげた。
あふれた口の端からこぼしながら、全身をきつい快楽で震わせながら。



引き抜かれたサンジの先を追うように、ゾロは名残り惜しげに舌を伸ばした。粘液の糸が長く引いて、それはゾロの頬にぽたぽたと白く落ちた。後ろからもずる、と抜かれる感触があり、んん、と低く声が出る。
まだお互い整わない息で、横に寝そべったサンジの頭を引き寄せた。汗の浮いたこめかみに指を添えて、そのまま何度か唇をあわせた。最後はあまり声を抑えられなかったけれど、そこまでは届かなかったのか、母親が階下からあがってくる気配はないようだった。
横を見ると床に無造作に転がったままのしゃもじが見える。日暮れ時の部屋のなかはすでに暗くなりかけている。そして次に顔を戻した瞬間、時間が来たのだろう、腕のなかでサンジの体はしゅるしゅると急速に縮んでいった。
「!」
「……ゾロ」
声は高かった。すぐ近くで見つめてくる顔もいつものあどけなさの残るちびなすで、しかしそのほわりと赤く上気した頬はゾロの精液で汚れている。急に頭を殴られたような衝撃を覚えて、ようやく我に返ったゾロはそれをぐいと乱雑にてのひらでぬぐった。
いくらサンジが仕掛けてきたこととはいえ、年上で成人であるゾロが拒めなかった(むしろ最後は乗り気でさえあった)ことに何より問題があるだろう。この年であれが初の性体験とは少々濃すぎる。
でも待てよ、最後までやっちゃあいねえからぎりでセーフか?
「大人ってすごいね、あんなことしてるんだ」
ふう、とサンジは満足げな息を吐いた。とろんとした眠いような表情はやはりとても愛らしかった。
「あんなこと、は、どうだろうな……」
言葉を濁しつつ、ふとさきほどのサンジの巧みさを思い出す。その途端、もやもやとしたものが込みあげるのをゾロは感じた。
体が勝手に動くのだとサンジは言っていた。魔法とやらで成長した姿がいくつかはわからないが、自分と大して変わらないくらいの印象だった。夢中になっていたときは考えなかったけれど、あのサンジは明らかに場慣れしすぎている。
つまりは自分と変わらない年であれだけの技巧を身につけるほど、誰かと、いや複数かもしれないが、性行為を重ねているということだ。そこまで思考が進むともやもやははっきりと苛立ちに変わった。
「サンジ」
「ん?」
傾げる首も、しがみつくように回された腕もまだまだ細っこい。尻なんてゾロの片手で掴めるほどだ。けれどこいつはそのうち、あんなふうにねちこい指使いをして、いやらしく腰を使う男になってしまうのかと思えば苛つきはなお増した。
どこの馬の骨だ、俺のかわいいサンジを汚しやがったのは。
それが自分であるとはまったく思い至らないゾロである。
「あの魔法な」
「うん」
「使うの俺だけにしとけ」
さきほどまでの自省は忘れてゾロは男らしく言った。
うん、もちろんそのつもりだけどと笑う小さな頭をよしよしと撫でながら、俺はこいつを守り抜いてみせると固く心に誓ったのだった。



(12.01.06)→(13.09.02再録)




これも…なんかひどいなあほんと……
おひげじょりが書きたかったんです。