チャイムまであと10分、天使は笑う せんせい、彼氏とか、いますか。 入学式の日に廊下でいきなりされた質問がそれだったから、自分より一回り以上年下で、やさしげな外見に似合わずかなりサドっ気のあるこの子供が、いまさら何を言っても何をしても、おどろくには値しない。 初対面の担任でもない教師にむかって、中1の男子学生がきくことではない。そもそも彼女ではなく、彼氏なのがすでにおかしい。 ふつうだったらいろいろと考えて、慎重な答えを探すものだ。ふつうだったら。 けれどあいにく、極端にものごとにこだわらず、男に興味などあったためしがない、セックスも自分では至極ノーマルだと信じて疑っていなかったそのころのゾロは、警戒もせずただ一言、いねえ、と答えた。 たぶん、それが悪かった。いや、もしかするとあの、さいしょに目が合ったときか。 もう少しであれから三年。 遠いところまできてしまったものだ。 いずれにしろ事態はもうだいぶん、あともどりできないあたりまできている。と、ぼやけた頭でサンジのつむじを見下ろしながら考える。真昼の強い日光をはじく金の髪がまぶしい。 ゾロを机の上に座らせて、その足のあいだにすこし身をかがめてサンジは立っている。片方の乳首を指でこねくりながら、もう片方を熱心に甘噛みしている。 男でもそこが感じるのだと、ゾロはずっと知らなかった。まあふつうは知らないだろう。はじめてここだけでいったとき、自分のからだがつくり変えられたように思ったものだ。 性器への直接的な刺激とはまったくちがう。 くすぐったいような、もどかしいような。じわじわと、体の奥からうずいてくる。 サンジはさいしょに乳首だけを念入りにかわいがって、前にはさわらずにゾロをいかせるのが好きだ。ゾロの両手は横。どこも自分でさわっては、いけない。そのほうがゾロはかんじるからねとサンジは言う。 サンジこだわりの決まったやりかた(ゾロはひそかにサンジルール、と呼んでいる)は、他にもいろいろある。 それはもう、たくさん。 ゾロはすでに一度達している。 下着はまだ身につけたまま。またすぐにでもいきそうになっていて、だからさきほどから、考え事をして気を逸らしている。 「乳首かちかち。こんなにしちゃって、いやらしいなあ、ゾロは」 年々ひくくなってきた声で、ささやかれる。あつくしめった息が、首すじにかかった。 最近、ひげがだいぶ濃くなってきたサンジは、いっちょうまえに、アゴひげなんか生やしている。 ぴんと硬くとがった突起をふいに歯でひっかけるようにされて、ゾロは、ひ、と小さく体を震わせた。 サンジが張り詰めて染みを広げ続けているゾロのものを揉む。下着の中にたまっている液体を広げるみたいに。やんわりとした、でも凶暴な動き。 「あ、あっ……!」 「聞こえる?すげえ、なにこれ」 ぐじゅ、と音がする。 はずかしい。 顔が熱くなるのを感じた。鼻の奥がつんとする。さきほどサンジにかけられた白いたんぱく質が乾いてきて、頬の筋肉はつっぱっている。でも終わるまでふいてはいけない。舐めるのはいい。これも、サンジルール。 十五の子供に顔射されて興奮する日がくるとは、さすがのゾロでも思わない。 昼休み、狭い進路指導室はドア一枚隔てれば生徒が行きかう廊下で、わあわあとまだあどけなさの残る子供たちの声が響いている。 大きな声を出してはだめだと思うと、それにまた高ぶる。サンジはこれまで自分でも知らなかったゾロの性癖を、どんどんと暴いていく。 それはもう、容赦なく。 体の向きをかえるよう言われた。両手を机について、尻を少しつきだすような体勢をとらされる。 精液と先走りのまざった粘液が、とろり、後ろのほうへ伝うのを感じた。 はりついたボクサータイプの下着ごし、穴を爪の先でひっかくように、つつくようにされる。 「あ、や、やめっ」 もちろん、サンジはやめない。ゾロだってほんとうはやめてほしくない。ゆるゆるとした刺激がくりかえされる。うごきにあわせて、腰が揺らいだ。 「こら。はしたないよ」 笑いをふくませながら、サンジが手のひらで軽く尻をたたく。今度は大きく体がはねた。 後ろをうかがったゾロに、サンジは優しげな顔でほほ笑んだ。慈愛に満ちた、ほほえみ。 「がんばって、声抑えないとね?」 がまんするの、すきでしょ、せんせい。 言われいきなり布ごと指を突っ込まれ、声を上げる間もなくゾロはまた窮屈な下着の中で吐精した。 ゾロは中学校の体育教師だ。 剣道部の顧問をしている。 全国でも有数のスポーツ強豪校に入るここは、中学生とは思えないような体つきの奴らがごろごろいる。そんななか金髪に青い目、ひょろりとやせてひときわ小さく、巻いた眉さえなければ女のようにかわいいサンジはよく目立った。女子生徒のあいだではひそかに、天使、と言われていたほどだ。 入学式では毎年、教師の紹介がある。壇上であいさつをするときに、真正面の一番まえに座っていたチビがサンジだった。 金髪は珍しいので(ゾロの緑もかなり珍しいが)、話しながらまじまじと見ていると目が合った。そのときのサンジの顔はいまでもはっきり覚えている。 裸眼視力2.0のゾロの視界の中で、サンジは青い瞳をいっぱいに見開き、白い頬をばら色に染めた。 まんがみたいだな、と思ったのだ。 まさにあれ。一目ぼれ、とやらをした少女の、ぱああ、という効果音つきの顔。 だからそのあと突然話しかけられたとき、ああ、さっきの乙女だなと思ってつい笑ってしまい、その拍子にガードがゆるんだ。 彼氏がいるかときかれていないと答えたゾロに、サンジは爽やかかつ愛らしい笑みをたたえて言った。 すきです、せんせい。 ひとめでわかりました。 せんせいは、おれのうんめいのひとです。 それからサンジはとにかくゾロにちょろちょろとつきまとった。 ゾロが一人暮らしで、昼食はコンビニ飯だと知り、サンジは弁当を作ってくるようになった。遠慮しようとすると、睫毛を震わせ青い瞳をうるうるとさせ、それが小動物みたいで動物好きのゾロは拒めなくなった。 サンジの作る飯はおどろくほど旨く、正直ありがたくもあった。昼休みは空いている生徒指導室で一緒に弁当を食べるようになった。 それだけの、ほんとうにそれだけの関係が最初の一年つづいた。そのあいだ、サンジは会うたびゾロに好きだと言った。 こうやって、いっしょにご飯たべれるだけで幸せなんだ、と。 ふうん、けなげじゃねえか。ゾロは思った。こんなふうに人に好かれるのは、けして悪くない。別に、何をされるわけでもないし。 かわいいもんだ。 二年目にはいると、毎日すこしずつ、サンジは間合いを詰めていった。 剣道以外、とくに色恋沙汰にはにぶく、サンジにすっかり気を許していたゾロは気づくのが遅れた。 サンジが三年になる直前だった。 昼飯のあと、なんか最近えれえ体近いし、よく触ってくんな、とゾロが思った時にはもうくちづけられていた。 ちゅ、と触れるだけのキスをしてきて、サンジは「ゾロ、いやだった?」と心配そうに聞いた。サンジはたまに、ゾロのことを呼び捨てで呼ぶようになっていた。嫌じゃなかったから、「嫌じゃねえ」とまた馬鹿正直にゾロは答えた。 よかった、とサンジはほっとしたように言った。 「ゾロも俺のこと、すき?」 「かも、しれねえ」 男とキスして嫌悪感がないのだから、たぶんそうなのだろう、とゾロは思った。 ほんと!と無邪気によろこぶサンジはやっぱりかわいい。 「じゃあさ、おねがいがあるんだけど……」 サンジがうつむいて小さな声で言う。何やらもじもじしている。 やさしい気持ちになって、ゾロはなんだよ、言ってみろ、と頭をなでくってやった。サンジは意を決したように顔を上げた。 「俺さ、せんせいといろいろ、したいんだ」 えっちなこと。 そう言ってはじらうように頬を赤らめる。 これまたストレートだ。 ゾロは感心した。 すきな人と体の接触がしたくなるのはサンジの年頃では当然のことだ。同じ年のころ、ゾロはたしかサルだった。 線が細く顔の整ったサンジの姿をまじまじと眺める。男くささはほとんどなかった。こいつになら、つっこめるかもしれない。自慢じゃないがモラルは低い。 それでも、ゾロは一応教師だから、ある程度のけじめはいる。 「いいぜ。ただし、ちんこ入れんのは卒業までなしだ」 ゾロがそう言うと、サンジはちょっとおおげさなくらい驚いた顔をした。 それからきらり、と不穏に目を光らせる。さきほどまでとうってかわった、低い声を出した。 「へえ、そんなに焦らしていいんだ?やっぱりせんせいは、そういうのが好きなんだね」 俺、すごくうれしいよ。がんばるからね。 焦らす?そういうの?がんばる? 疑問は、すぐに解けた。 声が抑えられなくなってきた。 後ろを細い指で犯されている。 机の上に乗せられ大きく足を開いて、ゾロはサンジと向き合っている。ローションのせいだけではない、湿った音がしている。サンジはさいきんよく見せるオスの顔で、ゾロを見下ろしている。 自分はさぞかし惚けた顔をしてるんだろうな、とゾロは思う。 後ろでいくときのゾロの表情は、思い出すだけでどんぶりめし三杯はいけるほどやらしい、のだそうだ。サンジが中途半端に足にひっかかっているゾロの湿った下着を脱がせた。 「ア、ん、んッ」 「はい、あーんして」 口を大きく開けると、小さく丸められたそれを詰め込まれる。すこし苦い。 自分の精液の味にも、もう慣れてしまった。ゾロがあんまり早くいったりすると、サンジは舐めて処理させる。 「おしおきだよ。ああでも、ゾロにはおしおきにならないか」と言って。 太ももが震えだして、サンジが指の動きをとめた。 もっと、と穴がひくつくのがわかる。いま入っている指は2本。人差し指と、中指。 ゾロがいきそうになって中がかってに収縮しだすと、サンジはこうして指の動きをとめたり、ぬいてしまったりする。そしておちつくのを待つ。またぎりぎりのところまで高める。 えんえんと繰り返して、ゾロをじらす。昼休みの終わる、きっかり10分まえまで。 そのころには、ゾロもだいたい訳がわからなくなっている。 「いきたいならおねだりしなよ」 と言われ、たのむからいかせてくれと、しゃくりあげながら訴えることになる。こうして声を奪われているときには、腰をくねらせてねだる。 ゾロをそこまでおとしめてようやくサンジは満足して、ゾロを絶頂へと導いてくれる。ゾロにあわせて、自分のをしごいて射精する。 それから、なかなか痙攣がおさまらない、汗やら唾液やら涙やら鼻水やら精液やらでぐしゃぐしゃになったゾロの顔中に、キスをする。 だいすきだよ、かわいいかわいい、俺だけのゾロ。 「ん、んんーーっ!」 サンジが指の腹で、的確に前立腺をこすりはじめた。 もう片方の手で、とがりきった乳首を捻るようにされる。目尻から涙があふれた。それをサンジが舌先で舐め取る。 かすんだ視界のなか、ゾロは壁かけの時計を確認する。あと数分で、いつもの時間。 背筋をあからさまな期待がかけあがる。発情したオスの顔で、サンジがゾロを見つめる。 前も後ろもとろとろだよ、と耳元で囁く。濃い、男の匂いがする。 口だけじゃなく、目も、耳も、鼻もふさいでほしい。 からだぜんぶ、サンジに侵されていく。 はじめてあったときからすると、サンジの身長はずいぶんのびた。 それでもゾロより10センチは低いし、体格だって小さい。本気になれば、拒むことなんて簡単だ。 だけど、ゾロはそうしない。サンジになら何を言われたって、どんなことをされたって、からだはひどく反応する。 こころとからだはつながっている。 ならば、答えは一つなのだろう。と、ゾロはとてもシンプルに考えている。 あとひと月ほどでサンジは卒業だ。 さいきん、サンジのそれが自分の中に入ってくるときのことを想像しただけでいきそうになるなんて、まさかだれにも、言えない。 「ゆびだけでこんななのに、ちんこいれたら、ゾロ、どうなっちゃうんだろうな」 もうすぐだよ。ああ、楽しみだね。 無意識に跳ねるゾロの腰を押さえつけて指の動きをはやめながら、サンジはにっこりと天使の笑みを浮かべた。 End. カウントリク、年下サンジでサンゾロ、としてサイトに08年7月15日にのせ、その後、書下ろしをつけ、08年9月28日に初コピー本として出しました。これを…?と思わなくもない、いま読むと。 いまでも、えろを書くときはいきいきとしているけれど、このときも す ご く 楽しかったです。 このサンジ、サンジスキーのおねえさんがたにやたら好評だったのを、よく覚えてる。 |