ゾロに犬耳と尻尾がはえています。
そのうえおもらし(小)があります。
だけど最終的にはほのぼのしてると思います。
大丈夫、というかたのみ、どうぞ。











そうやって、甘やかして








ドアが開く音がして、顔をあげた。聞きなじんだ足音がだんだんと近づいてくると、自分の耳が、ぴんと立ち、尻尾が、意図せずぱたぱたと大きく振れるのを感じる。
まっすぐ、ゾロのところへサンジはやってきた。
持っていた買い物袋をふたつ、床に置く。
「ただいま、ゾロ」
サンジの手が、ソファにうつぶせていたゾロの頭にぽふりと乗せられた。
何度か撫ぜて、そのまま、耳へ、頬へとなめらかに滑ってゆく。
外は雨でも降っていたのだろうか、それは、すこし冷たくて湿っている。食材を扱うサンジの手はいろんな匂いがするけれど、いつもは煙草がいちばんきつく香って、けれど、今日は水のやわらかな匂いがした。
「雨、降ってたのか」
「ああ、着くころにぽつぽつな」
空あかるかったから、もう止んでるかも。そう言いながら立ちあがった。混ざりはじめた体温が離れていくのを、ゾロは、残念に思った。
着ていたジャケットを脱いだ。いつも着ている黒の、かっちりとしたやつだ。はじめてサンジを見た日も、サンジはこれを着ていたのだった。おんなじのをたくさん持っているのらしい。
ハンガーにきちんとかけて、それから、ネクタイに指をいれゆるめながら軽く首を振る。月のような色をした髪がかすかに揺れて、白くきめ細かな首元がすこしだけあらわになった。なぜだかゾロはサンジのその仕草がすきで、いつもじいっと見てしまう。
なに、とサンジが笑い、なんでもねえ、とゾロが言うと、サンジはよけいに笑った。
やさしい笑顔になる。犬になってよかった、とゾロは思う。人間だったら、男だったら、きっと、この笑顔はゾロには向けられることがなかった。
ゾロはソファのうえに起きあがった。サンジはビニールをかさかさいわせて、買ってきたものを冷蔵庫にいれている。牛乳パックを持ったまま、サンジは尋ねる。
「腹、減ってるだろ」
「……」
「なんか食いてえもんあるか?」
「……減ってねえ。ずっと寝てて、さっき昼飯食ったし」
またおめえはよ、とサンジがため息をつく。でも、こちらを見ようとはしない。あんがい広い背中が、腕の動きに合わせて上下するだけだ。ゾロは、すこしだけ息がつきにくくなった。女の肩を抱いたサンジが、まだゾロが人間だったころ、目の前を通り過ぎたなんどかのときみたいに。
女は、いつも違っていた。
「――ゾロ?」
ゾロが黙っているのを、不審に思ってサンジが言う。ゾロは返事をしなかった。そのまま、サンジの背中を見つめていた。飼われている立場はゾロとて把握している。あくまで主人と飼い犬、うかつなことは言えない。だから、ゾロは黙る。黙って、ただ、サンジを待つ。
すべて終えたらしいサンジが、ゾロのところに戻ってくる。その気配だけで、やっぱりふるふると尻尾が震えてしまう。
「なに、すねてんの」
「……すねてねえ」
言葉と裏腹のゾロの口調に、息を吐くようにサンジは笑い、ゾロの隣に腰を下ろした。まだ湿っているせいだろうか、ふわ、とサンジの匂いがつよくして、ゾロはまた息が苦しくなった。
「なーんでおめえは、そうかわいいかな」
サンジの指が首すじを掠める。かわいい、などと、人間だったとき、誰かに言われた記憶はゾロにはない。犬だからだろうか、サンジだからだろうか、それはわからない。けれど悪い気はしなかった。これもきっと、人間だったら腹が立つのかもしれない。長い指はそのまま、ゾロの剥き出しの肩をなぞった。爪弾くように、二の腕を遊んでいた指が離れ、ゾロはそれを目で追った。
「かまってほしい?」
指先が、ぴたりと胸のカーブに沿ったタンクトップのうえから、すでにとがりはじめた乳首をそっと押しつぶした。それだけで、ん、とゾロは鼻から息を漏らす。サンジは青い目でゾロを捉えたまま、きゅ、とそれを捻じった。
下腹に血が集まり、それとともにわずかな違和感を感じて、ちょっと待ってくれ、とサンジに言った。起きてからまだ用を足していない。どうした、とサンジが微笑んだまま訊く。そのあいだも指は休めない。いじられていないほうの尖りも、布を押しあげている。
「遊んでほしくねえの」
耳元に唇を寄せて言う。こういうときのサンジの声は砂糖水みたいに甘くて、ゾロはいつも頭がぼうっとなって、何も考えることが出来なくなる。
短パンに包まれたそこを、サンジはてのひらで包みこんだ。そうして、胸の突起と一緒に丁寧に揉みこまれて、ゾロは、ますます何も考えられなくなった。膝が開いていく。前が窮屈で、こすれて、気持ちがいい。他のやつのことは知らないが、サンジの手つきはとても巧みだ。
ゾロの身体は、すぐに、サンジになじんだ。
「遊んであげるよ」
サンジはゾロの手を、ゾロの胸に導いた。
こっちは自分でしな、とサンジが言う。
ゾロは犬らしい荒い息をついた。



公園だった。
ゾロはベンチに座っていて、ときどき、サンジを見かけた。
ゾロがサンジを見かけるとき、サンジは、いつも誰かと一緒で、誰かというのはかならず女だった。髪がゾロよりも長くて、骨がゾロよりも細くて、香水なんかのいい匂いがしそうな女たちだ。女が何か言う、サンジがそれに何か返す、笑顔を向け、華奢な肩を慣れた様子で抱く。ただゾロはそれを見ていた。彼の声を、匂いを、想像した。
そんなことがしばらく続いて、ある日サンジが女を連れていないことがあって、そのとき、ゾロは思わずあとをついていった。そのころには、ゾロはもうサンジの名を知っていた。女がそう呼んでいるのを聞いたからだ。
公園を出てすぐの歩道で、サンジはガードレールに繋がれた犬の頭を撫でていた。黒っぽい大きな犬だった。サンジは遠目でなんども見たあの笑顔を浮かべていた。犬になりたい、とそのときゾロは思った。そうしたら、サンジが振り向いた。

ゾロは、動けなかった。
お前、とサンジはゾロに言った。
はじめて近くで聞くサンジの声は、思っていたよりもずっと低くて、ゾロの骨をぶるぶると響かせるようだった。髪はとても滑らかそうで、瞳は深々と青かった。やわらかい笑みが、頬と目元をゆるく縁取っていた。
「俺のこと、ずっと見てたよな」
ゾロは何も言えなかった。まったく、ほんとうのことだったからだ。黙っているゾロに、サンジは笑みを崩さずに続けた。
「はじめは、ガンつけられてんのかと思ったけど。目つき鋭いしよ。でも違ったんだな」
お前、俺に飼われたかったの?
「……飼われる?」
ゾロが嗄れた声をようやく出すと、サンジはすこしだけ目を見開き、すぐにまたやんわりと撓ませたのち、胸元を探って煙草に火をつけた。はじめて見た。女といるときは、吸わないのかもしれない。
「そう、だってよ」
そんな目えして、とサンジは言った。
どんな目だろう、とゾロは思った。
サンジは笑みを崩さないままゾロに一歩、近づいた。そのままゾロの頭に、煙草を挟んでいないほうの指を伸ばした。骨ばった長い指だった。
髪に触れられる感触とはちがう、びり、とした痺れのような感覚があって、そこに手をやると、いつのまにかちいさな耳が生えていた。同じものが、反対がわにも。そういえば腰の後ろに違和感があって、たぶん尻尾も生えはじめているのだろう、とわかった。
「来るか?」
伸ばされたサンジの手を、しばらくぼうっと眺めてから、ゾロはそれをぎゅうと握った。
名前は、と訊かれ、ゾロ、と答えると、ゾロ、とサンジは繰り返した。
「おいで、ゾロ」
そうやって、ゾロはサンジの犬になった。
サンジはとても、ゾロをかわいがってくれる。



「もうちょっと、な」
サンジが言い、ゾロは敷かれたサンジのシャツを奥歯で噛みしめた。待て、と言われたら待たねばならない、わかっているけれど、こればかりは難しい。
ゾロは自分のものに手を伸ばした。かたくて、ぬるぬるとして、ぽたぽたと垂れている。根本に指を絡みつけると、サンジがいいこだ、というように、ゾロの丸い尻をやさしく撫でた。
そのまま、ゆっくりと両手で開かれる。熱い息がかかって、軟らかなものが浅く差し込まれた。ゾロはふうふうとはやい息を吐き、背中を、弓なりにそらした。入れたり、出したりされる。ぴちゃ、ぴちゃ、と音がする。そのうちに奥までなぶられ、サンジの唾液とゾロの体液がまざりあい、震えるふとももを流れ落ちていく。
指も、入っていく。親指だとわかった。ゾロは必死でこらえた。よし、が出るまでは、だめなのだ。サンジの言いつけは守りたい。それしか、ゾロにはできないからだ。ほんとうはいますぐ射精したいし、はじめる前から感じていた下腹の圧迫感も増しているし、鼻をすりつけたシャツからはこのましいサンジの匂いがいっぱいにしていて、頭のなかが真っ白になっていく。
射精を止めているのに、さっきから何度も、軽い絶頂の感覚があった。そのたび腰が痙攣し、サンジの器用な舌と指をむさぼった。
「う、うう、う、んッ」
「ゾロ」
ゾロ、こっち見な。サンジが言い、よつんばいのまま、ゾロはなんとか顔をめぐらした。かすんだ視界のまんなか、サンジが自分の唇をとんとん、と指で叩くのが見える。はずせ、と言っている。ゾロは濡れて重くなったシャツを、口から離した。
「まだ我慢できそう?」
ゾロは大きく左右に首を振った。こうして訊かれたら、素直に答える。
「も、むり、だ……」
さっきからすげえもんな、なか、と囁くように言われ、こっちもすげえし、と足のあいだから手を前に回し、さきっぽに押しつけた指先で、穴のところをこすられる。自分でもすりつけながら、ゾロはまた、ちいさな絶頂を味わった。噛むものがなくなって、頼りなくなった顎によだれが垂れる。ゾロの先走りで光る指で、サンジはゾロの唇をなぞった。舌を伸ばすと、自分の味と、苦いような煙草の味がした。爪の表面はつるりとしていた。
「じゃあ、もういいよ」
サンジがやさしく言う。いましめていたゾロの手に、そっと自分の手を乗せ、かたまったようになっている指をはずさせる。そのまま、背中を尻尾まで撫でた。
「声、聞かせてくれ」
なかに入ったままだった指が、うごめきはじめた。たぶんわざとはずしていた、たまらなく気持ちがいいその場所をく、く、と押され、あっ、あっ、あっ、とゾロは大きな声をあげた。
腰を振りながら、たっぷりと射精したあと、そのまま、たまっていたものが自然に流れ出た。水の音がして、サンジの清潔そうなシャツに染みが広がっていき、ああ、こっちも出ちまったな、といたわるように言われた。これではまるきり躾の悪い犬だと思って、死にそうに恥ずかしかったが、止めることはできなかった。
すべて出し終わるまで、サンジはゾロの背を撫でつづけた。



サンジは風呂場で、ゾロをきれいに洗ってくれた。一緒に湯船につかる。お湯がざばりとあふれ、湯気がもうと立つ。
二人で入れば浴槽はそうとう狭苦しいが、サンジは後ろからゾロを抱えるようにして、いつもこうして一緒に入るのだった。腰に、サンジの硬いのがあたっていた。
「……あんたは」
「ん?」
「あんたは、抜かなくていいのか」
「あー、あとで自分でやっから、おめえは気にすんな」
サンジはゾロをかわいがり、なんどもいかせるが、けして自分がいれようとしたり、ゾロに何かをさせようとすることはない。ゾロばかりがされるほうだ。
前に、せめて口でしようかと言ってみたこともあるのだけれど、サンジはいいよ、と首を振った。だって飼い犬にそんなことさせらんねえし、と。よくわからないが、線引きはその辺りにあるのらしく、ゾロとしてはサンジにも気持ちよくなってほしいけれど、それも、やはり犬の立場では言えない。
「でもよ。お前が、……犬になってくれてよかったよ」
ゾロの心を読んだようにサンジが言い、身体は温まっていても、芯のほうが底冷えするような感じがした。やはり、サンジにとってはそうなのだ、とゾロは思った。
ときどき、怖くなる。
犬になりたいと思ったのに、それが悲しくなるのが怖くなる。
「だから今、こうやっていっしょにいられるし」
つぶやくような言葉に、ゾロは首を傾けるようにして、サンジを見た。耳が、サンジの顎鬚にこすれる。ゾロの動きにそって、湯面が揺らいでまたすこしこぼれた。目が合うと、サンジは、きまり悪げに視線を壁に泳がせた。
「いや、お前あのまんまだったら、俺たぶん、どうしたらいいかわかんなかったし」
初対面の男に声かけるなんて、喧嘩のときしかねえしよ、犬だったら、こうやって連れてけるじゃん。言って、ゾロの濡れた髪をつまんだ。耳の縁をなぞられる。いつもと同じ、やさしい動きだった。そう、か、とゾロはなんとか答えた。
サンジがゾロの肩に顎を乗せる。腹に回っていた、サンジの腕に力が込められる。でもよ、そろそろ戻んねえかなあ、そう言ってはあ、とため息をつく。
「……戻って欲しいのか」
「うん」
「なんで」
「なんでって、そしたらもっと、いろいろ出来るし。俺そろそろちょっとがまんの限界」
俺にもいちおうモラルはあんのよ、まあその尻尾と耳はすげえかわいいんだけど、と困ったように眉を顰める。ゾロはその顔をしばし見つめた。眉間の皺をこすってやり、そこを緩めてから、腹から長く息を吐いた。
大丈夫だ、とゾロは言った。
「?なにが?」
「おめえがそうなら、たぶん、明日には、戻ってると思う」
ゾロが言うと、そんなもんなの?とサンジが不思議そうな顔をする。
俺もよくわからねえが、たぶんそんな感じだ、とゾロは答え、首の力を抜いてサンジの肩にもたれさせた。
「はやけりゃ、いまから縮んでくるかもしれねえ」
「へえ、なんかわかんないけど、すげえな。自由自在か」
「お前しだいだ」
「俺?」
「そう。お前しだい」
だからまた見たけりゃ、俺に言やあ、すぐ生えてくると思うぜ、とゾロが言うと、そりゃあいいなあ、とサンジは言い、ゾロの首すじに唇をあてた。
吸われながら、ゾロは耳に手をやった。
さっそく、すこしちいさくなっている気がした。







                                         (10.08.29)







このゾロ、いつもは何をしてる子だったんでしょうね(考えてない)。19同士だな、ということくらいしか考えてない。
耳と尻尾は、なんか恋の魔法的ななにかなのじゃないかな!
ツイッタでうれしょんとかわんこゾロとかそんな、どんな?、流れになって、それで出来た話でした。