球、あるいは球体とは、おもに三次元空間で一定点から一定の距離r以内に ある点全体の集合であり、その表面積は半径rと円周率πによって表される 球体の表面積 開いて、と言われて、開いた。 部屋は広かった。海が見える。 天気がよいので遠く水平線まで。 「夜景がきれいなのは、反対側の客室なんだけど。なんとなく、きみは海のほうがすきなんじゃないかと思って」 それに昼のあいだは街の景色なんてせわしないばかりだ。夜までの時間は長いしね。 後ろの、すこし離れた、ゾロの耳より低い位置からサンジの声がする。黙ったままうなずいた。ゾロは彼に背を向けて立っている。 ほんとうはどちらでもよかった。サンジがいるのなら、ゾロにとっては、どちらでも。だがそれはくちには出さない。出していいのかどうかがわからないからだ。まだ、ゾロはサンジのことを、よく知らない。 出会ったのは映画館だった。はじめて男とした。サンジはゾロのすべてを知っているかのようだった。押し隠してきた性癖も、すこしばかり歪んだ願望も、それから、身体中の感じる場所とその触れかたさえも。 きし、と音がした。ベッドに腰掛けていた、サンジが立ちあがった気配がした。 ゾロは窓の外を見ている。あまりきれいな海ではない。黒っぽい海面に、おもちゃのような白い船がいくつか浮いている。手前のほうには煙をあげる煙突が三本、海よりよほど青い空へとまっすぐに伸びている。薄緑色のばかでかい球体のタンク、あれにはたしかガソリンが入っていると、誰かに聞いた気がする、いや、石油だったか。 「……なにを考えてる?」 サンジが訊く。 あんた以外のこと、とゾロは答えた。 「ひどいね」 こんなときに気を逸らすなんて、とサンジは言う。 さきほどより声は近かった。いつのまにかすぐ後ろに来ている。 「これ以上、あんたのことを考えたら、おかしくなる」 ゾロは言った。本心だった。 サンジは息を吐くように笑い、室温よりは高く体温よりは低いぬるま湯のような息がゾロのうなじにかかった。ゾロの後ろから腕を回す、バスローブの紐をするりと解いた。それをゆるやかにゾロの両手に巻きつける。 なんどかくるくると絡ませ、けれど結び目は作らなかった。その端をゾロに噛ませる。 こんなのは束縛ですらない。もっときつく縛られたっていいのだ、サンジになら。それがわかっていて、ゾロが望んでいるのも知っていて、たぶんサンジはそうしない。 「足を開いて」 大きく、とサンジが言う。 開いた股のあいだにフットレストが差し込まれる。滑るように、音もなく、ゾロの内腿の表面を、さらりとした生地がまんべんなく撫でていった。 前がはだける。そのしたには何も身につけていない。日頃は布地に覆われている部分が開かされ、空気にさらされ、すうすうとする。 目の前の鏡台には、すでに前をもたげた自分の姿が映っていた。視線をわずか横にずらすと、鏡ごしにゾロを見ているサンジと目があった。今日も細い眼鏡をかけている。この前はすぐ近くで、じかに瞳の色を確かめたのに、また遠い、それがもどかしい。 もっと、と思う。 「俺を見て、ゾロ」 おかしくなるといいとサンジは言う。 いきそうになると指は離れた。 「タオルを替えようか」 そう言われ、ゾロはフットレストに置かれたそれを見下ろした。 ゾロからあふれたものを吸ったところは、濡れて、すこし色を変えている。ゾロがあんまり漏らすので、サンジが途中でそこに敷いたのだった。 手で押さえたらじゅ、としたたりそうなそれをサンジは取りあげ、新しい、ふかふかのタオルを、丁寧にたたんで敷きなおした。 「またこぼれてる」 サンジが垂れたローブの裾をまくりあげる。尻の後ろのほうから、足のあいだに手を入れ、前に回す。 壊れたみたいにあふれつづけるちいさな穴を、人差し指の腹でぬる、となぶった。赤く熟れた先端が、白くとてもきれいな形をした指にゆるゆるとなぶられ、それをよろこんで、ぴくん、と揺れる。 サンジの腕のうちがわが無防備に広がった後ろの穴にひたりとあたっている。まるでそのうすい皮膚を食むようにひくつくのが、自分でわかった。 吸いついてるね、と言われ、返事をするかわり、ゾロはふうう、と弱った動物じみたうめき声をあげた。唾液で重くなった紐を噛みしめ、両方をすりつけるように、前後に腰を揺すった。 指で、舌で、くちびるで。 立ったまま足の閉じれないゾロをサンジは愛撫しつづけた。じっくりと高めて、いきそうになるとやめる、静まってきたのを見はからってまた高める、長いことこうしている。まだいちども許されていない。 さっきまでいじられていた乳首がじんじんしている。男にとってこんなものがなんの役に立つんだろうと、ゾロはずっと思っていたのに、いまでは自慰のときにもそこをいじる。サンジの繊細なのに執拗な手つきを思い出して、後ろも一緒に深く指で犯してかきまわす、そうすると、ゾロはすぐにいってしまうのだった。 「前は女の子を抱いてたの?」 サンジが耳元で訊く。腰をくねらせながら、ゾロは、うなずいた。 外は色を変えはじめている。やけに赤い太陽から斜めに西日が射していた。紐がからんだままの、てのひらと接した木目のあいだには汗の膜がはっている。 「俺もこんなふうに誰かにいれてほしいと、そうされてる自分を想像しながら、興奮してた?」 きみみたいな男らしい子が、ほんとは女の子みたいに泣かされたいって? 指先がおりてくる。濡れそぼったすじを縦になぞって、膨らみをたどり、その、後ろへ。あとすこしのところで戻る。往復する。けしてはいってはこない、それをゾロは誘いこむように尻をうわむけ、揺らしつづけた。 サンジが言ったとおりだった。だけど誰でもいいと思っていたわけじゃない。男を知ったいまだって、サンジ以外のやつに抱かれる気はなかった。 頭のなかがぼやけてくる。 サンジがはいってきたときのことを考えただけでいきそうになる。 呼び鈴の音が聞こえたときも、ゾロはそうしてぼうっとしていた。 サンジが離れてしまう、それがただ、さみしかった。 なかまで持ってきてくれるか、ワインはいま開けてくれ、いや、テイスティングはけっこうだよ。 ゾロがとてもすきな深い声がする。あの声で囁かれると、ゾロはなんだって言うことを聞いてしまいたくなる。体が内側からぐずぐずに溶けて、腐ったくだものが崩れていくみたいに、だんだんと輪郭を失っていくように感じられる。 鏡ごしにずっとサンジの背中を見ていた。はやくまた触って、かわいがって欲しかった。その後ろから、制服を着た男が一人、ワゴンを押して入ってくる。 男は鏡に映ったゾロをじっと見て、それから、あわてたように視線を逸らせた。裾をまくられ突き出したままの下半身に視線を感じた。すべて見えているはずだった。 ぽた、とまた、垂れる。 「どうかしたか?」 サンジが言い、男はいえ、とこわばった声を出した。サンジは、ゾロのところに戻ってきた。 床に膝をつく。剥きだしの尻をするりと撫で、掴んで、くちびるにするようにそこにキスをしてくれる。表面をやわらかな舌がなぶった。 やはりなかにははいってこない。 「んっ、んっ、んうっ」 のど奥でつぶれた、くぐもった声がいくらでも洩れた。いやらしい水音を立てて這い回る舌にゾロは震えた。 ねだるように、もっと開いた足が、こまかく痙攣しつづける。 上体が台のうえに崩れ、ますます尻を突きだす姿勢になった。すぐ目の前の鏡には緩みきった、見たことのないようなだらしない自分の顔が映っていた。気持ちがよすぎた。俺はもうおかしくなっているのかもしれない。ゾロは恍惚と思う。 サンジがゾロのそこを舐めているあいだ、男は二人をなるべく見ないようにして、ぴかぴかと光るソムリエナイフを取り出した。 刃を立て、ボトルのうえのほうの表面をすうっと走らせ、キャップシールをはずす。スクリューをねじこみ、ゆっくりと慎重に引く。きゅぽん、とよい音がして、コルクが抜ける。 銀色のトレイのうえに置かれたそれを、サンジは手に取った。鼻に近づけて香りを楽しむ。 アルコールで濡れたコルクが、ゾロのそこに押しあてられた。つぷ、とすこしだけはいってきて、抜ける。硬いような柔らかいようなその感触に、ゾロは全身をびくびくと跳ねさせた。 とうとう、ゾロは、紐をくちから落とした。 「――サ、ンジ」 「もう、我慢できない?」 「……でき、ねえ」 「かわいい子だ」 サンジが微笑んで、髪を撫でてくれる。 どうしても我慢ができなくなったらこうするという約束だった。 紐を落とし、名前を呼んで、と。 サンジがゾロの前に座った。どうしたらいいのか、ゾロにはすぐにわかった。ゾロは身体をふたつに深く折り曲げ、サンジのジッパーを歯で噛んで下ろした。 奥までくちにふくんで、すでにおおきなそれを、もっと育てる。他人の性器をくちに入れるのなんてはじめてだったけれど、ゾロは、夢中で、それをしゃぶった。 さっきとはちがう水音が響くなか、グラスは二つにしてくれ、とサンジが言う。 はい、と男の答える声が聞こえた。 「そんなに欲しかった?」 とろけた穴に、ようやく指を差しこまれ、ゾロはサンジを吸いながら射精した。ひどい快感だった。いろんな液体がいちどにふきでた。 男がワインを二つのグラスに注ぐ。手首に絡まるだけになっていた紐がはずされた。そのまま腰をつかまれ、向き合う形で、ひだをゆっくりとかきわけて、サンジがはいってくる。 いつのまにかサンジは眼鏡をはずしていた。瞳を見ながら、正面からするのははじめてだった。 「あっ、ああ、ああ、ああ」 声は抑えられなかった。フットレストをみしみし軋ませながら、悲鳴に近い声をあげ、ゾロは腰を振った。さかったらところかまわず交尾するけだものみたいだとぼんやり思った。思えば、よけいに感じた。 おたがいの腹のあいだで前がこすられ、すぐにまたいった。サンジの顎のあたりまで、勢いよく白いのが飛んで、髭のところにかかって、元気がいいねとサンジが笑い、それをぬぐって、ゾロのくちに押しこんだ。ゾロはそれを舐めた。青い匂いがした。 「まだひとがいるのに、はしたないよ、ゾロ」 ゾロは首を横に振って、サンジの身体に腕を巻きつけた。髪に鼻を埋めて、思いきり匂いを嗅いで、おねがい、もっと、と耳に吹きこんだ。 きみはほんとうにかわいいな、とサンジは囁いた。溶けてしまう、とゾロは思った。 ゾロの腰をわしづかんで、サンジはうねるようにはげしく突きあげはじめた。つながっている場所からぐじゅぐじゅとものすごい音がしていた。 ゾロはたてつづけにいった。 もう、高いところから帰ってこれなくなった。 サンジとゾロの表面はゾロの体液で満たされている。 「ああ、きみ、悪かったね。もういいから、あとでタオルの替えを頼むよ」 動けずにいた男にサンジが声をかける。 このぶんだと、彼がずいぶん汚してしまいそうだからね、とサンジは言った。 (10.03.21) サンゾロプチオンリーTwo Top Worldでの無料配布本より再録。 こんな頭のおかしなものを無理やり押し付けてごめんなさい、と、あとで思いました。 痴漢サンゾロの二人です。 |