Love me do





ゾロの身体からは、熟れた濃い匂いがしている。

けだものじみたこの匂いがサンジはとても、とても、すきだ。頭の芯がぼうっと痺れ、ところかまわず、ぐずぐずになるまで、ゾロを犯しつくしてあげたくなってしまう。もちろんサンジは根っから紳士であるから、ちゃんと我慢をしているのだけれど。
サンジがゾロの匂いについて語ると、ゾロは、いつも不思議そうな顔をする。自分ではわからないらしいのだ。誰かに言われたこともないという。あんがい、そんなものなのかもしれない。
俺だけがわかる匂いだといいなとサンジはよく思う。
俺だけが知っている、俺に発情したゾロの、甘ったるくって、すごくいやらしい匂い。
考えただけでため息が出る。

美しく晴れた日、午後のキッチンで。ふつふつと煮えているスープをサンジはゆっくりとかきまぜる。
とろりとした赤いスープはトマトの味だ。この前寄った島の名産、ほかにも、野菜がいろいろと。
右手で優雅に円を描きつつ、今日は何日目だっけ、とサンジは考える。最後に抱きあったのは島の宿だから。左の指を一本ずつ、彼は折っていく。
えーと、そうそう、5日目だ。
きのうくらいからゾロの匂いはぐんと濃くなった。
たしかにこれまで、3日とあけたことはないものな。
「おい」
すぐ後ろでゾロの声がした。こじんまりとしたこの部屋にはゾロとサンジの二人きりだ。
おやつはすでに終わったけれど、夕食というにはまだまだ早い、そんな時刻。ほかの仲間はみなそれぞれの、平和な午後を満喫している。
「ん」
「てめえ、何考えてる」
ゾロは言った。声は剣呑だ。
サンジはちらりと振り返ってゾロを見る。
表情も、同じく。
「ゾロのこと」
「……ふざけんじゃねえ」
「ほんとだって」
「じゃあ、なんで――」
言いかけて、ゾロはむすりと口を結んだ。
その顔を見て、サンジは微笑んで、スープをちいさな取り皿にわけてから空いた方の手でおいでおいでをする。
ゾロはサンジをじろりと睨み、不承不承、というていでサンジに近づいた。
それがあくまでポーズであることをサンジはもう知っている。でもけして、指摘してはいけない。サンジの大切なお姫さまは、たいそう、気位が高いのだ。
「……なんだ」
「もうちょっとくっついて」
こう、ね、ぺったりさ。
サンジが自分の背中をぽんぽんと叩いて示す。
「必要あんのか」
「うーん、俺がうれしいから?」
サンジはまたやわらかく微笑む。ゾロの表情がちょっとだけ和らぐ。
ほら、味見。
サンジが言い、小皿をひょい、と掲げてみせる。
ゾロはまだすこしむっつりとした顔のまま、あくまでしょうがねえなという感じで、それでもサンジに後ろから、ぺたりと隙間なくくっついた。
かわいいなあ、とサンジは思う。
こんな男のなかの男みたいなゾロなのに、それでもこころから、サンジはそう思う。

サンジはこのところゾロを構ってやっていない。
もちろん、わざと。
ゾロに追いかけまわされたいから。
サンジのうえで卑猥に尻を振るのは平気なくせに、したくてたまらなくても、ゾロはなかなか自分からおねだりをすることができない。
こうしてサンジの周りをうろうろしたり難癖をつけたりして、気をひこうとする。サンジが手を伸ばすのを、いたいけな犬のようにじっと待っている。あのゾロが、自分のために、そんなふうになる。
そんなの、たまらない。
もっともっと、見たい。
したい、と、欲しい、と、ぜひとも、言わせたい。
「塩、足りてるか見てくれ」
サンジは言い、ふう、と息を吹きかけ冷ましてから、肩越しに皿をゾロの口に近づけてやる。ゾロの唇が薄くひらいた。すこやかな粘膜の色。皿を傾ける。とろりとしたスープはとぷとぷとゾロのなかへ流れ込む。
上からは料理で、下からはペニスで。
ゾロのなかはいつだってサンジでいっぱいだ。
なんて完璧な幸福だろうと、サンジはうっとりとして、同時に、性的にはげしく興奮する。背中ではゾロの高い体温がサンジの低いそれと交じり合っている。ゾロもとても興奮している。匂いが、また濃くなった。ちょうどサンジの腰の辺りにあたるゾロの前は熱くて硬い。
「ちょうどいい」
ゾロが言う。
抑えた口調で、いつもより低い声で、痛いくらい勃起したままで、空になった皿をサンジに手渡す。
「そうか、よかった」
皿を受け取り流しのなかに置いてサンジは片手を後ろに回した。二人の身体のあいだに手を入れ、形を確かめるみたいに包むみたいに、ゾロのかちかちのそこにてのひらをそっと、あてる。しばらくそのまま、あてたままじっとしていると、ゾロの息が次第にあがってくる。こすりつけるような動きをしだす。
ふ、ふ、と短い息を吐きながら、ゾロは両手をサンジの前に回した。サンジの、同じように硬いそこを、服のうえから撫ではじめる。
自分もそうして欲しいのだろう。
だけどサンジはしてあげない。
サンジのえりあしに顔を埋めて、ゾロはサンジの匂いを嗅いでいる。ゾロだってサンジの匂いがすきなのだ。熱い息が頭皮に触れるのがくすぐったくて、サンジはくぐもった笑い声をもらす。
「ゾロ」
耳元でささやくように名前を呼んでやる。
ゾロの唇の端には、さきほど飲んだトマトのスープが付着している。物騒な血の色をしたそれはゾロにとてもよく似合っている。
体を入れ替えてゾロを後ろから抱きすくめた。首筋を唇で愛撫して、右手は前にあてたまま、左の指先で、ゾロの口元の赤とあふれそうな唾液をぬぐいとり、そのまま後ろへと忍ばせる。
「ハ、あ、あ」
「ひくついてる」
とん、とん。弾くように、ご機嫌をうかがうみたいに、そこに触れてやると、そのたび、ほころんだり、すぼまったりする。ここはゾロがすごくすきな場所だ。よつんばいにして舌先をとがらせて舐めてあげると、それだけでいってしまうこともあるくらいに。
「ゾロ、したい?」
ゾロは答えない。言葉には出さずに、ねだるように身体をくねらせる。金のピアスがサンジの耳の近くで、ちりりと涼しげな音をたてて揺れている。前はもうどろどろだ。布越しにもじっとりと濡れてきていた。
「欲しいって言ってよ」
 指先をすこしだけ穴に挿すと、入口はきゅう、と締めてきて、なかはやわらかくうごめいている。
ああ、とゾロが、掠れた色っぽい声をあげる。
声も、なかも、熱く湿ってとろけている。
「ゾロ?」
「く、そッ、あ、ああ」
前と後ろをいじるサンジの両手のうえに、自分の両手を重ねて、ゾロは動かしはじめる。サンジの手にいやらしい動きをさせる。
声をおさえるためだろう、ゾロは白いシャツをたくしあげて口にくわえた。きれいな曲線をえがく胸、先端の乳首はおいしそうな桃色だ。とがってつんと上を向いている。
「やらし」
ゾロの耳に吹きこむように言い、サンジは前もじかに触ってやる。
足のあいだに足を入れて広げさせ、入口近くで指を出したり入れたりしながら、ぬるぬるの先っぽをつよめにこする。ゾロは尻をサンジの股間に押しつけるように前のめりになって、シャツを噛みしめ声をころして射精した。サンジの手の中で、いきものみたいに、ゾロのものがなんどもびくりびくりと跳ねまわる。
「たっぷりだしたね」
てのひらを広げて見せながらゾロに言うと、ゾロの目尻はほんのりと赤くなった。
休ませることなく、サンジは後ろに挿しこんでいた指を抜いて、今度は乳首をいじりはじめた。ねちっこい動きで、乳首が濃く色づいてぷくりと腫れるくらいに、ゾロの口が開きっぱなしになるまで、何も言わずにそこだけをいじり続ける。ゾロがとうとう我慢がきかなくなって、前と後ろを自分で慰めはじめるまで。
サンジはゾロのボトムを下着ごとずらし、ゾロの指が、くちゅくちゅと音をさせながら動くのを、じっくりと鑑賞する。見ているだけでこっちがいってしまいそうなくらい、それは素敵な光景だった。
ゾロをこんなふうにしたのはサンジだ。
男とも女とも経験のなかったゾロを、ゆっくり時間をかけて、たらしこんで、こんなふうに。
はやく、と涙目で、腰を揺らしながら、ゾロが言う。
なにが?とサンジはあくまでやさしく、訊く。
「だめだよ、ゾロ」
ちゃんと言わなきゃ、どうして欲しいかわかんねえよ?
あっ、あっ、とあえぐ合間に、てめえあとで殺す、とゾロはサンジを潤んだ瞳で睨みつけた。
そんな顔でそんなこと言われてもなあとサンジは思う。
それにある意味、サンジはもうなんども、ゾロに殺されている。初対面ですでに致命傷、死ぬほどすきとはよく言ったものだ。
サンジがこねる指の動きをはやめると、ゾロの手の動きもはやくなる。感動するほどきれいなゾロの背中が、快感を追うように、くん、と反りかえっていく。
限界が近い。
 
「ゾーーーローーーー!」

ものすごいタイミングで甲板からルフィの声が響いた。
ゾロの身体が硬直する。クソゴムにしてはなかなか気がきいている、とサンジは思う。
サンジは愛撫していた手をあっさりと止めた。
あとちょっとだったゾロは、信じられない、という表情で、サンジを見つめた。
サンジはゾロの汚れた手を、レディにダンスを申し込むときみたいなしぐさで取って、シンクのところで石鹸でごしごしと洗ってやる。腕にいつも巻かれている黒い布をはずし、ゾロの下着のなかを、それで、丁寧にぬぐいとってやる。それから、その布をやっぱり石鹸できれいに洗ってやり、ぱん、と音を立てて広げてふきんのところに干してから、ゾロの方へ向き直った。
そのあいだ、ゾロは立ちつくしたまま、サンジの行動をぼうぜんと目で追っていた。

「いってらっしゃい、ダーリン」

ちゅっと音を立ててゾロにキスをする。

「お前の愛しい船長が呼んでるぜ?」

にっこりと笑って、サンジは首をすこしかたむけた。


ゾロの顔は真っ赤に染まった。
泣く寸前のこどもみたいな顔になり、それがみるみると、魔獣の名に恥じないひどく凶悪な表情に変わっていく。
があッと雄々しく、ゾロはひとこえ、吼えた。



 

ばたん、と大きな音を立ててゾロは扉を閉めた。蝶番がはずれそうな勢いだった。ものすごい殺気をまとって、どすどすと大股でサンジに近づく。
サンジはちょうど椅子に腰かけ一服をしているところだった。ゾロの姿を見て、サンジは煙草を灰皿に押しつける。

「おかえり。早かったね」

ごはんにする?おふろにする?それとも――

最後まで言い終えることはできなかった。
サンジはゾロにとびつかれ勢いよく床に倒れこんだ。
がっちりと押えこまれ、飢えた動物が獲物にかぶりつくような、性急で荒々しく容赦のないくちづけを受ける。
「いますぐてめえをよこせ!」
破るように服を脱ぎながらゾロがそう怒鳴る。

ああ、ほんとうに、焦がれ死んでしまいそうだ。

あまりの幸福感に、サンジは、気が遠くなりかけた。



扉の外には薄い紙切れが一枚。
ウソップ特製万能のりでべたりと貼りつけられている。
そこには、ゾロの意外と達筆な文字で、じゃますんな、とでかでかと書かれていた。



                                           (09.07.06)



サンゾロオンリー キ×ミドリズムでの無料配布本「おかえりなさい。」より再録。
ムムーの唯野さんと、おかえりなさい、をお題に書いてみました。
「Why do I love you」の二人の、7日前の話、のつもりだったんですが、なんかこのサンジのほうがだいぶん……まあいいや。
あとかわいいつもりで書いたのですよ、というのも、まあいいや…。