リクエスト:午前8時の口淫(おっさんじ×高校生ゾロ)。「むこうみずな瞳」という話の二人です。 今日も、また雨が降っている。降り落ちる水の粒までは見えないけれど、半分ほど開けた窓からは、はっきりとその音が聞こえていた。多少の湿気には目を瞑らなければならないだろう。閉め切ってしまえばじわりと蒸し暑く、かといって冷房を入れるほどの気温でもない。それしてもよく降るもんだ。例年考えるようなことを考えながら、サンジは煙草を灰皿に押しつけた。 灰色にけぶる、見慣れた町並みを見やる。もともと雨は嫌いではなかった。 だが、好きだとまで思うようになったのはたぶん、ゾロに出会ってからだ。 「長えよな」 まるで考えを読んだように、トーストを齧っていたゾロが言う。スライスしたトマトとチーズ、その上に摘んだばかりのバジルを乗せてかりりと焼いたもの。それとカフェオレに、いまの時期が一番おいしいアメリカンチェリー。種を摘まんだらしい指の先が、汁で紫に染まっている。夏服の白がやけにまぶしく感じられ、サンジは軽く目を眇めた。 ああ、そうか。 朝にこの姿を見たのは、これがはじめてだ、と気がついた。 「梅雨、なァ」 明けるの遅いらしいぜ、今年、とサンジは言って自分の椅子を引いた。昨夜ゾロが眠ってしまってから急に煙草が吸いたくなって、煙をくゆらせながら見ていたニュース番組の受け売りだ。七月半ばくらいじゃねえかってさ、と言えば、梅雨入りってたしか五月だったろ、と言ってゾロはマグカップを傾けた。 「だな」 サンジは頷いた。去年はどうだったか。考えてみたが思い出せず、ただ軒先の雨に濡れた緑の髪だけが浮かぶ。あれからのサンジの記憶ときたら、見事にこの少年ばかり、なのだった。 ごくん、とゾロの喉仏が上下に動き、そのまま鎖骨までをなんとなく追えば、襟で隠れるかどうかの際どいところに赤い花が咲いている。目にした瞬間、ざわりと這いあがるものがあった。俺の、と、サンジは思う。俺が昨夜つけたやつだ。シャツのボタンを外して肩から滑らせれば、それはもっとたくさんの。 「……朝っぱらから、そういう顔やめろ」 ゾロが言って、サンジは顔を上げた。少し伏せられた睫毛の下の瞳は、空になったはずのカップに向けられている。めずらしく目を見ないのが、どんなときかくらいはもう知っていた。 どういう? と尋ねる声は、ゾロの言う通り、われながら朝にはとても似つかわしくないものになった。ゾロの耳のそばで、低く囁くときのそれ。そのたび水気の多い目はさらに潤んで、香ばしい色をした肌はしっとりと汗ばみ、いまだ成長過程の健やかな体はとろりととろける。びくびくと痙攣しながらシーツをこすっていた踵が、あと少ししたらスニーカーに収まって学校へ向かうのだ。そう思えば、ぞくりと寒気にも似た欲情が走った。 まったく、とわれながら呆れる。ひでえ、もんだ。 昨日、終わったあとしばらくサンジは眠れもしなかった。ようやくはじめて抱いたばかりの、年若い恋人のうぶな反応を思い描いては頭を抱えたい気分になったものだ。思い出すだろうか、ゾロも。思い出すといい、と思う。同じ制服に囲まれた教室で、今日一日ずっと、昨日のことを、俺にされたたくさんのことを、どんなふうに感じて、どんなことを口走ったかを。 「どういう、って」 「うん」 「だから……夜、みてえな顔だ」 「ベッドで?」 「……」 「思い出しちまって。なんか、お前見てたら。いろいろさ」 「いろいろ」 「ああ」 いろいろ、な。 もう一度言うとゾロはぐ、と歯を食いしばってから少しだけその顔を背ける。頬骨の高いところが染まっていて、ふ、と浅く息を吐いた。行為の最中は驚くほど奔放な面も見せ、まったく惜しみなく体を明け渡すくせ、素面のときにはまだこうしたぎこちなさがあるのだった。溶けるくらい優しくしてやりたいのはほんとうなのに、こういう顔もたまらないから、困る。クソ、いますぐ抱きてえと思う。二人ともが黙り込んで、しん、となると雨の音がよけいに大きく聞こえた。 明日休みだろ。そう言って自分は休みでもなんでもないだろうに、サンジの帰宅を見計らったようにゾロは昨夜ここにやってきたのだ。ふい打ちに驚いたまま、どうやって、と尋ねたら、父親に車で送ってもらった、泊まることも言ってある、と毅然として言うからめまいがした。連絡もらえりゃ俺が迎えに行ったのに。そう言えば、丸め込まれそうだからな、と非難がましい口調になった。どうも、この期に及んで牽制されると思っているらしい。 誘われるまでなんて、もう待てねえんだよ、と。 覆いなどなにもない言葉でサンジを欲しがった。 「なあ、どうだった。昨日」 「〜〜〜〜ッ」 「痛くねえか、腰とか……他も」 「――ク、ソ、すけべ中年ッ」 「まー否定はできねえけど。お前かわいいからしかたねえよ」 頬杖をついて顔を覗き込み、ニヤニヤ笑いながら言った途端だ。テーブルに置いていた左手を強く掴まれた。その熱い指はわずかに震えていて、それから、サンジ、と掠れた声が呼んだ。周囲をほの赤く上気させた、目はしかしちゃんとこちらを見ている。 息が、止まった。 「……んなんじゃ、学校行けねえ」 「な、んで」 「なんでって、あんたが」 思い出させるからだ。そう絞りだすのに、サンジはようやく思い至った。ゾロはいま、きつく勃たせているのだろう。視線と言葉に煽られて、昨夜のことをありありと思い出して。畜生、収まんねえ。そう悔しげに噛み潰し、手を離して腰を浮かせようとする、その手首を掴んでサンジのほうが立ちあがった。がたん、と大きな音がする。椅子が倒れたのにも構わずにゾロのそばに近寄った。 床に打ちつけるように膝をつけた。座ったままの体の向きを変えさせて、脚を開かせる。ゾロは一瞬だけ腿をぴんと張りつめさせ、けれど、てのひらに力を込めればそれをゆるめた。真ん中は隆起して布を高く押しあげていた。ベルトに手を伸ばし忙しなく外しながら、時間は、とサンジは尋ねた。ひどく上ずった余裕のないものになったが自分ではどうしようもなかった。 「五分、くれえなら、って、おいサン――」 「どうする気だった」 「どう……って」 「こんなにしちまって」 「自分、でっ」 最後まで聞かずに下着をずり下ろすと、充血した先端が露わになる。ゾロの声が跳ねたのは、丸く浮いた水滴をサンジが音を立てて吸ったからだ。舌をべたりとあてて、敏感なそこ全体をこするように舐める。ぬるぬると滑らせるたび、掴んでいるゾロの腰に震えが走った。くびれに指の輪をかけて、少しだけ下に引っ張って、皮の薄くなったところを唇でかわいがってやると、あ、あ、と声があがり、漏らしながらぴくぴくと跳ね回る。 自分の口からこぼれる唾液が、制服のズボンに染みを作るのが見えた。 「思い出せよ、ゾロ」 「な、に、ん、ッあ、アッ」 「……朝っぱらから、明るいとこで俺にこうされたこと」 「ふ、ぅ、ううう」 じゅぷじゅぷと何度か上下にしごいたら、つらそうに上を向いた性器はもっと赤く腫れて硬くなった。泣くようなゾロの声を聞けば肺が絞られるようで、けれど、容赦してやることなどとうていできない。いく、もういく、離せ、とゾロは喚き、声でけえよ外に聞こえるぜ、とサンジはそれに応えてからゾロのものをずるずるとのど奥まで呑んだ。 口の中で軽く潰すように吸いながら、下着の中に収まっている袋を揉んでやる。んーーーーッと長くくぐもった鼻声はたぶん、口を必死で押さえているのだろう。開いた脚が震えている。掴んだままのゾロの腰を揺すって、こうするのだと教えてやれば、水気の多い濁った音がしきりにして、そのうちにゾロはぎこちない動きでサンジの口を突きはじめた。 「で、る、でるでる、でちま、ッ、や、いやだ、あんたの、くち」 またよごしちまう。 そう耳が捉えた瞬間に頭が白んで、サンジはじゅううとひときわ強く吸いあげた。抜こうと暴れ、めちゃくちゃに動く腰を押さえつけてすべて中で出させてやる。いやだ、いやだと甘い声がしきりに聞こえた。聞こえていて、だがわざと喉を鳴らして飲んでやった。んっんっと鼻声を出して、ゾロは内腿でサンジの体をぎゅうっと挟んだ。最初にこれをしてやったときはただただ夢中だったせいなのか、こうやってゾロが恥ずかしがることはなかったはずだ。頭の冴えた朝だからなのか、明かりを点けたままだからか、それとも、高校の制服に身を包んでいるせいなのだろうか。 「……ふ」 ずるりと吐きだせば、口の中はひどくねばついている。見あげるとゾロは、顔の下半分を手で覆ったままサンジを見ていた。また泣かせちまった。昨夜だってずっとこんな調子で、朝起きたゾロのまぶたの腫れはようやく引いてきていたのだ。濡れた目尻を見て胸が痛むのに、同じくらい、好きだ、愛しいと思ってしまう。 力が込められたままの手を、手首を掴んでそっとどかせば、ゾロの唇とてのひらは唾液でべとべとになって光っていた。 その頬を両手で挟んで、精液の残る口でキスをした。短い髪を撫でて、舌を深く絡ませて、自分の青い欲の味を教えてやる。 「もうすぐ、五分」 「は、クソ、よけい、ッん」 「ちゃんとイイ子でがまんして……うちに帰って来いよ」 待ってる。 真っ赤になった耳に、そう囁きを吹き込んだ。ふうう、とゾロが手負いの獣じみた息を吐く。まだ朝で、きっと、夕方まではとても長い。そのあいだ、何度だって俺のことを思い出すといい、と思った。 思いきり髪を掴まれ、ぐいぐいと容赦なく引っ張られる。いたた、と声をあげれば、いつか見てろとゾロはあのときのように啖呵を切った。見てろ、いつかぜってえ、あんたを夢中にさせてやると。挑むような顔つきで、まっすぐな視線で貫いて。ああ、ほんとうにお前が鈍感で助かったよ。あらためて、サンジはしみじみと思う。 自分でも信じられねえが、もうすでに恋しいくらいなんだ。 はたして、俺のほうが待てるのだろうか? |