リクエスト:誰かと電話してるゾロに後ろからエロいことするサンジ





タイミングが、悪かったのだ。
二人して飲み会を抜けだし向かった先はサンジのアパートで、まさにさあこれから、ってときにケツポケットがぶるぶると震えた。まるきり狙いすましたようなそれに、さすがに多少の動揺が走ったのは否めねえ。状況次第では無視していたはずだろう。なかば反射的に体が動いて、つい電話を取っちまったのはそのせいだ。
ベッドに座るサンジにそこで待て、と手で制してからテーブルのほうへ向かう。電気を点けた。聞こえてくるのは喧騒とがなるように歌う声、それから、負けじと張りあげる同じ大学の男の声だった。二次会はカラオケだとたしか言っていたのを思い出す。電話の相手は、今日の飲み会の幹事でもあった。おれがいなくなったことにたったいま気がついて、ちゃんと家に帰りついたかの確認の電話らしかった。ときどきこういうことがある。なぜか、誰かしらおれの居場所をこうして尋ねてくる。たいていは一人で大丈夫か、と訊かれるから、なにが大丈夫なんだ、と言えば十中八九ため息が返る。
サンジの奴も。その名が出たときは少なからずざわりとした。あいつもさーふと気づいたらいなくてよ。女子何人か帰ってっから誰かお持ち帰りだろな。はは、くっそー。
その男ならすぐそばにいる、女じゃなくておれをお持ち帰りでな。などと、まあ言えるわけもねえからおれはそうかとだけ答えた。帰んの。店を出たら、外で煙草を吸っていたサンジに言われた。まるで、待ちぶせてでもいたかのように。頷けば片手をこちらに伸ばしてきて拳でおれの横腹を軽く叩き、おれも、と奴は当然のように言った。なあ、おれんち来るだろ。尋ねられたのに返事をしなかったのは、何度めかは数えちゃいねえがこれがはじめてのことじゃねえからだ。飲み会に向かう前はかならず、今日はなんとかちゃん狙いでいくぜなどと軽薄な口を叩いているくせに、こいつが選ぶのはなんとかちゃんとは性別から異なるこのおればかりなのだ。
そのとき、後ろから伸びてきた手が腹を抱いた。
「――っ」
振り向けばサンジは、自分の唇に一本、立てた指を押しつけた。それからテーブルの端に乗っていたメモ帳とペンを引き寄せる。テレビでうまそうな店が紹介されたときや興味のあるレシピが流れたときにこれに書き記しているのを見たことがあった。
おれの腹を抱いたまま、サンジはそこにこう書いた。焦ったようないつもよりもずっと乱れた字で。

まてるわけ ねえだろ

文字を追い終えた瞬間にぶるっと来た。腹に置かれたその手には力が込められている。ペンを置いたサンジの右手が、おれの唇を開いた。肉の襞を掻きわけてぬるりと入ってくる。ヤニくさい指の味を感じながら、おれは気のいい男の電話に相槌を打った。どうも酔っているらしい。目下熱烈な片思い中だとかいう他の学部の女の話がはじまる。そうか、と言おうとしたときに声が跳ねたのにはどうやら気づかれていない。垂れそうになった唾液を吸った音も、たぶん。シャツの下に忍んできた左手はひどく熱く、じっとりと汗ばんでいて、せわしなくいやらしくおれの肌を撫でまわした。
胸の先をきつくつままれる。きゅ、きゅ、としごかれて息が荒くなる。耳の後ろに唇を押しあててきた。携帯から、遠いほうの耳だ。男の息も荒い。ゾロ。小さな囁きを骨にじかに乗せてくる。舌がそこを這って生ぬるい水がとろとろと流れ落ち、おれのジーンズの中はそれだけでぱんぱんになってくる。
テーブルに、ごりごりとすりつけてえくれえに。

いれてえ はやく

おれの口から引き抜いた、おれの唾液で濡れた手でサンジはまたペンを握りそう書いた。さっきよりもっと殴りつけるような乱れた筆跡で。それは、痕が残るくらい尻を強く鷲掴んで腰を振るときのこいつの荒っぽさを思い出させた。たまらねえな、と思う。ぞくぞくする。おれに余裕のかけらもねえこの男を見んのが好きだ。性急にジーンズをゆるめて、ずぼりと指を突っ込んでくる。腰のほうから滑ってきたその手はまっすぐにそこを目指した。

よせ

転がっている、濡れたままのペンでおれはそう書いた。待てねえのはもちろんおれだって同じだが。びっと最後に黒い線が引かれたのは、ずぶりと容赦なく入ってきたからだ。ひゅ、と息を呑む。その拍子にぼたりとおれの口から落ちたよだれで、せ、の文字がぶよんと膨れた。ケツ、すげえ、やーらかくてやらしい。空いたほうの耳に卑猥なごく低い囁き声が注がれる。もう片方からは明るいバカ騒ぎと、なんともかわいらしいような純情な男女の、恋の話。
ぬち、と音がここまで聞こえたのは気のせいだろうか。後ろに深く挿れた指をサンジはゆっくりと動かした。先のほうで弱いところをくんと押してくる。そうやって、おれをすぐにぐずぐずにしてしまう。押しあげられてる下着がカウパーでべしょべしょに濡れていた。おれの片手はペンを握ったままで、体が揺れるたび、メモ帳に何本もの無為な横線を引いた。もう片方は携帯を持ったままだ。サンジはおれの体を好きにしている。おれが、好きにさせている。

い く

まさにミミズが這うような字になった。がまんしろよ。できねえのかよ。自分もそうだろうに、そうだから、だろうか、熱い息とともにそんな言葉をサンジは苛立たしげに吹き込んだ。指を増やして前立腺を責めたててくる。誰と話してんだ。早く切れって。いっそ愛らしい嫉妬におれがく、と喉を震わせると、ひどく気にさわったらしくガチガチのもんをぬるぬるすりつけてきた。じゃあ、このままブチ込んでやるよ、そうされてえんだろ。
ず、と割り開かれる。浅いところを突いては、少しずつ進んでくる。唇を噛みしめて声を殺す。下着は履いたままで横から捩じ込まれた。じんじん痛えくれえに勃起した自分の赤いモンが、ボクサーに収まりきらずに先っぽだけ食みだしてんのが見えた。大きく胸を膨らませては荒く息をした。ぎゅ、と乳首を捩じられたときに前が弾けて、腹が白く汚れて、サンジを食い締めたケツがひくひく痙攣した。
早えよ、お前。サンジの手が、どろっと精液を垂らすおれのを布越しに握る。ぐしゅぐしゅ音を立ててしごきながら容赦なく腰を振る。体がぶれるくらい叩きつけてくる。いい。すげえ。たまんねえ。
おれは、興奮しすぎてからからの口を大きく開いた。
「――あ、ァ、ああ、いっ、イイ、さん、さん、ジ、すげ、え、ゥあ、あッ」
「ッ!」
バカ聞かせんな! あられもねえ声をあげるおれの手から、すごい勢いで携帯が奪われる。しばらくしん、となったのちにクソッとさも悔しげな呻き声がした。気がついたのだろう。通話は、指を挿れられた直後に切っていた。あたり前だ。こいつにあんなふうにさわられて、声を抑えられる気などおれにはまったくしねえ。
「んな、いじわるして、楽しいか、よ」
さっきまでそうしていたのは自分だったろうに、潰れた声を出すからおれは首を捩じってサンジの顔を見た。必死なのはおればっかかよ。そんなことを、少し尖らせた口で言う。汗ばんだ金髪を掴んで額を晒し、真ん中に唇を強く押しつけた。バカな野郎だ。ほんとうに。おれはこいつとこうなるってわかってて、もっと正確に言やァ期待、していて、自分でケツをほぐしてからあの居酒屋に行った。とにかくすぐに欲しかったからだ。ほんとうは、飲み会の最中に便所にでも連れ込んでやりてえくらいに。
必死なのは、どっちだろうな?
「楽しいな」
「クソ野郎め」
「てめえも楽しいんだろ? ずいぶんノッてたじゃねえか」
「……おれは、てめえみてえにからかってるわけじゃねえよ!」
怒鳴る顔が赤い。肋骨を突き破って、心臓を素手で掴まれた感じがする。ああ、ほんとうにバカな野郎だろう。おれはただ、おれに余裕を失くすてめえをもっと見てえだけだ。
いいから続けろよ、スゲエ激しくしてくれ。
頬をべろりと舐めてからそう言えば、く、そ、とまた同じことをサンジは呻いてさらに顔を赤くする。おれの中に収まってるモンがびくん、と震えたのがわかる。細めた目の奥に、どうしようもねえ雄の興奮が滲んでる。たぶん気ィ飛ばすまでがんがん突かれんだろう。ぐ、と尻の肉に指が食い込む、その感覚だけで軽くイッちまいそうになった。
床に落ちた携帯が、また震えだす。
大きな舌打ちを一つ、おれは、それを蹴って隅へと追いやった。