リクエスト:ソファエッチ





買っとくか、割り勘で。
隣は見ずに何気ない口調で言ってみた。ソファの前にゾロと二人して佇んでいる。休日、午後のホームセンターは客でごった返していたけれど、ぱっと見たところ血の繋がりがなさそうな男二人連れなんて自分たちだけだった。
ゾロの返事はよく聞こえなかった。いきなり持ちあげて担ごうとするからサンジはハイキックを入れそうになった。
バカそこにある札持っていくんだよ、こんなデケエ現物まんま抱える奴なんて想定外だろうよ。
腹が痛くなるくらいげらげら笑った。通りがかるひとたちの視線が刺さっても少しもかまわない。はしゃぎすぎだなんて、よくわかっている。憮然としていたがたぶんゾロもだ。ああ、なんともお恥ずかしい話で。どうしたって浮かれちまうんだ。



「でもまああれだ、よけい狭くなっちまったよな」
「……」
「ベッドがねえのが救いっちゃ救いか」
「オイ集中しろ」
ん、悪ィ、とサンジは言って止めていた指を動かした。ぬちゅ、と音が立つ。絡んでくるゾロの中は、温かいというよりむしろ熱いくらいだ。かしゃかしゃと別の音がするのは掛かったままのビニールで、どちらかが身じろぐたびにこうやって鳴るのだった。外す間もなく、こうしてここに倒れ込んだ。配達員たちがドアを閉めた途端、示しあわせたわけでもないのにほぼ同時に。
「もう、い、い」
「まだ二本だぞ」
「いいから挿れろ」
でもよ、と言えば伏せていた顔をこちらに向ける。今日は、はやく、欲しい。赤らんで潤みはじめたその顔で、はっきりとした欲を示す言葉に目の前が眩んだ。買ったときはもちろんのこと、今日だって浮かれている自覚がサンジにはあったが、どうやらゾロも同じのようだ。
うつぶせた腹の下に差し込むようにして、カバーとのあいだに手を滑らせてみる。ゾロの先っぽはそれはぬるぬるに濡れていて、サンジの指にはとろりとした液が絡んだ。
ほんとだ、欲しがってんのな。
耳に吹き込みながら、先走りでぬるついたてのひらを丸めて塗り込むようににちゃにちゃと揉む。あっあっあっ。小刻みに漏れる声がいつもより甘い気がする。カーブを描く耳殻をこりりと噛んだ。深く挿れたままにした指を、ゾロのそこは、はくり、はくりと懸命に吸った。まるきり、空気でも足りないみたいに。足りないのがほんとはなんなのかよく知っている。ずりさげたジーンズから、そこだけ丸出しのつるんとした尻の真ん中に、自分の指が消えているのを目で追った。サンジは唇を舐めた。
尾てい骨に置いている手首を大きく動かして中を掻き混ぜる。くちゅくちゅという音はぐちゅぐちゅと濁った大きなものになる。もうすっかりぬかるんでいた。ゾロの耳がもっと赤くなった。だめ、あ、あ、ああ、だめだ、おと、ぁ、動かすな、と言うのに腰を揺らしている。半透明のビニールを、横向けた頬にべたりと貼りつかせて。汗なのか唾液なのかはわからない透明な水が、そこから下のほうへとゆっくり垂れ流れていた。
「イく、ん、い、いく」
「指で?」
「てめえ、の、が、い」
こいつほんとに限界みてえだなァ、とサンジは顔を熱くしながら思って、思ったらひどく喉が渇いた。おれのがいいのかよ、クソ。ああもう。性器から離した手で尻たぶを掴んで横にぐっと開くようにすれば、ふちのまくれたそこが思いきり露わになってゾロはぶるり、と震えた。丸見えだ。言えば物騒に唸る。唸りながらサンジの指でぐしゃぐしゃに掻き回されている。
「はや、く、はやくし、ろ、」
「じゃあもうちょっと濡らすぜ」
ぴ、とパッケージを破って用意していたそれを取りだした。ゾロがジーンズから片方の足を抜いてその膝を床につける。指を抜いて、注入口をじかにそこに挿して、ぶじゅる、と音がするくらい思いきり中身をしぼりだした。んんんんーーと長くゾロが鳴く。ゼリーだった。直接いれるやつ。こんなものがこの世にあるなんてゾロとこうならなければ一生知らなかっただろう。最初に一本、ゾロが自分で使ったけれど慣らしが足りないから念のため二本目だ。
「……わ、漏れてきそう。さすがに多かったかな」
「――っかってんだ、よ! 言う、な、アホゥ」
「ゴムつけたほうがよくねえ? お前も」
ソファ汚れちまうだろ新品なのに、と言えば、まだカバーのまんまだろうがとゾロは怒鳴った。てめえもつけんな。嗄れたような声でそこは小さく、言う。
いまは閉じている表面の襞をなぞりながら、中もっと汚されてえのと問えば、答えないかわり、ひくついたそこからとろりとゼリーをあふれさせた。股のほうに流れていく。自分でわかるらしく、ゾロはがしゃり、とひときわ大きな音を立ててビニールを鷲掴んだ。
「あーーもう、おまえ、ノリノリすぎだって……」
「てめえ、は――」
違うのか、とゾロが言う。おれだけか、浮かれてんのは、と。サンジのほうは見ないで荒く速く息をしている。全身がかっと熱くなった。覆いの下の、たいして値の張るものでもない、三人掛けサイズのこじんまりしたソファはそれでも二人には特別なもので。同居なのか同棲なのかよくわからないまま半年が過ぎて、生活に関わるものを金を出しあって買ったのははじめてだ。
バカ、おめえ、おれだって、バカ、と同じことを繰り返しながらサンジはゾロの腰を掴んだ。それしか言えなかった。わーもう……なんかこいつめっちゃ好き……としみじみそう思う。お互い、ロクに口にも出せないけれど。平均以上の体格の男二人に、このソファはあまりにも小さすぎて、どちらかの足が食みだしたり床についたり若干無理のある体位になったり、試行錯誤しながらそれでもサンジもゾロもいつもよりずっと早く達した。
「ィ、あ、ァ、あ――」
「ゾロ、ゾ、ろ……な、もっかい」
してえだしてえなんかすげえ。引き抜かずに前から抱きあっていたらすぐにまた勃ってきて、ゆっくりと腰を動かすとぬちゅりと中で粘液が絡まる。ゼリーと精液。ぐ、と痛いくらい背中を抱かれた。ん、ん、と鼻声を漏らしながらゾロが腰を浮かせすりつけてくる。ざりざりと下の毛が穴のふちにこすれるのが、サンジの下腹にぬるぬると裏すじをあてるのが気持ちいい、らしく、だんだん激しくしながらいい、いい、と何度も言った。
ぐ、とゾロの腰を掴みなおしてサンジも腰を振る。ビニールの鳴る音より二人ぶんの喘ぎ声と、ぎしぎしぎしぎし軋む音のほうがずっと大きくなっていった。
「おま、も、煽んなって、ソファ壊しちま、う」
「る、せェッ」
また買やァいいだろうが!
脅すような怒ったような必死な声で、そう言うのがおかしい。また買うってよ。しばらくそんな金お互いどこにもねえだろうし。でもたとえば、スプリングが食みだしたおんぼろソファ生活になったとしても。おれは、幸せなんだろうなァ、なんて、サンジは思うのだ。