*ゾロがゲイでタチ(攻め)設定です。 夜はこれから もっと、とねだる自分の声を、信じられない思いでゾロは聞いている。狭い個室で、大きく足を開かされ、立ったまま、後ろから。壁についていた手はどんどんずれて、自然、尻を突き出す体勢だ。 「はじめてなのに……すごいね」 なか、うねってますよ。巧みに腰を使いながら、楽しげにサンジが言う。硬くなった乳首を、強くつままれのけぞった。なかが、ぎゅうう、とペニスを締めつけて、奥まで犯されたその、形がはっきりとわかる。頭が、焼けるように熱くなった。 「いい反応。かわいいなァもう」 とろんと甘ったるい声を出して、サンジが体を曲げ顔を近づける。その拍子に、いっそう深く入って、とろけた先端から蜜が滴り、ぽたぽたと床を汚した。首の後ろをべろりと舐められ、噛まれ、吸われ、また、女のような声が出る。 われながら悪寒がするそれに、唇を噛みしめれば、煙草の匂うきれいな指が、合わせ目をそっとなぞった。お願い、声、聞かせてください。請うように言いながら、けれど、開かせるために歯茎をなぶる動きは執拗だ。ぬるりと滑るそれにすら、ひどく感じた。触れられるどこもかしこも、触れられたそばから、おかしくなっていくようだった。 なんて男だ、あんな優しげなナリをして。畜生、畜生、だまされた。いまさら、いくら言ったってもう、遅いのだ。 ――さっきからお前のこと見てるぜ、あの子。 耳打ちされ、その方向に目を向けた。カウンターの、ゾロとは反対側の端、一人で酒を飲んでいる金髪の若い男がいる。目が合うと、慌てたようにふいと逸らした。 「見ねえ顔だな」 「いや、最近よく来てた。お前がたまたま会わなかったんだろ。誰から誘われても断って、一人で帰ってたな」 理想がお高いんだろうよ。ジンをストレートであおりながら、シャンクスはにやりと笑った。 この店は、同じ嗜好の人種が集まる場所だ。声をかけられ、あるいは声をかけ、お互い気に入れば、その夜の相手が決まる。話が、早い。そういう店。 ノーマルだと思い込んでいた男が、なにかをきっかけに目覚めて、手始めにここに来る、というのはときどきあることだった。よく来てた、と言うわりに金髪は、不慣れな、どこか落ち着かない印象だ。もしかすれば、はじめてのお相手を探しているのかもしれない。だとしたらたしかに、慎重にもなるだろう。 「へえ、好みだ」 「言うと思った。お前も好きだね」 自分より線の細い、神経質な感じの男がゾロは好きだ。顔のきれいな男も。そういう男を組み敷いて、取りすました顔を赤く歪ませて、さんざん喘がせるのが好きだった。征服感を刺激され、男の本能が満たされる、感じがする。 金髪はまさにそのタイプで、観察するように見ていると、また目が合った。今度は逸らさない。薄く見える眸は、何色だろう、と思う。 「……いけるな」 「いけるだろうな」 「行ってくる」 「ええー、今日こそお前を落とそうと思ってたのに」 「アホか。てめえが掘らせるってんならともかく、誰がケツ貸すかよ」 金髪の男と視線を絡ませたまま、軽口を叩きあう。シャンクスもゾロと同じだ。突っ込むほう専門、タチしかやらない。昔はどっちもやっていたらしいが。 「お前、向いてると思うんだけどな。やってみなきゃわかんねえぞ?」 新しい世界、開けるかもよ。 「ふざけんな」 顔をしかめ言い捨てて、席を立った。そのまま金髪のほうへ、ゾロは近づいていく。ふられたー、と背後でみっともない声を出すこの男が、一人で店を出ることなんかないのはよく知っていた。 「ここ、いいか?」 声をかけ、返事を聞く前に男の横に座った。 男は、一瞬驚いた顔をしてゾロを見たけれど、すぐにわれに返り、どうぞ、と言った。意外に低い声で、控えめに、はにかむように笑う。 近くで見ればますます好みだった。眉が変な風に巻いているが、それも愛嬌だ。色が白い、眸はブルーだ、筋の浮いたきれいな手をしている、煙草を吸っていた。年は、同じくらいか、少し下だろう。 さて、ここからだ。自信はあったからストレートにいくことにする。もともと、駆け引きは嫌いだった。 「理想が高えんだってな?」 「……どうして」 その疑問に、ゾロは顎でふいと、シャンクスのほうを示した。ヒラヒラと手を振ってくる赤い髪には見覚えがあったのか、男はそれに軽く頭を下げて、それからゾロのほうへ向き直った。 「そうかも、しれないです」 男は微笑みを崩さずに言った。 「そうか」 「ええ」 「俺は?」 目を合わせたまま、腰に手を回す。尻まで撫でるようにして確かめると、意外に筋肉がついていた。細すぎず太すぎず、いい体つきだった。持って来たグラスを傾けながら、ここを割り開くさまを想像する。悪くねえ、と思えた。楽しめそうだ。 「素敵、だと思います……とても」 抵抗しない男の、顔はわずかに赤くなっている。はじめてなのだ、とそれで確信した。 「名前は?」 「サンジ」 「俺は、」 知ってます、とサンジが遮った。 「ロロノア・ゾロ。ここでいろいろ噂話を聞きました」 「なんて」 「一度でも寝たら、夢中になるって」 ゾロは同じ相手を何度も抱かない。面倒ごとは嫌いだった。後腐れなく、その一夜を楽しむ、それがゾロのやりかただ。どれだけすがられても、罵られても、ルールに例外は作らなかった。 ひどい男だとはよく言われるけれど、特に気に留めたこともない。その悪評を知っていてなお、この態度ならよけいに好都合だろう。 「試してみるか」 声を低めた。サンジは完全に堕ちている、動きもしなかった。虎に狙われた子羊のように、じっと、食われるのを待っている。愛らしいもんだな、とひそかに笑い、黙って頷くサンジの、染まった耳元に唇を寄せ、ゾロは囁いた。 来いよ、かわいがってやる。 店を出てすぐに、いきなりサンジが抱きついてきた。ホテルまでなんてとても待てない、と、湿った声で訴えてくる。 ビル内には似たような店がいくつかあって、共同のトイレは、そういう目的にも使われていた。個室は三つあり、何を見ても、何が聞こえても、誰も気にしない。うっかり紛れ込んだノンケの男がひどい目に遭うだけだ。 この時間はまだ空いているはずで、そう言うとサンジは、じゃあそこで、と恥ずかしそうに俯いた。 トイレには案の定誰もいなかった。端の個室に、サンジの手を引いて入った。狭苦しい空間だが、それが、よけいに興奮を煽る。 サンジがゾロの背をドアに押し付けるようにし、唇を寄せてきた。頬に手をあて、何度か軽く合わせたあと、舌がするりと入り込み、なかをなぶりはじめる。キスがうまい、とても。それに、ゾロが思っていたよりずっと、どうやらサンジは積極的なようだった。 唾液が絡まる音が、薄汚れた天井に反響し、唇を離すと糸を引いた。サンジの目はうっとりと潤んでいる。白い肌が上気して、赤味がいやらしかった。ごくり、と互いが、のどを鳴らす音が聞こえる。 「夢みたいです、あなたと寝れるなんて」 そうサンジがつぶやき、大げさな奴だな、とおかしかったが、やはり悪い気はしない。がちゃがちゃと音を立てて、ベルトを外し合った。いつもより高ぶっている自分に、ゾロは気がついていた。 「先に、舐めさせて」 サンジが言い、ゾロの前に屈みこむ。奉仕されるのはもちろん大歓迎だ。半勃ちになったものを、すっぽりと深く口に含まれる。飴を舐めるようにしゃぶられ、あっというまに硬くなった。さっきのキスのときの舌づかいで、ねちっこい愛撫を加えてくる。 いい子だ、というように、髪を撫でてやると、サンジは一度口を離し、赤らんだままの顔でゾロを見あげた。唇が濡れている、それが光っていた。 「一回、イッときましょうか」 上目遣いで言うと、ふたたび、いきなり奥までくわえられた。舌全体を裏にあて吸いながら、唇をすぼめてしごかれ、片手で袋をやわやわと揉まれて、あっけなくゾロはのぼりつめる。 思わずサンジの頭を両手で掴み、きつく目を閉じた。ねとりと包む粘膜を、違う穴に見立てて腰を振る。苦しげなようにも、感じているようにも聞こえる鼻声は、のど奥を突かれたサンジのものだろう。濁音を立てる激しい動きのあと、せりあがる射精感に、ゾロは軽く顎を上げ動きを止めた。ぶる、と何度か小さく体が震え、口の中に、すべて放った。 サンジは拒まなかった。それどころか、残らず飲みほして、なごり惜しげに、尿道をじゅう、と音を立てて吸いあげる。柔らかで熱い唇に、先端から垂れる白い汚れをすりつけた。サンジの口元はゆるんでいて、こうされることに、興奮しているのがわかった。どこか品のある男だから、その落差にそそられた。いい顔をする、と思う。ゆるゆると腰を動かしながら、ふ、ふ、と息が漏れた。 口での愛撫で、こんなに早くイッたのは初めてなら、こんなに良かったのも初めてで、こりゃアタリもアタリじゃねえか、とゾロは軽く目を閉じ満足気に、考えていた。だからそのとき、サンジがポケットからごそごそ何かを取り出し、自分の指になすりつけているのに、まったく、気がつくことができなかったのだ。 余韻に浸っていたゾロの、まだ小さくなりきっていないものを、サンジがまた口に含んだ。それでようやく、われに返る。 「おい、もういい」 慌てて言うが、サンジは聞かない。それどころか、さっきよりもなお熱心に育てながら、片手を後ろに回し、穴の周りを撫でるようにしだした。 べたべたするのは、潤滑剤か何か、か。冗談じゃねえ、とゾロは舌を打った。 「よせ。俺はそっちは、」 手首を掴んで阻もうとするが、こんな腕のどこに、と思うほど力が強い。背中がドアにぶつかり、どん、と大きな音を立てる。急所である前をくわえられたままだから、思うように力が出せなかった。 「だめだ、っつってんだ、ふざけんなてめっ、……ア?……あっ」 罵倒した直後、遠慮も躊躇もなく、指先がつぷり、と入ってきた。嘘だろ、とゾロは思う。後ろはバージンだった。指だってもちろん、入れられたことはないし、入れさせるつもりもなかったし、それを誇ってもいた。嘘、だろう。 けれど、そんなゾロの事情には全く構わず、サンジの繊細な指が、浅いところをゆるゆると出入りしはじめる。さらさらとした髪を思いきり掴み、引っ張っても、まったく動じなかった。硬いな、と感心するような声がするのが、信じられない。何年も守ってきた後ろを、こんな優男に、こんなに、あっさりと。 「アナル、はじめてなんですね」 「あ、あたりまえだ!だから、やめ、ッ、」 「よかった……嬉しいです。しっかり慣らしますね。やっぱり、気持ちよくなってもらいたいし」 優しげに笑い、太腿の内側の、柔らかいところをちゅう、と吸った。ゾロの片足を自分の肩に担ぎあげ、後ろをあらわにする。ペニスはどんどん硬さを増し、てのひらで口を押さえても、ふうふうと息が漏れた。 ゾロの反応に満足したのか、サンジは指の動きを大胆にしだした。リズムをつけて動かしながら、いいところを探っていく。 「ん、んあっ!」 「あ、見つけた」 探られるとびりびりと電気が走るような場所、よく知った、その場所、そこを指先で小刻みに撫でられ、そのたびに、ぴくりぴくりと前が跳ねた。 やりにくいから、後ろむきましょうか。そう言って、指が入ったまま体を返された。ドアに手をつき、サンジのほうに尻を向ける格好をとらされる。 たしかに、このほうがやりやすいのはよくわかる。たいていの相手は、この屈辱的な体勢に昂ぶり、乱れるものだった。それを言葉で荒く責めながら、後ろをほぐしてやれば、震えながら、泣きながら、ゾロに屈服する、その瞬間がたまらなかった。けれどまさか、同じことを、自分がされる側になるとは思ってもみなかった。 ゾロは、半ばパニックに陥っていた。いつのまにか指の本数は増えている。おまけに、サンジが片手で尻を割り、襞の周りに舌を当て、蕩かすように音を立てて舐めだした。ときどき指の横から、ぬるりとねじ込んでは、ほぐしていく。 やわらかく濡れた熱い舌が、あらぬところを這いまわる感触に、激しい羞恥がわきあがり、けれど、体はどこまでも白熱する。 ア、ア、ア。 とうとう、喘ぎが抑えきれなくなった。たまらず自分の腕を噛んだ。背中が、くんと反りかえる。腰が揺れると、まるで自分で、尻の穴をサンジの舌に押しつけているような感じがして、そのたび水音が大きくなる。 きれいな色ですね、と、声がした。自分のそんな奥まった場所など、見たことはもちろんない。ふうう、と呻ったゾロの手を、痕が残るから、とサンジは心配げな顔をして外させた。 さっきまでゾロのなかを穿っていた、濡れた唇で愛おしげに、唇を食んでくる。指はまだ入ったままだ。舌を吸われると、ひくひくと、そちらも吸いつくのを感じた。クソ、抜け、と、何度も頭を振った。後ろに回した手で、サンジの手首を掴む。ゆるやかに犯されている、その動きが伝わって、ゾロはドアを激しく叩いた。 その手の上に、サンジの空いた手がそっと重なる。怪我、しますよ。そんなことはどうでもよかった。そうやって労っておきながら、抜け、抜け、とゾロが言うのには、答えが返らない。 「ほんとに使ってないんだ」 「だから、さっきから、言ってん…、あ、あ!」 「でも、すごい反応いいし、だいぶ開いてきたし。たぶんイけますよ、後ろで」 「んな、こと、」 「だってもう、おいしそうに吸いついてきてる。いやらしいな」 感心したように言われ、一気に顔に血が上った。こいつ、ふざけやがって、と思う、思うのに、それなのに、だ。 「ほら、前もぬるぬる」 ひっきりなしに先走りをこぼす、小さな穴を指の腹でこすられた瞬間、腰を揺らめかせてゾロは果てた。精液が、ドアと腹にぱたぱたと飛び散る。声も出なかった。はじめての感覚に、全身が硬く強張り、目の前が一瞬、白くなった。 ゆっくりと抜かれる感覚がして、うう、と呻きが漏れる。ぬるついたその指で、サンジはゾロの、見事に割れた腹筋にたっぷりと飛び散った、精液を拭ってみせた。とろり、と伝うそれから、目が逸らせない。 「ね、イけた。才能ありますよ、先輩」 ……せんぱい、……先輩? 聞き返すまもなく、サンジは力の入らないゾロの腰を支え、先端を押し付けこするように動かしてきた。慌てて振り向くと、すぐ近くにサンジの顔があった。汗で金髪が額に貼りついて、その下の青い目が、熱っぽくゾロを見ている。やはり、かなりの好みには間違いない。思わず見入っていると、どうかしたんですか、と不思議そうに尋ねられ、はっとした。 「ちょ、まて、先輩ってお前、」 「同じ高校出身なんです。俺が一年のとき、あなたが三年。すごく好きで、どうしても忘れられなくて。探しましたよ、大変でした」 「……は?」 必死で記憶を探った。たしかにひとの顔や名を覚えるのは苦手なほうだが、これだけ好みなら、接点があれば片隅にくらい残っているはずだ。 「話したことは、」 「ないです」 サンジが即座に断言し、ゾロは、呆気に取られた。 「それに俺、昔はメガネでチビだったから、今とはだいぶ違うし」 「……」 「ずっとずっと、抱きたかったんです」 たしかにゾロは、いろんな意味で高校のときから有名人だった。憧れています、好きです、などと、ゾロからするとまったく知らない男や女に、告白されたことも一度や二度じゃなかった。 だがこいつは、ちょっと、行き過ぎちゃいねえか? そうぼんやり考えていると、本当に夢みたいだ、と、サンジは目を細め、うっとりとため息を吐いた。 「……いやだからな、俺は、」 「うん、はじめてなんですよね。優しくします」 照れたように、サンジが笑う。 「てめえよ、人の話を、っ、まて、まてまて、や、や、あっ」 ぐ、と尻を開かれる感覚に、思わず慌てた声が漏れた。ゾロが出した粘液と、潤滑剤の力をかりて、あまりにもあっさりと、サンジのペニスが侵入してくる。手をついたドアが、がたがたと鳴った。先の太いところが通るときの違和感は、やはり強い。ぶわりと汗が出た。 「い、いてえ、」 口にしてから、屈辱だ、とゾロは思った。それが、侵入を許してしまったせいなのか、痛い、と言ってしまったことなのかは、わからなかった。唇を噛み締めると、ごめん、とサンジの、掠れた声がする。 「痛いこと、したいわけじゃないんだ」 「ざ、けんな!じゃあ抜け!」 「絶対よくしますから。しばらくこのまま、ね」 「そういう問題じゃねえんだよ!」 お願いです、とサンジが言う。請うようなそれに、抵抗する気がそがれるのはなぜだろう。汗に濡れてぺたりとなった、髪をゆっくり撫でられると、余分な力が抜けていくのがわかる。 は、は、と短く息をついて、尻のひどい違和感をやり過ごした。この状況でも、本気を出せば逆転できるはずだった。殴りつけて、引き倒し、無理やりのように犯すことだってできるに違いない。自分がなぜそうしないのか、ゾロには、まったく、わからなかった。 中途半端にいれたまま、サンジが背後から手を回し、ゾロのシャツをはだけさせた。胸を撫で回し、乳首をつぶし、転がし、軽く引っ張る。指先をひっかけ、ぴん、と弾く。何度も何度も、くりかえしいじられる。 そうすると後ろがゆるみ、一緒に口もゆるんで、甘い声が止められなくなってくる。サンジが少しずつ、腰を進めていく。それでもまだ、半分くらいしか入っていないようだった。 「乳首、感じるんでしょ」 必死で頭を振っても、意地っ張り、とサンジは笑うばかりだ。胸を執拗に責めながら、耳を甘噛みしだす。口を開ければすかさず、そこに指が入って犯してくる。苦い指をしゃぶりながら、鼻声でゾロは喘いだ。足が、がくがくと痙攣しはじめる。 もう、だめだ。 いよいよ根をあげそうになったときだった。人が入ってくる物音がして、サンジが動きを止めた。助かった、とゾロは、見知らぬ誰かに心から感謝した。 二人分の声は、たぶん、お仲間だろう。一つ間を空けた個室に入ったようだった。すぐに、荒い息遣いが聞こえてくる。 「誰か来ちゃいましたね」 小声でサンジが囁く。ぴく、と後ろが締まった。さっきからゾロは、自分がどうもこの声に弱いようだと、薄々気がついている。けして、認めたくはないのだけれど。 「な、人が来たしよ、もうここらで、やめ……」 「なに言ってるんですか、ここまできて。だいたいもう入っちゃってるんだから、往生際が悪いですよ」 「てっ、てめえは鬼か!」 「ああ、わかった。後ろで感じるのがイヤなんでしょ」 「バ、かんじて、ねえ!」 「ふうん?」 意地悪げに言い、いったんぎりぎりまで引き抜いてから、ぐい、とふたたび突き入れてきた。硬いペニスが、内壁を無遠慮にこすりあげていく感覚に、ひん、と情けない声をゾロはあげた。なんだこの声は、と自分をこそ殴りつけたくなった。なんなく、最後まで侵入を許してしまう。限界まで広がったふちに、サンジの下生えが触れていた。ふ、と満足げに息をつくのが聞こえたが、絶対に、後ろを見てはいけない気がした。 あのひどく好みの、喘がせたかった顔が、どんな表情でそこを見下ろしているのか。想像すれば体中の皮膚が、ぞわぞわと粟立つ感じがする。 「ぜんぶ入った。……動きますね」 ゾロは恐慌した。今でさえ限界に近いのだ。これで動かれたら自分がどんな痴態を演じるか、考えただけでもぞっとする。 ばか、しね、やめろ、へんたい、思いつく限りの言葉で罵った。しっ、と笑みを含んだ声を、サンジは低めた。 「そんな大声出したらバレますよ、あなただって」 子供を諭すような調子でサンジが言い、ゾロはぐっと言葉に詰まった。ゲイの世界は狭い。タチ専門の、いわゆるバリタチで通って、それを誇りにしていたゾロのような男が、こんな優男に掘られた、などと知れるのは、かなりの屈辱なのだ。 「ね、もう観念してください」 かわいがってあげるから、ね? どこかで聞いたような台詞を、甘く囁いて、ゾロの答えなど待たずに、サンジが尻を揉みながら突きあげはじめる。じっくり慣らされたそこは、なんの抵抗もなく、その動きを受け入れてしまう。ほぐれたなかを、まんべんなく、サンジが行き交う感覚は強烈だった。 いつのまにか汗まみれになった、ドアから滑って垂れた片手を、サンジが握る。そのまま、まだ汚れた下腹に持っていかれ、上から、ゆっくりと押さえられた。わかります?と首筋に唇をつける。てのひらには、腹の奥深くの、サンジの性器の所在が伝わった。 こんなところまで、俺は。 「ちく、しょ、ァ、ッ」 「これなら、前からでも大丈夫かな」 言って、ずるりとペニスを引き抜いた。便座にフタをして上に座ると、すばやくゾロの尻を掴んで開き、向かい合う形で上から沈ませる。 ぐちゅ、と音がして奥まで深く入り、思わずのけぞったゾロの腕を、サンジは自分の首に回した。体をぴたりとくっつけて、下から突いてくる。 後ろがひくついて、ぐずぐずに溶けそうだった。どうしようもできずに、サンジの肩に強く顔を押しつけて耐えた。煙草の匂いに混じる、何やら甘ったるい香りに頭がくらくらする。コロン、の類ではなさそうで、たまらないそれが、この男の匂いなのだと思った。 「ねえ、顔が見たい。ゾロのやらしい顔、見せて?」 耳朶に、熱い息がかかる。肌がまた、ふつふつと粟立った。溶けてしまいそうだ、とバカなことを思う。うがたれるなかから、触れられる外側から。 「あ、んあ、ちくしょ、てめ、耳元でしゃべんなッ、」 「俺の声、好きですか?」 「す、きじゃ、ね、」 「うそ。俺がしゃべるたんびに、ここ、締めてくる」 少しめくれあがった粘膜をつう、と指でなぞられて、ゾロは知らず、すりつけるように尻を振っている。ぐちゅ、ぐちゅ、とそのたび音がした。存分に使うはずだった性器は、放っておかれたままで、水を飛ばしながら揺れている。 やらしいね、ゾロ。サンジが濡れた頬に、優しく口づけた。 「強く願えば夢は叶うって、ほんとなんですねえ……」 しみじみと言うのが心底憎らしかった。俺だって夢てえだ、と、ゾロは霞んだ頭で思う。この俺が、こんな風に、しかも後ろで、男に喘がされているなんて。 「好きです、好きだよ、ゾロ。かわいい、すごくかわいい、ゾロ、ゾロ」 「やめ、な、なまえ、よぶな、ばかッ、あっ、あっ」 この男の声で呼ばれると。頭も、体も、なぜだか灼ききれそうに熱くなる。サンジがあやすように背中を撫でて、そんなことにさえ感じる自分を恥じた。引き剥がすはずの腕は、いまやきつくすがりついている。流れる涙が、なんのせいなのかも、よく、わからない。 「気持ちよさそうだね、ゾロ」 「よ、よく、ね、んあッ、ち、くしょ」 「ゾロ、ゾロ、俺ももう、」 サンジの追いたて追い詰める動きが激しくなり、腰から下にはもう力が入らない。がくがくと揺さぶられ、嫌がおうにも高められていく。 「あ、ああっ、うそ、うそだ、こ、んなッ、も、イく、も、イッ、……!」 勢いよく精液を飛ばしながら、なかが勝手に、サンジを絞りあげる。ほどなく、サンジも続いた。弾けた熱が、どくどくと奥で伝わり、下腹いっぱいに広がるのを、ゾロは呆然としたまま、感じていた。 くたりと力が抜け、抱きついた体勢のまま動けないゾロの頭に、サンジが、すりすりと頬ずりをする。後ろにはいまだサンジのものが入っているのだが、抜く気力さえ湧かなかった。 いつのまにか、もう一組はいなくなっていた。それすらわからないくらい夢中になっていたのだ、と思うと、顔を覆って叫びたくなる。あれだけ喘いで、名前を何度も呼ばれた。明日にはもう、噂になっていることだろう。 屈辱、屈辱だ、このストーカーまがいの男のせいで、と、今頃になって激しい怒りが込みあげてきた。そんなゾロの気も知らないサンジが、ようやく息が落ち着いたのを見て取って、頬を押しつけたままでうっとりと言った。 「次のときは、ベッドでしたいですね」 ゾロは目を見開き、サンジを凝視した。驚愕のためだった。それをいったいどう勘違いしたのか、愛らしい感じでにこりと笑うと、ぎゅっと抱きしめてくる。 つぎ、だと?どういう男なのだ、こいつは。 「……死にてえらしいな、てめえ」 「強がっちゃって。あんなにアンアン言ってたくせに」 「言って、ねえ!」 「言ってました。気持ち、よかったでしょう」 う、とゾロは言葉に詰まる。たしかに否定はできない、が、それと、これからのことは別問題だ。犬にでも噛まれたと思って、こんなことは一刻も早く忘れるに限る。 「……黙れ。とにかく俺はな、タチから宗旨変えするつもりはねえし、おんなじ相手とはやんねえ主義なんだよ。一晩で、はいさようなら、だ」 「主義?」 「おう」 「主義なんて、変えたら?」 ね、ゾロ。目を細め、耳の後ろ、骨の上に唇を乗せ、甘い声を響かせてくる。 だめだ、やはりこの声には弱い。さっきの感覚が思い出されて、反射的に後ろがひくりと息づいた。当然、なかのサンジにまでそれは伝わり、だいぶ萎えていたそれが、むくり、と反応する。 しまった、と思った時にはもう遅かった。いいこと、思いついた。サンジがニヤニヤしながら、顔を覗き込んでくる。どう見ても、やっぱり、好みど真ん中の、その顔を近づけんな、その声を聞かせんな、とゾロは苦く思った。 「一晩しか、だめな主義」 「そ、そうだ」 「まだ、夜ですよね?」 「……そうだ、な」 イヤな、予感がする。 「じゃあ、もし朝までに、考えが変わったら言ってください。俺もせいぜい、この一晩をじっくり楽しませてもらいます」 じっくり、のところを強調した。しゃべりながらも、サンジのものは、どんどんその質量と硬度を増している。そういえば、こいつはまだ一回しかイッていないのだ。 「抜け!抜きやがれ!」 慌てて立ちあがろうとするが、まだうまく力の入らない腰を押さえつけられ、逆に、ぐりぐりとすりつけるように前後に動かされる。角度を調整し、弱いところを重点的に。なかに出され、まだぬかるんだまま、ぬぐいもしていないそこは、掻きまわされるたび、ひどく粘った音をあげた。さっきの余韻で敏感になっているから、すぐに、ゾロのものも頭をもたげていく。 「あ、あっ、それ、や、めろ!」 「こっちは、正直なのにね?」 サンジがぴん、と爪先でそれを弾くと、濁りの混じった液が跳ねて、飛び散った。強く掴まれたままの腰を、上げる動きをさせられた。ずる、と抜けて、前立腺に先端があたるところで、サンジが止めるから、ゾロはたまらず小刻みに動いた。ほんと、ヤラシイ体ですね。そう息をついて、サンジが背中に手を添えて、ゾロの上体を抱きとめる。乳首を吸われて、声も、腰の動きも、止まらなくなった。 男の沽券だとか、プライドだとか。ゾロはそういうものを、とても重んじるタイプだった。だけど、それすらもどうでもよくなるくらい、この感覚は凶暴だ。触れてもらえない前をどろどろにして、後ろから得られる快楽に、今にも、呑み込まれてしまいそうで。 「後ろだけでイきまくったら、あなたの主義、とやらも変わるかな」 サンジが背骨を辿り、後ろに指を這わせ、人差し指を繋がりに入れた。がくん、と体がぶれる。広げるようにした指とペニスの隙間から、サンジの精液が、どろりと出ていくのがわかった。馴染みのない感覚に、うう、とゾロは、低く呻いた。 大丈夫、もっとたくさん、出してあげますから。 あいかわらずお上品な言葉遣いで、おそろしげなことを、サンジは言う。 「夜は、まだまだ長いですよ。気が変わったら、いつでも、言ってくださいね?」 たしか08年にサイトで書いて、09年に続きを書き下ろして本にした話。 続きを書くにあたり、どうしても今の文章とのつながりが悪いので加筆修正しました。 psiKick33の暁ひさぎさんが冒頭部を漫画化してくださったのもよい思い出です。 その漫画はこちら! |