Lifetaker 
          
            
            
            
            
            
          
            
          
             赤い手が重い銃を片手で構える。
            
             軍人らしくぴんと伸びた背筋。
            
            
            
          
             おいおいそいつの反動は半端じゃないぜ? 破壊力は抜群だが、言う事聞かない困った奴だ。
            
             きっとアンタにしか扱えない。
            
            
            
             鋭い目が的を睨む。
            
             張り詰める緊張。
            
            
            
             ク〜ックックック、その目の先にいるのが的じゃなくて俺だったらイっちまいそうだぜ。
            
            
            
             先輩は、ビームタイプの武器より、金属製の弾丸をブチこむ方が好きだ。手ごたえが無いと撃った気がしない。らしい。
            
            
            
             髪の毛一筋の迷いもなく、引き金が引かれる。
            
             静から動への、鮮やかな変化。溜めていたものが一気に迸る快感。
            
            
            
             派手な音がして、人型をした標的の急所に次々と着弾する。一発たりとも無駄玉は無い。
            
             ヒュウ。口笛を吹き、先輩の方を見ると、銃を撃った反動をものともせず、その場に立っている。
             さすがだねェ。
            
             行儀悪くデスクの上に乗せていた足を降ろした。俺は高みの見物を決めていた椅子から降り、射撃場の先輩の元へ行く。
            
             先輩用に作ってやった銃の出来は上々らしい。ま、俺様の作った武器なんだから当たり前だけどなぁ、ク〜クックック。
            
            
            
            「ハートブレイカー、気に入ってくれたかい、先輩?」
            
             俺の言葉に、射撃の的を見ていた先輩が俺を見る。
            
            「なに?」
            
             射抜くような先輩の目。最初の頃は睨みつけられているのかと思ったが、やがてこれが先輩の普通なのだと気がついた。
            
             最初は、その目で見られてイライラするのは、喧嘩を売られていると思っていたからだと思ってたんだけどなぁ……。
            
             どうやら違うらしいって気がついてから、アンタのその目で見られるのが、少し苦痛だねェ。
            
             心の奥まで見透かされそうでなぁ、ク〜ックックック。
            
            「そいつの事さ。仕様に希望があったら言ってくれよ」
            
             銃に視線を向けながら、くいを顎をしゃくって言うと、先輩も目線を手元の銃へ向ける。
            
            「うむ」
            
             満足そうな先輩の顔に、俺の心に何かが満たされる。
            
            「だが、少し重くは無いか?」
            
            「かまわねぇよ。それはおっさん専用だ」
            
             俺はそう言って、銃を持った先輩の手をぐいと掴み上げた。
            
            「百発百中、ど真ん中」
            
             く〜っくっくっく。と先輩の嫌いな笑い声をわざとあげながら、俺は、先輩の手元の銃の銃口を俺の心臓のあるあたりに当てる。
            
            「アンタにゃ試し撃ちでも、食らう方はたまんねぇな。く〜っくっく」
            
            
            
             ハートブレイカー。
            
             おっさん、俺にとってアンタそのものだぜぇ。
            
            
            
            「ここに食らっても、楽になんかなりゃしねェ」
            
             俺は自嘲気味に笑った。
            
             撃たれた心臓は、時を止めるどころか、ますます強く脈打つんだ。おかげで血がドバドバ出るんで、苦痛は倍増。
            
             粉々にされた心のかけら、拾い集めるの苦労するんだぜぇ?
            
            「やめろ、クルル、なにやってる?」
            
             先輩は、慌てて俺の手を振り払った。武器の恐ろしさをよく知ってる先輩の目が、俺のした事がどんなに危険でばかげているか非難している。
            
            「おかしいぞ、お前」
            
            「ああ、おかしいぜぇ。知らなかったのかい、先輩?」
            
             俺は嫌味たらしく言って、大げさに肩をすくめた。
            
             俺を撃ったのはアンタ、アンタのせいなんだよ、先輩。
            
             撃たれた心臓から血が出ちまうからよ、頭まで回らないんだぜぇ。
            
             そりゃ、おかしなことぐらいするぜぇ。
            
             例えば、唐突に目の前にいる赤ダルマにキスしたりとか、な。
            
            「目を閉じちまったら負けな気がするぜぇ」
            
             俺は、じっと俺を見つめる先輩を見返しながら、ゆっくりと口付けた。
            
             先輩は動かない。
            
             俺のキスを、否定も、肯定もしない。
            
             俺の気持ちを、否定も、肯定もしない。
            
             そうだ、それが正しいやり方だぜぇ。
            
            「クルル、俺は……」
            
             唇を離すと、初めて先輩は困ったような顔をして俺を見た。
            
             なにかを言いかけた先輩を、ぴしゃりと遮断する。
            
            「アンタは知らなくていい。俺の気持ちなんか。理解などして欲しくない」
            
             俺が言うと、みるみるうちに先輩の顔が怒りでこわばる。
            
             判ってるよ、独りよがりだって言いたいんだろォ?
            
            「クルル、どうしてお前はいつもそうなんだ?」
            
             俺に掴みかかり、にらみつける先輩。
            
             オイオイ、熱くなんなよ。迷惑なんだろォ?
            
             だったら黙って知らんふりしなって。
            
             俺が自滅するの見てなって。
            
             俺を救おうだなんて、間違っても思うんじゃないぜぇ。
            
            「先輩、アンタは見てるだけだ」
            
             俺は、手を口にあて、ニヤニヤ笑いながら言った。
            
            「溺れ死ぬ俺を、アンタは救えねェ」
            
             俺の言葉に、先輩がますます険しい目で俺を見る。
            
            「いくらアンタでも、俺の決めたことは覆せねェよ」
            
             嫌なんだ、俺は。
            
             俺が俺で無くなる位なら、俺はアンタへの気持ちを殺す。
            
             アンタに撃たれたって俺は死なない。瀕死でもがくだけ。
            
             みっともなく、哀れっぽく、惨めに。
            
             アンタの愛を請うなんてごめんだ。
            
             それぐらいなら殺してやる。
            
            「俺はクールでいるぜ?」
            
             たとえ、それが俺とアンタを離すとしても。
            
             俺はそう言って、先輩に背を向けた。
            
            
            
             撃たれた心臓から暖かい血が流れる。傷口を押さえる手がぬるつく。
            
             それでも俺の心臓は動きを止めない。
            
            
            
             アンタにゃ抗えない。抗えたためしが無い。
            
             それを、アンタに知られたくない。
            
             アンタの戸惑った顔を見たくない。
            
             だから俺はクールでいるよ。
            
             俺の命を奪うのは俺、先輩、アンタじゃない。
            
            
            
             ……なんてな、強がりを言ってるのも、きっと今のうち。
            
             おっさんへの執行猶予、今のうち。く〜っくっくっく。
            
            
            
             自分で自分を殺してどうするかって?
            
             蘇ってゾンビにでもなっちまったら、俺でももうどうしようもねぇよ。く〜っくっくっく。
            
             自分が壊れるの楽しんでるなんて、俺って悪趣味ィ〜。
            
            
            
             俺がくたばるのももうすぐ。
            
            
            
             ハートブレイカー。
            
            
            
             おっさん、あんたのせいで。
            
            
            
            
            
          
          
            
            ENDE
            
            
            
            
            
            
          
            
          
          20061104 UP